IS-Lost Boy-   作:reizen

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ep.37 触らぬ怒気に祟りなし

「作戦完了―――と言いたいところだが、お前たちは独自行動により重大な違反を犯した。帰ったらすぐ反省文の提出と懲罰用のトレーニングを用意してやる………と、本来なら温厚な私はこの程度で済ますつもりだが今回ばかりはそうはいかない」

「え? 何で―――」

 

 千冬は尋ねた一夏の顎を殴り飛ばし、一夏は軽く20mほど吹き飛んだ。

 

「ちょ、何するんだよ千冬姉!?」

「その前に聞きたい。織斑、何故あそこで密漁船を庇った」

「え? そりゃあ、船をそのままにしたら危ないと思って―――」

「そうか」

 

 そして千冬はもう一度殴り飛ばした。

 

「お、織斑先生、そこまでしなくても―――」

「黙っていただこう、山田先生。これは教育だ」

「は、はい……」

 

 涙目で引き下がる真耶。近くで見ていた教員は怖いこともあって誰も言わなかった。それほど、千冬から発せられている怒気は鋭く、恐ろしいものだった。

 

「この際だからはっきり言っておいてやる。私はお前ではなく時雨に白式を渡すべきだったと後悔している。今のお前に白式は荷が重すぎる」

「な、何言ってんだよ!? 千冬姉も見ただろ? 白式は二次移行して―――」

「そんなもの、初期化すれば良い話だ」

 

 きっぱりと言う千冬。その言葉にラウラや簪すらも驚いて千冬を見た。

 ISの操縦技量は時間が長いほど成長する。その分、ISも操縦者のことを理解し、適応していくというのは最早周知の話だ。だが千冬はそれを否定するが如くはっきりと言った。

 

「二次移行したことが何だと言うんだ。第一形態の時点でまともに扱えていなかったお前が使いこなせるわけがないだろう。先程スペックを軽く見たが、あんなものは最早素人同然のお前が使えるものでもない」

「でも―――」

「でもも何もあるか。それとも、白式が無ければ福音に勝てなかったとでも言うのか?」

「ああ! それに、紅椿のおかげだ。だから―――」

 

 瞬間、一夏の顔面が蹴り飛ばされた。その犯人はすぐさまAICによって拘束される。

 

「ラウラウ! 今すぐAIC(これ)解いて! こいつ殺せない!」

 

 誰がこんな姿を見たことがあるのだろうか。普段の温厚さは完全に消え失せ、千冬並とすら思わせるほど濃密な殺気を放ってもがく本音の姿があった。

 

「な、何すんだよ、のほほんさん」

「よくも自分たちが倒したなんて言えたよね! すべてあなたが勝手な真似をした結果じゃない! 勝手に密漁船を庇って作戦を台無しにして! その結果が、第一学年全員が殺されかける事態になったのに!」

「な、何を言って―――」

「何も知らないくせに! 智久君が死んだら、私があなたたちを全員殺してやる!」

「―――その必要はない」

 

 後ろから、同様に殺気を放つ簪が現れた。

 

「……えっと、君は……?」

 

 簪は名乗らず、容赦なく一夏の腕を刺した。

 箒らはすぐに戦闘態勢に入ろうとしたが、箒に関しては紅椿の待機状態である鈴が付いた赤い紐を一夏から素早く離れた本音によって奪われる。簪はその間に一夏から白式の待機状態であるガントレットを奪った。

 

「いきなり何を―――」

 

 一夏は思わず言葉に詰まった。それもそうだろう。簪に苦無を喉に突きつけられたのだから。

 

「ちょっと、一夏に何を―――」

 

 文句を言おうとした鈴音は、すぐさま千冬の一睨みで黙った。

 

「どいつもこいつも………全く理解に苦しむな。お前らは一体この馬鹿のどこが良いんだ? 私からしてみればよっぽど時雨の方が有能だぞ」

「何言ってんだよ……智久は……危険な武器を……」

「それがどうした?」

 

 未だに痛みに苦しむ一夏に対して、千冬はバッサリと言った。

 

