IS-Lost Boy-   作:reizen

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第1章 2人目はドントビリーブ
ep.1 中の下の男子生徒


 どうしてこうなったんだろう。僕は何もしていないのに。

 

「全員揃ってますねー。それじゃあSHRを始めますよー」

 

 教卓の前では緑色の髪をした女性……うん、女性が元気よくそう言った。

 僕は気にせず、目の前の分厚い参考書を見ながらまとめやすいようにルーズリーフにポイントを綴っていく。

 

「みなさん初めまして。そして入学おめでとうございます。このクラスの副担任の山田真耶です」

 

 自己紹介を始める山田先生だけど、僕を含めて誰も返事をしなかった。

 全員がもう一人の男子に興味を持っているからだろう。僕の席は窓側の一番後ろという絶好かつ絶凶なポジションだからなんとなく様子をうかがえるけど、物凄く気分が悪そうだ。

 

「今日からみなさんは、このIS学園の生徒です。この学園は全寮制。学校でも放課後も一緒です。仲良く助け合って、楽しい3年間にしましょうね」

 

 ………誰も返事をしなかった。君たちは教員よりも男の方が気になるのかい。

 

(………物珍しさか、それともイケメンだからか)

 

 もっとも、僕にはあまり関係ないことだ。

 僕がここに入学したのは、IS関係の方が金が多いから。……本当はこんなところに入りたくなかったけど、動かしてしまったんだから仕方がない。

 

「織斑君。織斑一夏君っ」

「は、はいっ?!」

 

 あ、声が裏返った。

 じゃない。今は勉強だ………まぁ、さっぱりわかってないんだけどね。

 

(……こんなに難しいのか、ISって)

 

 戦闘している動画はいくつか見ていたけど、平然と動かしているからもう少し簡単かなって思ってた。

 

(………とりあえず、勉強しないと)

 

 前の方では副担任と織斑一夏が何か話をしているようだけど、今のところ気にしていられない。

 何故ならここに来るまでほとんどISの勉強ができなかったんだ。今の内に少しでも取り戻しておかないと後々後悔すると思う。

 

「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 どうやら話は終わったらしく、今は自己紹介をしているようだ。僕は「し」から始まるからしばらくは来ないだろうと思う……たまに「か」行の人がいなくて「あ」行が終わるとすぐに「さ」行が始まるパターンもあるけど。

 

「以上です!」

 

 すると周りから何かが移動するような音が聞こえてくる。どうやら今の織斑一夏の発言が予想外でノリ良くこけたようだ。おそらく何も考えていなかったんだろう。

 

(……女だらけだし、仕方ないか)

 

 女尊男卑。今の世界を一言で表すとこの言葉が相応しい。昔の日本にあった男が中心になった男尊女卑の逆だ。女は高慢が多くなり、男に対しての虐めが酷くなった。もっとも顕著になったのは痴漢行為の冤罪だろう。僕も過去に1度そのことを経験したことがあるけど、おかしな点がいくつかあったからそこを刺激すると向こうは黙り、僕は無罪になった。

 

 ―――パァンッ!!

 

 前の方でおそらく聞くことはないはずの音が聞こえた。僕は恐る恐る顔を上げると、いかにも厳しそうな女性が睨むように織斑一夏を見ていた。

 

「げえっ、関羽!?」

 

 彼はどうやら勇気があるようだ。あんなおっかない人に対して関羽呼ばわりするなんて。………そういえば、中学の頃に三国志が好きな男子が変なマンガを批判していたな。確か、三国志に出てくる武将の名前が女の子に付いているんだっけ?

 

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

 

 さっそくこのクラスで平穏無事に過ごせるか自信がなくなってきた。

 それほどまで新たに現れた女性は怖そうだったからだ。

 

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

「ああ、山田先生。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

「い、いえっ。副担任ですからこれくらいはしないと………」

 

 さっきとは違って温厚な態度で副担任に接する織斑先生………ん? 織斑?

 まさか織斑一夏の関係者? もしかして母親? いや、ここはリアルだ。だから見た目的な若さを含めて母親という可能性はないだろう。

 

 ―――ギロッ

 

 唐突に織斑先生に睨まれた僕は萎縮する。

 

「? 織斑先生、どうかしましたか?」

「いや、少し実年齢を遥に上回る失礼なことを考えられた気がしてな」

 

 何なのあの人!? 本当に人間?

