IS-Lost Boy-   作:reizen

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痛いのは流石にホイホイと治りませんか。

もう少し我慢しながら各日々が続きそうですね。……まぁ、我慢しきれずに書いているだけですが。


ep.42 傀儡の戦士

 智久が現れた時、観客席にいる全員が度肝を抜かれた。「時雨智久」だと名乗った人物はこれまで彼女らが知っている「知識を蓄えた生意気な子ども」ではなく「一夏にすら負けないイケメン」が現れたからだ。さらに言えば、智久は堂々としており、力強い意思すら感じさせる。周りも何人かがうっとりしていたが、それを見ていた簪は大きな音で舌打ちした。

 

「か、かんちゃん……?」

「何?」

「ううん。なんでもなーい」

 

 あ、これ怒らせたらいけないものだ。

 おそらく今まで「チビ」だの「ゴミ」だの「卑怯」だのと散々言っていたくせに、と内心怒っていると予想している本音。彼女らの隣に座るラウラも良い顔をしなかったが、ここまで大きな音を立てるとそれはそれで複雑だった。

 

「にしても、よく智久はあれで戦えるな」

「………お姉ちゃんもとても驚いていたよ。でも実際、「織斑君ならこれだけで十分」って前々から言ってたんだよね」

「……………とても女には理解できない代物。私以外、は」

 

 智久が容赦なく顔面を狙うためか、次第に黄色い声援は少なくなっていく。

 それこそ彼女らにとって恐怖なのだ。考えてみれば当然だろう。《灰色の鱗殻》は《パンチバンカー》に比べれば小口径だが、威力は十分。しかし智久の作ったものは顔をほとんど殴れる上に威力が高いのだ。

 当然だが、今回の試合を企んだIS委員会も、そしてアメリカの首脳者も、その護衛のイーリス・コーリングも青ざめている。……彼女の場合、少し喜んでいるが。

 

 彼女にとって護衛みたいな面倒な仕事をする気はさらさらないが、今回はもう1つの理由があった。彼女の友人であるナターシャ・ファイルスから伝言を頼まれていたのである。その伝言を伝えるためにお偉いさんの護衛にしたがなく付いて行くことにしたが、これはこれで当たりだと思った。周りは「あのような武装が認められるか」や「今すぐ試合を中止しろ!」と叫んでいるが、発想したものの勝ちである。

 

(後で試合、頼めるかなぁ)

 

 一度あの武装とやり合ってみたいと、本人は欲求のままに思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭を殴られて感覚が失いつつあるのか、そのまま地面に落ちて行く一夏。

 智久は畳みかけるために着陸し、殴り続けた。

 

「……こいつで……終わりだ!!」

 

 腕を引き、渾身のストレートで殴り飛ばした。一夏は寸で腕を上げたがそれごと容赦なく、だ。

 

(……これで終わり……なのか……?)

 

 シールドエネルギーはまだわずかばかり残っていた。智久はそれに気付き、止めを刺そうと一夏に近付く。

 だが一夏は気付かずに脳内で考えを巡らせる。

 

「………まだだ」

 

 気合いで立ち上がる一夏。吹き飛ばされたはずの《雪片弐型》を杖代わりにして立ち上がる。

 

「……まだ立ち上がる気なんだ」

「当たり前だ。まだ勝負はついていない」

「……わかった」

 

 智久は笑みを浮かべて言った。

 

「―――じゃあ、シールドエネルギーが切れてもISの展開が解除されても、君をひたすら殴り続けるから」

 

 死刑宣告をし、一夏の前の顔に容赦なく拳を入れる智久。だが一夏は素早く反応し回避する。

 

「取った!」

「どこが?」

 

 ―――ギンッ!!

 

 脚部に仕込まれていたナイフで攻撃を受け止めた智久。そして彼は常識から逸脱した攻撃方法を行った。

 《パンチバンカー》の先端が発射され、一夏の腹部に叩き込まれたのだ。

 

「何で―――」

「言ったでしょ、シールドエネルギーが切れても殴り続けるって!!」

 

 今ので白式のシールドエネルギーが切れたと確信した智久。しかし止まることはなく攻撃を続けた。

 

(……俺は、こんなところで終わるのか……?)

