IS-Lost Boy-   作:reizen

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ep.30 変わりつつある者たち

 僕は初めて、女子に囲まれている。ようやく我が世の春が来たか、と言う反応でもすればいいのかもしれないけど、残念なことに僕にはそんな勇気はない。

 

「凄い。時雨君って小さいのにこんなに筋肉があるんだ」

「しかもこんなに引き締まって。まさしく、理想の身体じゃないかしら」

 

 いざ、泳ごう。そういう気概で来たのはいいけど、たまたまビーチにいた人たち注目され、ここ数か月で急に増えた筋肉に触り始める。僕はすぐに逃げるようにそこから離れて、海に入った。

 

(やっぱり来たくなかった)

 

 そう思いながら、僕は1人でブイの方まで泳いでいく。意外と距離はあるけど、泳ぎ切れない距離ではない。同じように前方で泳いでいる人がいるし……あ、あれはラウラさん。

 比較的に泳ぐのは得意なので、僕は少し接近……って早ッ!? 伊達に軍人として過ごしているわけではない、か。

 

「誰かが来ていることは気付いていたが、智久か」

 

 僕がブイに着くと、ラウラさんが声をかけてきてくれた。

 

「うん。身体は動かしておかないと鈍るしね。残りはひたすらトレーニングに費やすつもり」

「ほう。それは感心だな」

「じゃあ僕はあそこの崖に向かうから」

 

 そう言って僕はできるだけ岩がない場所へと移動を開始した。

 泳ぎ過ぎて少し疲れているけど、体力は増えているだろうし問題はない。そのまま岩場につかまって登って行く。

 

(もう少しで頂上だ)

 

 順調に進んでいるのを感じ、僕は一番上に手を伸ばすと悲鳴が上がった。

 

「ひっ!?」

「え? 誰かいるんですか?」

「……その声は、時雨か……?」

「げっ!?」

 

 思わず僕も声を漏らす。あの声は切り裂き潰し魔の篠ノ之さんの声だ。

 

「篠ノ之さん、今すぐそこから下がってください。あと木刀持っているならしまって」

「な、何故木刀を出しているってわかった!?」

「…………何でここで素振りしているんですか」

 

 ため息を吐きながら登りきる。内心ホッとしていると、篠ノ之さんが僕をマジマジと見ていた。僕も、日頃ではお目にかかれないその姿に少し驚いている。意外にも、似合っているのだ。………って、

 

「何で水着に木刀ってミスマッチな姿でいるんですか?」

「いちゃいけないか?」

「命の危険がありますからね」

 

 まぁ、幸いこっちにはISはあるけど、部分展開ってあまり自信はない。

 それよりも、この人は本当に織斑君のことが好きなんだろうか? この前のことといい、水着で木刀を装備していることといい、とても好いているとは考えにくいのだけど。

 

「お前は何でここに来た」

「登りやすそうな崖があったからです。そっちこそ、よく激戦区から離れて日向ぼっこなんてできますね。幼馴染っていうのはそんなに余裕があるんですか?」

「……お前には関係ないだろう」

「そりゃ失礼しました。確かに僕には関係ありませんね。どっちにしろ、僕の周りに余計なことをしないでいただければ結構ですから」

 

 そう言って僕は少し足早にその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずっと走り回っていたら、気が付けば日も暮れ始めていた。

 2回目に来るとその場には篠ノ之さんは既になかった。たぶんどこかに行ったんだろう。

 

「本音さん。あーん」

「あーん」

 

 テーブル席に着いた僕らは隣に座る本音さんに刺身を食べさせていた。相思相愛……なんてわけではない。

 

「ありがとう。後は僕でも食べれるものだよ」

「いえいえ~」

 

 苦手な魚の刺身が出ていたので、僕は食べてもらっていたのである。

 

「んっ~~~!?!」

 

 後ろではデュノアさんが騒いでいる。一体何があったというのか。

 僕は少し後ろを見ると、鼻を抑えて涙目になっていた。……もしかして、ワサビをそのまま食べた、とか?

 

「だ、大丈夫か?」

「ら、らいひょうぶ……風味があって、おいしいね」

「どこまで優等生なんだよ」

 

 ……いや、それは箱入り娘なんじゃないかな? どっちかというと。

 まぁフランスでワサビを食べることはないから、仕方ないといえば仕方ない、かな?

