IS-Lost Boy-   作:reizen

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ep.20 学年別トーナメント、スタート!

 6月も最終週に突入。その月曜日を迎えたため、ようやくみんな楽しみだった学年別トーナメントが始まった。

 先程開会式を終えた僕らは更衣室に着替えに向かった。

 

「しかし、凄いなこりゃ……」

「3年にはスカウト、2年には1年間の成果の確認にそれぞれ人が来ているからね。1年には今のところ関係ないみたいだけど、それでもトーナメント上位入賞者には早速チェックが入ると思うよ」

「ふーん、ご苦労なことだ」

 

 まぁ、ここには有能な操縦者にさせるために送り込んでいるから当然と言えば当然だけどね。突っ込まないけど。

 

「一夏はボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね」

「まあ、。自分の力を試せもしないっていうのは、正直辛いだろ」

 

 どうやら機体の状態は悪く、今回は英中はお休みらしい。あそこまでやられたら当然か。

 あれ以降、織斑君もデュノア君も僕を避けるようになった。あんなに考え方が違うなら仕方ないかもしれないけど。

 

「感情的にならないでね。彼女は、おそらく1年の中では現時点での最強だと思う」

「ああ、わかってる」

 

 でもあれだね。デュノア君が女だと知っているから織斑君に好意を向けている他の3人がいかに危ういかよくわかる。傍から見ていたらドロドロしているだけだから楽しいだけだよ。それに僕、完全に空気だ。

 そんなことを思っていると、抽選が終わって組み合わせが発表されたからか織斑君が姿を現した。

 

「と、ととと、智久! お前!」

「今度は何かな?」

「ちょ、い、良いから来い!」

「僕今機体調整中なんだけど」

「そんなことより大事なことなんだよ!」

 

 ……何をそんなに慌てて……ああ、もしかして……

 

「もしかして、僕がボーデヴィッヒさんとペアを組んでいることに関係しているの?」

「そうだ! 凄くたいへ……何で見てないのに知ってんだ!?」

「僕から頼んだことだしね」

 

 そう言うと織斑君が騒ぎ始めたので僕は静かに部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 IS学園某所。そこでは老人2人が高いテーブルを挟んでいる。

 金髪の老人は渡された資料を見てため息を吐いた。

 

「………なるほどな。あなたは私が向こう側とは考えなかったのかね?」

「例えそうだとしても、私自らが矯正していましたよ。もっとも、性格からしてそんなことはしない人間だということは理解していましたが」

 

 彼らがいるのはIS学園でも生徒会長でも中々入れない特別な部屋であり、実質は十蔵が大切な話をするための部屋として使っている。

 

「しかしクロヴィス、これに関してあなたはどう思っているのですか? 下手をすれば今後フランスはIS開発権利をはく奪されてもおかしくはない」

「そうだな。是非、あの会社には落とし前を着けさせてもらおう。もっとも社員には気の毒だが、それに関してはこちらに考えがある」

「……会社を作る、とか?」

 

 十蔵の言葉にクロヴィスと呼ばれた男性は心から驚いた。

 

「何故分かった?

「2人目はああ見えてかなり頭が回る男です。そしてこれを―――」

 

 十蔵は新たに資料を渡すと、クロヴィスはなんとか声を抑えた。何故なら資料にはこう書かれていたからだ。

 

 ―――シャルル・デュノア(仮)の断罪回避方法

 

 ページを開くと一番上には日本語でデカデカと書かれている。

 

 ―――シャルル・デュノア救済方法

 

 そこにはシャルル・デュノアをいかにして救済するかという方法が複数記載されていた。

 

「これを、あの2人目が?」

「ええ。その中からできることがあれば幸いとも言っていました。次ページには会社員を助ける方法が書かれています」

 

 ―――まったく同じ且つ社名を変えて提出

 

「法律などは知らないのでその辺りはまだですが、そこはあなたがどうにかすると思ってわざと空けさせました」

「………簡単に言ってくれるな」

 

 確かにクロヴィスの立場を考えれば十蔵の言う通り、会社を一個作り上げるのは造作もない。しかし、この資料にはとあるものが存在していないのだ。

 男装させるとなると、会社内はもちろん政府内にも協力者が必要となる。まずはそこから洗う必要があると考えているクロヴィスに救いの手が差し伸べられた。

 ドアがノックされる。十蔵が「どうぞ」と答えると少女が入って来た。

 

「彼女は?」

「私の協力者です」

「初めまして、北条(しずく)です」

 

 茶色の髪をした少女がそう名乗り、手の代わりに資料を差し出す。

 そのリストにはデュノア社の重役、そして政府関係者でここ数か月でデュノア社社長と社長夫人と会っていた人がすべて記録されている。

 

「範囲は2月中旬から5月までに限られていますが、それでよろしければ」

「……ありがとう」

「では、これで失礼します」

 

