THE BEE   作:タイムパラドックス

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第三話 訓練開始

「これがピムテックに侵入した蟻から送られた映像だ」

 

そう言うと博士は画面に映像を映し出した。そこには白衣を着た男たちが何かの研究をしていた。そしてどの映像にも試験管に入った黄色い液体が映っていた。そしてそれを使用したスーツの姿もあった。黄色と黒のカラーリーグに背中ののレーザー砲。間違いない、イエロージャケットのスーツだ。

 

「ここまで来てあれなんだけどピムテックはあんたの会社だろ?あんたが言えば何とかなるんじゃないのか?」

 

「…………嘘ついたのか?」

 

「すまないつい癖で……先月役員会は私をCEOから退任させられてね、決定票を持ってたのは田連カケルだ」

 

田連カケルといえば日本人で成功を収めた一人だ。そんな大物が敵か、これまた厄介だな。けど博士、それって癖じゃなくて老化が早まってきてるんじゃないの?

 

「カケルには才能があったし息子のように思っていた。しかし親しくなるにつれて彼は私が何か隠してるんじゃないかと疑い始めた。ある物質の噂を聞いたんだ」

 

「博士が開発した粒子?」

 

「そうだ、そしてこの物質を作るのに取り憑かれた。私はそんなカケルに協力しなかった。するとカケルは私を私の会社から追い出したんだ」

 

「ひでえ話だな」

 

「あの粒子は危険なんだ、特殊なヘルメットで保護しないと脳内物質に影響をもたらす。カケルはその事に気付いていないだろうし、精神的に不安定だ」

 

「プレゼンは二ヶ月後、それまでにイエロージャケットを盗み出す。田連はイエロージャケットを世界各国の反政府軍に売るつもりだ。もしヴィランの手に渡れば世界は大混乱に陥る」

 

「そんな………現職のヒーローに頼んだら?」

 

「他のヒーローの手に渡らないよう今まで隠してきたんだぞ。無個性である私があたかも身体を縮小できる個性に見せかけてな。それに今はヒーローが多すぎる、誰を信用すれば良いのか分からないんだ。純一、だからこそ君だけが頼りなんだ」

 

この人の話は凄く説得力があった。こんな事言われたの生まれて初めてだ。

 

明日から特訓に入ると言われ俺は帰路を急いでいた。この件が片付くまでは博士の家に泊まる事になる。帰り道にあるオープンカフェでは近所のおばさんが世間話で盛り上がっていた。中には俺の家の隣に住む人もいた。しかし俺はできるだけ顔を合わせないようにした。俺を見た瞬間、おばさん達の声が急に静かになりすぐさま俺の話題で持ちきりになった。また始まったよ。

 

「………純一君もう出てきたの?」

 

「恵さんの彼氏が説得して刑期が一ヶ月半になったらしいわよ」

 

「………それはやり過ぎじゃない?子供だからって犯した罪は償わせないと」

 

「……この事がきっかけでヴィランになったりして」

 

俺を知る周りの人達は蔑んだり哀れんだりしていた。もう慣れたけどやっぱり世間様の目は非情だ。俺がいくら反省したとしてと過去に犯した罪は絶対に消えない。あの時の俺はそれがまだ分かっていなかった、家族にどんな影響を与えるかも。俺がやった事はただヒーローの真似事をしただけの私刑執行。それは自分でも痛いほど分かっている。とは言えやる事は前とほぼ変わらないが…………でも俺にしかできない事ならやるしかない。

 

「ただい、ってまた只野さん来てるのか」

 

「おかえり純一」

 

「おかえり」

 

リビングに入るとメグおばさんとその彼氏の只野智也がソファに座っていた。只野さんは俺の刑期を短くするように頼み込んでくれた、いわば恩人なんだけど………俺はあまりこの人が好きじゃない。あの人が話す事といえば自慢ばかり。それに俺の事を遠回しにバカにしてくる。メグおばさんを悪く言うつもりはないけど付き合う男は考えたほうがいいよ。

 

「あんたよく家に来るけど、暇人なの?」

 

「彼女の家に来たら悪いのか?さて、そんな君に朗報だ」

 

「実は智也さん、来週からこの家に引っ越してくるのよ!」

 