「初めて見た時は確かに驚いたが、確かに合理的だと思うがな。むしろ今まで出て来なかったことぐらいがおかしいくらいだ」

「でも、アイツは喜々としてああいうのを使っているんだぞ!?」

「だが生身の人間に使ったことはないはずだが?」

 

 その言葉に一夏は黙った。

 

「むしろ、お前は時雨の姿勢を見習うべきだったな。全く、同じ男でもここまで差があるとはな。お前は3年前に一体何を思った?」

「それは……みんなを守れる人間になりたいって……」

「だが、これまで守って来たのはすべて時雨だ。篠ノ之や布仏姉を守ったのも、ボーデヴィッヒを助けたのも、デュノアが囚われずに学園に通えているのも、そして今日、みんなを守ったのもだ!!」

「でも、福音を倒したのは―――」

「お前たちは時雨が弱らせたのを横から倒しただけに過ぎない」

 

 はっきりと言われて一夏は固まる。するとシャルロットがおずおずと手を挙げた。

 

「………あの、時雨君が僕……私を助けたのというのは……」

「知らないのか? お前が「シャルロット・デュノア」としてIS学園の生徒になれたのは、「シャルル・デュノア」が病持ちであり、「自分に何かあった場合に本国にいる双子の姉に専用機を託して渡してほしい」という遺言書があった……としているからだ。お前は今は専用機を「預かっている」形だが、こうなった以上はすべてを明かす」

「……すべてって……」

「お前がデュノア社のスパイだったことだ」

 

 一夏は反論しようとしたが、大人しくそれを眺めている千冬ではなくすぐに黙らせた。

 

「本人の意思がどうだろうと、お前がデュノア社から派遣されたスパイであることは変わりない。このことを含め、すべてを報告させてもらう。当然、オルコット、凰も同様だ。そして織斑並びに篠ノ之はまだ精神的に専用機を持つ人間として相応しくないと判断し、機体を没収。現状は凍結扱いだが、白式に関しては初期化後、武装の見直しも含めて再構成するなどして時雨に譲渡する予定だ。そして各国専用機持ちは緊急時以外の機体使用の一切を禁止する。もしこれが破られた場合、死を覚悟しろ。さらにお前ら5人には懲罰用トレーニングをさらにグレードアップさせる。水分の用意は許可するが、そのほか一切の持ち込みを禁止する。そして、帰るまで5人はそれぞれ部屋を移動し、謹慎しておけ。衛生上は風呂の使用は許可してやるがそれだけだ。後は山田先生の言うことを聞け」

 

 そう言い渡すと、千冬は智久が運ばれた病院に向かう準備するため、一足先に部屋に戻ろうとした。実際、出るのは夜中位になるだろうと思っているが、その間は楯無と虚、そして菊代が付いてくれることを申し出たので、彼女は後始末のためにそれに甘えることにした。

 

「………で、何の用だ?」

 

 千冬は振り返り、後ろにいる気配に問いかける。

 

「さっすがちーちゃ……と、そう怒らないでよ。私はちょっと用件があってね」

「何の用だ? 私は今とても忙しいのだが?」

「じゃあ早速。いっくんと箒ちゃんにISを返してあげてくれない?」

 

 その言葉に千冬は鼻を鳴らした。

 

「それはできない、と言ったら?」

「じゃあ、悪いけど―――ちーちゃんを倒させてもらうよ」

 

 そう言って戦闘態勢を取る束。瞬間、千冬は束の腹部に衝撃を与え、吹き飛ばす。

 

「ち、ちーちゃん…?」

「悪いがこの場でお前を捕まえさせてもらうぞ」

「わー、まさかちーちゃんがそう言うとは思わなかったよ。でも、捕まえられるの?」

「安心しろ。できなければすぐに諦めるさ。私はな」

 

 そう言って千冬は本音と簪から預かった白式と紅椿を後ろに放った。

 束はすぐさまそれを手に入れるために、引きこもりではありえないほど俊敏に動くが、千冬も負けずに人間を超えたスピードで迫る。

 束は千冬のラッシュをいなし、2機のISの待機状態を取ろうとした瞬間、それらは何者かによって回収された。

 

