IS-Lost Boy-   作:reizen

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気が付いたら、書いていた。


ep.29 周りは騒げどマイペース

「ああ、時雨。ちょうどいいところにいた」

「……何の用ですか?」

 

 トイレに行こうとしたら、織斑先生が声をかけてきた。彼女がスーツで助かった。さっきから思春期男子には刺激が強いことが多かったから。

 

「なに、私の水着を選んでもらおうと思ってな」

「………弟をさっき怒っていたんですから、そのまま選んでもらえば良かったじゃないですか」

「一夏なら、山田先生がどこかに連れて行ってしまった」

「デートじゃないですか? 彼だって馬鹿でアホでどうしようもない人間だとはいえ、そこさえ除けばイケメンですし」

「……………まさかそこまで嫌っているとはな」

「真面目な話、僕らは相容れない存在ですよ。向こうは迫ってくるので殴り飛ばしたい気分ですが」

 

 まぁ、これを姉に言ったところでどうしようもないか。

 とはいえ、あの男は本当に鬱陶しいことこの上ない。なにせ風呂が解禁される日は決まって僕を誘いに来るのだから。

 

「……でだ、どっちの方が良いと思う?」

 

 織斑先生は無理やり話を戻す。せっかくずらそうとしていたのに。

 差し出されたのは白い水着と黒い水着。似たような露出だけど、黒の方は股部分に若干の露出をさせている。となれば……

 

「黒の方ですね。織斑先生は白いジャージを着ていることはありますが、全体的に黒が映えると思いますので」

「………なるほどな。それとな、一夏の事をイケメンと言っていたが、中々お前も可愛い顔をしていると思うぞ」

「織斑先生はISが無ければただの男前な女上司ってだけで、多少とっつきにくいですが弟に対しても面倒見がいい少しオジサマ気味の男を引っかけることができたかもしれないのに、どうしてこうなったんでしょうかね」

「……………怒って、いるのか?」

「やだなぁ。温厚な僕が怒るなんてあるわけないじゃないですか……あ、後ゴーグルを忘れずに」

「? 私は目を開けて泳げるぞ?」

「ゴーグルは海水から目を守るためですよ。後は胸元に異物を置くことで胸への注意を引きつけます。それによって胸が小さい人は将来の期待やチッパイなどによる別の意味での興奮を、そして大きい胸を持つ人にはそのまま、スタイルの良さから性的興奮を誘発させる作用があるかと」

「……随分と詳しいんだな」

 

 この人は何を言っているんだろうか。こんな知識くらい―――

 

「恋愛シミュレーションゲームをやったことがない証拠ですね。ただでさえ、あなたは男日照なのですからせめての慰めにしてはどうです? 女向けにもいくつかありますよ」

「………いや、いい」

 

 恋愛シミュレーションゲームだと、夏にプールはありがちなイベントなんだから客観的に分析すれば誰にだってわかることだ。

 

「わ、私にもいずれいい男は見つかるさ」

「男といえば、さっき黒いバンダナを付けた赤茶色の髪をした人がいましたよね?」

「ああ、五反田弾か。それがどうした?」

「知っているなら少し教えてもらっても良いですか? 場合によっては股間にある異物を切り落とす必要がありますので」

 

 あの時は普通に分かれたけど、考えてみれば幸那をそのまま放置するのはマズかったのではなかろうか。

 

「落ち着け。あの男はそう言った感情は持ってない。……まぁ、確かに年相応とは感じたが……」

「織斑先生のフィルター的には?」

「………一夏と同い年の男はどうかと思うがな。精神的に育っているならともかく」

 

 良かった。これだと僕は対象外だろう。さっき「可愛い」とか言われたから狙われていたのかと思った。………流石に考えすぎかと思ったけど、最近の織斑先生は何故か僕に構いすぎな気がするからね。

 

「あ、そうそう。織斑先生は生身の方でもお強いでしたよね」

「当然だ」

「それは良かった。もし変な虫が寄り付いて織斑君に難癖付けられたくありませんから」

 

 直接姉にそう言うと、織斑先生は頬を引き攣らせていた。

 

「ところで、私はそろそろ出てきていいかしら?」

「買い物は終わりましたか? じゃあ、寄りたいところがあるのでそっちに行きましょう」

 

 と、僕は新作のゲームを買いに向かう。そこでも更識さんたちとバッタリ会ったので、僕らは旅行先でも通信できるように対戦ゲームを買った。ついでに最新型のパソコンも、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海っ! 見えたぁっ!」

 

 翌日。僕らはバスに乗って目的地に向かっている。周りは騒いでいるけど、当の僕らは―――

 

「ま、またやられたぁ!?」

「甘い、甘いよ本音さん! 所詮君も有象無象の一部でしかないと言わざる得ないね!」

 

 6月末に発売されていたIS(インフィニット・ストラトス)/VS(ヴァースト・スカイ) UnLimited(アンリミテッド)-Custom(カスタム)で戦っていた。ちなみにこれはIS/VSのフルカスタマイズ可能タイプであり、わかりやすく言えば神速狩りゲーなどで自分に似たキャラメイクができるように、ISを自由にカスタマイズできる。最近ではレーザーサーベルなどが装備可能となっていて、ますます機体は強くなっていく。

