IS-Lost Boy-   作:reizen

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第4章 終わるワンエイジーみんなのサマーバケーション-
ep.38 場所はIS学園です


 智久が負傷で眠ってしまってから1週間が経過しようとしていた。

 

「……もしかしたら、彼は起きることを拒絶しているかもしれないね」

 

 IS学園内の医療棟に勤務する月城薫はそう述べる。

 

「………どういうことだ?」

「境遇が悪い。周りは問題児だし、そのせいでこんな目に遭っているんだから逃げたくなるのも頷ける」

 

 千冬の質問に薫はバッサリと答えた。

 その言葉に千冬は自分が無理やり戦わせたことに今更ながら悔やみ始める。

 

「そう言われても仕方ないな」

「まぁ、山田先生みたいな優しい人が相手でもなく、まともなチュートリアルもなしに戦わせるような鬼教師が担任で、弟は馬鹿だしな」

「そこまで言うか……と思っていた私が恥ずかしく感じるよ」

 

 ため息を吐く千冬。

 だが薫も、ここ最近の千冬の授業がただ教官に近いだけのキツいものではなくなってきていることを知っているので、それ以上は責めなかった。

 

「で、上の思惑はどうなんだい?」

「あまり芳しくないな。束に恩を売るつもりか恨まれたくないか、今回のことを隠蔽しにかかって時雨が福音を使って宿舎を襲わせようとした風に動いている」

 

 忌々し気に言った千冬の言葉に薫は顔を引き攣らせた。

 薫もまた、いざという時のために校外学習に参加していた教員の一人であり、一夏を治療した人物でもある。作戦行動中に福音の姿を見られると困るという対処法に則って仕方なく最低限のことをしたのを今でも悔やんでおり、殺されかけた1人だ。何度も制止したのにも関わらず勝手に出て行ったことはまだ怒っている。

 

「そんなことをしても無駄だろうにね」

「……実はそうでもない」

「え? そうなの?」

「ああ。さっき別のクラスの1年の噂話を聞いたが、どうやら時雨がけしかけた風に広まっているみたいだ」

 

 ―――曰く、もう少しで花月荘が吹き飛びそうになったのは、時雨智久が外部からコントロールしていたから

 

 そんな噂を聞いた千冬はすぐさま否定し、正すように言ってはいるが女子の噂は流れるのが早いため、内心諦めかけている。

 

「で、君は彼がそんなことをすると思っているのかい?」

「………実は一度、4月初めのころに時雨が授業を聞いているふりをして何かをデッサンしているのを注意したことがある」

「今のはおかしい。君のことだから「まず殴って」の部分がないのはおかしいよ」

「……で、没収した後に呼び出したことがある」

 

 薫の主張を無視して千冬は話を続けた。薫も慣れか、それともあまり気にしていないのか続きを言うように促した。

 

「描いていたのが、その、ISじゃなくてな。「こんなものを書いている暇があるならISの勉強をしろ」と叱ったことがあるんだ」

「まぁ、IS学園に通っているし、それが彼のためになるしな」

「……で、返された言葉が「ISVを増やすために必要なことです」だった」

「なんだい、それは……」

「「インフィニット・ストラトス・バリエーション」。打鉄などをただの打鉄としてではなく、「偵察型」や「強襲型」、「高機動型」と分けて元々の装備を変えるんだそうだ。時雨曰く、「ISはバリエーションがパッケージだけなのでつまらないです。これが女の限界なんですよ」だと言われたよ。更識姉にも聞いたことがあるが、どうやらラファール・リヴァイヴなど他の訓練機のバリエーションや武装などもあったそうだ」

「ISを外部から操る装置なんて最初から考えていないみたいだね……」

「おそらく、そんなものがあったら最初から使っているだろうな」

 

 そう言って千冬はため息を吐いた。

 

「………一体、どこで間違えたのだろうな」

 

 その答えを既に千冬は見つけている。束と関わったことがそもそも原因だということを。

 いや、それだけではない。一夏は現実を見ていない……というよりも、周りのアクが強すぎて流され続けており、本人もそれに気付いていないのだ。だからこそ、一度自分の実力を再確認させる必要がある。そう思っての専用機没収であり、智久に譲渡することを決めた。

