以前のようにパッパと投稿することはできなくなりましたが、気長に待ってもらえると嬉しいです。
……まぁ、展開は「パッパ」よりも「キュピコーン」の方が擬音が近いですけどね(笑)
―――ドサッ
戦闘服に身を包んだ男性が倒れる。その相手をしていた虚はそのまま覆面を剥ぎ取り、銃を向ける。
「……あなた方の目的は?」
「悪いが依頼の内容は言わない事にしている」
「そうですか。では―――」
スタンガンで痺れさせ、弛緩剤を打ち込んで縛り上げる。男女間の身体能力を理解しているからできることだ。
「本音、そっちはどう?」
インカムの起動スイッチを押して妹に状況に尋ねると、
『だいじょうぶ~。ただ、電子機器がすべて故障しちゃってるよ~』
「………そう。じゃあ、引き続き警戒して」
『りょ~か~い』
スイッチを切った虚は少し考える。
突然のすべての電子機器の動作不良………なんてレベルのものじゃない。そして相手は自分たちに対処しきれていない感があり、答えることはしなかった。流石はプロかというべきだろが、虚だってその道のプロである。相手がどのような対応でどういう状況だったのかは把握できた。
(………とりあえず、今はお嬢様と合流しないと)
電子機器の不良による妨害と、物理的な妨害。その同時を察知した楯無は現在、智久を助けるために移動していた。
本来ならあれほどの騒ぎを起こしたならば退学は免れないはずだが、智久には色々と不可解な現象が起こり続けている。なので特例として学園にいるように理事長と学園長、そして生徒会長が承認したのだ。ましてや、人を殺す人間など退学もしくは彼の場合は研究施設に送ることは必要措置だが、被害者である織斑千冬の行動にも問題があり、なおかつ本人が反対したためだ。
(………智久君)
どういう原理かわからないが、急に身長が伸びて評判が上がった―――が、あのような行為で再び評判が下降したのは虚にとっては喜ばしいことだった。言うまでもなく、彼女は智久に惚れている。しかも、まだ彼の背が小さい時からだ。
初めは助かったことに喜び、そのお礼のつもりだった。実際持ち込んできたアイデアは非常識極まりないものだったが、智久や簪にしてみれば使いやすいのか違和感なくこなすこと、何よりも虚は智久の一生懸命さに惚れていた。もし急に意図が増えたなら、2歳の年の差や今年が就活もしくは受験をする虚にとっては大きなハンデである。さらに言えば、妹までも智久にベッタリなのだからかなり焦る。
(………どうにかして、同居することはできないかしら……)
溜め息を吐く虚は周囲を警戒しながら移動を開始した。
智久を中心に展開されたそれはすべての電子機器を無効化した。それはつまり、戦闘員の科学武器をすべて無効化したとも言える。
それを知らずか攻める速さを上げる智久はやがて壁すらも破壊した。
遠くから迫る弾丸を察知した智久はそこに右手を移動させて受け止める。
「……何なんだ……何なんだお前は!?」
「………うるさい。その質問よりもアンタが幸那を解放する方が先だ」
もう、チェスターを助ける戦闘員は遠くに配置した狙撃手くらいしかいない。それを理解しているのか、狙撃手は遠くから援護射撃するが、すべて智久の横を通り過ぎた。
「………」
智久はその方向を向いて手で銃の形を作る。だがその前に、智久の前に一人の老人が舞い降りた。
「そこまでにしなさい、時雨智久」
「…………退いて下さい。じゃないと、その蛆虫を殺せないじゃないですか」
本気だった。
すべてを拒絶する瞳。裏の世界を見てきた十蔵にとって見慣れたものだが、今まで苦労していたとはいえ平凡な部類に入る智久がそのような瞳をする必要はない。そう思ったからこそ、十蔵は智久の前を阻んだのだ。
「チェスター・バンクス。もし本当に配置しているというのなら、今すぐ兵を退かせなさい」
「………い、嫌だ」
絶命のピンチだというのに提案を拒否するチェスター。彼が言葉を続けようとした瞬間、智久の後ろから男が手を持ち上げ、引き金を引いた。
発射される銃弾。智久がそれに気付いた瞬間、視界が回った。
―――バタンッ
智久がもう一人と倒れる。そのもう一人は―――簪だった。
「簪ちゃん!?」
異常を感じた楯無が慌てて駆け寄る。それよりも先に血がこぼれ始め、それが智久の手についた瞬間、彼は弾けるように飛び、撃った相手の腕を砕け千切った。
「…………なきゃ………」
楯無、十蔵、そして楯無同様異常を感じた千冬も箒に連れられ近くにいたため、反応した。
「………殺さなきゃ」
瞬間、その場にいる全員はありえないものを見た。智久の周りには砂鉄が舞い、右手に徐々に剣の形を形成する。
そしてその剣を智久は腕を千切られた戦闘員に振り下ろそうとした瞬間、智久は無理やり引き寄せられ―――唇を重ねられた。
「!?」
「………」
なんと、その相手は簪だったのである。
