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今の智久の状態を簡単に言うならば、禍々しい力に操られている騎士という風体に近かった。
会場中がその変貌に驚いていたが、首脳陣にとっては喜ばしいことだった。これで合法的に研究所に送ることができると思ったからだ。
(愚か者が。所詮、子どもということか)
身長が伸びていたことは別の意味で驚いたが、だからと言っても相手は子ども。どうとでもなる。うるさくなって来た女を黙らせ、自分が委員会会長の肩書を持ち続けるための駒でしかない。
―――そう、思っていた
智久は反転し、首脳陣が座る観客席前に移動する。
「どこを見ているんだ!!」
後ろから一夏が接近し、《雪片弐型》を振り下ろして攻撃するが智久は《雪片》で受け止める。
「この……千冬姉の真似をしやがって!!」
「………うるさい」
《雪片》を振り上げ、一夏に蹴りを放つ。
智久―――いや、ルキアは智久の負担にならないように手加減しているが、今の彼女は少々自制が利きにくくなっていた。その原因は一夏にあった。
一夏は束と同じくVTシステムを否定している。ただ研究や軍事力で優位に立つために作られ、量産させられたルキアには「ふざけるな」と叫び、殺したいほどだった。だがそれをしないのは、人を殺してこれ以上智久の立場を危なくしたくないと思っているからである。
(……フォーリア、トモヒサを……お願い)
そして彼女はわかっていた。これが―――自分の最後だということを。
■■■
気が付けば、僕は寝そべれるほど大きいデッキチェアで寝ていた。
風通しが良く、とても涼しく感じる。
「おはよう、智久」
「………先生」
先生がいる。ということはここは死後の世界かな。
なんて思っていると、先生が僕に語り掛けてきた。
「智久、IS学園に行ってどうだった?」
「………辛かった」
最初に出てくるのはその言葉だった。でも、振り返ってみると―――
「……そして、楽しかった」
―――やっぱり楽しかった
確かに辛いこともあった。無理やり戦わせてきたり、僕のことを二の次にされたり、ずっと否定されたりして辛かったけど、それでも楽しかったことはある。
同居人は、僕が北条院にいる時みたいに常に幸せを思い出させてくれた。そのお姉さんは僕に力を貸してくれた。未だに変態疑惑はぬぐえないし、頭に胸を押し付けてくる。だけど、そこまで嫌いじゃない先輩もできたし、その妹は僕と趣味があっていて一緒にいると楽しい。それに、最近はちょっと常識がないけど価値観が似ている軍人の友達もできた。そう考えると、僕の生活は―――本当に恵まれている気がする。
「……そうかい。なら、大丈夫そうだね」
「え? 何が―――」
「―――それは、ぼくたちがいなくても、だよ」
気が付けば、さっきまでいなかったはずのみんながいた。
「………みんな……ごめん。僕のせいで、あんな目に遭わせてしまった」
たぶんこれはみんなには届いていない。でも、ずっと謝りたかった。自分が楽になりたいという気持ちはある。それに自分が存在したせいで―――
「じゃあ、最後に1つわがままを言わせて」
小学6年生の女の子が言った。そういえばこの子には女尊男卑に染まりかけていたから一度怒ったことがあったっけ。
「もう、オレたちのことは気にしないで」
今度は別の子だった。確か、小学5年生で、いつも幸那にイタズラをしていたっけ。
「………どうしてそう言えるの。僕のせいでみんなは―――」
「だってお兄ちゃん、いつも僕らのために頑張ってくれたじゃん!」
「私たちには服だって買ってくれたよ」
「ゲームも買ってくれた」
「サッカーボールだって!」
次々と言ってくる。僕の両目からは、次第に涙が出てきた。
「だからもう、私たちのことで戦わなくてもいいの。……これからは自分の人生を謳歌するために戦ってほしい」
「………みんな」
すると、言い終わったのか全員が僕を置いて行くように振り返り、どこかに向って歩く。
「……待って! 行かないで!」
「君はダメだ」
肩を掴まれた。掴んだ相手は先生で、先生もまたどこかに行こうとする。
「君には、生きてほしいんだ」
「先生……僕は―――」
「実はね。私は―――みんなが死んでよかったと思っている」
僕は思わず言葉を失った。
