IS-Lost Boy-   作:reizen

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ep.32 作戦会議の乱入者

「では、現状を説明する」

 

 花月荘から少し離れている宴会専用の大座敷「風花の間」の中に、所狭しと機材が置かれている。その中央に展開された空中投影ディスプレイを囲うように座っている僕らに織斑先生はそう言った。中はできるだけ明るくするためか、電気は点けられていない。

 入ってから少しして上に何かが現れたので、僕は警戒していた。

 

「2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカとイスラエルの2カ国で共同開発された第三世代型軍用IS「銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したと報告があった」

 

 ………これが人に作られし法律が壊された結果、か。

 IS条約……もとい、アラスカ条約では軍用ISの開発は禁止されているはずだ。だというのに、今織斑先生はそう言った。……アメリカはISが出ても世界のトップだし、周りは何も言えなかったのかもしれない。

 

「その後、衛星による追跡の結果、シルバリオ・ゴスペルはここから2km先の空域を通過することがわかった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった。教員は訓練機を使用して周辺空域並びに海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

 ………普通なら、学生である僕らがこういったことをするのはお門違いなのだが、もし異常事態になった場合、スペックの関係上は専用機持ちが駆り出されるのが常だ。

 これは以前、更識先輩から聞いた話だけど、専用機持ちはこういった事態に陥った場合、積極的に任務に参加することを各国政府から通達されているんだそうだ。理由はIS学園にそう言ったことで恩を売ることができたり、模擬戦とは違う他国の専用機のスペックが露見したり、敵の情報を得ることができるからである。後は確か、過酷な状況に追い込むことで、専用機が二次移行してくれるかもしれないというちょっとした期待をしているとかなんとか。なのでIS学園もそれに目を瞑り、戦力としてカウントしているのだそうだ。ただ、専用機持ちが不調だったり、辞退することだってできる。

 

「それでは作戦会議を始める。意見がある者は挙手するように」

「はい」

 

 すぐに挙手したのは2名。ラウラさんとオルコットさんだ。

 

「2名…いや、どっちも一緒か……ボーデヴィッヒ」

「目標ISのスペックデータを要求します。オルコットもか?」

「ええ」

「…わかった。ただしこれらは2カ国の最重要機密だ。決して口外するな。漏えいした場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも2年の監視が付けられる」

「了解しました」

 

 ……対応するの、こっちなのにな。

 みんなは見に行くけど、僕は監視が怖いので二の足を踏んでいる。それを怪しいと思ったのか織斑先生が声をかけてきた。

 

「どうした時雨。気分でも悪いのか?」

「………いえ。ただ、ちょっと……」

「なに。監視や査問委員会と言ってもそんな大層なことではない。そんなことで露見させた者ではないのが犯罪者扱いするというのなら、私が直訴する」

「いえ、気になる技術は徹底的に実現したいと思い始めているので」

 

 実のところ、「生徒の安全のため」と称して紅椿を取り上げ、使われている技術を解析したいと思っている。

 

「それはどうしようもないな。だが、それは大丈夫だ」

「……何故ですか?」

「現在、アメリカのIS部隊がこちらに向かっている。この作戦が終わった後、私が回収して厳重に保管する。幸い、私の方が生身でも強いからお前の暴走は止めてやろう」

「今すぐ見てきます」

 

 悲しいけど、残念なことにそれが現実だ。

 僕はスペックデータを見て、すぐに作戦を立てる。攻撃と機動に特化されたタイプの機体で、攻撃タイプは射撃がメイン。近接は格闘で仕掛けてきそうだけど、そうなれば凰さんやラウラさん辺りが立ちまわるべきか。その後ろにオルコットさんとデュノアさんが援護。数値で言えば、格闘での対処が無難。……問題はオールレンジ攻撃か。マルチロックオン・システムが入っていなければ少しは救いがある。……そういう意味では自由戦士は鬼畜、と。

 ラウラさんが偵察を行えないか質問したが、織斑先生は無理だと言った。

 

「ゴスペル……以後福音と呼称するが、そいつは今も超音速飛行を行っている最高速度は時速2450kmを超えるとある。アプローチは1度が限界だろう」

「1回きりのチャンス……ということは、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

 

 その言葉に、とりあえず納得はしているのか頷いている織斑君に視線が集まった。

 

「え…えっと……」

「一夏、アンタの零落白夜で落とすのよ」

「それしかありませんわね。ですが問題は……」

「どうやってそこまで一夏を運ぶか、だよねエネルギーは全部攻撃に使わないといけないし」

「しかも、目標に追いつける速度が出せる機体でないとな」

「…超感度ハイパーセンサーも必要」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 俺が行くのか!?」

 

 その質問に3人が同時に答えた。

 

「「「当然よ」ですわ」だよ」

 

 ……あれ? 3人?