智久はこれまで、自分に好意が向かっていることは察していたが、立場と夢のために恋愛することは考えてなかった。だからいずれ嫌われるだろうと思っていたその好意がキスとして向けられたことで脳を停止させてしまう。その結果、砂鉄の剣は散ってしまう。
そのキスが終わっても放心を続ける智久。その様子を見て十蔵は改めて言った。
「今すぐ引きなさい。それにもう気付いたでしょう? 彼が―――日本最古にして最強の暗部一族の末裔だということは」
「………何を馬鹿な。あの家族は娘に皆殺しにされたはず。生き残りがいるなど―――」
「そこにいるじゃないですか」
少し長い気がするが、未だに放心している智久を指して十蔵は言った。
「彼は異常帯電体質者。轟智久ですよ」
瞬間、タイミングを計っていたかのように智久はチェスターを睨みつけ、蛇に睨まれた蛙のように動かなくした。
すると、急にチェスターの懐から軽快な音楽が鳴り響く。智久は電話を取るように促すと、チェスターはできるだけ時間をかけて電話に出た。
『……私だ。こっちは今立て込んで………何? それは本と―――』
チェスターは智久が近くにいたことを思い出し、恐る恐る顔を見る。
「…………どうしたの?」
「―――いや、何も」
様子がおかしいと思ったのか、智久は電話を奪って英語で話しかける。
『そっちで何があったの? 僕? 僕は時雨智久。………じゃあ、あなたの依頼主を殺すよ。そうすれば君はタダ働きだ』
そう言いながら、智久は狙いを澄ませるようにチェスターを睨む。たったそれだけ、ましてやかなり歳が離れている少年に睨まれただけで震えあがったチェスターはもう少しで漏らしそうになった。
電話の相手は中々答えない。業を煮やした智久はチェスターを消そうとした瞬間、彼は叫んだ。
『言え! 私は死にたくない!!』
かなり大きな声だった。それ故に届いたのだろう。相手は言葉を続ける。
『………君にとっては残念なことだが、先程君の家族は何者かにさらわれた』
瞬間、チェスターの電話機は握り潰された。
智久はチェスターの腹部を蹴り上げた。
「………余計なことを………しちゃってさ!!」
今度は殴り飛ばす。勢いよく壁に叩きつけられたチェスターは意識が朦朧とするが―――腹部をまた蹴られ、無理やり意識を取り戻させる。
「―――もういいや。君、もう死ねよ」
「―――え?」
チェスターが気が付いた時、眼前に足が迫っていた。咄嗟に両腕を上げたチェスターだが、彼がダメージを与えることはなかった。
「………やれやれ。どいつもこいつも雑魚の分際で余計なことをしてくれる」
篠ノ之箒はその場で両足をついてしまった。この中で剣道であらゆる実績を持つ彼女も所詮は一般人であり、千冬と違ってこう言った戦闘経験はない。故に足が震えついてしまうのは仕方ないだろう。楯無も、そして虚もこういったものを何度か体験しているからこそ耐えられているが、それでもギリギリだ。簪も本音も油断すれば事切れる。それほどまで濃密な殺気が2人から放出されているのだ。
「………ねぇ」
「退きませんよ」
「そう。じゃあ―――あなたも死んでよ」
十蔵は瞬時にグローブを装着して迫ってくる拳をいなす。一瞬痺れたが、すぐに体勢を立て直して智久の腹部を思いっきり殴った。
たった一撃。それは十蔵にとって大きな意味を持っていたのだ。
智久のような人間と戦った時、手数で応戦するという行為は即ち自分の死期を近付ける。下手すればあっさりと狩られてしまうのだ。
だからこそ十蔵は、これまでの人生で編み出した必殺の一撃を躊躇いなく智久に打った。
智久は想定していなかったのか、まともに食らったため力なく倒れる。
「菊代、今すぐ救護班を呼んで彼の介抱を。織斑先生や更識さんは全員ですぐに学園のセキュリティの普及をお願いします。そして―――」
段々と優しくなったが、それも束の間。チェスターの近くに踵が落とされて床が破壊される。
「テメェは今すぐ帰ってとっとと行方を探せ。今回のことはそれで水に流してやる。それができないって言うんだったら―――テメェの祖国が文字通り消し飛ぶだけだ」
その言葉で何かを察したらしいチェスターはさっきまでの威厳はどこへやら、一目散に逃げ出した。
その数時間後、智久宛に幸那が無事であるがしばらくは返すことができないといった内容の手紙が何故か鳥型のロボットで配達された。乗せられている写真と使用されているカタログから、とりあえず無事だということが確認された。
■■■
翌日。十蔵さんに殴られた僕が目を覚ました時には、何事もなかったように破損した箇所は修復されていた。IS学園の技術力が底知れない証拠だと思う。
しばらく歩いてわかったことは、僕に対する態度は、最初とは180度変わっていた。女生徒の一部は僕を恐れるように道を開け、目を合わせないようにしている。そして何よりも驚いたのは、夏休みだというのにほとんどの生徒が帰省していない。そして何故か、僕に対する処分がないということだ。