「…………そう、それは楽しみ。そうだ最近できた友達とさやる事があって、しばらく泊まりになるけどいい?」

 

「ええ、別に構わないわ」

 

「よっしゃラッキ……じゃなくて気をつけてな、厄介ごとに巻き込まれるなよ」

 

「あんたもメグ叔母さんにちょっかいかけんなよ」

 

そして俺はそのまま自室である二階に向かった、本当いけ好かない彼氏。

 

「あの子、大丈夫かしら」

 

「純一の年頃は難しいんだよ、大丈夫今だけさ」

 

俺は自室に戻り明日の準備をしていると下着姿の長門が俺の部屋にノックもせず入ってきた。最初はヤバかったよ、精神年齢が大人とはいえ目の前にセクシーな女性がいたら興奮するだろ?けど今じゃすっかり慣れこれが普通になっている。慣れってたまに怖い時があるよ。長門は俺のベッドに倒れこみ大の字になって寝そべった。

 

「何の用長門」

 

「忘れたの?今日はムービーデイよ?」

 

ムービーデイとは俺と長門が選んだ映画を週一で一緒に鑑賞する日だ。中学に入ってからかな、ふと長門と映画の話で盛り上がってそれでこの日を考えたんだ。すっかり忘れてた、今日は俺何も用意してないぞ。

 

「悪い長門、映画用意するの忘れた」

 

「まあそうだろうと思って、色々借りてきたのよ。私のイチオシはコレよ、マーズアタック!」

 

「インディアンラブコールで死ぬやつだろ?オチは知ってるよ」

 

「そう言わずに見ようよほら!」

 

マーズアタックは何回も見たんだよな。でもあの映画考えた人凄いよ、歌で火星人が死ぬんだもんな。

 

 

次の日、学校が終わり俺は屋敷に来ていた。一応出席だけはして置かないと、ただでさえ日数が足りてないのに。とはいえ学校に行ったってどうせ友達なんていないから退屈なだけだけど。

 

まあこの話は置いといてこれからやるのはピムテックの侵入する為の準備だ。そこで俺の個性と格闘術の向上の為トレーニングを行うことになった。格闘術のトレーニングの相手は娘さんのノゾミがしてくれるそうだ。彼女は徒手空拳に長けているらしい。因みにだが彼女のフルネームは矢車ノゾミと言う。ノゾミのお母さんの結婚前の名を使っているらしいが、ネガティブ思考なのも名前のせいか?

 

「小さくなると拳はミクロサイズになるが威力は90キロの男性並み、まるで弾丸だ。加減の仕方を覚えろ…………先ずはお前の力を見てやる、さあパンチしてみろ」

 

ノゾミは手を挙げてパンチを受ける準備をした。俺は構えノゾミの掌に拳を叩き込んだ。武術の心得がある言っていたので俺は遠慮せずに思い切り殴った。だがノゾミは表情一つ変えなかった。

 

「どう俺のパンチ?」

 

「……弱いパンチだ」

 

「そう、なら君のパンチを見せてく」

 

俺はそう言って掌を差し出した。俺はいい意味でも悪い意味でも殴られ慣れてる。女の子のパンチくらいどうって事ないとそう思っていた瞬間、突如脇腹に激痛が走った。見るとノゾミの足が俺の脇腹をとらえていた。

 

「……セイッ」

 

「ぐほおっ!!」

 

俺は地面に倒れうずくまった。いきなり足で蹴るのは反則じゃないのかなあノゾミさん!でも彼女のキック早すぎて見えなかったぞ。これが彼女の個性なのか?パンチ見せてって言ったのにキックが帰ってきたよ。ノゾミの中ではパンチ=キックてことか。

 

「いてて、なんでキックなんかするの!?」

 

「……別にパンチするとは言ってない……それにパンチよりキックの方が得意なんでね」

 

「君、今個性使った?」

 

「個性を使っていたらお前は病院行きだ」

 

矢車ノゾミ、個性『超脚力』!その名の通り脚力が桁違いに強化される個性。彼女の足から放たれるキックの威力はコンクリートすら容易く破壊できる!