 

 意識を失いかけている一夏。段々と視界が狭くなっているところに彼の耳に声が届いた。

 

 ―――勝ちたい? あの男に

 

「……ああ」

 

 ほとんど無意識だった。

 一夏は返事を返すと、その声は「わかった」と答えた。

 その頃、智久は攻撃を続けていた。彼にとってこの行動はもはや憂さ晴らし、そして今後のための練習でしかないのだ。

 もはや、智久は一夏を相手としてすら認識していなかった。

 自分が強いと、戦えると、世間に対するアピールとして使っているのだ。

 

(もう君なんか……お前のなんか足元にも及ばない)

 

 心からそう叫ぶように智久は思い、周りから制止すら無視してまた攻撃をしようとした瞬間、白式が消えた。

 

「!? 一体どこに―――!!」

 

 ―――いつの間に

 

 後ろに現れ、今にも《雪片弐型》を突き立てんとしている白式を見つけた智久は回避するが、しきれずに右側の《パンチバンカー》が破壊される。

 

「……何で」

「お前は……悪だ」

 

 一夏の口からそんな言葉が紡がれる。

 

「その言葉、そっくりそのまま返すよ。何で君の《雪片弐型》がまた光の刃を展開できるんだい?」

「そんなことはどうでもいい」

 

 そう断言し、一夏は容赦なく剣を振るう。

 智久は素早く近接ブレード《葵》を展開して受け流し、左側の《パンチバンカー》の先端を発射。だがさっきよりも距離があって虚を突けなかったからか、一夏は切り裂いた。

 

「お前を倒す」

 

 そう言った一夏は瞬時加速で智久に接近した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今すぐ試合を中止させろ! 山田先生、白式の稼働を強制停止!」

 

 管制室では千冬の怒号が響いている。

 先程まで千冬は傍観に徹していた。これも自分たちが負うべきことだと、そして智久ならば白式の展開が無くなれば止めてくれると思ったからだが、こうなってはもうそんなことも言っていられない。

 本当は千冬は一夏に伝えようとした。負けろと、そうすれば智久が研究所に送られるのを回避できるから、と。だがもしそれを言えば智久が傷つくのではないかと、今後の学園生活にも支障が出てしまうのではないかと、一生自分を責めるのではないかと思ってしまったのである。

 

「そんな……。白式、こちらからの停止信号、受け付けません!」

「……やっぱり、か」

 

 実は白式の初期化は前日ギリギリまで行われていた。初期化が行われれば束に媚びを売る委員会と言えど、流石にやらせはしないと思ったのである。

 しかし白式は初期化を受け付けなかった。いくら二次移行したものとはいえ、こんなことになるとは思わなかったのである。

 

「今すぐ鎮圧部隊は出撃を! 対象は白式! 時雨の説得は更識姉を使え。布仏」

「わかっています。会長、今すぐアリーナに入って智久君を止めてください」

『………じゃあ、ドアを破壊しても良いですか?』

「え?」

「どういうことだ?」

『ピットに続くドアが防がれています。おそらく非常口も無駄かと』

 

 各カタパルトの下に、緊急避難用の非常口が置かれている。その非常口はこれまで一度も使われたことはないが、定期的にメンテナンスを行うため稼働するはずなのだが、

 

「ダメです。生徒会長の言う通り、非常口の解除が行えません」

「………」

 

 ―――ギリッ

 

 千冬が歯軋りをしたことで、何人かが震えあがる。

 

「更識、鎮圧部隊と共に第三アリーナの上部―――バリアが展開されている部分に穴を開けることはできるか?」

『………一応、方法はあります。ですが、良いのですか?』

「緊急事態だ。本来なら織斑は敗北は決まってる。真耶、白式のシールドエネルギーは回復しているな」

「はい。何度も零落白夜を使用していますが、一向に減りません」

「ということだ」

『わかりました』

 

 すぐに実行に移します―――そう口にしようとした瞬間、急に回線が開く。

 

『勝手なことは止めてもらいましょうかね』

「……何の用だ。チェスター・バングズ」

 

 IS委員会会長が通信が割り込んで来たのだ。

 

『我々はせっかくのショーを楽しんでいるのです。その邪魔をするなど笑止千万。あなた方はただ傍観しておけばいいのですよ』

「貴様……」

『まぁもっとも、あなたの大事な弟さんがどうなってもいいのかな、構いませんが』

 

 瞬間、千冬は切れた。

 

「いい加減にしろ、屑が」

『屑で結構。我々は未来のことを考えて行動しているだけに過ぎないのですから』

 

 ―――ダンッ!!

