今回のタイトルは意外と語呂が合っているようでお気に入りです。
目を覚ますと、僕は見覚えがある天井を見ていた。
(……おかしいな。さっきまで外にいたはずなのに)
そう思いながら、僕は体を起こすとよくわからない光景を見ていた。姉に怒られる妹の構図である。
「あの、これは……」
「起きましたか。時雨君はその状態で聞きなさい。あなたたち、織斑君の部屋に盗聴器を仕掛けたでしょ?」
何でバレた!? ……って、わかるよね。部屋にその機械があるし。
「はい。何か問題―――」
「大ありです。本音も本音よ。どうして止めなかったの」
「だって~おもしろそ―――」
「本音?」
僕は慌てて布仏さんを先輩から離すために移動するが、睨まれたので僕は動けなくなった。
「すみません、布仏先輩。僕からお願いしたんです」
「だからと言って、彼女を罰しないというわけにはいきません」
そんなぁ。
たぶん僕と布仏さんは同じ顔をしているだろう。すると、付けっぱなしにしていたのかスピーカーから織斑君の声が聞こえてきた。会話の内容から察するに、どうやら何かトラブルが起こったらしい。
「………ねぇお姉ちゃん、もしかしたら証拠が掴めるかもしれないよ? さっきだけど、おりむーがでゅっちーがシャワー浴びてる時に気まずくなってたから」
「……わかりました。今回だけは見逃します」
「やったー!」
布仏さんがイヤホンを刺して先輩に渡す。僕もベッドから降りると先に刺していたらしく、僕に差し出してきた。お礼を言って受け取ると、すぐに驚きの言葉が飛んできた。
『すぐに氷もらってくるね!』
『ま、待て待て。その格好で外に出るのはマズいだろ! 後で自分で取ってくるから!』
『でも―――』
『そ、それよりも、その……さっきから胸が、当たってるんだが……』
「もしかして、ついに発覚~?」
「いや、織斑君はホモでもあるからもしかしたら反応を楽しんでいるかもしれない」
『心配しているのに……一夏のえっち……』
『なぁッ!?』
あ、これはもう完全に黒かもしれない。さっきは現実逃避したけど、そうじゃなかったら僕は織斑君に話しかけられるたびにISを展開しないといけない。
『ふぅ……。ここまで冷やせば大丈夫だろ。じゃあ、まあ改めて』
『うん』
何か生々しい音が聞こえてくる。そういえばこの盗聴器って全然ばれないけど、一体どこが作ったんだろ。
『何で男の振りなんてしてたんだ?』
『それはその……実家の方からそうしろって言われて……』
はい、言質が取れました。
どうやらこの時既に織斑君にばれていたらしい。もしかして、さっき布仏さんが言ってた状況でばれた………つまりは、別に死んでも問題ないよね?
一瞬、殺意の波動に目覚めて殺しに行きそうになったけど、僕は一度冷静になって話を聞く。
話が長いので簡単にまとめると、デュノア君……もといデュノアさんのことを少し話すことが最初かもしれない。
デュノアさんはデュノア社の現社長が愛人との間に作った子どもで、今から2年前、母親が死んだことを聞きつけた社長が引き取り、彼女のことを検査していく内にIS適性が高いことが判明したので素性が露見して会社のダメージにならないように非公式にテストパイロットをしていた。フランスは高性能でカスタムがしやすい万能型のラファール・リヴァイヴを開発したデュノア社に期待をしていたみたいだけど、データも時間も不足していたことで期待を裏切ったと思われたので予算を大幅にカットされ、次のトライアルで選ばれなければ援助を全面カットしてIS開発許可も剥奪されるらしい。
『なんとなく話はわかったけど、それがどうして男装に繋がるんだ?』
『簡単だよ。注目を浴びるための広告塔。それに―――同じ男子なら日本で登場した2人の特異ケースと接触しやすい。可能であるば使用機体と本人のデータ……特に織斑君の盗ってくるように言われたんだ』
………へぇ、つまり僕は……あろうことか、第三世代兵器のアイデアすらないクソ企業に過小評価されている、そういうわけか。
―――ふざけるな
思わず机を叩いた。
確かにラファール・リヴァイヴもそれなりに惹かれる物がある。しかし何だ? 僕はあんな何も理解できない屑に劣るだと? 笑わせる。