 

「……まぁ、なるようになるさ」

「……そうであることを願いたいがな」

 

 ため息を吐く千冬は、ここのところ溜まりに溜まった疲れを少し発散させるために薫からマッサージを受けて寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 智久が目を覚まさないまま、さらに1週間が過ぎた。

 屍になりかけた罰則を受けていた専用機持ち3人と一夏、箒はようやくトレーニングを終えたが、誰も話そうとはしない。周りも空気を読んでか自ら話しかけに行こうともしなかった。いや、正しくは一夏が本音に智久の状況を聞こうとしたが、それをラウラが止めたぐらいだろう。それ以降、元々動けるほどの体力はまだ回復していないのか、4人は机に突っ伏したままだったが鬼なことに千冬は容赦なく叩いて起こさせる。

 

「……あの、少々やりすぎではないでしょうか?」

 

 そしてとうとう、真耶が千冬に言った。

 確かに悪いのは理解できるが、疲弊した状態での授業の出席。今までの千冬ならば十分な休息を与えた上で来させるくらいはするが、今回はあまりにも過度ではないかと思ったのだ。

 

「まぁ、確かにな。私もそうは思う。現に国の方からも苦情は来ているからな」

 

 特にうるさいと思ったのはイギリスだった。

 今回の事件は他国にとってはアメリカの力を削ぐには絶好の機会であり、各国は喜んでいたほどである。中には緊急時以外の機体使用禁止すら異議を申し立てる国もあるほどだ。

 

「で、でしたら―――」

「だがここで引くわけにはいかない。引けばまた同じようなことが繰り返されるだろう」

 

 それに、千冬にはもう1つ思惑があった。

 智久に白式を渡せば、一夏の契約は切られ、智久と倉持技研は契約を交わす。そうなればまた簪が受領するはずだった打鉄弐式の開発計画が凍結解除され、ちゃんとした専用機持ちにさせるかもしれないと思ったからだ。少なくとも、智久ならば焚きつけることができるかもしれないと千冬は思っていた。

 実は千冬は打鉄弐式が凍結されたことを聞き、原因が白式にあると知ってから謝りたいとは思っていた……のだが、そもそも千冬は普段から優等生であり、それ故に謝る方法がわからなかった。もし仮に謝りに行ったとして、円満に解決できるかと言われれば首を横に振る自信すらあるからだ。

 

「………ですが、もう反省していますし、少しは休ませてあげても……」

「………そうだな。ここまで来ればもう話してもいいか」

 

 辺りに誰もいないことを確認した千冬は、次の授業が昼休みということもあって空き教室の中に連れ込む。

 

「単刀直入に言うが、ここまで延長しているのは時雨へのアピールだ」

「………へ?」

「考えてみれば、これまで私は平等に扱っていない。本来なら改修許可なんて最初から出しても良いはずなのに、委員会の言い分に納得してしまったしな」

 

 遠い目をして何かを見つめる千冬。だが真耶はそれよりも気になったものがあるらしく、そっちの質問をした。

 

「……あの、委員会の言い分というのは……?」

「「IS初心者に改造許可を出してもまともに動かせなければ話にならない」だそうだ。織斑に白式を渡しておいてよく言う。………気付けなかった私も私だがな」

「……織斑先生」

 

 ―――だとしたら、私もそうではないのでしょうか?

