IS-Lost Boy-   作:reizen

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ep.11 どんな時も、慌てず騒がず

「……つまり、私とお姉ちゃんを勘違いしてた、と」

「うん。まさか妹がいるなんてねぇ」

「…………一緒にされるのは、少し心外」

「本当にごめん」

 

 突然謝ったことで主導権はこちらになったようだ。

 僕はとりあえずこれまでの事情を包み隠さず説明すると、納得してくれたのか許してくれた。

 

「……いい。誤解が解けて何より」

 

 どうやら妹の中の姉の評価はかなり低いようだ。

 しかし、遠目から見ればそれほど大差がないように見える。……ある一部を見れば流石にわかるけど。

 それにしても、ほとんど同じ格好なのに何故か彼女は拒否反応をしない。出会いって別の意味で大事なんだね。

 

「ところで、更識さんも訓練帰りに機体を整備しにきたの?」

 

 僕もそんな感じなので尋ねると、彼女は固まってしまった。……何かまずいことでも聞いてしまっただろうか?

 

「………」

 

 もしかして校則に触れることをしているのだろうか。ここは「お兄ちゃん」代表として注意をしておこう。

 

「……更識さん、いくら女尊男卑でも犯罪は見逃されないと思うよ?」

「……犯罪はしてない。………隠してもしょうがないから言うけど……ISを作ってる」

 

 今度は僕が固まる番だった。

 

「……ISを、作ってる?」

 

 いや、まさか……今のは冗談だよね?

 だって彼女はあの2年生の妹で在学中なんだから、必然的に1年生=僕と同い年になる。そんな年齢でISを作るってあり得るの?

 

「………信じてない?」

「…ごめん。あまりにもリアリティがなさすぎてパンクしたみたい」

 

 まぁ、日頃からリアリティがないものを好き好んで見ている僕がいうのもなんだけど、あまりにもスケールが大きすぎて僕には想像できなかった。

 

「…もしよかったら、どうして君がそんなことをしているのか教えてもらえないかな?」

「……実は―――」

 

 色々あって簡単にまとめると、つまりこういうことだった。

 彼女―――更識簪さんは日本の代表候補生で、専用機持ち。この春に機体が完成して専用機持ちの一人として

IS学園に入学する……はずだったんだけど、あろうことか織斑君が動かしたことで開発が凍結。どうやら彼女の会社である「倉持技研」というところが織斑君の機体を請け負うことになったらしく、その犠牲になったようだ。

 で、ここは話はぼかされたんだけど、彼女の家は少々特殊らしく、そのおかげかコアと設計図を持ち出すことができたようで、今はこうして1人で黙々と作っているようだ。……ここで「友達に頼らないの?」とか言わないのは、「1人でできるのに頼る必要=友達がいない」という禁句に触れるからである。大体、掃除洗濯家事育児を一人でできるのに、どうして調理実習で周りの手を借りなければならないのか。ただでさえ、最近の女は女尊男卑の影響で料理を作ることすらできないのがほとんどというのに、そんな奴らに手を借りたら余計に時間がかかって仕方がない。

 

 ……と、僕は現実逃避しながら彼女と距離を開けていた。

 

「……どうしたの?」

 

 心配そうに声をかけてくる更識さん。

 

「……僕、代表候補生と会話をしたくないんだ」

「……………あ」

 

 何か心当たりがあるような反応をする更識さん。ごめん。僕は君とはわかりあえない!!

 

「……もしかして、オルコットさんが原因?」

「……僕が知る限りあの人と君ぐらいしか知らないよ」

「あれは特殊なケース……と思ったけど、意外と多い。同情する」

 

 ………いや、落ち着け。時雨智久。これは彼女の罠だ。同情したと見せかけて近づいてセクハラとか言って僕を扱き使う気だ!