 

「あのさ………蹴るんなら言ってよ!」

 

「…………さあ立て、続きをやろう。地獄はこれからだ」

 

「お手柔らかに」

 

その後二時間ぶっ通しでノゾミと組手をした。結果は全敗、ことごとく俺の攻撃は通用しなかった。あいつマジで容赦ないよ、ノゾミは蹴り技に優れていて彼女の腹キックを何度喰らったことか………一回吐いちゃったよ。

 

 

次のトレーニングはザビーマスクドフォームに変身してのトレーニングだった。トレーニング内容は扉の鍵穴を通り抜け向こうの部屋に入るというもの。

 

「個性は人間の一つの器官といっても過言ではない。個性と人間の関係、それは共存することだ。君はその個性という器官を最大限に駆使する。特殊な技術も大事だが一番必要なのは素早さだ。瞬時になりたいサイズに縮み元の大きさに戻る」

1回目。

 

そういうとハンクは扉を閉め俺は廊下の端っこまで下がった。そしてか俺は扉に向かって走り出した。徐々にスピードを上げタイミングを見計らい鍵穴を通り抜ける、事はなかった。

 

「どおあっ!!」

 

俺は扉の鍵穴のサイズまで縮小し切れず扉と激突した。確かスコットもこのトレーニングでミスってたよな。簡単にできると思ったのにこれは中々難しいぞ。今度はもっとタイミングを早くしてみよう。

 

2回目。

 

「ああっ!?」

 

3回目。

 

「うぅぅ!!」

 

…………………今は何回目だろう、まさかこんなに難しいとは思ってなかった。そういえばスコットも最初は苦労してたんだっけ。映画での特訓シーンをもう少し多く描写していてくれたら参考になったのに。

 

「…………やっぱり私にやらせろ、私ならアントマンスーツを使いこなせる」

 

「駄目だノゾミ」

 

「………実の娘よりそんなチンピラもどきを信用するのか…………やっぱり私なんて、信用されてないんだ」

 

聞こえてるんですけど、チンピラもどきって酷いよな。まあ全否定はできないけど言い過ぎじゃない?

 

「違う、そう言うわけじゃないが」

 

「もういい…………晩御飯の買い物に行ってくる」

 

「なら俺は串カツが食べたいな!」

 

「今の私には……串カツは眩しすぎる。……地獄の豆腐料理を振舞ってやる」

 

えーと、あれって遠回しに串カツは嫌いって言ってるのかな?豆腐料理と言っていたが俺の予想では麻婆豆腐だな。

 

 

鍵穴を通り抜けるのは一旦休憩して俺は氷を頭に置いていた。ああ痛い、何回とやってるのに一向にタイミングがつかむ事が出来ない。俺センスないのかな。すると博士が替えの氷を持って来てくれた。俺はそれを受け取り他の打撲箇所を冷やした。

 

「そういえば前に蟻を操ってたけどどうやって操るの?」

 

「蟻にある種の刺激を与えればいい。この装置を使って蟻に電磁波を送るんだ」

 

そう言って博士は耳につけてあるイヤホンのような装置を俺に見せてくれた。蟻を操れる装置か………カッコ良すぎやしないか!だってその技術を使えば他の虫とかと操れるかもしれない。一度この装置を分解して調べて見たいよ。

 

「彼らに話しかけるんだよ、何処にでも行かせられるし何でも見られる。次のトレーニングは最強の味方である蟻の扱い方だ純一」

 

数十分後ザビーに変身して屋敷の庭に出た。そして庭の中央にある蟻塚の前に立ち俺は1.5㎝まで縮小した。このサイズだと蟻塚も巨大な城に見える。俺は正面の穴から中に入った。中に入るとオレンジ色っぽい小さな蟻が一匹俺の方によってきた。

 

「アシナガキアリ、通称クレイジーアント。動きが俊敏で凄く小さいから電子回路を破壊するのに有効だ」

 

クレイジーアントは俺の周りを駆け回り俺にじゃれついてきた。何だ、思ったより可愛いじゃないか。まるでトイプードルだ。

 

「そんなにクレイジーじゃないいな………おお、よーしよし」

 

そして俺の体に飛びついて頭を擦りつけてきた。ハハッ、本当に可愛いなあ。そんなことを思っていたのもつかの間、一瞬でクレイジーアントの大群が俺に群がってきた。この場所だけで何百匹いるかわからないほどだ。俺は慌てて元のサイズに戻った。しかしここは蟻塚の中、当然下半身は地面に埋もれていた。