「すみません。ちょっと走ってきます」
そう言って僕はジャージに着替えて外に出た。途中、何度か声をかけられたけど無視した。
■■■
有無を言わさない雰囲気を放ちながら、出て行った智久。あまりの事に姉妹は呆然としてしまっていた。
「………気持ちはわかります」
虚はそう呟く。
実際、智久は虚、そして本音から見てもかなり努力している。それこそ他の生徒が馬鹿にできないレベルでだ。特にアリーナの申請率は他の生徒よりも高く、ここ数日は減っているが朝や夕方は時間があればトレーニングを行っている。最近は銃のことを勉強していて、射撃場に入り浸っていることも知っている虚はさっきの発言は酷いと思った。現に、彼女は一夏のことも調べているが、一夏は整備室に入った記録がない。それに比べて智久はもう10回は入っていて、そのたびに簪と会話をしているのを密かに確認している。明らかに、智久と一夏とではIS操縦者としての自覚が違うのだ。
「お姉ちゃん、さっきの録音データあるけど、どうする?」
「保存しておいてください。後で轡木夫妻に届けておきますから」
そう言って虚は所有している小型端末から整備室使用許可申請ページを確認する。
そのページ内にある使用者履歴を見れば、誰が使用したのか誰かわかるようになっている。そしてそこには「織斑一夏」も「白式」も、以前授業で使用した時以外はまったく表示されていない。転校してきたばかりのシャルル・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒは仕方ないにしても、織斑一夏の場合はそうはいかない。
(武装の完成は学年別トーナメントが始まる前。でもその前に、あれだけでも完成できるから……)
その案を出された時、虚は目の前の少年を「天才」と称してしまう程だった。
まるで湧き水のようにあふれ出るアイデア。そして0からスタートしたにも関わらず開発の知識も蓄えた結果、意外な指摘もするようになった。
一体何が彼をそこまでさせたかは既にわかっている虚は、以前のこともあってより答えてやろうと考えるようになっていた。
(……お嬢様もいませんし、最後辺りは練習に力を入れておきましょうか)
セッティングもあるので試合前の3日間はアリーナが使えない。しかし、未だに予約されていない部分を虚は埋めていくのだった。
■■■
あれから2日経ち、放課後になってすぐ僕は整備室に向かった。
そこでいち早く完成させることができた新兵器を量子変換している。
「ありがとうございます、先輩。こんなにしていただいて」
「いえ。私はただ前に助けた借りを返しているだけです。気にしないでください」
布仏さんが羨ましく思う。こんな可愛いお姉さんを持てるなんて……っと、いけない。少し平常心を保って一線は引いておかないと。
「………まだ、心は開いてくれないんですね。いえ、良いんです。このご時世ですし、仕方ないですよね」
「……………」
何故心を読まれた。というか、さっきから凄く罪悪感を感じる。
精神攻撃から耐えていると、急に整備室のドアが開かれる。
「何ですか? ここは私たち2人以外は立ち入り禁止にしていますが?」
「布仏先輩! 大変です!」
見覚えのない生徒がそう叫ぶ。……まぁ、僕の場合大半が見覚えないんだけどね。
「何ですか、黛さん」
「1年生が……1年生が模擬戦をしていまして……ただ、普通じゃないんです」
「落ち着いてください。一体何があったんですか?」
何かあったのかな? まぁ、僕には関係ないことだし気にしないでいいかな。
「1年のボーデヴィッヒが同じく1年の凰さんとオルコットさん相手に戦ってまして、少し雰囲気が危ういんです。だから―――」
「わかりました。場所はどこですか?」
「第三アリーナ…ここです!」
よく聞くと、確かに爆発音がしている。
ちなみに整備室内は防音対策がされていて、入り口を閉じていたら音が全く聞こえないというのは結構ザラだ。
「時雨君、私は少しアリーナに行きます。あなたはどうしますか?」
「……僕も行きます」