 

「でも、やっぱり物足りない」

「えー? どうしてー?」

「何でISで瞬時にパッケージが換装できないんだよ!? おかしいじゃないか!!」

「………あ、そこなんだ」

 

 別に僕は主人公だとか言うつもりはないよ。でもね、思うんだ。瞬時にパッケージを換装で来たら、どれだけ戦略に幅ができるんだろうって。でも、

 

「やっぱりIS系の戦闘システム全般クソだね。こんな簡単なこともできないなんてありえないよ。何で追加パッケージですぐにオンとオフが切り替えられないんだよ。ロボット界では常識だよ、常識。せめてゲームとかアニメとかじゃしてくれてもいいじゃん。あり得ないよ、ホント」

「しぐしぐ、落ち着いて~」

 

 僕は気分を変えて一度電源をオフにしてからカセットを入れ替える。さて、化け物を狩ろう。

 

「しかし、時雨や布仏はよくこの揺れを物ともせずゲームができるな。信じられん」

「IS操縦者が何を言ってるんですか。ま、僕は久々にゲームをするのでそのせいでテンションが高いだけかもしれませんが」

「そうなのか? てっきりやり込んでいるのかと思ったが……」

「基本的にしていませんね。まぁ、ちょくちょく参考のシーンが欲しい時は起動はしていますが、それだけです」

 

 というかそんな時間がなかったって言うのが正しいんだけど。ずっと勉強漬だったし。

 織斑先生は外の様子を伺う。小さいけれど宿のようなものが見えてきたから、たぶんアレだろう。

 

「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」

 

 そう言って一度立ち上がった織斑先生は席に座る。ちなみに織斑先生と山田先生が座る席は監視しやすいためか反転している。こんなところで無駄に金を使わなくてもいいだろうに。

 やがて宿に着き、僕らはそれぞれ準備をしてバスから降り、クラスごとに整列した。

 

「それでは、ここが今日から3日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」

「「「よろしくお願いしまーす!!」」」

 

 タイミングを計って全員で挨拶。そして僕は久々に見る姿のため、前に出た。

 

「お久しぶりです、清州さん。今日はよろしくお願いします」

「あらあら。男子が2人いるって聞いたけど、あなただったのね。久しぶり。3年ぶりかしら?」

「ええ。もうそんなになりますね」

 

 3年前まではまだ人数は少なかったので、たまに海水浴に来ていたのだ。

 

「なんだ、知り合いだったのか」

「ええ。この施設は施設でよく利用するんです。……子どもが多いのでよく迷惑をかけていますが」

「智久君はよく小さい子を纏めていたんですよ。今日は大きい人ばかりですけど」

「学校の行事で来ていますからね。また溜まったら来ますよ。あ、それと」

 

 僕は少し下がって織斑君を引きずり出した。

 

「これが、もう一人の残念な人です」

「いや、その紹介はないだろ!? お、織斑一夏です。よろしくお願いします」

「うふふ、ご丁寧にどうも。清洲景子です」

「この人は問題児なので特に注意してください」

「何でだよ!?」

 

 どうやら彼は自覚ないらしい。

 そんなやり取りを経て、僕らはそれぞれの部屋に移動を開始した。

 

「なぁ智久、俺たちの部屋はどこになるんだろうな」

「少なくとも、君とは別の部屋だと思うけどね。そうじゃなかったら、僕は適当に廊下で寝るよ」

「………なぁ、もう少しみんなと関わろうぜ。のほほんさんだけだと飽きるだろ?」

「君たちはオタクじゃないから話が合わなすぎるんだよ。だから君は自覚が足りないしね」

 

 最近は特にそう感じなくなった。出会った頃は別の部屋にしてほしいなって本気で思っていたけど。

 

「2人共、部屋はこっちだ。追いて来い」

 

 言われて僕らは織斑先生の後に続く。かなり奥の方に移動すると、ドアには僕と山田先生の名前が書かれていた。その隣は織斑姉弟の部屋らしい。

 

「最初は2人を同室にするという話になったがな、それだと時雨の身が危なすぎると言うことでこうなった」

「なるほど。織斑君の部屋に女子が押し寄せて、最悪の場合部屋が吹き飛ぶ可能性がありますしね。その点、僕は自分の立場を自覚しているので山田先生に手を出すことはないし、時間をきちんと守る人間としか関わっていないし、就寝時間を守らせる人間だから問題ない、と。織斑先生の部屋が手前なのは最悪の場合、ですか」

「そういうことだ。念のために厳命するが、絶対に手を出すなよ?」

「わかりました。性的行為を行わないことを誓います」

 

 ここまで言えば問題ない。僕は早速中に入って荷物を置き、パソコンを起動した。

 

「智久! 海に行こうぜ!」

「僕はいいよ」

 

 床に寝転んでゴロゴロする。たまには昼寝をして英気を養わないと人間は疲れるんですよ。

 

