IS-Lost Boy-   作:reizen

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ep.33 それぞれの戦い

「でも、大人も面倒なことをしてくるよね」

「ん? 何の話だ?」

「さっき織斑先生の端末が鳴ったでしょ? たぶんアレ、あの女性がいることを知った誰かが「彼女の言う通りにしろ」って命令してきたんだと思うよ」

 

 調整が終わり、僕はラウラさんと話をしていた。

 

「………根拠は?」

「篠ノ之さんだと不安要素が少しあるからね。援護射撃ができて高速移動ができるオルコットさんが無難だということは誰にだってわかることだ。篠ノ之さんは接近戦は得意だけどさ」

「その割には智久はあっさりと引いたな」

「言った通り、あそこで揉めたって何の得もないからだよ。まぁ、成功したらしたらで助長しそうだけど、その時は精神を折りに行けばいいし」

「……具体的には?」

「自分の立場を自覚させることかなぁ。あの子、全然理解していないから」

 

 そう言うと、ラウラさんは首を傾げた。

 

「あー、簡単に言うとこれまでの篠ノ之さんを誘拐しようと思えば誰だってできたんだよ。彼女は生身でも十分強いけど、ラウラさんのような軍人や相手を殺すことを極めた人たちが相手なら簡単にさらえる。銃の扱いさえ知っていれば、よほどの強風じゃなければ素人でも簡単にダメージを負わせることだってできる。スナイピングはもちろん、IS学園の窓は強化ガラスで抜けないにしても、近づいて刺し殺すくらいなら僕でもできるよ」

「……それはまた随分と大きく……いや、智久ならそれは可能か。私からナイフを簡単に奪えたのだからな。もしかして、昔はスリとかして稼いだとか?」

「………みんなの物を独占する子どもって、いるよね」

 

 再びラウラさんは首を傾げる。興味ないけどそのしぐさだけ見ていると頭を撫でたくなる可愛さが彼女にはあった。

 

「すまんな。私は普通の生活をしてきたことがない」

「……それは仕方ないよ。今度来る? IS以外は外してもらうことになるけどね。子どもが間違って使ったら一大事だから」

 

 そうしてラウラさんにも子どもの扱いに慣れてもらえばいいかも。

 そんな会話をしていると、通信が入った。

 

『時雨、そちらに束は来ていないか?』

「篠ノ之博士は来ていませんが……まさか逃げられたんですか?」

『紅椿の調整が終わった後、すぐにな。すまん。油断した』

「しっかりしてくださいよ。うつ……布仏先輩を馬鹿にするつもりはありませんが、向こうは善悪の区別がつかない子どもなんですよ。もしこれがデモンストレーションで、ラウラさんが死んだらどうするつもりなんですか? 触りたくもないクソ乳に触ったんですからそれくらいしてくださいよ」

『貴様! 私だって苦労しているんだからな!』

『箒、もし手伝えることがあったら手伝うぜ』

「はいはい。そこのクズップルは黙っててね」

『『誰がクズップルだ!!』』

「……鏡見ろよ」

 

 無理やり勝手に繋がれた通信を切る。すると白式からまた回線が開いた。これはプライベートの方か。

 

『なぁ智久、何を考えているのかは知らないけど箒の胸を揉んだのは流石に謝った方がいいぞ。束さんだって怒ってたし』

『…………やはり君は馬鹿だね。少しは自分で考えたらどうだい? 君のお姉さんは理解しているみたいだけど?』

『え? そうなのか? ちょっと千冬姉に聞いてくる』

 

 そう伝えた織斑君は通信を切った。

 

(本気でわからないっていうなら、織斑君はもう駄目かもしれないね)

 

 ため息を吐いて、今回の作戦を改めて見直す。………いや、待てよ。

 

「織斑先生、今すぐラウラ・ボーデヴィッヒの出撃を要請します」

 

 オープン・チャネルを開いて提案した。他の人たちが次々に回線が開いてくるが構わず言った。

 

『理由は?』

「篠ノ之束はそちらから逃走したというのなら、こちらに妨害を仕込んでくる可能性があります。ならばすぐに出撃させ、少しでも福音の情報を引き出す方が最善かと思います」

『………わかった。だが、ボーデヴィッヒは―――』

「―――私ならば問題ありません。いつでも出撃できます」

 