まだ量子変換が終わっていないけど、既存の武器は入れっぱなしだからいざとなれば殿ぐらいはできるだろう。……ISなかったらたぶん死ぬけど。
僕と先輩はAピットに移動する。
そもそもどうして普通の模擬戦如きで人を呼ぶのかって思ったけど、確かにこれは少しマズい。
「凄く険悪ですね。とても研磨している風には見えない」
……考えてみれば、1組ではよくあることだけどね。主に織斑君を巡ってだけど。
「まるで実戦ですね。ここは私が―――」
「先輩、まだです。おそらくあれはどちらかが負けないと止まらない類です」
ところで今、ISを持ってなかった? どうしてかはわからないけど、先輩も暗部の人間だから実力は折り紙付きか。……たまに練習を見てくれるけど、教えるのが上手いもんね。
頭を冷やして状況を分析する。中では今日だけで織斑先生に注意されるまで僕を睨んで来たボーデヴィッヒさんと凰さん、オルコットさんのペア。ボーデヴィッヒさんはどういうことかほとんど無傷で、対照的に凰さんとオルコットさんはダメージを負っている。アーマーも一部無くなっていて、それが3人の実力差を物語っていた。
凰さんとオルコットさんは目配せしてボーデヴィッヒさんに接近。まず凰さんが衝撃砲を展開して撃った。
「無駄だ。このシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前ではな」
するとボーデヴィッヒさんは手を出して衝撃砲を完全に消した。
「まさか、AICの完成度がここまで高いなんて……」
先輩を呼びに来た人が驚いている。ところでこの人は誰だろう……。そして、
「AIC?」
「正式名称はアクティブ・イナーシャル・キャンセラー。PICを発展させたもので、慣性を停止させる結界を展開することができます」
布仏先輩の説明に僕は瞬時に理解する。
その間にも試合はめまぐるしく動き、凰さんがワイヤーで捕まっている間オルコットさんがビットと自分でレーザーを撃つが、ボーデヴィッヒさんは止めずに回避し、ビットの動きを止める。
オルコットさんとボーデヴィッヒさんの射撃がぶつかり、ボーデヴィッヒさんが凰さんを使ってオルコットさんにぶつけ、地面に叩き落とす。そして―――
「……瞬時加速も使えるんですか」
僕は思わずそう呟く。
ここ最近、僕らのことを考えてか模擬戦は少なったけど、織斑君の唯一の特技でもあるそれを使い、地面に移動したボーデヴィッヒさん。凰さんが前に出て青龍刀2本を駆使してボーデヴィッヒさんが使用するプラズマ刃2本とワイヤー6基を相手にし、苦戦する。その状況を打破するために衝撃砲を使おうとしたけど、ボーデヴィッヒさんに砲弾で破壊され、体勢が崩される。
「もらった!」
「させませんわ!」
間一髪。オルコットさんが割り込んでプラズマ刃の機動を逸らしてミサイルを飛ばして爆発が起こった。
「無茶するわね、アンタ……」
「苦情は後で。けれど、これなら確実にダメージが……!?」
煙が晴れると、そこにはまるで王者の貫禄を思わせるほど堂々としているボーデヴィッヒさんの姿があった。
「終わりか? ならば、私の番だ」
そこから、試合は一方的な展開になった。
まず瞬時加速で接近して凰さんを蹴り飛ばし、オルコットさんに至近距離から砲弾をぶつけ、吹き飛ばされた2人を即座に回収してさらに攻撃を加える。
僕は打鉄を展開してブーメランを展開。今も攻撃されている2人とボーデヴィッヒさんの間に投擲して自分をその間に入る。
「貴様……上等だ。貴様も潰してやる!」
僕が2人を助けるために現れたと思ったのだろうか。確かに半分正解だけど、半分間違いだ。
「何か勘違いしていないかい? 僕は試合が決まったから止めに来ただけだよ」
「それがどうした。あの時の屈辱、ここで晴らす!」
そう言ってISが解除された2人がいるのに僕にプラズマ刃で攻撃してくるボーデヴィッヒさん。僕は初期にできたシールドを展開して塞いだ。
「……見たことないシールドだな」
「僕のオリジナルだよ。僕の知り合いに優秀なエンジニアがいてね。その人に手伝ってもらったのさ」