「何で智久はそうやって周りを拒否するんだ。もっとみんなと仲良くした方が楽しいだろ」

「逆に聞くけど、君は平然と周りと仲良くできるの? 普通ならばそんなことはできないと思うけど」

「普通にできるさ。智久は二の足を踏んでいるだけだ」

「そりゃあ踏むに決まっているじゃん。付き合ってもプラスにならないどころか、むしろ危険かもしれないと思えるクラスメイトと深く関わるなんてさ。もしそいつらがいずれ敵になったらどうするの?」

「て……敵になるなんて……」

「なるんじゃないかな。特に君の場合はいつもだけどね。僕はつくづく不思議でならないよ。下らないことでISを持ち出せる危ない人たちと仲良くなれるなんて。僕にはとてもできないよ」

 

 したい、とも思わないけど。

 

「それは、俺が悪いんだよ。………理由はよくわからないけどさ」

「その時点でおかしいって思えばいいじゃん。本人に尋ねた? どうしてISを使って攻撃してくるかって。まぁ、そんなことをすればまたISを使って君を攻撃するだろうけどね」

 

 まぁ、そんなことは予見なんてしなくてもわかることだけど。

 

「悪いけど、僕は君たちのペースに合わせるつもりはないさ。僕は僕で行動するから放っておいて」

「………わかったよ」

 

 そう言って織斑君は部屋を出て行く。まぁ、どうせ彼はすぐに忘れるだろうけどね。

 でも、どうして彼はあの3人……いや、デュノアさんを入れて4人と一緒にいられるんだろう。僕の場合は、趣味が合うし価値観が似ているってのもある。そして、僕に構っている暇はないってところかな。更識先輩は未だによくわからないけど、本音さんと虚さんは僕に色々と尽くしてくれた。今のところ、彼女らに何かをプレゼントするくらいしか考えがないから、いつかはしたいと思っている。

 

 ………なんて考えていると、いつの間にか僕は寝てしまっていたようだ。

 

「あ、起きたね~」

「本音さん。今、何時……?」

「まだ1時前だよ~」

 

 じゃあ、2時間ぐらい寝ていたみたいだね。

 

「……ところで、この柔らかい感触は……何?」

 

 ……冷静になって考えてみよう。

 今、僕は本音さんに覗かれるような体勢になっている。……となれば、考えられることは1つしかないかもしれない。

 

「………ありがとう。まさか僕が膝枕を体験できるとは思わなかった」

「気にしないで。私が好きでやっているから」

「……アハハハ。それなら、お言葉に甘えようかな」

 

 そう言えるほど、僕はいつの間にか本音さんに心を許しているみたいだ。たぶん、虚さんにも。

 でも、お礼は言ったけど実は1つ腑に落ちないことがある。それは……彼女が狐の着ぐるみを着ていることだ。

 

「ところで本音さん。それって熱くないの?」

「ううん。涼しいよ」

「それならいいんだけどね。とても暑そうにしか見えないから。……それに、本音さんの顔も赤くなっているみたいだし」

 

 僕は彼女の顔が当たらないように避けて立ち上がる。

 

「さて、僕は海に行くけど……本音さんはどうする?」

「私も行くよ~」

 

 僕が手を出すと、本音さんは手を取ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、学園長の菊代は北条院に訪れていた。

 

「今日は悪いね」

「いえ。……それで、大丈夫なのですか?」

 

 菊代は心配そうにアキを見る。

 

「へーきへーき……って、言いたいんだけど、残念ながらそうじゃないんだよ。今日もだいぶ血を吐いた」

「………確かに私たちはいつ死んでもおかしくはない。………でも―――」

「だからキクちゃんに来てもらったんだ。私がいつ消えても問題ないようにね」

 

 アキはそう言って通帳とカードを差し出す。その名前は「北条 アキ」ではなく「時雨 智久」になっていた。

 

「他のみんなを移動させる手配は既に住んでいるよ。全員、遅くても7月末には移動させる。それに、幸那にはすべてを話しているんだ。かつて心を病んだ智久を救ったのは、彼女だから」

 

 どこか寂し気に語るアキ。咳き込むと、彼女の手には血が広がっていた。

 

「アキ……」

「気にしないで。私たち人類はいずれこうなる。私はみんなよりも少しそれが早かっただけだよ。……後は智久だけだ」

 

 そう言ってアキはファイルを渡した。菊代はそれを受け取り、中を見た。

 

「………これは」

「…つまりそういうことだよ。智久と幸那、あの2人だけはただ捨てられたってわけじゃない。特に智久は特殊だ。おそらく、ISを動かしたのは必然だろうね」

 

 そのファイルには智久に関する重要な秘密が眠っている。菊代はすぐに閉じて静かに言った。

 

「………確かに、預かりました」

「キクちゃん、最後にお願いを聞いてもらえるかい」

「…何でしょうか?」

「……智久を、お願い。絶対に守ってあげて」

 

 ―――あの子は、生まれながら酷な運命を背負い続けているから




少々、シリアスな雰囲気をぶち込みましたが、次回からは元に戻りますからご安心を。
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