IS-Lost Boy-   作:reizen

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ep.3 茶番に巻き込む、ダメ、ゼッタイ

 二度も睡眠をとることができなかった僕の精神的な体力は限界に来ていた。

 それでも、授業は授業。一つでも落としたら将来を棒に振ると考えておかないと、IS学園の授業には付いていけないと思っている。

 僕はいざという時のためにボイスレコーダーの電源を入れて、録音ボタンを押して放置した。

 

「それではこの時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する」

 

 ……武器それぞれに特殊能力でもついているのだろうか? ……いや、違う。絶対に違う。

 

「……ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

 ……クラス代表者?

 そう聞いて、僕は学級委員みたいなものだろうか? と思ってしまった。中学の頃はいかにも「委員長」って雰囲気の男子が務めていたけど、カラオケで趣味全開な曲を歌って周りからドン引きされていた記憶がある。

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まぁ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を図る物だ。今の時点で大した差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで選べ」

 

 とまぁ、織斑先生はそう言っているけど、このクラスが誰を選ぶかなんて大体わかる。

 

「はいっ。織斑君を推薦します!」

「私もそれが良いと思います」

 

 だよね。こういう時に人当たりの良いイケメンはありがたい。だって人柱に最適だから。

 

「では候補者は織斑一夏……他にはいないか? 自薦他薦は問わないぞ」

「お、俺!?」

 

 逆に、このクラスは教員を除いて「織斑」という姓の生徒がいるのか聞いてみたくなった。

 

「席に着け、邪魔だ。さて、他にはいないのか? いないなら無投票当選だぞ」

 

 でもまぁ、知名度で言えば織斑君だろうけどクラス対抗戦で勝ち抜くことを考えればオルコットさんを推薦するべきだよね。当の本人は選ばれると思い込んでいたみたいだからこの選出には不満があるだろう。

 

「ちょ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらな―――」

「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」

「………じゃ、じゃあ、俺は時雨智久を推薦する!」

「僕は勉強が遅れそうなので辞退します」

「自薦他薦は問わないと言ったが?」

「動機が明らかに不純だって気付いていますよね!?」

 

 絶対に「男なんて俺以外にいるだろ」って感じで推薦しただろうし、織斑先生はそれに気付いているはずだ。

 

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

 ………ここで出てくるんだ。

 彼女だって納得はいかないだろう。自分が選ばれるのが当たり前だと思っているはずだし、何よりもこの不当な選出には是非とも異議を唱えてもらいたい。

 

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえと仰るのですか!?」

 

 酷いことは言われているのは確かだけど、僕としては納得できる。確かに操縦経験がない男がクラス代表になって戦っても無様な試合しか見せないだろう。……君が屈辱を味わうのはどうでもいいけど。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿共にされては困ります! わたくはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

 僕に関して言えば、完全に巻き込まれただけだからね。その辺りのことは理解してほしいな。

 それにしてもサーカスかぁ。サーカスだってあの派手さと技術の凄さは目を見張る……というか習得したいとは思うけどなぁ。………ところで、イギリスも島国じゃなかったかな? 僕の勘違い?

 

「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

 

 怒りのボルテージが上がっているからか、ハイテンションになっていくオルコットさん。実はこの時点でクラスの大半を敵に回しているんだけど、彼女はそのことに気付いていない。……織斑君はさっきまで理解が追いついていないみたいだったけど、今は違っていた。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―――」

「―――イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一不味い料理で何年覇者だよ」

 

 とうとう言ってしまった織斑君。むしろイギリスって結構お国自慢あったような気がするけど。ビックベンとか、ベイカーストリートとか。

 

「あ……あ、あなたねぇ!! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

「先にしてきたのはそっちだろ!!」

 

 ……まったく、しょうもない言い争いだ。不毛だとも言える。

 どうしてそんな下らないことを言い争えるだろうか。どっちにも良悪は存在するって言うのに。

 

「決闘ですわ!!」

 

 そう言って机を叩くオルコットさん。

 

「おういいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」

 

 そして簡単に受ける織斑君。その決闘を受ける前に内容を聞いた方が良いんじゃないかなって思うけど、僕には関係ないから黙っておく。

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い―――いえ、奴隷にしますわよ」

「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」

「そう? なんにせよちょうどいいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわ!」

 

 ………うん。黙っておこう。実力どころか評価が下がりまくるかもしれないことは、本人が気づくことだ。

 

「ハンデはどのくらいつける?」

 

 頭を抱えていると、織斑君はそんな提案をしていた。

 

「あら、さっそくお願いかしら?」

「いや、俺がどのくらいハンデを付けたらいいのかなーと」

 

 途端、クラスに笑いが起こった。ほぼ全員が、心から笑っている。

 

「お、織斑君、それ本気で言ってるの?」

「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」

「織斑君は、それは確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎよ」

 

 おそらく、この学園の生徒は本気でそう思っているのが大半なんだろう。男は女に勝てない。男が強かったのは昔の話だ、と。

 

(そんな考えがあるから、僕があんなことを言われるんだよね……)

 