 

 八つ当たりでパネルに近い金属枠を殴る千冬。加減をしているのかヒビが入ることはなかったが、それでも千冬の怒りは収まらない。

 するとまた、新たな回線が割り込んだ。

 

『だったら、そのショーをもっと盛り上げてあげるわ』

『……何者ですか』

 

 いきなり回線が割り込まれたこと、さらに言えばその声が少女だったことでチェスターの声が低くなる。

 

『私? 私は4番目よ』

『何を言っているのですか? 織斑先生、今すぐ逆探知してこの者を捕えなさい』

『無理無理。私はあなたたち服を着ただけの家畜とはすべてにおいて出来が違うから。ということでルキア、今すぐ行きなさい』

『わかった』

 

 勝手に話が進み、楯無も虚も千冬ですらもわけがわからなくなる。

 だが、千冬と虚だけはモニターに映っている様子からこれだけはわかった。

 

 ―――VTシステムはまだ無事だということを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 智久は理解できなかった。もしかして自分が間違っていたのかという疑問が頭をよぎる。

 しかし智久の考えは決して間違いではなかった。彼の攻撃は正確であり、確かに白式のシールドエネルギーは一度完全に消失している。

 それでも動いているには理由がある―――が、智久はさらに動いた。

 

「墜ちないっていうなら、何度でも墜としてやる!」

 

 迫る《雪片弐型》を《デストラクション》で受け止めた智久は《月穿》の砲撃を足で捌く。しかしいつの間にか白式は消えており、まるで瞬間移動でもしているかのように素早く剣で刻む。どれも装甲で受け止めているため、消耗は少ないが、智久自身の消耗は激しかった。

 

(負けられないんだ……僕は……)

 

 智久の瞳が金色に染まる。《月穿》の砲弾を回避し、瞬人加速との同時併用で迫る凶刃を再び《デストラクション》で受け止めた。だが、とうとうそれすらも破壊される。

 流石に動揺を隠せなかったのか、智久は動きを鈍らせてしまった。

 

「そこ!」

 

 零落白夜をまともに受けた智久。だがすぐに離脱してなんとか九死に一生を得るも、限界が近付いてきている。

 

(負けるか……こんな奴に……)

 

 智久の怒りのボルテージが上がり始める。そしてそれに同調しているのか瞳の輝きが増し始めた。

 瞬間、智久の耳に声が届いた。

 

『………トモヒサ、ごめんね』

(……ルキ……ア……?)

 

 荒風がどこからともなく現れた黒い繭に包まれるがそれが一瞬の事。次に現れたのは、かつてラウラのシュヴァルツェア・レーゲンが変化した姿―――VTシステムそのものだった。

 

「……お前は……」

 

 しかし操縦者に合わせているのか、姿は徐々に変わっていく。

 黒い泥で構成された部分は靄へと変わり、展開されている面積は少なくなり、なくなったはずの装甲は荒風の装甲が展開されていく。

 

「智久……お前なんで……そんな姿をしているんだよ!!」

 

 そう叫びながら、一夏は瞬時加速で智久に接近した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、試合を見ていた束は笑みを浮かべた。

 

「……ああ、やっぱりそんなところにあったんだ」

 

 忘れやすい彼女にもずっと気になっていたことがある。最後にしてオリジナルのVTシステムがどこに消えたのか、だ。

 見つけたのは2年前。その時に最後のVTシステムを施設ごと破壊したはずなのに、つい先月、IS学園にまたVTシステムが現れた。その時、完全に消失したと思ったが、シュヴァルツェア・レーゲンの中にはまるで最初からなかったかのように消えているのだ。ずっと持っていると思われる智久を解剖したいと思っていたのはその辺りの理由が強かった。もっとも、どうして関係のないあの男が動かせるかというのは疑問だったが、それは結局のところ二の次である。

 

「じゃあいっくん。そいつを適当に行動不能にしておいてね」

 

 そう言って束は投影されたキーボードを操作すると、もう一つの画面に映し出された画面の様子が変化する。

 その画面には白式のシールドエネルギー残量が表示されていて、一夏が零落白夜と瞬時加速を使用するたびにエネルギーは消失していくが、すぐに回復していく。

 

「ま、ちーちゃんには悪いけど、これも授業料ってことで。これに懲りたらいっくんと箒ちゃんだけを守ってくれたら嬉しいな」

 

 フフフと笑った束は素早くキーボードを操作し、彼女の研究所の天井を開け、ロケットを発射させた。

 

「あ、そーだ。白式みたいに紅椿もちゃんと処理しておかなきゃね。今から解剖が楽しみだな~」

 

 ポンポン、とまるで1人でいくつもの楽器を鳴らして演奏するようにキーボードを叩いていく束。気のせいか、近くにいたクロエは音楽が鳴り響いていると錯覚するほどだ。

 だが束は少しばかり気がかりなことがあった。それは―――VTシステムが従来のように装甲を溶かして再構成するタイプではなく、結果的に一部を展開するタイプに変わっていることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミサイルが到着するまで、あと30分。その中には火薬だが―――ISという火薬が搭載されている。




今の状況をわかりやすくしますと、

一夏が負けそうになったので束が手を貸して無双中だけど、ルキアがVTシステムを発動させたってことです。
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