 ラウラさんは織斑先生の言葉を遮り、言った。

 

「ラウラさん……」

「気にするな。これは元々我々軍人の領分だ。すぐに発進シークエンスを始めてくれ」

「……わかった」

 

 僕はすぐに手元のコンソールを操作し始めた。

 

「ラウラさん、ホバープレートと円卓シールドを使用許諾(アンロック)されている。だから遠慮なく使ってくれ」

「……わかった」

 

 画面に発進に必要な項目をチェックしていく。そしてお約束のあの言葉を言った。

 

「進路クリア。レーゲン、発進どうぞ」

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、シュヴァルツェア・レーゲン、出るぞ!」

 

 レール砲式カタパルトから、福音の進路上に交差する場所に向かってシュヴァルツェア・レーゲンを乗せたホバーが発進した。

 

(………ラウラさんは軍人だから、作戦行動の方法は熟知しているのは知っているから安心だけど)

 

 ISを開発する場合、実はシステムのおかしな点は同じシステムが行うことになっている。それは虚さんが後で見てくれたけど、その間は暇だったので僕は本音さんと悪乗りしてカタパルトのバリエーションを増やしていった。その結果、普通のものやさっきの方に超電磁砲式の射出式、他にも機体同士をシンクロさせて戦うロボットアニメの発射シーンを真似てバーを握って射出するタイプのものまで開発してしまった。………まぁ、これが役に立つんだから結果オーライというかなんというか。

 とりあえず僕は、ラウラさんの無事を願って横幅を少し大きくした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 射出からしばらくして、ラウラは福音の予定移動地点に到着後、ホバーを収納すると同時に向かってきた福音に向けて大型レールカノンから砲弾を射出させる。

 福音はそれを回避し―――ようとしたが、AICで止められ、直撃を食らう。そしてそのまま、ラウラはプラズマ手刀で攻撃した。

 

(ちっ。まだAICとの同時使用は難しいか)

 

 AICは簡単に言えば相手を止める技ではあるが、それを使うには多大な集中力が必要だ。レールカノンを起動する程度ならばAICや単調な動きでの併用はできるが、ワイヤーブレードやプラズマ手刀の併用などはまだ彼女でも難しいのである。

 そのため、彼女の場合は射撃に専念することが最適解ではあるが、今回は「偵察」という役目があるので、本番である一夏と箒のためにとっておくことを選択した。

 AICで動きを止め、もう一度福音にダメージを与えようとしたラウラに通信が入る。

 

『ラウラさん、今そっちに2人が向かったよ』

「了解した。手筈通りに行動する」

 

 ラウラは智久から借りたガトリングを展開して、AICで福音の動きを止めて引き金を引いた。動かない的に銃弾を当てることなど彼女にとっては朝飯前であり、福音は銃弾に混ざった塗料を被る。

 

(次から次へと、非常識なことを考えてくれる……)

 

 真面目で自分とあまり身長が変わらない友人の顔を思い出すラウラ。彼女はミサイルポッドを展開して福音に向かって飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『織斑君、篠ノ之さん、作戦通り下ごしらえは済んだ。そのまま突っ込んで』

 

 開放通信で智久は一夏と箒に伝える。

 

「了解した。一夏!」

「わかってる!」

 

 一夏は《雪片弐型》を展開し、零落白夜を発動させる。

 

「うぉおおおおッ!!」

 

 紅椿に乗った状態で一夏は膝立ちで斬りに行った。

 

(行ける―――!!)