 

「……私たち2人には共通点がある」

「……織斑君の被害者?」

「うん。周りは織斑君に対して良い話しかしない。……私には正直、理解できない」

 

 ………どうやら彼女の恨みは相当深いようだ。僕は予想以上に貶されている織斑君が可哀想になってきた。

 

「だけど……クラスじゃそんなことは言えないから……愚痴だけでも聞いてほしい」

「……それって、気が済んだら僕を国に売るの?」

「それはない」

 

 力強く否定する更識さんに僕は少し気圧された。

 

「………代表候補生なら、確かにハニートラップを使用してくるかもしれない。……けど、私はそんなことはしたくないし……こんなことであなたに消えてほしくない」

 

 ……判断に迷う反応だ。……でも、ここは彼女を信じてみよう。もしここで裏切るなら、痛い目を見せればいい。こう見えても僕は知識だけは豊富だから、女の子を屈服させる方法は知っている。………あまり使いたくないけどね。特に見た目が可愛いこの人には。

 

「……わかったよ。これからもよろしくね、更識さん」

「………よろしく」

 

 そうだ。なにも彼女は完全に敵というわけじゃない。……むしろ、今この時点では彼女は敵になりえないだろう。

 理由はいくつかあるけど、一番は彼女は今専用機を作るのに忙しいからだ。

 

「ところで、専用機はこんなのだけどクラス対抗戦はどうするの?」

「……辞退するつもり」

 

 話題を変えて話を続ける。話題としてはこれくらいかなと思ったけどまさかの答えが返ってきた。

 

「やっぱり、機体がこんなのだから?」

「……うん」

 

 まぁ、専用機があるのに訓練機で出るなんて、よほどのことじゃなければしないしね。

 そもそも、どうして彼女は専用機を1人で作っているのだろうか? 代表候補生なら上級生にも伝手はあるだろうし、何も単独で作る必要はない。

 

(いや、今はやめよう)

 

 彼女から入ってきたとはいえ、まだ僕らはそこまで親しくない間柄だ。これ以上はもう少し好感度を上げてからの方が良い。恋愛シミュレーションゲームでの鉄則だ。……別に僕は女の子と恋愛したいわけじゃないし、そもそも恋愛に発展させる予定はないんだけどね。

 

「あ、そうだ。更識さん。お願いがあるんだけどいいかな?」

 

 この後は普通に部屋に戻る予定だ。……だけどその前に、やるべきことをやっておく必要がある。

 

「……何?」

「ISの整備の方法、教えてください」

 

 とりあえず、今回のことでわかったことが一つだけある。更識さんはIS学園の中でも比較的優しい(かもしれない)ということが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色々あって1週間と数日が過ぎた。

 今日はクラス対抗戦。そして注目されているのは織斑君と2組に転校してクラス代表の座を奪った凰鈴音さんの対戦カードだ。

 

『さぁ、今年もやってまいりしました。クラス対抗戦1年生の部。1回戦の第1試合は突如現れた男性IS操縦者の片割れで、なんと世界的に有名な元日本代表IS操縦者、織斑千冬の弟である織斑一夏選手! 対するは時季外れに現れて転校してすぐにクラス代表の座を掻っ攫った中国代表候補生の凰鈴音選手!』

 

 イベント限定の放送部のラジオが観客席に設置されているスピーカーから聞こえてくる。

 

『この2人はなんと、小学校時代からの知り合いでなんと凰選手はたった1年で専用機持ちにまで上り詰めた猛者です。織斑選手はISを手にして間もないですが、イギリス代表候補生に対して善戦したと名高い選手。解説の布仏さんはどう見ますか?』

『そうですね。織斑君と凰さんの勝率は2:8、織斑君が凰さんを上手く翻弄して《雪片弐型》を上手く当て続けることが勝利の鍵でしょうね』

『織斑君の勝率が2割である根拠は?』

『凰さんは1年で専用機持ちになった。その自信による慢心からでしょうね。慢心を続ければ織斑君の勝率は上がりますが、凰さんの機体が確か燃費が良いので実際は1割前後と言ったところでしょうか?』

『ありがとうございます。では試合開始のカウントダウンを始めます!』

 

 周りがノリに乗ってカウントダウンを始める中、僕はパソコンを開いてデータを取る準備をしていた。途中、何度か席を譲れと命令してくれる人がいたけど、それらは全員無視。もうそんな奴らは相手にしないと決めたんだ。

 ともかく、今は試合に集中する。ちなみにこっちではラジオが流れている間に中では織斑君と凰さんが何やら口論していたけど、それは僕ですらわかるほど凰さんが織斑君を避けていることに理由があるのだろうか?