 

「うわあああああ!!!」

 

「「…………………」」

 

「ちょっとびっくりしただけ」

 

 

その後俺は別の蟻塚に入った。パラポネラクラバータ、通称サシハリアリと呼ばれており刺されると飛び上がるほど痛い。初見はマジで怪獣かと思ったよ。若干ちびったのは内密にお願いしますね。結果はクレイジーアントと同じく蟻塚をぶっ壊してしまった。本当にびっくりしただけだからね。誰だってあんなの見たらびっくりするだろう?

 

次の蟻塚は穴だらけで足な踏み場がほとんど無かった。代わりにいたのは無数の赤っぽい色の蟻だった。しかし俺が途切れた道の前に立つと無数の蟻が重なり立派な橋を形成した。俺はその上を走り向こう側にたどり着くことができた。

 

「これはヒアリと呼ばれていて噛む事で有名だが同時に建築家でもある。困難な場所の侵入や脱出の手助けをしてくれる」

 

 

部屋に戻り俺は別の蟻の事について色々教えられた。蟻の生態や種類、能力なんかをだ。そして次の種は俺も知っているものだった。俺は本の上にいる羽蟻を虫眼鏡を使って眺めていた。虫眼鏡を通さなくてもでかいな。

 

「これはカンポノータス・ペンシル・バニカス」

 

「…………クロオオアリとも呼ばれている。地上と空中での移動に役立つ」

 

「こいつはそうだな…………アントニーって呼ぼう」

 

「それは良い、そろそろ操れるようにならないとな」

 

 

 

特訓を初めて数日。すでに慣れてきたのだろうか、俺の動きが以前とは変わり始めている。今もまたノゾミと組手をしている最中だが彼女の動きがだんだん分かってきた。足を下ろすタイミングはいつも同じだ。俺はそこをついて足を下ろした瞬間に腹にパンチを叩き込んだ。

 

「ぐうっ………!」

 

「おお、ごめんねー痛かっ「……ハアッ!」があっ!!」

 

ノゾミは隙をついて俺を蹴り飛ばした。しかも今度は顔にハイキックを入れやがった。今思いっきり頭が持っていかれた。顔はやめてって言ったのになんで顔を狙うんだ。

 

 

 

ここ数日で個性を使うのにも慣れてきていたがどうも縮むのが遅い気がする。ブレスのレギュレーターに問題があるのかも。そう思った俺はブレスをつけたまま修理し始めた。前にはめていたブレスを取っておけばよかったな。とその時部屋の中に博士が入ってきた。

 

「もしかしてブレスのレギュレーターに問題があるんじゃない?」

 

「やめろ!レギュレーターに不具合が起きると君は原子以下になるぞ!」

 

「それなら医者の診断書を見て知ってるよ」

 

「分かってないな、原子以下になると君は粒子の世界に入るんだ。粒子の世界に入ると時間や空間の概念というものがなくなり、君の大切も愛する人も全て失うぞ。恐らくもう元のサイズには戻れないだろう」

 

「そう、ならやめた」

 

俺は分解したものを元に戻した。博士が脅流石なのかもしれないけど迂闊に見知らぬテクノロージーに手を出すもんじゃないな。

 

「それはそうと次は射撃訓練だ。庭に来てくれ」

 

俺は工具を置いて博士についていった。すると庭には机の上にビール瓶や工具箱など様々なものが置かれていた。博士は俺に赤と青に光った小型のディスクを手渡した。

 

「武器がビーの針だけじゃ少し心細いだろ?だからこれを作った。赤が縮小で青が巨大化だ。これは後で左腰のサイドバックルに入れておいてくれ」

 

博士はある程度距離を取り赤いディスクをビール瓶に当てた。当たった瞬間ビール瓶は肉眼では見えないほどに縮んだ。博士は縮小用のディスクをビール瓶に投げつけた。ビール瓶は一瞬で1㎝に満たないほどに縮小した。俺も博士に続き巨大化のディスクを隣のワイングラスに向かって投げた。しかし俺のディスクはそれ庭に置いてあるノーム人形に当たった。ノーム人形は数メートルほどに巨大化した。