 そう言って雫は一礼し、部屋を出て行く。

 クロヴィスは自国のことを丸裸にされた気がして気分は悪くなったが、目の前にいる化け物を見ていると些細なことと思い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学年別トーナメントは、その名の通り学年別に行われる。2、3年生と違って1年生は全員……いや、ほとんど全員が参加していることもあって布仏先輩も整備員として駆り出されている。なにせ訓練機をフルに使っての大会だ。それに1年だけじゃなく2年3年もなので、おそらく前のように襲撃されれば間違いなく専用機が出張るだろう。

 それに運悪く、今は更識先輩もいないのでほとんど1年で対処しなくてはいけない。そうなった場合、僕も出る必要がある。

 

(幸い、あの許可は出してくれたからいつでもいいんだけど……)

 

 言うなれば、緊急措置プログラムというものを今回仕込ませてもらっているけど、これは本当に緊急時じゃないと使用できないことになっている。

 そんなことを考えながら僕は新しいタイプの武装を考えていると、急に声をかけられた。

 

「何をしている。さっさと行くぞ」

「あ、うん」

 

 今から今日最後の試合で、2回戦の第1試合が始まる。時間がズレているけど今頃織斑君たちも戦うことになっているだろう。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、シュヴァルツェア・レーゲン、出るぞ!」

 

 仮面隊長のように言ったボーデヴィッヒさんは機械が動くままにカタパルトから射出される。僕も新たに出てきた射出台に脚部装甲を接続した。

 

「時雨智久、打鉄、行きます!」

 

 体勢を低くすると同時に動き始め、端まで行くとストッパーに当たって僕だけが飛ばされる。僕はボーデヴィッヒさんの後ろに着地すると、向こうも出てきた。打鉄とラファール・リヴァイヴを1機ずつ使用している。

 

「これはこれは、1組じゃない」

「今日はよろしくね。おチビ共」

 

 比較的背が高い人たちが現れた。確かに僕らよりも背が高いけど―――

 

「誰だ、こいつら」

「ごめん。僕にもわからない」

 

 存在感はかなり薄いと思う。少なくとも僕は知らない。

 

「な、アンタたち私たちを馬鹿にするの!?」

「いい度胸じゃない! 機体の性能差が絶対的な戦力差ってわけじゃないのよ?!」

「知るか。所詮貴様らは雑魚だ」

 

 そんなことをわざわざ言わなくても……。

 そう思っていると、試合開始のブザーが鳴り響く。すると敵2人はこっちに向かって走らせた。

 

「死になさい! チビでひ弱!」

「ボーデヴィッヒさん―――って叫ぶ必要なかったか」

 

 ラファール・リヴァイヴの動きが止められているのを見て、僕は手を後ろにして大剣を展開してタイミング良く首にぶつける―――つもりだったけど、盾に防がれた。

 

「甘いわよ!」

 

 そう言って《焔備》を展開して引き金を引かれるも、咄嗟に大型シールドを展開して防ぐ。

 

「またその大型シールド。一体どこで見つけたのよ、そんなもの!」

「だから自作です!」

 

 少し距離を離すと、タイミングよく僕らの間にラファール・リヴァイヴが落ちてきた。見ると以前の凰さんとオルコットさんのように装甲が一部吹き飛んでいる。

 

「この程度か? 弱すぎて話にならないな」

「そ、それはアンタが専用機を使ってるからでしょ!?」

 

 そう叫ぶラファール・リヴァイヴの操縦者。僕は大剣を上に放って2人を飛び越える。

 

 ―――ワァアアアアアアッッッ!!!

 

 急に歓声が沸きだす。もしかしたら何かあったのかもしれないけど、ここには何もないからどうでもいいや。

 

「ちょっ、何よ、そのテクは!?」

 

 テクも何も、ただISを使って勢いよく回転して進んでいるだけなんだけど……。何か変なのかな?

 そんな疑問に囚われながら、僕は相手に接近して落ちてくる剣を持って振り下ろして切った。

 

「この野郎、生意気な!!」

「アンタはどこの歌手ですか」

 

 距離を取られるので、僕はライフルを展開して発射した。閃光が走り、彼女の手元で爆発が起こる。

 

「何!?」

 

 この人、驚くと動きが止まるなぁ。

 なんて思いながら僕は接近して―――通りすぎる。

 

「馬鹿め!」

 

 もう1丁持っていたのか、《焔備》を展開して撃ってくるけどそれを大剣で防いで接近。斬ってまた通りすぎるけど、今度は近くで停止―――せずにその場で片足を軸に回転して反転し、また相手を斬った。

 

「この、ちょこまかと!」

「遅いよ」

 

 相手の後頭部の首に秘策ならぬ秘剣をぶつける。すると、

 

「し、シールドエネルギーが激減!?」

「驚いた? この非実体剣はオンオフの切り替えができてね、出すだけなら片手に収まるんだ」

 

 だから刀身を自分のタイミングで展開できる。そしてそれは相手に疑念を与えることができる。

 

「まさか、アタシが負けるの? 男なんかに!?」

「1つ言うけど、女が主導しているからこんな簡単なものも開発できないんだよ?」

 