 

 そう確信した一夏。彼の思った通りに光の刃が福音に直撃した。

 

「いっけぇえええええッ!!」

 

 徐々に減っていく福音のシールドエネルギー。しかし福音とてやられっぱなしというわけではなく、すぐに離脱した。

 

「クソッ! 箒、このまま押し切る!」

 

 箒は頷き、福音に接近した。

 

【別敵機確認。迎撃モードへ移行。《銀の鐘(シルバー・ベル)》、稼働開始】

 

 そんな表示が福音のバイザー型ディスプレイに流れる。すると福音はその場で機体を回転させて光弾を射出した。しかもそれは追尾式であり、

 

「一夏、離れるぞ!」

「ああ!」

 

 2人はすぐに分かれて撒くことを選択したが、光弾は二手に分かれてそれぞれを追った。

 

「こっちだ、福音!」

 

 ラウラが援護のために姿を見せ、AICを使って動きを止め、レールカノンで迎撃した。

 

「今だ織斑!」

「わかった!」

 

 攻撃をかわしつつ福音に接近した。しかし光弾が当たってしまい動きが鈍ってしまう。

 そして光弾はラウラの方にも飛ばされ、ラウラは福音の停止を止めざる得なくなった。

 

「箒、左右から同時に攻めるぞ。左は頼んだ!」

「了解した」

 

 一夏がそう指示し、2人はそれぞれ接近した。だが福音から発射される光弾の連射速度が尋常ではなく、2人は二の足を踏んでいた。

 

「一夏! 私が動きを止める!!」

「わかった!」

 

 今度は箒が中心に攻める。一度止めた展開装甲をもう一度発動させ、紅椿から2基のソードビットタイプを射出。それが福音に向かって飛び、注意を逸らしている間にそれでも飛んでいる光弾を回避、迎撃して落としながら接近していく。

 福音は両スラスターを前面に出し、通常の光弾を射出させると同時に高出力のビームを放って弾幕を厚くした。

 

「やるな! だが、押し切る!!」

 

 箒は弾幕を通り抜け、隙を作った。その隙に乗じて一夏は福音に接近―――していたが、すぐに反転して光弾を追う。

 

「一夏!?」

「うぉおおおッ!!」

 

 瞬時加速と零落白夜の併用で、福音の光弾を届く限りかき消していった。

 

「何をしている!? せっかくのチャンスに―――」

「船がいるんだ! 海上は先生たちが封鎖したはずなのに―――ああくそっ、密漁船か!」

 

 ハイパーセンサーでその情報を知った一夏。その少し後に《雪片弐型》の光刃が消えて通常の近接ブレードに戻った。

 

「馬鹿者! 犯罪者などを庇って……そんな奴らは―――」

「箒ッ!!」

 

 瞬間、一夏と箒の景色が変わった。

 

「箒、そんな寂しいことを言うな。言うなよ。力を手にしたら弱い奴のことが見えなくなるなんて……どうしたんだよ、箒。らしくない。全然らしくないぜ」

「わ、私は……私は………」

 

 動揺する箒。瞬間、2人の景色が元に戻り、怒鳴り声が響いた。

 

『この、馬鹿野郎!!』

 

 2人はその言葉で現実に引き戻される。

 

『全機離脱準備を行え! 今すぐだ!』

「待ってくれ智久! この海域に船が―――」

 

 瞬間、一夏は箒の後ろで煙を上げ始めている福音が光弾を放つのを見て加速、箒と福音の間に割って入り直撃を受けた。

 

「一夏っ、一夏っ、一夏ぁっ!!」

 

 悲痛な叫びが箒から発せらる。その間、抱き合う形になった2人は反転し、海に落ちた。

 福音は残っているはずのラウラを探すが、反応が確認できなかったので離脱し始める。感知されない空域に移動したことをドイツ軍の衛星から確認したラウラは姿を現した。

 

『ラウラさん、今そっちに教員が3人ほど向かった。君は織斑君と篠ノ之さんを救助してホバーで移動して』

「……了解した。しかし、良かったのか? 福音を放置して」

『あのダメージなら早々快復にはならないだろうからね。それに一応は回収した方が良いだろうし』

 

 後ろで騒ぎ始めたのか、他の専用機持ちが智久に突っかかる声がラウラの耳に届く。

 だがラウラも智久に同意していた。

 

(まぁ、自業自得か)

 

 先程の一夏の行為。船を見逃したのは自分の過失でもあるが、密漁船であり作戦に支障をきたす行動に出るべきではなかった。ラウラも瞬時加速を使えるし、AICで光弾を防ぐことはできたのだ。それだけでない。ワイヤーブレードとプラズマ手刀の併用はできるので、そちらを使っても問題はなかった。しかし一夏は自分で守りに入った。自分のするべきことを間違えた結果である。