 僕はふと、3月末に起こったことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――数日前

 

「………どうしよう」

 

 明らかに高級車と思われる車の中で、僕は思わずそう呟いてしまった。

 僕の両隣にいる黒服たちは敢えて聞き流してくれたようだけど、僕は少し恥ずかしくなった。

 

「着きましたよ」

 

 声をかけられ、黒服の二人が外に出る。僕は左の後部座席から外に出ると、先に連絡があったからか、「先生」が心配そうに僕を見ていた。

 

「……ただいま」

「お、おかえりなさい」

 

 僕らは仲が良い方だ。だけど今回ばかりは事が事だったのでお互いの態度が固い。

 すると僕が返ってきたことで、孤児院にいる子供たちが靴を履いて外に出てくる。

 

「おかえり、お兄ちゃん!」

「ねぇねぇ、遊ぼうよ!」

 

 ……羨ましい。

 この時僕はそう思ってしまった。

 

「みんな、智久君は疲れているの。だから大人しくしてちょうだい?」

 

 先生がそう言うと周りからブーイングが起こる。すると後ろから手を叩く音がして注目を集める。

 

「ダメでしょ、みんな。智久君は先生とお話があるんだから、大人しくリビングに戻ってね」

 

 その声の主が言うと、全員が大人しく、中には仕方がないという風に中に入っていく。

 先生とその声の主の女の子が残り、女の子が僕の方へと駆け寄ってくる。

 

「おかえりなさい、トモ君」

 

 「トモ君」とは僕のあだ名で、この孤児院で僕をそう呼ぶのは彼女―――「藤原幸那」だけだった。

 

「ただいま。それと、ありがとう。助かったよ」

「気にしないで。それに、トモ君が困っていたのは本当のことでしょ?」

 

 天使、っていうのは違うのだろうけど、僕にとっては幸那は天使だった。………まぁ、彼女が通う聖マリアンヌ女学園というネームバリューがある女子校では、常にトップの成績で中学2年の時点で各高校から推薦が来ているって話だけど。

 ちなみに僕が施設に来たのは今から7年前。9歳の時だ。その時には既に幸那がいて、歳が近くてまだ人が少なったので仲良くなった。

 

「うん。悪いけど、もう少しあの子たちの相手をしてもらえないかな。僕はちょっと大事な話があるから」

「わかった」

 

 幸那も中に入っていく。僕もそろそろ来ると思われる役人さんを待つ前に一度自分の部屋に戻って荷物を置いて来ようとすると、車のブレーキ音がしたので僕は振り向いた。

 後部座席から女性が降りてくる。……てっきり男性が来ると思ったから、僕は素直に驚いていた。

 こちらに歩いてくる女性は自信に満ち溢れているようで、オーラが凄い。

 

「あなたが時雨智久君ね。初めまして、私は女性権利主張団体―――通称女権団の外交を担当している「鈴木玲奈」です。よろしくね?」

「………女権団の人間が一体何の用ですか?」

 

 政府の人間としてではなく、女権団の人間と紹介した時点でなんとなく察しは付いたけど、僕は確認する。

 

「無駄話はするつもりはありませんので、単刀直入に言わせてもらいます。あなたにIS学園に入学するのではなく、研究施設に入っていただきます」

「………はい?」

 

 この人は何を言っているのだろうか? 僕はIS学園に入学が決まっているって話なんだけど……。

 

「わからないって顔をしているわね。良い? 私たちはね、IS学園にあなたのような男を入れたくないのよ」

 

 女尊男卑ここに極めり、か。

 

「ここは随分と小汚い孤児院ね。だったら―――」

 

 指を鳴らす鈴木さん。すると後ろからスーツ姿の女性が複数現れ、アタッシュケースを開く。

 

「ここにこの施設を改築しても余りある金額があるわ。この男を施設を連れて行くというなら、この金を―――」

「ふざけるのも大概にしなさい」

 

 ―――初めてだった

 

 いつも笑って子どもたちを見守っている先生が、怒りを露わにしているのだ。

 

「さっきから聞いていれば、随分と生意気な口を利くのですね。ISがあるから強がっているようで実際は逆。ISがなければ男と戦うこともできない臆病者が、あまり生意気なことを言わない方が良いですわ。それに、既にこちらとしては話はついています」

 

 すると、今度は別の車が停車してクラクションを鳴らす。

 

「そこの車、すみませんが道を開けてくれませんか? 私たちはこちらに用があるのですが」

「何? こっちが先約よ。おじいさんはさっさと帰りなさい」

「―――それは、私が相手でも同じことを言えるのでしょうか?」

 

 遠目から見て、一般車両と思われる車から老婆が……と言ってもハツラツしているが、女性が降りてきた。

 

「………あなたは」

「轡木菊代です。IS学園の学園長をしています」

「IS学園の……ええええッ!?」

 

 僕の耳にもしっかり聞こえた。まさかIS学園の学園長が現れるなんて思ってな―――

 

「あ、菊ちゃん。こっちこっち」

 