 

 口には出さなかったが、真耶も内心思っていた。自分もそこまで構っていなかったと。副担任なのに全然かまわず、それどころか自分はただ逃げていた。実力を見せつける時もそうだった。智久は素早く衝撃砲を潰してより立ち回りやすくしてくれたではないか。それに、自分が教卓に隠れていた時も………

 

「…………私、教師に向いていないかもしれません」

「いや、たぶん山田先生は教師に向いていると思うぞ。生徒に好かれているという意味ではな」

 

 そう言って千冬は今年何度目かわからないため息を吐く。すると、急にメロディが流れて千冬は呼び出しを食らった。他にも生徒会を纏めて指定され、簪とラウラも呼ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その放送は1年1組にも流れていて、ある人物はそこで何かが起こったと察して教室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放送で呼ばれた面々が職員室前に揃う。そして支度を終えた菊代が学園長室から現れた。

 

「全員揃いましたね。ではついてきてください」

 

 その言葉に従った千冬らは菊代の後を追う。

 次第にすれ違う人が極端に少なくなり、医療棟に踏み入った時に全員が察した。

 

「学園長、もしかして時雨のことで呼んだのでは……」

「ここまで来たのなら察した人もいるでしょう」

 

 そう言ってからしばらくし、智久が寝ている病室の前に着く。

 

「先程、月城先生から連絡がありました。時雨君が目を覚ました、と」

 

 全員の顔が輝く。本音と簪がハイタッチしているが、菊代はそれを静めた。

 菊代は軽くノックするが返事はない。おそるおそるドアを開けると、智久はベッドを起こして呆然としてた。

 智久はみんなに気づき、視線をずらす。

 

「………おはようございます。……って、もう午後でしたっけ?」

「ええ。気分はどうですか?」

「…………最悪ですね。それよりも、あの事件はどうなりました?」

「結論から言います。時雨君の奮闘後、織斑君と篠ノ之さんの二名によって福音は撃墜されました」

「……あの2人が、ねぇ」

 

 そう言って智久は起きようとしたので、本音が素早く止める。

 

「駄目だよしぐしぐ。今は安静にしないと……」

「そんな暇はないさ。ただでさえ、織斑君は余計なことをしても後ろ盾が後ろ盾だから逆にひいきされるけど、僕はそうじゃないから―――」

「安心しろ。奴らには相応の罰を下した」

 

 智久はいるとは思わなかったのか、千冬を見て信じられないと言わんばかりの顔をする。

 

「まさか、あなたがこんなところに来るとは思いませんでしたよ、織斑先生。まさかこの機に乗じて僕を始末しに来たのですか?」

「生憎だが、私はそのつもりで来たわけではない。それよりも聞きたいことがある」

「聞きたいこと?」

「時雨、お前は白式を受領する覚悟はあるか?」

「……………はい?」

 

 信じられないという顔をした智久はそのまま言葉を続ける。

 

「なんの冗談ですか、それは。僕が白式を?」

「そうだ。今回の事件、奴らはあまりにも勝手をしすぎた。それ故に相応の処罰をし、織斑から白式を没収した」

 

 瞬間、智久は荒風を展開した。

 

「時雨君⁉」

「落ち着いて時雨君。織斑先生は自らその処分を下したの」

 

 虚が驚き、楯無が説得を始める。しかし智久は荒風を解除しなかった。

 

「あなたは何者ですか………? 今まで弟の肩しか持たなかったあなたが、急に優しくなるなんてありえません。洗脳されたか……ああ、その線の方が濃いですね。そして取り入って僕をあの女に売るつもりなんですね」

「………予想以上に嫌われているな、私は」

「当たり前でしょう? 今まではあえて様子を見てきましたが、今ので確信しました」

 

 ―――あなたは、私の敵です

 

 そう断言した智久。すると本音は2人の間に入る。

 

「ともかく、織斑先生は今は出て行ってください」

「………わかった」

 

 大人しく部屋を出る千冬。菊代も「私も一度帰りますね」と言い、退室した。

 

「……お姉ちゃん。生徒会の仕事は大丈夫なの?」

 

 唐突に簪は楯無に話を振る。

 

「……簪ちゃん?」

「たぶん、織斑先生は結局のところ独断で決めているだろうし、生徒会はバックアップで忙しいと思う。こんなところで油を売っている暇はないと思うけど?」

「…………そうですね。お嬢様、私たちはこれで失礼しましょう」

「え? 待って虚ちゃん。私は時雨君と話を―――」

 

 虚は有無を言わさず楯無を連れていく。智久はようやくISを解除すると残った2人は銃口を彼に向けた。

 

「……え?」

 

 唐突にそんなことをされた智久は慌てるが、本音は遠慮なく言った。

 

「―――あなた、誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ど、どういうこと?