 

「しぐしぐ。あーん」

「あーん」

 

 今度は僕が好きな刺身が来たので、僕はありがたくいただくことにした。

 

「時雨君、あーん」

「あーん」

 

 また好きなマグロの刺身。というか更識さんは何でくれたんだろう。

 

「……可愛い、わね」

「ねぇ時雨君。あーんして、あーん!」

「あ、いいです」

「何で私は拒否するの~!?」

 

 いやだって、僕らはそんな関係じゃないですからね。知らない人から物をもらってはいけませんといつも言われているので。

 なんてやっていると、後ろが段々と騒ぎ始めていた。

 

「あああーっ! セシリアズルい! 何してるの!?」

「織斑君に食べさせてもらってる! 卑怯者!」

「ズルい! インチキ! イカサマ!」

 

 僕と織斑君とではこんなに差があるわけだ。というかそんなに騒いでいたらあの女が来るんじゃ―――

 

「―――お前たちは静かに食事することができんのか!!」

 

 ほら、現れた。何でみんなこう、大人しくできないんだろ。

 

「どうにも、体力が有り余っているようだな。よかろう。それでは今から砂浜ランニング……いや、時雨がしていたことをやろうか。時雨、貴様の今日のメニューを言え」

「え……ただブイまで泳いで手ごろな崖を登って、そこから旅館前の砂浜に戻ってくるだけでしたけど……」

 

 もしかしてマズいことなんじゃないだろうか。

 

「先生! そんなことは普通できないですよ!」

「時雨みたいに機体を常時所持できるからできることです。パワーアシストを使っていたんですよ!」

「どこかの馬鹿共が最近頻繁に使っているからな。最近は常時辺りに探知を飛ばしている。ISを展開してればすぐにわかるが?」

 

 途端にオルコットの顔色が悪くなったのは気のせいじゃないのかもしれない。

 

「織斑、あまり騒動を起こすな。鎮めるのが面倒だ」

「わ……わかりました」

 

 ……ま、確かに鎮めるのは面倒だよね。気持ちはわからなくもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、僕は風呂に行くことにした。もちろん、既に歯は磨いている。食べた後の歯磨きは必須だから。

 男の入浴時間は予め決まっている。せっかくの露天風呂だから少しは楽しむべきだろう。

 僕は脱衣所に常時着用を義務付けられている浴衣を畳んでかごに入れて置き、貴重品はかごの奥に置かれている金庫に入れておく。

 そして中に入ると、海を一望できることに年甲斐もなく興奮した。まぁ、表には出さないけど。

 

 ―――がららっ

 

 げっ、織斑君がもう来たの?

 そう思った僕は後ろを向くと、そこにはバスタオルを巻いた更識さんがいた。

 

「………遊びに来た」

「あ、うん………」

 

 しばらく僕の思考は停止した。復活した時は先に前に隠す。

 

「さ、ささむごっ」

「しー」

 

 僕は何度も頷いて、理解したことを伝える。

 確かに、今は男子に開放されているけど、もう一つは女子に開放されている。男女間でしようと思えば会話ができるほど空いている。もしここに更識さんの存在がバレたら更識さんは変態扱いされるだろう。……どうせ男に裸を見せるし、なんて思った僕はやはり状態がおかしいのかもしれない。

 僕はとりあえず、更識さんから離れて体を洗う。彼女も同じ通りにしているけど、ふとある考えが過ぎった。

 

(……こういう時に織斑君が来るんじゃないかな?)

 

 いや、あり得る。織斑君は風呂が好きだから絶対に来る。

 ってことはかなりマズい状況ではないだろうか。ならば今すぐに出した方が良いかもしれない……けど、

 

(………どうしてこうなったのだろう)

 

 僕と更識さんは岩場の陰に隠れていた。お互いが背中を合わせてである。

 

「……どうして、こんなことをしたの?」

「……会いたかったから」

 

 それは理由になってないよ。別に風呂で会わなくてもいいよね!?

 叫びそうになった衝動をなんとか抑えると、更識さんは僕に抱き着いてきた。

 

「………それに、昔は一緒に入ってたから、今更」

 

 思春期じゃない時はそれをしていたかもしれない。でもごめん。全然記憶にございません。

 

「……やっぱり、忘れちゃってるんだ」

「…うん。いつからかわからないけど、僕は4年生の時からしか覚えていないんだ」

 

 その以前までのことは、僕の周りを火を囲っていたことしか覚えていない。これは幸那にすら話していないことだ。いや、話せなかった。気が付けば、僕は施設にいて、最初は鬱陶しく思う程なれなれしかった女の子がいたこと、そして僕が殺されかけたこと。

 

「……残念」

 

 そう呟いた更識さんはいきなり僕を引っ張って―――キスをした。

 どれくらいしてだろう。時間なんて忘れるほど衝撃的で、僕は混乱していた。

 

「……本音には内緒にしておいて。たぶん怒るから」

「……………わかった」

 

 その後、僕が外に出たら織斑姉弟の部屋の前でいつもの問題児3人にスパイ女を含めた4人が聞き耳を立てていた。

 

「………何してるの?」

「ちょっ、しー!」

 

 ともかく僕は巻き込まれたくなかったから、さっさと退散した。少ししたら、何かが騒いでいる音がしたけど、どうせバレたんだろう。

 僕は自室に戻ると、先に戻っていたらしい山田先生に呼ばれた。

 

「時雨君、少しいいですか?」

「……何ですか?」

「ちょっと相談したいことがありまして……」

 

 口調はオドオドしているけど、本気らしい。少し待ってもらい、荷物を置く。

 

「で、その相談って何ですか?」

 