 思わずそう思ってしまったけど、また思って怒られるのは嫌だから勉強に戻る。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。できない者にはできるまで指導してやる。私の言うことは聞け、いいな」

 

 ……もしかしてここは軍事学校なのかもしれない。

 そう思った瞬間、黄色い声援が辺りから飛び始める。ちなみに僕はこの瞬間、勉強することを諦めた。

 

(………ここじゃ、勉強どころじゃないしね)

 

 耳を塞いでいると、織斑先生が何かを言っていたので左耳だけ外してみた。

 

「………だ。感心させられる。それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」

 

 その時、僕の第六感が働いた。今すぐ耳を塞いで来るであろう何かに耐えようとする。

 

「きゃあああああっ! お姉さま! もっと叱って! 罵って!」

「でも時には優しくして!」

「そしてつけあがらないように躾けてください!」

 

 黄色い声援には……勝てなかったよ……。

 

 どれくらい意識を飛ばしていたんだろうか。取り戻した時に頭部に痛みが走った。

 わけがわからず、また誰かに石でもぶつけられたのかと思いながら顔を上げると、さっきの黒いスーツの女性……織斑千冬先生が僕の近くに来ていた。

 

「何を寝ている。次は貴様の番だ」

「……えっと、何がです?」

 

 「正しくは超音波を間近で聞いたので意識が飛んでいました」と言うのを我慢して湧いて出てきた疑問を尋ねた。

 

「自己紹介だ。早くしろ」

「……もう「し」ですか?」

「時間がないからな。周りが気になっているであろう貴様を先にさせたというわけだ」

 

 時計を見ると、パンフレットにあった予定時間にそろそろなりそうだった。

 

「………はぁ」

 

 ため息を吐いて椅子から立つと、途端に俺の方に視線が集中した。

 

「……えっと、時雨智久です。整備と開発の勉強のためにIS学園に入学しました。よろしくお願いします」

 

 そう言って着席しようと何故か叩かれた。

 

「……何するんですか?」

「もっと他に言うことがあるだろう。まったく、今時の男子はまともな自己紹介もできんのか……?」

「彼女募集中です! なんてギャグで言っても通用しませんし、なによりも恋愛している暇なんてないですし……」

「趣味や特技とかはないのか……?」

「控えめに見ても中の下程度の男子高校生に何を求めているんですか……」

 

 趣味は昼寝。特技は爆睡とかでも言った方が良かっただろうか。

 そう思った時にチャイムが鳴り響き、HRの終了を告げた。

 

「……ちっ。さぁ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。良いか? 良いなら返事をしろ。良くなくても返事をしろ。私の言葉には返事をしろ」

 

 ………ここって、学園だよね?

 平和的な学園生活を送れるって思っていたけど、どうやらそうじゃないらしい。……まぁ、冷静に考えればIS関係の施設なんだから厳しいのは当たり前かもしれない……けど、正直僕はあまり気が進まなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 脳がちょっと壊れてしまったかもしれない。

 そう思うほどIS学園の授業は難しく、事前学習ができなかった僕にとって授業は地獄と化した。

 

「なぁ、ちょっといいか?」

「………何?」

 

 顔を上げずに尋ねる。声からして誰が来たのかわかったからだ。

 

「大丈夫か? もしかして、千冬姉に叩かれた場所が痛むのか? 人の急所は熟知しているから、わざとそこを狙うことはしないと思うけどな?」

「……まず叩くことに疑問を持とうよ」

 

 もしかしてその辺りのことは欠如しているのだろうか? ……というか、やっぱりお姉さんなのね。

 

「ともかくだ、俺は織斑一夏。男同士仲良くしようぜ」

「……あー、うん。考えとくよ。今はそんな気分じゃないから」

 

 頭がこんがらがっている。次の授業までに回復しておかないと少しマズいのではないかと思う。

 すると、今度は女の声が聞こえてきた。

 

「………ちょっといいか?」

「え?」

 

 突然のことだったので、織斑一夏は反応が遅れたらしい。

 

「……箒?」

「……塵取り?」

「おい」

 

 凄味ある声を向けられる。いや、だって織斑君から出たのは「箒」なら、必然的にその相方を思い出してしまうだろう。

 

「違うって、智久。彼女の名前は「篠ノ之箒」。ちゃんとした人名だよ」

「……ああ、何か溢して掃除道具を借りに来たわけじゃないんだ」

「お前は私を何だと思ってるんだ……」

 

 だって普通、何も見ていない状態から「ホウキ」という単語を聞いたら全員が掃除道具の方を思いつくと思う。

 

「……もしかして、彼女?」

 

 まさかもう一人は既に彼女持ちとは。だとしたら僕は嫉妬に狂ってもう一人の男を殺そうとするだろう。イケメンは死すべし、死すべし! って感じに。

 

「ち、ちが、私は―――」

「何言ってんだ? 箒は幼馴染だよ」

 

 ………もしかして鈍感なんだろうか?