 試合が開始され、2人は動くと最初から激突……というか、どっちも刀剣で攻撃って……。

 内心突っ込んでいると、凰さんが優勢で攻撃を次々と入れていく。織斑君は押されているようだから、おそらくは凰さんの機体「甲龍」近接格闘型。織斑君は流石にマズいと思ったんだろう。距離を取ろうとしたら甲龍の非固定浮遊部位がスライドして開き、何かを発射した。

 

(……流石にカメラだけじゃ何を発射したのかわからないな)

 

 でも、何が出ているのかさえわかれば十分だろう。後で解析するんだし。

 

「今のはジャブだからね」

 

 織斑君はさっきよりも吹き飛んだ。地面に叩きつけられたけどすぐに復帰してかわし続ける。

 

「よくかわすじゃない。衝撃砲《龍砲》は方針も砲弾も目に見えないのが特徴なのに」

 

 ……何でそんな驚きのアイディアは出てくるのに、未だに可変機体とかないんだろう。

 更識さんからの情報だと、マルチロックオン・システムすらも実用化されていないんだとか。泣いていい?

 

「鈴」

「なによ?」

「本気で行くからな」

 

 と、いきなり格好つける織斑君。彼は確かにイケメンだけど、この言動には何故か寒気を覚える。……イケメンアイドルユニットがたまに俳優としてドラマに出ている時に女の子を口説くシーンがあるけど、それに似た寒気だ。

 

「な、なによ……そんなこと、当たり前じゃない……。と、とにかく、格の違いってのを見せてあげるわよ!」

 

 何で僕、こんなものを見ているんだろう。

 いや、落ち着け。これは情報収集なんだ。決して他人の友達以上恋人未満な劇を見ているわけではないんだ!

 織斑君らの意外なスキルに戸惑いながら改めて見ると、突然爆発と地震が同時に起こった。震度はそこまで大きくないようだけど、一体何が起こったんだろう。

 戸惑っていると警報が起こる。僕は一度目を閉じて心を落ち着かせる。

 

(……何かが起こったことは間違いない。でも今は冷静にならないと)

 

 僕は小さく深呼吸して目を開けると、辺りは暗かった。通常の電灯ではなく非常灯だろう。

 ドアの方は他の生徒でごった返している。あれを落ち着かせるほどの技量は僕にはない。……小さい子が相手だったらできるんだけどなぁ。

 

(……まぁ、僕にはISがあるからどうにかなるなる!)

 

 とまぁ、思っていてなんだけど正直どうにもならない気がする。

 とはいえ、今はここから脱出するのが正しい判断だろう。でも、この人だかりはどうにかしないといけないよねぇ。

 僕は打鉄を展開して《葵》を2本展開し、刃同士をぶつけて音を響かせた。その音に反応した人たちは僕の方に注目する。

 

「ここは僕が引き受けるよ。みんなは下がってて」

 

 《葵》を収納して大型加速装置付き金鎚《ブーストハンマー》を展開してドアに近付く。そして、ハンマーで思いっきりドアを破壊した。

 

「落ち着いて避難して! 焦らずゆっくりと!」

 

 そう言いながら僕はISを展開したまま外に出る。先回りして入り口を開けるためだ。

 

「吹っ飛べ!!」

 

 閉まっている隔壁を次々と破壊していく。すると通信が入った。

 

『時雨君、どうしてISを展開しているんですか!?』

「生徒の避難をさせるためです。今、出入り口までつなげたのでひとまず中に戻ります。あ、隔壁は破壊しました」

『……は、破壊って……』

 

 おそらく大胆な行動をしたことで山田先生が動揺したんだろう。

 

「今は生徒の命が優先、でしょう? 何が起こっているかわかりませんが、緊急事態なのにドアが開かないのは異常と思い、行動しました」

『よくやった。私たちはまだ動けない、なので残りの生徒も避難させてやってほしい』

「………報奨金の準備、忘れないでくださいね」

 