 私の演技力は完璧のはず。なのに、何故私は2人から銃口を? しかも片方は同居人で、もう片方は同じ趣味を持っている。さっき率先して出て行ったのも、明らかに不自然だし。

 

「な、何言ってるの? 僕だよ。時雨智久だよ」

「しぐしぐは、さっきの場面で織斑先生がいるからってISを展開しないよ?」

「い、いや、だって向こうはブリュンヒルデだよ? 生身でもかなりのポテンシャルを持っているのに……」

「……違うんだよ。しぐしぐはね、他人にISを向ける行為そのものが嫌いなの。いくら相手が織斑千冬でも、女だからこそ言葉で潰すのが信条なしぐしぐは、先に展開されていないのにISを展開するってことはしないの」

「……そういうこと。だから、あなたは偽物……仮に本物だとしても、それは体だけ」

 

 はっきりと言われた私は、周りに彼女ら以外誰もおらず、盗聴器が設置されていないことを確認し、監視カメラの映像をごまかしてから白状する。ま、信じてもらえるなんて思っちゃいないけど。

 

「わかった。わかったわよ。確かに私は時雨智久じゃないわ………お願い。とりあえずその銃は仕舞ってくれないかしら」

 

 本音と簪は銃をしまい、代わりに苦無を出した。

 

「ま、まぁいいわ。でも、これだけは言わせて。私は時雨智久に成り代わって何かをしようとかそういうわけじゃないわ。むしろ、今彼は凄く大変な状況なのよ」

「……どう大変なの?」

 

 確か、更識簪だったかしら? 胸があまりない方が聞いてきたので特別サービスで答えた。

 

「時雨智久の精神は今、凄く不安定よ。本来ならば、彼は周りが恋に現を抜かしている現状で結果を残しているわけだから褒められてもおかしくはない。でも、周りはあの駄兎やアホ教師の機嫌を取るために智久を否定し続けた。今回の襲撃も自分の功績がなかったことにされるのではないか、本当に努力が報われるのだろうかと不安になり、負の感情が渦巻いているのよ。おそらく対処を少しでも誤れば、ISを使って破壊の限りを尽くすほどにね」

 

 破壊の限りの尽くすというのは少し言い過ぎたかもしれないけど、実際不安定なのは確かだ。

 助けたはいいけれど、結局は時間をかけて足止めにしかならなかった。例え無事でもちゃんと倒さなかったことでより悪い方向に進むのではないかと恐れている。その反面、そもそも事を起こしたのは一部の専用機持ちで、こっちはできる限りのことをしたのだから責められる謂れはない。これまで何もしなかった奴らが調子に乗るなと怒りを露わにしている。言うなれば、良い子の部分と悪い子の部分がぶつかり合っているとも言える。

 

「………じゃあ、君は何者なの?」

「聞いたら驚くわよ」

 

 そう前置きして、私は堂々と言った。

 

「私はシングルナンバーの4番目。コアNo.004。通称は「フォーリア」よ。一応言っておくけど、この身体は彼の肉体データを複写して再現しているだけだから。

 

 そう言うと、2人は固まった。………ああ、固まるケースは考えていなかったわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことが起こっている頃、十蔵は自室にある机を殴る。

 

「………やれやれ。これは随分と―――調子に乗っているな、ガキ共が」

 

 左手に持っている紙。それが彼を怒らせている原因だった。

 その紙にはこう書かれていたのだ。

 

『白式を織斑一夏に返還後、テスト終了後に2人の男性操縦者を戦わせる。時雨智久が敗北した場合、その者を直ちに学園から追放し、委員会が指定する研究所へと送還すること』

 

 だが十蔵は知らなかった。これよりももっと問題あることが水面下で行われていることを。そしてそれがあのような結果につながるとは、全世界でたった1人を除いて誰も予想していなかった。




本編で千冬が懺悔っぽいことをしていますが、それをしている場所が教会ではないのでこんなタイトルになりました。
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