IS-Lost Boy-   作:reizen

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ep.2 来襲! セシリア・オルコット

 二時間目、僕は早くも混乱していた―――というわけではなかった。

 

(大丈夫。これくらいなら……これくらいならわかる!!)

 

 今学んでいるのはISの使用に関する法律に関してだ。さっきのものとは違って僕みたいな頭でも理解が追いつく。

 

(………まぁでも、もう一人はそうでもなさそうだけど……)

 

 さっきから挙動不審な織斑君は青い顔をして隣に座る女生徒を見ている。視線に気づかれて少しやり取りをしているけど、それを見てさっき僕に話しかけたであろう女生徒……確か、シノノノさんが織斑と隣の女生徒を睨んでいた。……なんだか、二人の間に座る女生徒が可哀想である。

 それを見かねたのか、副担任の山田先生が織斑君に話しかけていた。

 

「織斑君、何かわからないところがありますか?」

「あ、えっと……」

「わからないところがあったら聞いてくださいね。なにせ私は先生ですから」

 

 胸を張ったので胸部が揺れたことには気づかない振りをしておこう。実は施設に僕より少し下の女の子が最近胸が大きくなったことが悩みで、たまたま見てしまったら凄く怒られたから。

 念のために言っておくと、別に僕はその女の子に興味があるわけじゃない。妹として見ているから。

 

「先生!」

 

 勢いよく手を挙げる織斑君。

 

「はい、織斑君!」

 

 やる気に満ちた返事をする山田先生。まるでどんな質問にも対応する勢いだけど、それはできない話だった。

 

「ほとんど……というか全部わかりません」

 

 本日二度目のズッコケ入りまーす。織斑先生と僕以外は全員が椅子から滑り落ちるということが発生していた。

 

「え、えっと……織斑君以外で、今の段階でわからないって人はどれくらいいますか?」

 

 そりゃあ、誰も手を挙げることはしないだろう。僕は以外は、の話だけど。

 

「え? 時雨君もですか!?」

「………すみません。1時間目のことが全体的にわかりませんでした。というか、理解し難い内容が多くて……」

 

 そもそも、IS学園の授業カリキュラムは前もって勉強してきていることを前提で進んでいるから初心者には優しくない仕様になっている。その上に女子中学校では政府からISを貸し出されて何度か授業する機会があり、その際に触りだけでも勉強するそうだ。

 

「………織斑、時雨。入学前の参考書は読んだか?」

「あの分厚いやつですか?」

「そうだ。必読と書いてあっただろう」

 

 今、手元にある分厚い辞書のようなものがそうだ。確かに必読と書いているけど、

 

「勉強期間が短すぎるので理解するに至りませんでした」

「間違って捨てました」

 

 織斑君にすぐに拳骨が降り注いだ。

 

「馬鹿者が。後で再発行してやるから一週間以内に覚えろ。いいな」

「い、いや、一週間であの分厚さはちょっと……」

 

 確かに1週間でこの分厚さを覚えるのは少々……いや、かなり無理がある。

 

「やれと言っている」

「………はい。やります」

 

 うわぁ、怖いなぁ。とても僕と同じ人族とは思えない。

 

「わかっていると思うが、時雨もだからな。1週間後、簡単なテストを行う。成績が悪ければどうなるかわかっているな?」

「………罰則ですね。ですが、それは少々無駄なのではないかと思いますが?」

「何?」

「罰を恐れて人が行動を起こしても、結局は一時的なものでしかなく、完全にその人の糧になりはしません。本当に大事ならゆっくりと時間をかけてさせるべきなのではありませんか? ……というよりも、人があなたと姿形は同種でも絶対に同種の性能が持っているわけじゃないので、たった1週間ですべて覚えるなんて無理ですよ。………織斑君は自業自得にしても」

「おい!?」

 

 信じられないって顔をしても、参考書を捨てたから1週間で覚えさせられるのは自業自得だと思う。

 

「なるほどな。確かに時雨の言うことも一理ある。だが貴様の立場はわかっているか?」

「一応は。ですが、だからと言って無駄に詰めても結果が悪いことは教育者であるあなたも充分理解していると思いますが?」

「………」

 

 黙り込む織斑先生。そしてしばらく考え込んで答えた。

 

「……良いだろう。時雨、罰則は免除だ。テストでどこまで理解しているかを確認するだけに留めておいてやるが、成長が見られない場合はそれ相応のことがあると思っておけ」

「わかりました」

 