 実はこれだけに限って言えば僕が単体で開発した。最初は暴走してエネルギーが飛び散ったりと処理が大変だったけど、既に似たようなものを開発しているから自分1人でもできたのだ。まぁ、今のは挑発で布仏先輩には感謝しきれないんだけど。未だに心が開けなくてごめんなさい。

 

「ふざけ―――」

 

 相手の口に蹴りを食らわせて吹き飛ばす。それで体勢を崩したその人は倒れてしまい、僕は顔の顔にハンマーを叩き込んだ。背部からスラスターが現れて勢いを増したそれはかなりの威力となり、絶対防御を発動させる。

 

【シールドエネルギー0 勝者、時雨智久、ラウラ・ボーデヴィッヒペア】

 

 周りからブーイングが起こるけど、僕らは気にせずにピットに戻った。

 

「ボーデヴィッヒさん」

「何だ?」

 

 手を挙げたけど意図がわからないのか、それとも下らないと思ったのか、そのままISを解除して先に出て行く。

 

「あ、待ってよ。ボーデヴィッヒさん!」

 

 せめてハイタッチくらいしてよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきの凄かったね、かんちゃん」

「うん。最後の攻撃が特に凄かった」

 

 そう言いながら、暗部に属する妹コンビが廊下を歩く。初戦で専用機持ちと一緒とはいえ勝利を飾った智久に「おめでとう」と言いに行くためだ。

 そのためにこうして歩いているわけだが、そんな2人にあり得ない光景が見えた。

 

「待ってよボーデヴィッヒさん。せめて、せめて!」

「ああ、もう! うっとおしいぞ!」

 

 ―――ラウラに懐いている智久の図である

 

 智久はこれまで、本音や虚に対して警戒してる態度で接してきていた。だがラウラの場合は別で今も懐いている。その現実を本音は受け入れられず、混乱した。

 

「しぐしぐが女の子に懐いてる……」

「うん。私もそれなりに仲が良いと思うけど、あそこまでは珍しいね」

 

 簪と智久はよく趣味の話をする。そのこともあって智久はよく整備室に訪れているが、本音にとって初耳だった。そもそも彼女にとって智久と簪が仲が良いこと自体、誘いに行った時に初めて知ったことであり、内心はやっぱりと思いつつもどこか羨ましく感じた。

 

「………いいなあ」

 

 おそらく初めて聞くであろう、そんな言葉に簪は驚きを見せる。

 

「ほ、本音……?」

「だって、私は入学した時からずっと一緒なんだよ。それなのに心を開いてくれないのに、かんちゃんやらうらうだけあんな態度見せてさ……ズルいよ」

 

 そう言って本音はどこかに行く。簪はそのことを伝えようとすると、人が飛んできた。

 

「な、何するのよ!」

「何がまぐれだ? 貴様らが本当に強ければ、私にあっさり負けるわけがないだろう?」

「ボーデヴィッヒさん、そこまでにしよう。いくらなんでもそれ以上は怒られるよ?」

「しかしこいつは………」

「この人たちが言っていることなら気にしなくていいよ。実際、僕は弱いし………もっとも、未だにビーム兵器や常時換装システムを開発できてない屑……じゃなくて無能……じゃなくて蛆虫如きにどうこう言われたくないけどね」

 

 訂正という言葉を知らないのか、それとも敢えて言っているのか、ともかく罵倒を浴びせる智久。かなりイラついているようだ。

 

「は、はん、良く言うわよ! アンタだってまだ開発できてないじゃない!」

「そうよ! 大体、アンタのそのとんでも武装なんて、あの布仏先輩に助けてもらって作った奴じゃない! どうせ弱みを握って脅したんでしょ! この悪魔!」

「それともその妹を盾に脅したとか? 男って変態だしそんなことを考えてそうよね!」

 

 さっき、智久とラウラに負けた2人が捲し立てるように言うと、智久はゆっくりと歩み始める。そして、2人の間にナイフを突き立てた。

 

「確かに、男は変態だね。それに関しては否定しないよ………けどね」

 

 ナイフを持って立ち上がる智久。今の彼の顔はとても暗く、恐ろしいものだった。

 

「君たちのように生産性の無い屑に言われたくないかな? 種を残すことがヒトの……いや、生物すべての絶対的な役割だと言うのに、無視する君たちがさ」

 

 本気だった。

 まるで生徒2人を恨みで殺しそうな顔をした智久が、今も倒れる2人を見下ろす。

 智久はおもちゃに興味を失くした子供のように踵を返してラウラに刃の部分を持って返す。

 

「いつの間に盗ったんだ?」

「僕の得意技でね。使い方は企業秘密さ。じゃあ、僕はこれで失礼するよ」

 

 そう言って智久は女たちを超えて移動すると、簪の存在に気付く。

 

「やぁ、更識さん。あれ? 布仏さんは?」

「たぶんもう帰った」

「ありがと。じゃあ僕も戻るよ」

 

 勝てたことが嬉しいのか、それとも女たちに一泡吹かせられたからか、智久の足は軽やかだった。

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