 

「大丈夫、ちゃんと的に当てられるようにするから!」

 

 

 

夜になり俺は蟻に命令を出す訓練に移った。博士いわく集中し蟻に何をさせたいかを思い浮かべろとのことだ。机の上にはアントニーと他の二匹の蟻が角砂糖に群がっていた。彼らに指示を出し角砂糖をカップに入れるという訓練だ。俺は集中し蟻に指示を出し続けた。だがどんなに念じてもアントニー達は俺のいう事を聞くそぶりを見せなかった。アントニーはついに何処かに飛んで行ってしまった。

 

「ダメだ、いう事を聞かない」

 

「中途半端はダメだ……やっぱりお前には無理だ」

 

「ノゾミ、こういう時に追い込んでも結果には繋がらないぞ」

 

「あんたがそれを言うのか?私がどんな事を感じたのかも知らないくせに」

 

「今話すべきなのは純一の問題だろ!」

 

「………あんたは実の娘より、数週間前に会った純一を信用するのか……純一はいいよなあ……どうせ私なんて」

 

ノゾミはそのまま無言で部屋を出て行った。そして屋敷の外へと出て行ってしまった。

 

 

俺はノゾミの後を追って屋敷の外に出た。既に辺りは暗くなっていたがノゾミは屋敷の近くにある街を一望できる崖にいた。ノゾミは街を眺めながら手頃な岩を見つけ三角座りしていた。俺も手頃な岩を見つけてノゾミの隣に座り込んだ。ノゾミがあそこまで心を病んだ理由はなんだ?

 

「いやー、やっぱ夜は冷えるね」

 

「………私を笑いにきたのか?笑え、笑えよ……」

 

「笑ったりなんかしないよ。君はなんで博士をそこまで嫌うんだ?」

 

「私が4歳の時に私の母さんは死んだ………あの人は事故だと言っていたがそんなのが嘘なことくらい直ぐに分かった。あの人は母親を亡くした娘のを放ったらかしにした。そして私を知り合いの道場に預けたがそこの門下生に毎日のようにいじめられた」

 

母を亡くしたノゾミは他の門下生達とは馴染めずイジメの標的にあった。母を亡くし傷心していた最中、門下生達に殴られ罵声を浴びせられ更に追い込まれたノゾミは殆ど笑う事が出来なくなってしまった。その時の事がトラウマになって心を深く病んでしまった。以来ノゾミはひたすら武術の訓練に励みいじめた門下生達よりも遥かに強くなった。そして組手と称していじめた門下生を病院送りにしてしまったのだ。

 

「…………他の門下生との組手の時に必要以上に攻撃して病院送りにした。その時私は破門されたよ。だから私は純一の事をあまり悪くは言えない」

 

「そんな事ないよ」

 

「破門された後私は父と数年ぶりに再会した、私はこの再会にもう一度希望を持とうと思ったよ。あの人と仲直りできると……でも結局は私を信じていない…………私はあの人にとって必要ないんだ」

 

「そんな事あるわけないじゃないか」

 

「どう言う意味だ?」

 

「ノゾミ、俺を見て。俺は言い方を悪くすれば使い捨てだ。よく考えてみなよ、博士が一人娘を危険に晒すはずがないだろ?」

 

俺は一度、いくつもの法を破り少年院に入った。只野さんが必死に擁護してくれたおかげで特別に刑期はありえないくらいに短くなた。あの人はあまり好きじゃないが感謝しているのは本当だ。ハンクの申し出がなかったら俺はまたバカなことをしていたかもしれない。でもある意味では今もバカなことしてるか。

 

「………私は」

 

「今からでも遅くないよ、博士と仲直りするべきだ。じゃあな」

 

「…………悪かったな、チンピラなんて言って」

 

「慣れてるよ」

 

彼女もきっと大変な思いをした筈だ、過去は変えることは出来ないが未来は変える事ができる。これを機にネガテイブ思考から脱出出来れば良いんだけど。するとノゾミは蟻を操る装置を俺に手渡しアドバイスをくれた。

 

「…………雑念をふり払え、一つのことだけ考えろそうすれば上手くいく」

 