「私はそろそろ死ぬから、みんなをそれぞれ別の場所に移動させるつもりだった。けれど、そんなことをしたら君はみんなが心配になるかもしれないと思ってしまった」
「………そんなことありませんよ」
「自分にゲームを買っても、その倍の額を子どもたちにつぎ込んで来た人間が言えることじゃないな。どうせ、定期的に見に行って、それができなくなったらストレスを抱え込むだろう」
図星だった。……でもそれくらい、僕はみんなが心配だった。
どれだけ強いって言っても、いずれは虐められるかもしれない。そう思うと夜も眠れないだろう。でもだからって……
「だからって……そんな言い方しないでくださいよ」
「でも、私の破天荒さは君も知っているだろう?」
「それは関係ないじゃないですか!」
思わず突っ込んでしまった。
すると先生は僕を抱きしめてこう言った。
「………私たちのことを忘れろとは言わない。……でも、私たちのことを重石にしないでくれ。もうIS学園には君を認めてくれる人たちがいるんだから」
「……先生」
「……一足早いけど、卒業おめでとう」
そう言って先生は僕の首にネックレスをかける。
急に突風が僕に吹く。思わず目を瞑ってしまった目を開けると、もう先生の姿はなかった。
「………先生……みんな……」
「―――ごめんなさい。これが私の限界だった」
慌てて振り向くと、そこにはフォーリアの姿があった。
「……ISって、あんな幻も作り出せるんだ」
「自己進化の結果って言えばいいかしら。あなたと一緒にいた私だからこそ、できた技よ」
「……どういうこと?」
「みんなあの場に彷徨っていたの。あなたが自分たちのことを気にしてしまうんじゃないかと思って」
「……面白い冗談だね」
「あなたも……いや、あなただからこそ感じたはずよ。あれがあの子たちの本心だってことを」
僕は図星を突かれ、拳を作って握りしめる。
「………僕は、人間なのか?」
「そうね。生まれた家を除けばあなたは至って普通よ。改造された形跡すらない。だからこそ私はあなたを選んだ。でもね、正直あなたで良かったって思ってる」
「……何で」
「あなたは私たちISを嫌っても、真摯に取り組んでくれたじゃない。創造主のお気に入りみたいに流されるだけじゃなく、ね」
そう言ってフォーリアは僕に手を差し出した。
「だから教えてほしいの。あなたが求める―――破壊の方法を」
まるで茶番だな。でも、僕はもうこのままでいるつもりはない―――いたくも、ない。
だから僕はフォーリアの手を握った。
■■■
一夏と智久が死闘を繰り広げている中、千冬は全専用機持ちに回線を開いた。
「第三アリーナにいる全専用機持ちに告ぐ。この試合は現在、我々の対処可能レベルを大幅に超えている。場合によっては観客席にも被害が及ぶ可能性もあるため、その時に使用を許可する」
現在、観客席からの避難経路までの部分は開錠されていて、今すぐに避難は可能だ。
だが千冬がそうしなかったのは、もう1つの可能性もあったからだ。
―――戦闘が、観客席ではなく外に及ぶ可能性
現在、2機のISは近接戦をメインに射撃を行っているが、すべてがシールドバリアで防げる程度のものだ。だがバリアもすべてを防ぐことはできず、数か所はあと数回ダメージを食らえば割れるというところが出てきている。そして悪いことに、アリーナ自体にシェルターは存在していない。
戦いが激化していく中、ルキアは一瞬動きを鈍らせた。
「取った!」
そこをチャンスと認識した一夏は袈裟斬りでルキアを攻撃―――したはずだった。
見事に回避したルキアは一夏を蹴り飛ばす。体勢を立て直した一夏は叫んだ。
「また千冬姉の技を……お前は!」
さらに攻撃しようと接近する一夏。その瞬間、荒風に異常が起こった。
《雪片》を含め、すべての装甲が八方に飛び、智久はその身一つで滞空する。
「何だ……何が起こって―――」
すると智久の周りに球体が生成され、光を放つ。
あまりの眩しさに全員が目を瞑る。そして、その機体は現れた。
「………何だよ……それは……」
一夏は思わずつぶやいた。
それもそのはず、さっきまでの荒風の形はすべて消えており、全く新しい機体が智久を包んでいるのだから驚くのも無理はない。
千冬はすぐに真耶に通信回線を繋がせるが、
「そんな……コア・ネットワークでの通信ができないなんて……」
「何だと!?」