 そしてそれは、智久も同様に考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女尊男卑になり、その余波が来たのは首都圏だけではなかった。漁業、林業、農業も巻き込まれたのだ。

 相次ぐトップの交代により、最高責任者は女に変わり始めていた。それも、女尊男卑の女に、である。

 そして漁業で生きている魚住(うおずみ)兼次(かねつぐ)もその1人である。競りのほとんどが安価で買いたたかれ、手に入れられる金額も年々下がる一方。家計も火の車だった。集団で政府に抗議文を送っても知らぬ存ぜぬを通され、無視され続けられていたのだ。

 そんなある日のことだった。とある女性に良い話があると持ち掛けられたのだ。

 

「費用もこちらが出します。なので、船にこちらを取り付けさせていただけませんか?」

 

 提供されたのはステルス装置であり、それによって密漁を行うというものだった。最初は訝しんだが、家計が苦しかったこともあり、兼次は了承。無料提供という言葉が大きかった。さらに嬉しかったのは、自分たちにとって高価なパソコンを無償提供してくれたことであり、通信費などは軌道に乗るまではその女性が面倒を見てくれたのだ。まさに渡りに船であり、機械が苦手な兼次でも丁寧に教えてくれたのである。また、必要なものがあったら随時言ってほしいと言われ、試しに三男が「自分もパソコンが欲しい」と言うと、すぐに提供してくれた。それによって三男はパソコンに溺れているが、立派に収入を得ているのである。

 

「密漁が悪いことだって理解していました。でも、そうでもしないと私の家族は飢えるところだったんです」

 

 後ろでは仲間である長男と次男も父と同じように顔を伏せている。その時、事情聴取をしていた榊原菜月は言った。

 

「だからと言って、あなた方の勝手な行動をしていいと? そのおかげでこちらは生徒を―――」

 

 瞬間、ドアが勢いよく開けられて菜月は現れた乱入者に頭を掴まれて無理やり部屋を追い出された。

 

「し、時雨君、そんなことしちゃ―――」

「榊原先生、あなたは引っ込んでいてください」

「いや、あのね、時雨君」

「ひっこめ」

 

 真耶の言葉を遮り、その小さな体のどこに眠っていたのかと聞きたくなるほどの迫力で菜月を黙らせた智久は無理やり引き戸を閉めた。

 

「教員が馬鹿なことを言ってすみません。これだから困りますよね。インテリ気取った無能というものは」

「えっと……君は……」

「ご紹介が遅れました。私はIS学園1年1組に在籍する時雨智久というものです」

「……確か、2人目の男性IS操縦者……」

 

 長男のその言葉に智久は「はい」と答えた。

 

「ああ、さっき言った生徒のことは気にしないでください。別に取るに足らない犠牲なんてカウントしない主義なので。残念ながらあなた方はこちらの手続きによって政府に引き渡すことになりますが、どうでしょう? 今の内に私と議論しませんか?」

「いや、あの……」

「実は先程の話はすべて聞かせていただきました。だというのにIS学園に所属する女性は一部を除いて自分たちが恵まれた存在だということを理解できないようなのです。お恥ずかしい限りですね。我々人類はあなた方のような存在によって生かされているというのに」

 

 見た目は中学生……下手すれば小学生でも通る男の子が急に現れ、そんなことを言ったのだ。次男は睨みながら智久に言った。

 

「子どもに何がわかる」

「そうですね。本当のことを言えばあなた方が今、どんな気持ちでここにいるのかすべてを理解できることはできません。ですが、たった1つだけ理解することはできる。あなた方は、生きるために行動しただけの被害者でしかないということは」

 

 智久はそう言い、改めて彼らから事情を聞きだした。




まぁ、実際漁業や農業を放置するなんて問題外も良いところですがね。

……でも見下す女性はいるし、法律を盾に色々とされるとかありがちな話かなと、またどうして密漁船がいたかっていう紐解きも含めて勝手に考えてみました。……こうでもしないと密漁船がいた理由はわかりませんし。



ちなみに、智久が前回箒の乳を揉んだのは束を捕まえて作戦を円滑に進ませるためです。
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