 

「しかしそれでは少し決め手に欠けるな。射撃型がほしい」

「……うん。それに、確実なものがないと少し不安」

 

 それがラウラさんと更識さんの意見だった。

 

「織斑、これは実戦だ。もし覚悟がないのなら無理強いはしない」

「……やります。俺がやってみせます」

 

 …はたして、急増の覚悟に一体何の価値があるというのだろうか。…口には出さないけど。

 

「よし。それでは作戦の具体的な内容に入る。現在、諸君の機体の中で最高速度が出せる機体はどれだ?」

 

 その質問に答えたのはオルコットさんだ。

 

「それなら、わたくしのブルー・ティアーズが。ちょうど本国から強襲用高機動パッケージ「ストライク・ガンナー」が送られてきていますし、超高感度ハイパーセンサーも付いています」

「超音速下での戦闘訓練時間は?」

「20時間です」

「よし、それならば適任―――」

 

 話がまとまりかけたその時、ずっといた上から陽気な声が聞こえてきた。

 

「待った待ったー! その作戦はちょっと待ったなんだよ!」

 

 僕はすぐさま上を向いた。さっきの侵入者は降りてきてすぐに織斑先生のいるところに移動した。

 

「ちーちゃん、ちーちゃん。もっと良い作戦が頭の中にナウ・プリンティングゥ!」

「出て行け」

「ここは断、然、紅椿の出番なんだよ!」

「何?」

 

 どうせ採用されないので、もっと確実性のある決め手を考える。

 相手は高機動型で、超音速飛行を続けているということはスピードが速い。白式もブルー・ティアーズも機動力は高いし、ブルー・ティアーズはパッケージもあるので底上げされる。後は当てるだけ……

 

「具体的には白式の《雪片弐型》にも搭載―――」

「武装が強いならあえて外してマウントさせるのも1つの手だし、アンカーを使えば動きは遅くなる。問題はブルー・ティアーズが過重によって遅くなる可能性もあるし………」

 

 そう考えながら僕はふと、ラウラさんを見た。

 

(いやでも……こんなところで負担をかけるのもどうか……いや、彼女は現役軍人でもあるわけで、こういう事には慣れて―――)

「―――ねぇ」

 

 誰かに話しかけられた気がするけど、僕じゃないだろうから無視すると、後ろで鈍い音が鳴った。

 

「……大丈夫か、時雨」

「ちーちゃん。離してよ」

「離したらお前は時雨に攻撃するだろ?」

「でもこいつは―――」

 

 何でこの2人はどこかの武闘家みたいにけん制しているんだろうか?

 

「時雨、お前には何か考えがあるんじゃないのか?」

「……いや、良いです。らう……ボーデヴィッヒさんに万が一があったら困りますし」

「いや、智久。私は軍人だ。こういうことは慣れている」

 

 ……でも、正直僕が困るんだけど……。

 

「……なに。お前が提案したところで責任を感じる必要はない。すべて私の責任になるだけだ」

「…じゃあ、言いますよ。ボーデヴィッヒさんも出すべきなんじゃないかって思いまして」

 

 一度深呼吸してから僕は言った。

 

「織斑君は仮に出すとしても、近接ブレード以外の戦い方はあまり知らないので接近するしかない。オルコットさんも牽制はできるしビットはあるけど、飛ばしている間は本体が動けない。なら、一部の制限はありますがボーデヴィッヒさんのAICならばどんなに速くても動けなくすることは可能です。あと、そこまで輸送する手段も」

「……それはすぐにでも可能か?」

「はい。展開に2分ほど必要で、保護機能でもGがかかる代物ですが」

 

 ちなみに僕は、30分ほど意識を失っていた。

 

「……それは2人搭載はできるか?」

「そうですね。ただ、撃ちだすだけなので、移動距離は稼げますが……ただ帰ってくるのは自力なので、高速による逃走はできません」

「じゃあ、やっぱり箒ちゃんと紅椿で良いじゃん! ねぇちーちゃん!」

「………えっと」

 

 僕は乱入者を改めて観察する。なんというか、育っている所は育っているのに……子供だな。

 

「あ、でも操作次第によっては戻ってくることもできますよ」

「何?」

「元々、一度に複数の人を回収するために開発したものなので、高速戦闘なんてものは視野に入れていないんです。ただ、「カタパルト」には2つの意味を持っている通りにしただけですから。そもそも災害発生後の負傷者救助が主体なんですから、高速で帰ることはできないと思ってください」

 

 むしろ、単体で戻るならISを使った方が早い。

 