 ……実は後から知ったが、轡木菊代さんと先生は友人で、僕のことを知った先生はすぐに菊代さんに頼ったのだという。僕は知ることがなかった人脈と酔った酒乱二人の相手をして、気が付けば付き人らしい老人に肩に手を置かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後で挨拶に行こうと心に決めた僕は、改めて現実を直視することにした。

 

「……じゃあ、ハンデはいい」

「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろ、わたくしがハンデを付けなくてはいいのか迷うくらいですわ。ふふっ、男が女より強いだなんて、あなたはジョークセンスがあるようですわね」

 

 さっきまでとは違って、オルコットさんは嘲笑を浮かべている。

 

「ねー、織斑君。今からでも遅くないよ? セシリアに言って、ハンデ付けてもらったら?」

「男が一度言い出したことを覆せるか。ハンデはなくていい」

 

 何でそんな過去に在りそうな感じのルールを出すのかね、彼は。

 

「えー? それは代表候補生を舐めすぎだよ。それとも、知らないの?」

 

 その言葉に黙ってしまう織斑君。どうやら彼も知らないようだ。僕も当然知らないけど。

 

「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑とオルコット、それに時雨はそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」

「……あの、先生。ちょっといいですか?」

 

 僕は織斑先生にストップをかけた。だって今、あり得ない言葉が聞こえたんだもの。

 

「何だ時雨」

「えっと、どうして僕が巻き込まれているんですか? これって、二人の個人的な決闘じゃないんですか!?」

「何を言っている。これはクラス代表を決める戦いだ。ならば、貴様も参加するのは道理だろう」

「いやいやいや、勝負はISで、ですよね!? 僕は素人ですよ!? 織斑君は当事者ですし勝手に暴走して決めたのだからともかく、僕は関係ないでしょう!!」

 

 体力勝負ならまだ自信はある。けど、IS勝負だよ!? 僕、多少は戦闘系には縁があったけど、空を飛ぶしIS操縦が複雑だってことぐらいは容易に想像がつく。それが、代表候補生相手に試合? 冗談じゃない!!

 

「だから言っただろう。これはクラス代表を決める戦いだと。貴様は織斑に推薦されていた。だから貴様も出る資格がある。理由がどれだけ不純だろうが、選ばれた以上は覚悟をしろ」

「理由としては正論でしょうが、辞退すらできないなら戦闘を拒否する権利ぐらい設けるべきでしょ!」

 

 途端に周りからヒソヒソと話がされる。どうやら僕があまりにも拒否するから失望でもしたのだろう。……あまり興味ないけど。

 

「大体、相手は代表候補生だったら、実力も遥に格上………」

 

 僕はあることに気付いて言葉を止める。

 

 ―――どうして誰もこの戦いに異議を唱えない?

 

 普通に考えればわかる。僕や織斑君は最近動かせることが判明した素人。織斑君は安易にとはいえ承諾したのだからともかく、僕は物凄く嫌がっているのに全員は平然としている。

 

「…………織斑先生」

「今度は何だ?」

「仮に僕が出場することを承諾したとして、訓練機を一週間、僕にだけ貸し出してアリーナを使える分は授業をサボっても容認し、使用許可を出す。その条件を呑んでくれますか?」

 

 途端に教室内が騒がしくなる。それもそうだろう。僕が今言ったのは、アリーナをできる限り使えるようにすることと、ISを一週間という限定付きだが、自分専用として使わせることなのだ。

 

「無理だ。IS1機をおいそれと用意できるものではない。アリーナも二年や三年が使用している時もある」

「ですが、必ずしもすべて使用しているわけではないでしょう? IS学園にもコマが少ないとはいえ一般教養は存在する。場所は問いませんし、使えるなら遠くても構いません。ISだって、授業一つにすべてを出すことはない。放課後にも貸し出す必要があるから。その分を一つ削って、僕に貸して欲しいと言っているんです」

「わがまますぎるぞ」

「戦いたくない素人を玄人と戦わせようとするあなたが言えたことじゃないと思いますけど?」

 

 ここで織斑先生が折れれば良いけど、プライドを含めてたぶん彼女はしないだろう。

 

「ともかく、決まったことに変更はない。話は以上だ。これ以上広げるならば罰則を科す」

「……わかりました」

 

 ここまでの話で、彼女が僕を出したがる理由がはっきりした。

 一つは僕が都合の良い犠牲者になるからだ。織斑君がオルコットさんと戦ったら、よほどのことがなければ負けは確定。だけどそこに僕が加わったら、織斑君の中傷は半分になるどこか場合によっては僕の方に男が気に入らない方が向く。

 そしてもう一つ。彼女も結局は女尊男卑思想を持つ女だということだ。僕が無様の姿を見せれば彼女だって喜ぶ。そういうことだろう。

 

(………どっちにしろ、ここは完全なアウェイか)

 

 女にもまともな思考を持っている人は少なからずいる。でもIS学園は大半が男を否定する人間だらけだということがよぉくわかった一日になった。




でもまぁ、いくらIS学園って言っても普通は素人を玄人にぶつけはしませんよねぇ? あれ? そんな感覚を持ってるのは私だけ?
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