 さっきから机に突っ伏しているだけで声しか聞こえないけど、明らかにもう一人はオーバーだったな。

 

「と、というかどうして貴様はさっきから机に突っ伏しているんだ。人と話をする時は相手を見るのは常識だろう!?」

「………もしかして織斑君のことが「ワーワー!!」………」

 

 ……ここまで見事に引っかかってくれるとは思わなかった。いやぁ、青春だねぇ。

 

「ん? 俺がどうしたって?」

 

 ………彼は気付いていないのか? 今のだと気まずいコース不可避だと思うのだが。

 

「ごめんごめん。ちょっと眠たくてね。できるなら、このまま次の授業まで寝たいって思っているんだ。……ところで、何の用?」

「……一夏に話がある。連れて行くぞ」

「どうぞ~」

「え? 俺の意見は?」

「いいから来い!」

 

 半ば無理やり連れて行く「シノノノホウキ」さん。僕は携帯電話を取り出して「箒」と検索すると、候補の一部に「箒星」というのがあったのでそれを押して調べる。ああ、彗星の別名なのね。

 

(でも、こういう名前って意味を説明しないとわからないよね?)

 

 聞き覚えのある音楽ユニットが曲名として出しているから調べている人は多そうだけど。

 携帯電話をしまってもう一度寝ようとすると、今度は別の誰かに話しかけた。

 

「ねぇねぇ、ちょっといーい?」

「………寝たいんだけど」

 

 引き続き顔を上げずに答えると今度は机を揺らされた。

 

「何するんだよ!!」

 

 意識を飛ばして寝ようとしたところにこの仕打ちである。怒鳴るなという方が無理だろう。

 

「だってぇ、今じゃないと接触は難しいだろうしぃ」

「そんなことを言われても知らないよ。ともかく今は寝かせて」

「む~」

 

 声は可愛い、なんて思っていると今度は耳に息をかけられた。

 

「じゃあ、名前だけ言ったら帰ってくれる? 意味が分からないけど重要そうな用語の羅列でちょっと疲れてるんだ」

「勉強とかはしてこなかったの~?」

「してきたよ。1日しかできなかったけど」

 

 そもそも、僕の所にISが貸し出されたのは3月下旬だ。動かせることが判明してから変な女の人が来たり、黒服の人らが現れたり、僕がIS学園に通うことで僕がいた孤児院に政府から給付金を毎月送ってもらえるように交渉したり、孤児院を出るからまだそこにいる子供たちの相手。先生が止めてくれなければおそらく俺は勉強できずにいただろう。

 

「1日じゃあ、あんまりできないね?」

「たぶん数日あっても無理だと思うよ。……というか、元々ISに関して勉強してこなかった人にこの量は辛い」

「それには同情するけどね~。……って、孤児院出身なの?」

 

 最後の方は小声で聞いてくる。どうやらその辺りの分別は付けてくれるようだ。

 

「ちょっと事故で家族が死んで、親戚も嫌がって引き取りを拒否したんだ。それで仕方なくだよ。……でもまぁ、そのおかげで子供の相手をする方法とかも勉強できたし、嫌な事ばかりってわけじゃなかったよ。先生……孤児院の院長なんだけど、女性だけど優しかったし。」

 

 孤児院暮らしの虐められたりはしたけど、「こんなことをしなければ自分を確立できない」ことにむしろ向こうが可愛そうになってきたほどだ。

 それに新聞配達のアルバイトもできたし、僕としてはかなり充実した日々を送ったと思う。

 

 ―――キーン コーン カーン コーン

 

 ………回想していたら、結局眠れなかった。

 八つ当たりと理解しているけど、ちょっとイラついたので僕は話しかけてきた女子を睨むことにした。

 

「てひひ~」

 

 反省してないよ、この子。

 僕はその子を追い払うようにすると、大人しく帰っていった。

 

(……次は絶対に寝よう)

 

 そうじゃないと、今度は本気でヤバいと思うから。

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