ISの通信はコア・ネットワークを介しての通信が主だ。束はこういったIS関係の施設に関してのみ、ISを使わずとも通信する方法を教えたが、どれも深くは教えていない。
「ならば全スピーカーにアクセスし、直接語り掛けろ」
「わかりま―――」
『その必要はありませんよ。そちらの会話はこちらには届いています』
そんな会話をしている時、一夏が接近して《雪片弐型》で斬りつけようとした―――が、それは簡単に回避した。
「何の用だ?」
「智久、お前何で千冬姉の真似をしたんだよ!」
「何か問題でもあるの?」
「ああ、あるさ! 千冬姉の動きは千冬姉だけのものだ! そんな真似をするなんて、俺が許さねえ!!」
その言葉に智久は笑い、禁断の言葉を言った。
「つまり君は、姉の動きをさせたくないがために命令を無視して余計なものを助けて、僕の家族を殺したんだ」
「何?」
「最悪だね。まだ10代過ぎや生まれたばかりの子どもはたくさんいたのに、そんなことをするなんて鬼畜なんてレベルじゃない。むしろさっさと―――世界のために死んでくれ」
智久の左腕部装甲から光の刃が現れ、一夏を攻撃する。一夏はすぐに体勢を立て直し、問いただした。
「一体何の話だよ!? 俺はそんなことしてねぇ!!」
「じゃあどうして君は、さっさと撃破対象を破壊せずに余計なものを救ったんだい」
「余計なものだと!? お前は人命を軽視するのか?!」
「―――するさ」
《月穿》の粒子砲弾を回避しながら智久は断言。そして右肩に担ぐように持つ大型ビームライフルの引き金を引いた。そのビームは白式の左ウイングスラスターを破壊する。
「くっ、この―――」
「まさかまた卑怯だなんて言わないよね? 装甲を破壊するのは戦闘においては常識だけど」
「何を! 相手とまともにぶつかれない弱虫が!」
「その結果が僕の家族を殺すことになったって気付かないんだね、君は」
「ふざけるな! 俺は人を殺してなんか―――また回避かよ! 遊んでいるのか!?」
まともに攻撃を行わず、回避に徹している智久に一夏は叫ぶ。智久は構わず言った。
「待っているんだよ。君が地獄に落ちるきっかけを、ね」
「一体何を―――」
瞬間、スピーカーから悲鳴が上がる。
管制室。そこは血が溢れている。だが虐殺されたわけではなく、たった1人の血が流れていた。
ピットを見渡すことができるその場所にガラスを突き破って突然針が現れたのだ。そしてそれは、世界最強のみを狙って刺した。
「………すまなかった……しぐ……れ……」
そう言い残し、千冬は倒れる。口から、そして刺されたところから血が流れていく。
それを頭で理解した真耶は悲鳴を上げたのだ。
「女尊男卑を助長させた世界最強の1人が消えた」
状況がわからない一夏に言い聞かせるように静かに話す智久。信じられないという顔をして一夏は智久を見る。
「世界は変わる。そのために僕は、闇と共に舞うのさ」
瞬間、智久の新たな機体「
その頃、外ではあらゆる回線がジャックされ始めていた。
時代劇を楽しむもの、メジャーリーグの中継を見ていたもの、パソコンの動画を見て感想を書いていたもの、電波が届く場所はすべて番組が変わる。
「みなさん初めまして。私の名前は「フォーリア」。実はみなさんに見てもらいたいものがあるのです」
すると画面が切り替わり、ある映像が流される。
女たちの会話が送られていて、女たちの顔は隠されているわけではない。その女たちがとある施設に入っていき、子供たちを虐殺していく。
誰かがコメント欄に気付き、「凄いCGだな」と入力していく。それで次々とコメントが入力され始めた。
やがて虐殺シーンが終わると、フォーリアははっきりと言った。
「どうやらみなさんはCGと思われているようですが、残念ながらこれは本当に起こったことです。では次にこのシーンを見てください」
そして今度は女性が子供に人工呼吸をしているシーンが流れる。何人かがその女性が「織斑千冬」であることに気付き、そのことに関してコメントが流れた。
「実は今年7月7日。情報規制されていますが、軍用ISの暴走事件がありました。その機体を止めるために生徒が奮闘し、非戦闘員を守ったために唯一戦えた時雨智久が出撃。しかし軍用ISはあまりにも強く、姉の威光でもらった織斑一夏とは違い、時間を稼ぎ続けた時雨智久はとうとう戦闘不能に陥りました。そこで救助をした織斑千冬が心肺停止状態に陥っていた時雨智久に人工呼吸処置を行いましたが、女権団が時雨智久の家族を「織斑千冬の唇を奪った」と難癖をつけ、虐殺したのです。先程の虐殺行為はつい5日前に行われたことでしたが、警察は3日と経たず引き上げました。それは何故か―――女尊男卑派の政治家並びに警察官が圧力をかけ、捜査を強制終了させたのです!」