「返せ」

 

 間髪入れずに束はその人に攻撃するが、素早く動いたその腕は寸前で止められる。

 

「おやおや、これはこれは……」

「ありがとうございます、轡木さん」

「いえいえ。この程度で天才が釣れるならば安いものでしょう」

 

 その何者か―――もとい、轡木十蔵はさらに後ろに投げて、千冬は回収してそのまま逃げ始める。

 

「おい、離せよ」

「あー、それはちょっとできませんね。こちらの取り決めとして、あなたにはしばらくここでじっとしてもらうことになっているのです」

 

 そう言って十蔵はさらに握る力を強めていく。

 

「離せって言ってんだろ!!」

 

 そう叫び、束は十蔵の顔に蹴りを放つ。だがその蹴りは届くことはなかった。

 

「……何なんだよ、お前は」

「やれやれ。老体は労わるもの……というのは流石に流行らないか。友人である織斑君は成長しつつあるというのに、君は随分と幼稚だな。だからこそ、災害認定されているのか」

 

 束は、おそらくISというオーバーテクノロジーのみを生み出すだけの頭脳しかなければ、他人を見下すことはしなかっただろう。だが、彼女は身体能力すらも一線を画していた。幼稚園児の時点で既に小学生を倒すほどの実力を持っていた彼女は、その時点で周りと遊ぶということをしなくなっていたのだ。そして今まで彼女を襲ってきた人間はすべて自分の実力のみで返り討ちにしていた。

 

「織斑君も大概レベルが()()()()が、それは君も同じか。おそらくはまともな相手と戦ったことが無いのだろう」

「質問に答えろ!」

「なぁに。私はただ、裏で1000以上の屍を築いてきただけの汚れた大人さ」

 

 そう言って十蔵は遠慮なく束を蹴り飛ばす。この時すでに腕は開放していて、束はそこらにある大木に叩きつけられた。

 

「……この……ふざけやがって……」

「ふざけているのはテメェの脳みそだろうが、ガキ」

 

 完全に性格が変わった十蔵。まるで二重人格のようだが、元々敢えて温厚を演じているだけである。

 

「いい加減、許容したらどうだ。世界はテメェのおもちゃじゃねえんだぞ」

「……黙れ」

「まぁ、テメェに常識がないのは今更か。あったら今頃テメェはアメリカの大学とかで博士号を取ってからISを発表しているだろうしな」

「うるさ―――」

 

 ―――ドンッ!

 

 鈍い音が束の腹部から聞こえてきた。

 

「ああ、それと」

 

 十蔵は束の脚に鉛をぶつけた。

 

「……さて、これで仕事は終了ですね」

 

 先程の狂気はどこに消えたのか、いつも通りの温厚さを露わにした十蔵は帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました束は、自分がラボにいることに気付く。

 

「……あれ? 何で私……」

「大丈夫ですか、束様」

 

 近くに控えていた銀髪の少女――クロエが普段からは想像できないくらい慌てて束に迫った。

 

「あ、くーちゃん。何で私がここにいるの?」

「……先程、ラボ内にアラームが鳴ったので、私が独断で救援に向かいました」

「あー、それで。ちゃんと足は処置してくれているんだね」

「……それくらいしか、私にはできませんので」

 

 そう言ってクロエは束に平伏す。内心「そんな風にしなくていいのに」と思いながら、束はクロエの頭を撫でた。

 

「にしても驚いたなー。あんな化け物がまだ世界にいたなんて……」

「……私も驚きました。まさかあの化け物が生きているとは……」

「え? くーちゃん知ってるの?」

「……はい。あの男は轡木十蔵。かつて日本を中心にあらゆる違法研究所を破壊し回った、世界でも第一級賞金首に指定されていました。10年前に死亡したと聞いていましたが……まさか織斑千冬様と繋がっているなんて思いませんでした」

 

 その言葉に束は「ふーん」と答える。

 