雑念をふり払う………目の前の道には50円硬貨が一枚落ちてある。俺は蟻を四匹集め硬貨を回転させるように命じた。その直後蟻は俺の思っていた通りの動きをした。

 

「やったぞ!」

 

蟻を操ることに成功し俺とノゾミは博士がいる部屋に戻った。博士は棚にある写真立てを手に取り眺めていた。あれは確か亡くなったノゾミのお母さんの写真だ。そして博士は写真立てを置き椅子に座り込んだ。

 

「ノゾミ、お前に大切なことを話しておく、母さんのことだ」

 

「…………………」

 

「母さんはかつて…………ブレイクホッパーというヒーローだった」

 

「「!?」」

 

ブレイクホッパー、バッタを模したコスチュームを着てキック技を得意としたヒーローだ。今から10年ほど前に正体を知るヴィランに襲撃され死亡した。人気ヒーローだったブレイクホッパーの死はこの国に衝撃を与えた。まさかノゾミのお母さんだったなんて。

 

「10年ほど前、私のかつての宿敵が私の苦しむ姿を見るためだけに母さんを襲った。私は十数年ぶりにスーツを着て現場に向かったが……遅かった。母さんは、殺されていた」

 

「…………なんで教えてくれなかった?」

 

「お前を守る為だ、あのまま私と暮らしていればお前にも危険が及ぶ。だからこの時間が片付くまでお前を預けたんだ、数年かかってしまったがね。それに母さんを失ったのにお前まで失うわけにはいかないだろ?」

 

それを聞いた瞬間ノゾミは頭を抱え込んだ。今まで自分は全てハンクのせいにして母の死から目を背けていたのかもしれない…………母が死んでから私は地獄を見てきたが…………この人も地獄を味わっていたんだ。

 

「……そんな…私はずっとあんたのせいだと……………悪かった」

 

「本当凄く感動した………やっぱり親子はこうでないと………………水を差したかな?」

 

「ああ、台無しだ」

 

「お茶でもいれてくるよ!」

 

あーだこーだ言っても親子の絆は強いな。まあ俺の両親と妹は死んじゃったけど、今は長門やメグおばさんが家族だ。

 

 

その後、俺は再び鍵穴に挑戦した。ここ数日でタイミングは完璧につかんだ。次こそ成功させる、そう思い俺は鍵穴を目指した。俺は2メートル離れた場所から飛びその瞬間縮小した。鍵穴に狙いを定め飛び込んだ。すると見事に鍵穴を通り抜け博士達がいる部屋に入った。

 

「やったぜ!!」

 

次はノゾミとの組手だ。ノゾミは得意の蹴り技を繰り出してくる。俺は蹴りを両手で流し続けた。俺も流し続けるだけでなくカウンターを狙う。

 

「セイッ!」

 

「ぐっ……」

 

そしてノゾミが利き脚をあげた瞬間、俺はもう片方の足を払う。するとノゾミはバランスを崩し床に倒れ込んだ。倒れ込んだノゾミを俺は押さえ込み制圧した。組手もこれでクリアだ!これで一通りの動きはマスターできた。あとはピムテックに侵入するだけだ。

 




矢車ノゾミ(和解後は矢車・ピム・ノゾミ)
ハンク・ピムの一人娘。4歳の時にヒーローである母がヴィランに殺されハンクの知り合いの道場に預けられる。しかしノゾミは他の門下生達に馴染めずイジメの標的にあう。母が死に毎日のようにイジメられたノゾミの心は深く病んでしまいネガテイブ思考になる。それ以降、武術の鍛錬に励み遂には他のどの門下生よりも強くなった。そして自分をいじめた門下生を全員を病院送りにして破門される。その後数年ぶりにハンクと再会、真実を知りハンクと和解した。

ノゾミは主に足を使った技を得意とする。容姿は夢原のぞみの髪の色を黒に染め笑う事など殆どなく、ハンクと和解後も昔のトラウマのせいで常にネガテイブな事を考えてしまう。少しパラノイア…………

個性『超脚力』
文字通り脚力がとてつもなく強化された個性。見た感じ足は普通だが本気を出せば10階建のビルを破壊できるキックを放つ事が出来る。コンクリートの壁を蹴り破ることも容易く行える。
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