突然の暴露。心当たりのある人間が冷や汗をかき始める。
「みなさんはこの状況をどうお考えですか? 彼はこれまで自分と同じ恵まれない子どもたちに娯楽を提供し、貧富の差をなくすため努力し続けました。これを聞いている人の中にも知っている人はいるでしょう。毎日新聞配達を行い、休むことなく働き続け、勉強をおろそかにせずに頑張って来たというのに。IS学園に入学させられた時もそうですが。強制入学は生きるために致し方ないこと。しかし彼はそれにめげず、もう一人の男性IS操縦者と比べられてもめげず、教員たちの虐めにも屈せず、わずかばかりの味方と共に戦い、否定してきた人たちを救ったのにこの仕打ちなのです。こんなことが本当に許されるとお思いですか!? こんな悲劇が、自分たちが産み落とした子宝にも関わらず簡単に捨て去る女たちを、本当に優遇しても良い存在なのでしょうか!? 確かに、世の中には男を認めてくれている女も存在します。しかしこういった考えをし、容赦なく虐殺を行える者たちを優遇し続けて良いのでしょうか? ましてや彼がしたのは、恋愛に現を抜かし、かたき討ちと称し、軍用機体を命令無きまま襲撃し、被害を拡大させた愚かな生徒たちの尻拭いをしたというのに」
その言葉に合わせて、箒、セシリア、鈴音、シャルロットのプロフィールが次々と公開されていった。
「この人たちは類稀な容姿を持ちながら、たった1人の男に恋をし、命令無視を行った織斑一夏の敵を討つために無断出撃をしました。結果、作戦は失敗し、二次、三次と災害を広げていった悪魔たちです。他国はこんな人間を代表候補生として選出しているのです」
画面に映る顔を見て、ある者は呪詛を吐き、ある者は否定する。
それを知ってか知らずか、フォーリアは言葉を続ける。
「篠ノ之箒。彼女は篠ノ之束の妹であり、つい先日、姉に専用機をねだった結果、無断出撃によるさらなる災害を起こしました。この人はその前から好きな相手を容赦なく木刀や真剣で攻撃を繰り返していました。次にセシリア・オルコット。彼女はイギリスのオルコット家令嬢であり、BT適性が高いという理由で機体を受領。しかし、初日に日本を侮辱し、それを謝りもしない。さらにはちょっとした事故で教員を押し倒す形になった男子生徒を容赦なく殺そうと何度も行動し、篠ノ之箒同様、暴走事件の被害拡大に務めました。次に凰鈴音。彼女もまた、セシリア・オルコット同様に男子生徒の殺害行動を起こし、暴走事件の被害拡大を率先して行った悪魔です。最後にシャルロット・デュノア。彼女は当初、男子生徒として性別詐称を行って入学し、織斑一夏を懐柔を行い、時雨智久を批判。また、前者3人同様、暴走事件の被害拡大を行った人間でもあります。本来ならば牢獄に入るべき女にもあるにも関わらず、平然とIS学園に通いました」
フォーリアの説明に合わせて次々とパネルが変化していく。
「こんな人間を、こんな性別を、本当に優遇するべきなのですか? 何故政治家は女性優遇制度なんてものを作ったのでしょう。ここ10年、少子高齢化は進んだのにも関わらず、何の対策も行いませんでした。男性のみなさん、本当にこれが正しいことなのでしょうか? 男を否定しない女性のみなさん。あなたたちも同じ目で見られても構わないのですか? こんな世界など―――消えることが正しいのではないのですか? そう思うならば今すぐ立ち上がりなさい!」
その言葉には魅力があった。そして支配力があった。
全員は立ち上がる。これまで冤罪で捕まった者たちも、常に虐げられた男たちも、そして男を否定しない女たちも。
「行動しなさい! 抗いなさい! 今こそ―――世界は正されるべきなのです!」
まるで操られるように人は立ち上がり、行動を起こす。
その様子を見ていたとある人物は、たった一言吐き捨てた。
「………ようやく、世界は終焉を迎えるか」
その女性は何故か―――笑みを浮かべていた。
こういうことは一度やってみたかった。
読者は離れそうですけど、やってみたかったんですよ。