 ………まさか通るとは思わなかった。自分で言っておいてなんだけど、織斑先生は暴君的なところがあるからてっきり無理矢理させられると思っていたからだ。

 

「だがISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。まずは理解できなくても覚えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ」

 

 正論ではあるけど、結局は理解しなければ問題は起き…ああ、だから「まずは」なのね。

 織斑先生が言わんとしていることを理解した僕は黒板に書かれていることをメモしていくと、前の方から殺気が飛んできた。

 

「……貴様、『自分は望んでここにいるわけではない』と思っているな?」

 

 ………僕の場合は半々ってところだ。

 

「望む望まざるに関わらず、人は集団の中で生きなくてはならない。それすら放棄するなら、まず人であることを辞めることだな」

 

 本当は、大半の男が今の世界で集団行動なんてしたくないだろうけどね。

 

「え、えっと、織斑君。わからないところは授業が終わってから放課後教えてあげますから、頑張って? ね? あ、時雨君もですよ!」

 

 もしかして、今の山田先生が心配しているのは織斑君の方だろうか? 僕の方がまだ大丈夫だと思われているなら、それはそれで嬉しいな。

 

「はい。それじゃあ、また放課後によろしくお願いします」

「ほ、放課後……放課後に3人だけの教師と生徒……。あ、だ、ダメですよ、二人とも、先生、強引にされると弱いんですから……それに私、男の人は初めてで……」

 

 ということは女性経験はあるのだろうか、なんて言いそうになったのは秘密である。

 

「山田先生、授業の続きを」

「は、はいっ!」

 

 織斑先生に言われて山田先生は授業を再開する。……僕、このIS学園でちゃんと生きれるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても凄いな智久。あの千冬姉を言い負かすなんて」

「……実際、人間は詰め込むだけ詰め込んでもそれだけならすぐに忘れてしまうんだよ。僕はそれを説明しただけ」

 

 これはあくまで実話だけど、子どもは一度様々なことを体験させる必要がある。その体験が安全ならば、の話だけどね。

 ……というかこの男、どうして僕のことを名前で呼んでいるの? というか慣れ慣れしい。

 

「だとしてもさ、普通いないぜ? あそこまで千冬姉に反抗するのって」

「わからなくもないけどね。あの先生っておっかないし……というか寝かせて」

 

 そう返すと織斑君は苦笑いした。でも事実だしそこは受け入れてもらわなければ困る。

 そう思った時、突然第三者が僕らに話しかけてきた。

 

「ちょっと、よろしくて?」

「へ?」

 

 視線を右にして、話しかけてきた女子がどんな人間かを観察する。日本の学校では珍しいけど、IS学園じゃ普通にいる金髪の髪に、縦ロール。青いカチューシャと同じくらい青い瞳。この学校はお嬢様の受け入れもしているらしい。

 

「聞いてます? お返事は?」

「あ、ああ。聞いているけど……どういう用件だ?」

 

 織斑君が尋ねると、その女生徒はわざとらしく声をあげた。

 

「まぁ! なんですの、そのお返事は。このわたくしに話かけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

 

 いるとは思っていたけど、まさか初日に接触することになるとは思わなかった。

 IS…インフィニット・ストラトスが世に出てからというもの、こうした高圧的な態度を取る女は増えていった。僕も以前はこういった手合いに虐められていた経験があり、孤児院でも少しそういった風潮が入ってきていた。今では何とか潰しているけど、もしかしたら僕が見ていないところで再発しているかもしれない。

 何故女たちがこういった行動に出るか。それはISを使うことができるからだ。

 僕や織斑君のようにISを動かせる男は極めて珍しいが、女たちは潜在的には誰だって使えることができる。それに加えてISは法律で理由なき無断使用は禁じられているが、一歩間違えれば自分たちが死ぬかもしれない。そういった不安から男たちは女に頭が上がらないのだ。

 

「悪いな。俺、君が誰か知らないし。智久は?」

「……知らない。というか、寝かせて」

 

 何でこの男は平然と僕に話を振ってくるんだろう。ああ、最初の受け答えが悪いのか。

 

「わ、わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」

 

 いちいちうるさいな、この女。というか僕は寝たいんだよ。

 

「あ、質問いいか?」

「あのさ、そろそろ別の場所で会話してくれない? 僕は寝たいんだけど」

「ふん。下々のものの要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

 