「それに最初からボーデヴィッヒさんという切り札を出すのは無謀なので、彼女には少し後に出てもらって後方からレールカノンとAICによる援護をお願いしましょう」

「………あー、そのことなのだがな、時雨はどれくらいまで話を聞いていた?」

「えっと、その女性が作戦に紅椿を推したところですね。先程少しだけ紅椿の性能は見ましたが、紅椿だと作戦は少しばかり落ちるかと思いますが?」

 

 その言葉に先に反応したのは、他でもない篠ノ之さんだった。

 

「何故そんなことが言える。紅椿のスペックは高いと姉さんも―――」

「でも篠ノ之さんは、ISだと僕より弱いよね?」

 

 たぶんこれが原因だけど、その場の空気は悪くなった。

 

「確かに紅椿のスペックは凄いけど、君は紅椿での実戦経験は皆無だ。それに君は代表候補生じゃないからこういった訓練もしていない。織斑君は機体特性上出すしかないかもしれないけど、君はオルコットさんという似たような立場がいる以上、死にに行く必要はないと思うけど?」

「死にに行くって……」

「でも、僕らが対処しようとしているのは「軍用」だよね?」

 

 正直、僕は彼女がどうなろうか知ったことじゃない。けど、ここで()()行くことを()()()ないと、後から非難させられる可能性がある。

 

「ただ遠足に行くのとわけが違う。場合によっては相手を殺す必要も出てくる。その覚悟は君にはあるのかい?」

「ある。私はそのために専用機を受け取ったんだ!」

 

 思わず僕が笑いそうになったので、無理やり顔を変えた。

 

「そう。じゃあどうぞ」

「……何を企んでいる?」

「別に何も。どうせここでお互いの主張をぶつけたところでタイムアップだし、結局は織斑先生が決めることだしね」

 

 すると織斑先生の端末に軽いアラームが鳴った。少し操作すると織斑先生は舌打ちした。

 

「……では作戦を通達する……その前に、束。紅椿の調整にはどれくらいの時間がかかる?」

「お、織斑先生!?」

 

 驚いた声を上げるオルコットさん。僕も内心同じ気持ちだけど、もしかしたら何か通達されたのかもしれない。

 

「わ、わたくしとブルー・ティアーズなら必ず成功してみせますわ!」

「そのパッケージは量子変換(インストール)してあるのか?」

「そ、それは……まだですが……」

 

 確か量子変換って凄く時間がかかるんだよね。虚さん曰く、物によっては40分から数時間単位のものまであるんだとか。

 

「ちなみに紅椿の調整時間は7分あれば余裕だね」

「…よし。では本作戦は織斑・篠ノ之の両名をメインとした目標の追跡及び撃墜を目的とする。ただし、ボーデヴィッヒは3分後に出撃し、レールカノンとAICによる援護を行うこと。作戦開始は30分後。各員、ただちに準備にかかれ!」

 

 織斑先生が手を叩いて促す。僕はすぐ篠ノ之さんを押し倒して胸を鷲掴みした。

 

「なっ!? 貴様―――」

「織斑先生!」

 

 ―――ガッ!!

 

 やっぱりね。思った通りだ。

 

「織斑先生、これから準備してきますので、すみませんがその人の指の骨を折るなりしてください」

「そうなるとかなり骨なんだがな」

「それと安心してください。僕はあなたの妹さんに全く興味ありませんので。ただこうしたらあなたが釣れるかと思っただけです。では、失礼」

 

 さてさて、作業をしよう………その前に先にトイレで手を洗って来よう。

 

「……一夏にも揉まれたことないのに……」

「それを本人の前で言わない時点でって思うけどね」

「!?」

 

 いや、聞こえているから。織斑君と同じ扱いをしないでほしいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちーちゃん離して! あいつ殺せない!」

「……むしろ当然の判断だと思ったぞ。……いや、私が迂闊過ぎたか」

 

 だが内心、千冬は喜んでいた。こういう時にいつもはそっけない相手に頼りにされたことに、である。

 その間、まるで何事もなかったようにラウラは立ち上がり、箒に言葉をかけずに外に出た。

 

「……許さん。いつか絶対にギャフンと言わせてやる」

 

 箒は箒でそんなことを呟いていたが、急に後ろから感じた気配に驚いて振り向いた。

 

「……何だ更識」

「…別に。ただ、胸が大きくても肩が凝るだけって聞いてたのは確かかなって思っただけ。使わなければ宝の持ち腐れだし」

「うっ………」

 

 痛いところを突かれた箒はうめき声をあげる。だがそれは箒だけでなく、比較的にある方であるセシリアとシャルロットもだった。

 

「フフン、やっぱりそ―――」

「まぁ、無い人は無い人で努力をしないといけないし、一緒にされたくないけど」

 

 簪はそう毒を吐いて、智久の手伝いをするために部屋を出て行った。

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