「ま、いいか。少しばかり気に入らないけど、向こうはこっちの居場所は知らないしね」

「………はい。私が現場に着いた時には既に姿はありませんでした。……しかし、これが」

 

 クロエは恐れながら手紙を差し出す。束はそれを受け取って読むと、怒りを露わにした。

 

 ―――中身が子供な愚かな天才へ

 

 君の妹はいつでも消せるよ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの事件の後、すぐに処置をされて搬送された智久は、IS学園の医療棟に運ばれた。

 そこには本来なら保護者であるアキが来るはずなのだが、彼女の場合は動けない状態にある。そのため、代わりに幸那が来ることになったが……

 

「そこを退いてくれませんか? 今すぐその屑共を始末してきますので」

「悪いけど、それはできないわ。何よりもそんなことをしたらあなたが犯罪者になるのよ?」

「そんなものは些細な問題です」

 

 そう言い切った幸那は、今にも飛び出そうとしていた。

 

「……落ち着いて、幸那」

「この状況が落ち着いていられますか! どうして……どうしてトモ君がこんな目に遭って……他の専用機持ちが軽傷で済んでいるんですか! 誰一人死んでいないなんて………もしトモ君が死んだら………」

 

 ―――全員、血祭に上げてやる

 

 楯無、そして虚はその殺気に反応する。

 

「……すみません。彼女を落ち着かせてきます」

「お願いします」

 

 同伴していた雫の申し出をすぐに受ける菊代。それほど幸那の精神はマズかった。おそらく、1年生が帰ってくると察知されれば、今すぐにでも殺しに行くレベルである。

 それを思いながらも、楯無は虚に尋ねた。

 

「……今の殺気、とても素人のものじゃないわよね?」

「はい。ですが、北条院は他の施設と違って健全な場所です。おそらく、たまたま怒りが凄まじかった、だけではないでしょうか?」

 

 本当にたまにだが、素人でも裏の人間を怯えさせるほどの殺気を放つことがある。蓋を開けてみればそこまで強いというわけではないが、幸那が放ったものは尋常ならざるものだった。

 虚はそう述べたが、内心では少し怯え、同調していた。

 

(……もし智久君が死んだら、ですか……)

 

 おそらく、自分だってまともじゃいられないだろう。そう思った虚は静かに幸那を見守ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……一向に起きないわね」

 

 モニタリングしているけど、私が選んだ男は目を覚ます気配がない。あれから3日くらい経っているし、傷は回復しているから問題があるとするなら心かしら? よほど気になったのだろうか、頻繁に織斑千冬が見舞いに来ている。その行動に対してよく思わない人間が生徒に出てき始めていた。

 織斑千冬という存在は、IS操縦者にとっては憧れの存在らしいけどそれはあくまで「IS操縦者としては優秀」であり、女性としては容姿を除けばそこまでレベルが高いわけじゃない。時雨智久を通して世界を見ていたけど、私でも理解できるぐらいの残念さだ。というか、女性としてならあの布仏虚とか本音とかの方がかなり上。特におっぱいに包まれるのは人格認識的に同性でも魅力的である。……妹の方に関して言えば、隠れ巨乳とか属性増えちゃってるしね。

 

(色々ゲームをしているけど、実際智久はどんな機体が好きなんだろ)

 

 ロボットの格ゲーのデータを抜いてプレイしているけど、射撃系や独立稼働系、あとは近接格闘系とかもあるし、迷ってしまう。そして最後に彼女は―――起きてから意見を聞くことに決めた。

 

「あ、そうだ、良いこと思いついた」

 

 その時、形成されたアホ毛がピコピコと動いたが、それを知る者は誰もいなかった。




唐突ですが、この話で第3章は終わりです。
今回は久々に千冬が昔に戻っていそうで矛盾が指摘されそうな気がしてならないです。

ちなみに本音のあのシャウトは、kaleid linerのイリヤをイメージしていただければと思います。1期でアーチャーになった時に「キタ━(゚∀゚)━!」と叫んでしまったのは私だけではないはず。アニメ視聴のみ。
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