 冗談めかして僕はもう一度中に入り、入り口に近いドアから破壊していく。流石に全部を破壊する必要もないし、ある程度壊している時にそれなりに避難しているので僕は他にも閉じ込められているかもしれない生徒を探しに行く。本来ならこれは教員の仕事だけど、それを突っ込むのは野暮だろうか。

 本格移動のために慣れないISは使わずに普通に走って中継室の方に移動する。まぁ、流石にいないとは思うけど、確認を―――

 

「―――そこをどけ!!」

「ふぇ?」

 

 迫りくる木刀を間一髪で回避する。するとドアが開いて何故か篠ノ之さんが中に入って行った。

 鈍い音がしたこともあって閉まるドアに滑り込むようにしていると、篠ノ之さんは叫ぼうとしていた。近くでは見覚えがある人が倒れていて、もう一人は震えあがっていた。

 

「一夏ぁッ!!」

 

 マイクに向かって叫ぶ篠ノ之さん。僕は嫌な予感がした。

 

「男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

 僕は放送機材の上に乗って左腕を展開して窓を破壊。向こうから見れば野球場のホームベースの後ろ部分にあるこの部屋の窓の大きさは小さいけど、僕の身体の大きさなら大丈夫だ。その隙間から外に出ると不格好と言えるISが腕部を向けていた。今度はすべて展開して両腕に打鉄のシールドを展開して攻撃を受ける。その際、威力が大きすぎて壁に叩きつけられた。発射が終えたようで、素早く移動して僕は後ろと距離を取る。

 

「―――うぉおおおおおおッ!!」

 

 織斑君の突貫。それが敵ISの右腕を落とすが、左腕で殴り飛ばされる。

 向こうに注意がいった。そう確信した僕は《焔備》を展開して斬り落とされている右手に集中的に攻撃を仕掛ける。しかし、それはフェイクだ。

 すぐに《ブーストハンマー》に切り替えてブースターによる加速を、そして停止してハンマーのブースターと腕力、PICをその場に固定して力任せに敵ISに叩きつける。でも、それで終わらせる気はない。

 一気に加速して上を取る。そして上から頭部を破壊しようとしてブースターを噴かせるが、復帰した敵ISが左腕で僕の腹部に攻撃した。

 意識が飛びかける。でも、この一撃で終わらせるまでは踏ん張る。

 

「らぁあああああッ!!」

 

 殴られた腹部を逆に起点として利用。頭部にハンマーを叩きつけた。

 

 ―――ミシッ ミシッ

 

 僕は左手を離してガトリングガンを展開。反動無視でぶっ放した。

 狙いは両隣の銃口と思われる部分。そこに当たって爆発すれば御の字だ。

 

「智久!」

「さっさとこいつに攻撃しろ!」

「でも、智久に当たるかもしれないだろ!!」

 

 ―――ブチッ

 

 この期に及んで何を言っているんだ、こいつは。

 確かに僕のシールドエネルギーはほとんど空だ。だが、今が好機だと言うのにそれをミスミス逃すというのか……反吐が出る。

 だから嫌いなんだ。こういう時に何もできない人は。

 

「じゃあ今すぐ死ね!」

 

 あんな無能に頼ろうとした僕が馬鹿だった。そもそもどうして僕は戦っているんだろう……ああ、そうか。あの女のせいか。

 ともかく今は―――こいつを倒すだけだ。

 僕は右手もハンマーから離して手榴弾をそれぞれの指につまむように展開して素早く引く。敵ISに触れると同時に僕諸共吹き飛ぶが、僕は敵ISがいる場所にガトリングガンを2丁にしてありったけの弾丸をぶち込んだ。

 

「援護しますわ!」

 

 貴族女の声が聞こえてくるけど無視してぶっ放す。ガトリングガンが切れたら次は《焔備》で。

 そう思った時、現れた何かに殴られ、僕は文字通りに吹き飛ばされる。でも―――

 

「殺す」

 

 最後の手段。それを用いるためにブーメランを放った。僕が覚えているのはそこまでだった。




ちょっと駆け足な気がしなくもないですが、気にしないでください。
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