 僕は冷蔵庫に入れておいたオレンジジュースを出した。中には店が用意したジュースがあるが、別個に用意しておいたのだ。

 

「時雨君から見て、私は頼りないと思いますか?」

「そうですね。IS操縦は凄いと思いますが、それだけしか取り柄がないと思います。少なくともIS学園の教師は向いていないでしょうね」

 

 その言葉にグサリと来たのか、山田先生はうなだれた。

 

「……やはりそうなんですね。あの、具体的にどこが悪いかとか、指摘してもらえませんか? 実は私、新任なのであまりそう言ったことはわからなくて、ですね……」

 

 僕はそう言われて、一番の原因を注視した。それがどこか理解した山田先生は自分の胸部を隠す。

 

「な、何ですか!? いくら何でも胸は触らせませんよ!」

「いや、別にそれはいいんですが。というか、山田先生の場合は格好が原因なんですよ。はっきり言いますと、山田先生は格好に貫禄がないんです」

 

 その言葉に山田先生は倒れる。……ノリがいいな、この人。

 

「………やっぱり、そうなんですね。でも今着ている服しか、胸の影響が少ないのってないんです」

「別に無理して女性用じゃなくてもいいんじゃないですか?」

「え?」

「そもそも、女性がスカートじゃいけないって法律はありませんし、たまに女性でもズボンをはいている方もいるのですから、いっそのことそうしてはどうでしょう? 後は、織斑先生みたいに物理攻撃をするのも1つの手ですよ」

 

 すると、山田先生は驚いて僕を見る。

 

「意外です。まさか時雨君からそんな言葉が出るなんて……」

「山田先生は優しすぎるんです。だから専用機持ちたちが図に乗るんです。織斑先生の場合は暴力を多用しすぎですが、山田先生の場合は相手の鼻を折る、くらいしないと」

「………なるほど。じゃあ今度、私と一緒に来て服を選んでくれませんか!?」

「それは織斑先生と一緒に行ってください。でも、教師っていうのも難しいですよね。少し暴力を振るえばやれ暴力教師だのなんだのと騒ぎたてる。そんなんだから、自分が悪だと気付かない」

 

 ―――一部の人間に対して殺人が罪に問われなければいいのに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――一部の人間に対して殺人が罪に問われなければいいのに

 

 そう智久が言った瞬間、真耶は息を呑んだ。普段は真面目で自分が指摘した時もスラスラと答えていくほど勤勉な智久が、真面目な顔をしてそんなことを言ったからである。

 

「……あ、あの、時雨君……?」

「? どうしました?」

 

 さっきの雰囲気はどこに行ったのか、平然と応対する智久。

 

(もしかして、ストレスが溜まっているのでしょうか………)

 

 思い返してみれば、智久はこれまでまさしく貧乏くじを引かされ続けていた。

 クラス対抗戦では機体を持っていたこともあって率先してドアを破壊、また箒の暴走によって自ら戦闘域に入って所属不明機の撃破に貢献。学年別トーナメントではラウラの暴走を彼女を助けてほぼ自力で脱出して事態を収束させ、教室内での暴走を止めるなど、とてもつい最近まで一般人だった人間がこなすことではないことをこなしてきた。IS開発やゲームなどでそのストレスは解消されているとは思ったが、どうやらそうではないらしいことを知った。

 

「あの、時雨君。あまり無理しないでくださいね。いざとなれば私たち教師が―――」

「教師がこれまで何かの役に立ちましたか?」

 

 多少はあった。だが、それも本当に微々たるものだ。

 智久にとって、学園長夫妻は「IS学園教員」という部類に含まれないと思っている。1人は用務員でもう1人は学園長であるため、彼が認識する「ほとんど役に立たない無能な教員ら」に入れるのは間違っていると感じているからだ。

 

「正直なところ、私はあまりあなたたちが役に立っているとは思いません。過度な差別は普通にしてきますし、これまで先人たちは本当に何をしてきましたか? 女性が法律で優遇されているから? そんなことに現を抜かしているから未だにビット兵器が量産されていないのでしょう? あなたに言うのは筋違いだということは十分に理解してますが、せめて人型機動兵器を量産軌道に乗せてから威張りましょうよ」

 

 ―――本当に、使えないんだから

 

 また、だ。

 真耶にとって、智久と言う存在がわからなくなる。見るだけで恐怖を感じ始めているのだ。

 

「はっきり言って、僕はあまりIS学園の教員を信じていません。あなたや織斑先生がどれだけ強くても、所詮専用機を持っているわけじゃありませんしね」

 

 その言葉を聞いた瞬間、真耶は泣きそうになったが―――事実だった。

 自分がかつてどれだけ強いと噂されてようが、織斑千冬がモンド・グロッソで優勝していようが、結局は無力である。真耶はそれを突き付けられた気分になった。

 その夜、真耶は智久に気付かれないように泣いた。自分の無力さや教員として全く何もしてやれていないことを恥じながら。




なんか、ブーメランになってそうだなぁ。

次回はとうとう、あの人が登場します。
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