 だったら今すぐここから離れてよ。

 

「代表候補生って、何?」

 

 本日三度目のズッコケが入ったけど、はっきり言ってどうでもいいしとりあえずこの二人を殴りたい。

 

「あなたっ、本気でおっしゃってますの!?」

「おう。知らん」

 

 ………それくらい、想像して答えてあげなよ。

 ちらりとオルコットさんを見ると、頭痛がするのか頭を抱えている。

 

「あ、あなたは知っていますわよね!?」

 

 目が合ったからか、オルコットさんは僕に聞いてきた。

 

「えっと、ISの国家代表になるかもしれないって人だよね?」

「そうですわ! エリートなんですのよ!」

 

 ……孤児院にも女の子はいるけど、不良になっていいからああいう女になるなって言ったのは間違いではなかったと確信した瞬間である。この状況で口に出すほど馬鹿じゃないけど、たかが候補生如きでこの態度はいささか問題ではないかと思った。

 

「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……いえ、幸運なんですのよ。その現実をもう少し理解していただける?」

 

 ……たぶんそれはIS学園に入学したばかりの女生徒に言えば幸運だったのかもしれないけど、あまり自分を上げたくないけど、レア度で言えば僕らの方が上だと思う。

 

「大体、あなた方ISについて何も知れないくせに、よくこの学園に入れましたわね。男でISを操縦できると聞いていましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど、片方はともかく時雨さん、でしたかしら? あなたはわたくしに話しかけられているというのに一向に姿勢を正さないなんてマナーを知りませんの? ま、どちらにしても期待外れでしたわね」

「俺に何かを期待されても困るんだが」

「僕は寝たいんだけど……」

 

 さっき言ったんだけどなぁ。無視しないでほしいなぁ。

 

「ふん。まぁでも? わたくしは優秀ですから、あなた方のような人間にも優しくしてあげますわよ」

 

 じゃあ、最初からそんな高圧的な態度を取らないでほしいものだ。

 

「ISのことでわからないことがあれば、泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。なにせわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

 

 へー、あんな横暴な人たちによく勝てたねぇ。僕なんてヘッドショットを何発もされてシールドエネルギー全損だよ? もう少し優しい人が良かった。

 

「入試って、あれか? ISを動かして戦うってやつ?」

「それ以外…いえ、確か一般生徒は筆記もあったと言う話でしたわね。ですが、全員教官と戦ったはずですわよ」

「あれ? 俺も倒したぞ、教官」

「は……?」

 

 へぇ。つまり何かな? 僕に引き立て役になれって言いたいのかな? 

 というかよくあの教員に勝てたよね? ヘッドショットしてきたんだけど。

 

「わ、わたくしだけと聞きましたか?」

「女子ではってオチじゃないのか?」

 

 ……何でこの人、相手が怒る言い方をするんだろう。そこは普通に「情報が伝わったのが後だったからなんじゃないのか?」で良いだろうに……あ、結局一緒か。

 

「つ、つまりわたくしだけではないと……?」

「いや、知らないけど……」

 

 というか、何で安易にその人の結果を伝えているんだろう。もしかして、「私を倒したのは今期ではあなただけよ」的なものなんだろうか?

 

「あ、あなた! あなたも教官を倒したというの!?」

「……負けたけど?」

「ふん。所詮男とはそういうものですわね!」

 

 安堵の色が見えたのは黙っておこう。というか、この人はさっきから素人に何を求めているんだろうか?

 

「ともかく落ち着いてよ、オルコットさん。別に教官を倒したことが入学許可証と一緒に送られて来たわけじゃないんでしょ?」

「そ、そうですが………」

「だったらその情報は確定じゃない。あくまで暫定的なものなんだから安易に信じちゃダメだよ。あと、そろそろ寝かせてほしい」

 

 言葉を詰まらせるオルコットさん。悔しそうに俺を見るけど、実際の話そうなんだと思う。

 ……冷静に考えれば、今僕は「君は恥ずかしい女だね」って指摘したことにならない? 気のせい?

 

 ―――キーン コーン カーン コーン

 

 またチャイムだ。これで連続で僕は眠れなかったことになる。……授業であまりの難しさにオーバーロードを起こさないか心配になってきた。

 何か捨て台詞を吐いて自分の席に戻っていくオルコットさん。織斑君も肩を竦めて戻っていくけど、やっぱり一発殴らせてほしくなった。

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