攻撃を防ぐだけなら打鉄で事足りる。でも僕は今までの盾自体に不安を感じ、大型で取り回しが効く新たなシールドを開発した。……まぁ、僕がほとんど手伝っただけだけど。
シールドは電磁フィールドも形成されているため、プラズマ手刀はもちろん、理論上ではオルコットさんのブルー・ティアーズにも対抗できる。僕に課された「打鉄のスペックを弄るな」というのはこういう方向から強化するしかないし、ダメ元で言ってみたけど、まさかこうして実現できるとは思わなかった。今は心から感謝している。
「小癪な!」
「良いから引いてよ。もう2人の勝負は着いたんだから」
「黙れ! あの屈辱、今ここで晴らす!!」
一体何に怒っているんだ、この子は。
わけがわからないけど、未だに動けないらしい2人をどうにかして離したい……そう思ったら布仏先輩が入って来た。
「待っていてください、彼女たちを置いてきたら援護します」
するとボーデヴィッヒさんはワイヤーブレードを射出して布仏先輩に向かわせる。僕は砂を巻き上げて注意を逸らし、近接ブレード《葵》を展開して回転して落とした。
「……なるほど。少しはやるようだな……だが、教官を侮辱する程の実力はない」
「え? 何で君がそのことを知ってるの?」
そりゃあ、日頃から布仏さんと愚痴っているけどさ。
ちなみに僕は先輩に教えてもらっている時、わりと本気で担任と変わってもらいたいと思っている。
「何を言っている。貴様が2日前に言っていたではないか!」
「…………え?」
どういう、こと?
実は僕はどういうことか、土曜日の記憶はあまりない。アリーナでボーデヴィッヒさんが織斑君に喧嘩を売っていたのは知っているけど、それだけだ。
…確か、ナルコレプシーだっけ? ナイフとかを見るとそれに似たような症状が出てきてしまう。
「貴様、何を惚けている」
「ごめん。本当に記憶がないんだ。僕、そんなことを君に言ってたの?」
するとボーデヴィッヒさんは何やら怒りを露わにし始めた。どうやら今の言葉で怒ったらしい。
「………良いだろう。ならば無理やりにでも思い出させてやる」
そう言って瞬時加速で僕とぶつかって吹き飛ばし、レールカノンを起動させたボーデヴィッヒさんは僕に向かって撃った。それを僕は以前のようにブーストハンマーで弾いて飛ばす。
「だから、もう止めてって言ってるじゃないか!」
「黙れ! 貴様が教官に非礼を詫びなければ止まる気はない!」
「そう。じゃあ僕はあの女に非礼を詫びないさ。もっとも、織斑先生の指導力の低さは既に折り紙付きのようだけど」
そうじゃなければ、模擬戦で装甲が破壊するほど激しいバトルはしないはずだ。
「黙れ!」
「―――黙るのはあなたです、ラウラ・ボーデヴィッヒ」
赤紫のラファール・リヴァイヴを装備した布仏先輩はカタパルト上から声を放つ。
「誰だ貴様は!」
「時雨君の言う通り、既に勝負は決しました。これ以上攻撃を行うと言うのならばこの場で生徒会長代理の権限を行使し、学年別トーナメントの参加を許可しないものとします」
「何だと!? 高が1生徒の貴様がそんなことをできると―――」
「できますよ。生徒会にはあまり行使されることはありませんが、その生徒がこの学び舎にいることに適しない人を学園から通報し、今後その国がIS学園に入学する可能性は低くなります。適性が高い生徒でも、ね」
それは完全な脅しだった。それに、とても彼女の性格からはそんなことを言うとは思えない。
先輩が何のためにそう言っているのかわからないけど、その言葉はボーデヴィッヒさんには有効だったようで、その場で反転して別のピットに戻る。
「先輩」
「時間を稼いでくださり、ありがとうございます。本来なら私がするだったのに」
「いえ。先輩は彼女を引かせてくださったじゃないですか。それだけでも十分助かりましたよ」
実はちょっと普段の顔とは違ったから怖かったけど。
「ありがとうございます、時雨君」
「いえいえ」
僕らの感謝合戦は、近くにいた見たことない人がシャッターを切るまで続いた。
実際、楯無がいないと虚辺りが代理として取り仕切っている気がする。
あと、赤紫で五反田蘭を連想したからって「虚色じゃない」とか言うのもなしで。