そんな疑問を抱えていると、更識先輩が僕を生徒会室に呼んでくれたので聞いてみた。
「確かに、今の時雨君は危険人物としてIS関係者には危険視されているわ。でも、その前にあなたは色々してくれて、ISを使用するということがどれだけ危険かをしっかりと理解してくれている。だから私たちは信頼の証として自由行動を許可することにしたの」
「……よく委員会が許可しましたね」
「今回のことで危機感を覚えたんでしょうね。操縦者の技量はともかく、白式を奪い、第三世代機を2機も完全に破壊し、紅椿を行動不能にした。実際、今以上に時雨君の所属は議論されているわ。今は白式を所有しているということで倉持技研に所属するための手続きが行われようとしているけど、その手続きは時雨君がいないと話にならない。………まぁ、倉持技研は解体されるかどうかってところだけど」
「…僕が寝ている間にそんなになっていたんですね」
まるでハムスターが回している車輪のようだ。………って、
「倉持技研が、解体……?」
「………時雨君は、今回の件はどこまで知っているのかしら?」
「フォーリアが大々的な発表したってことぐらいは」
僕はそのアレンジをしたんだけどね。
「その件でイギリス、中国、フランスはダメージを受けたわ。特にフランスは性別偽装を行ったことも発表されてしまったし、ISが強奪されたって話も聞くわ」
「………だとすれば厄介ですね。僕らのようなひよっこならスペック差で抑えられそうですが……」
「国家代表級の操縦者の手に渡ったなら、その限りではないわ。だからこそ、お願いしたいことがあるの。できる限り、闇鋼のスペックデータを寄越せって言うつもりはないけど、どういうことができるのか私に情報をくれないかしら?」
予想外のことを言われて僕は驚きを隠せなかった。
「私がどれだけ酷いことを言っているか自覚しているわ。でも、私は腐っていようともここの生徒を守る責任はあるの。そしてこれからの戦いは私だけじゃカバーできない。悔しいけどね」
「………だから、僕を駆り出すってことですか」
「酷なことを言っているのは自覚しているわ。でもお願い。本当にいざという時は力を貸して」
そう言って更識先輩は僕に頭を下げてきた。
「頭を上げてください。そんなことしたって僕は―――」
「私のポケットマネーで報酬を払うつもりよ。………それとも、体の方が良いかしら?」
「け、結構ですから!」
内心、歓喜したのは言うまでもないけど。だって僕は思春期男子だしね。
「と、ともかく僕は金輪際戦いませんから! 専用機があろうとなかろうと関係ありません!」
「そ……そう……?」
全力で否定すると、驚いてから悲しそうな顔をする更識先輩。は、ハニトラなんか効きませんよ!
「……それに今、そういうことをする気なんて起きませんし」
「…………そうね。ごめんなさい。不謹慎だったわ」
「別に良いですよ。それがあなたなりに僕を元気づけようとしてくれた結果でしょう? ……全然効果なかったけど」
最後にあえて言葉を付けてそう言うと顔を引き攣らせる更識先輩。そこで僕はずっと言いたかったことを言った。
「……ところで、先輩は轟本家がどこにあるかって知ってますか?」
「………ええ。でも、入ることはできないようになっているわ。おそらく財宝を奪われないための最後の防衛装置、ね。でもあなたならそれが可能かもしれない」
「……でしょうね。まぁ、例えそうじゃなくても無理やり押し入りますよ」
「もし危ないと思ったら、その時はISは絶対に使って。あと、轡木さんに許可を取ってから行ってね」
「わかりました」
そう言って僕は「ではこれで」と言って部屋を出ようとすると、後ろから抱き着かれた。
「………あの、更識先輩?」
「ごめんなさい。あなたを勇気付ける方法はこれくらいしか思いつかなかったから。……その、絶対帰ってきてね。簪ちゃんのことも含めて色々と聞きたいことがあるから」
良いムードはどこに行ったのやら。一瞬にして辺りに殺気が充満し始める。
「な、何もしてませんよ! 俺はまだ童貞です!」
「おかしいと思ったわ。一緒に寝ようとしたら「泊まり」だし、まだ小さいのに親の随伴なしだし」
「あー、もう! そんなことで明らかに好感度アップイベントをぶち壊さないでくださいよ! これゲームだったら良い雰囲気で全プレイヤーが興奮するレベルですよ!? 女でも相手を落とすテクの1つなんで絶対に覚えるように!!」
「だってこれ、現実だもん。それに私、婚約者は特殊な方法で決めるから問題ないわ」
「可愛く言ったって効果ないですから!!」
なにはともあれ、僕は十蔵さんに許可をもらって自分の本当の家に戻った。
………ところで、その特殊な方法ってなんだろ?