智久が雫と出会っている頃、IS学園の応接室では珍しい組み合わせが応接室で顔を合わせていた。
「………つまり、あなた方が倉持技研を買収した、と?」
「ええ。なので更識簪さんにも我が社に移籍していただきたいと思いまして。どうでしょう? 我が北条カンパニーには優秀なスタッフが揃っており、1週間で打鉄弐式を完成して見せます」
「…………」
更識家の姉妹は、ギクシャクしていることもあって会話回数はかなり少ない。その姉妹が同じ仕事を生業としている北条とこういう形で面談したのは、簪が所属していた倉持技研が北条カンパニーに買収され、移籍しないかという誘いに来たためである。
「倉持ならばともかく、あなた方に簪を渡すつもりはありません」
「………もしや、人質として確保している、なんてことは「思っていますが?」あ、そうですか……」
主に問答をしているのは楯無であり、簪は終始黙っているだけだった。
「………確かに、そう見られるのはわかります。表はともかく裏は敵同士。そんなところに大切な家族を渡したくないという気持ちはこちらにも理解できますが、当然、メリットだって存在します。我が社はこのたび、倉持技研を買収した理由として、時雨智久が白式を獲得したからです」
「………まさか」
何かを察したような声を出す簪。
「ええ。我々は先程、正式に通達しました。「織斑一夏ではなく、時雨智久を正式な白式の操縦者として迎え入れる」とね」
北条カンパニーの現社長であると同時に、北条家の当主である北条
「ここからは暗部の長としての提案だが、もし良かったら彼女はいつでも抜けれるようにすればいいのではないだろうか?」
「………本気?」
「ああ。本気だ。それに彼女には通常の女にないものがある。だからこそ、我々は獲得に動いた。それだけだ」
そう言われ、楯無はため息を吐いた。
■■■
高級車というのは千差万別だけど、中にはシャンパンなどの酒類がある。もちろん、小さい冷蔵庫付き―――なんてイメージがあるけど、こればかりは予想外だ。
確かに冷蔵庫が付いてるけど、中には未成年者しかいないためかあっても炭酸飲料。だけどそれよりも気になるのは、
「あの、すみません。流石に公共道路でこういう行為はどうかとは思うのですが……」
「お気になさらず。それに、この車やベッドには特殊な処理を施しているので、走行中はあまり揺れを感じないようになっているのです。……だってこれ、本当は接待用ですから」
メイド服姿なのにガチの首輪をつけ、僕の身体が拭かれているこの状況だ。そして今、聞きたくもない説明が僕に届いた気がする。せ、接待? まぁ、企業だしそんなこともするよね。………えっと、もしかしてこの子が……?
なんて思っていると、僕の思考を読んだのか北条さんは返してきた。
「ちなみに私はまだ経験ありません」
「聞いてません。聞いてませんよ僕は」
慌てて耳を塞ぐ。上半身は裸だけどまだ言い訳はつくはずだ。
「構いませんよ、智久様」
「……あの、その「様」を付けるのは止めてもらえませんか?」
「いいえ。あなたはこの日本で……いえ、世界で本来「王」と呼ばれる存在よりも敬意を示されるべきお方。私たちはそれを知っているからこそ、そのように振舞っているだけです」
「………いや、でも―――」
「あまり駄々こねると、つい智久様の初めてを奪ってしまいそうですわ」
「お願いなので遠慮してください」
確かに彼女は良いところの育ちだってのは私でもわかってたけど、これはかなり予想を上回ってる。……っていうかこの子、中学生だよね? 何でこう、積極的なの? あ、もしかして人間にも発情期というものが存在しているんじゃ―――
(いや、ないね)
気持ちを切り替え、僕は早速話を進めることにした。
「……それで、実行犯を捕まえたっていうのは本当なのかい?」
「………女権団本部……いえ、日本支部はフォーリアと名乗った少女によって革命の被害で解散を余儀なくされたことはご存知ですか?」
「うん」
「そうですか。では、詳しいことはこの際省略させていただきます。その革命が起こっていた時、智久様が白式を奪ったことを確認した我々は、すぐに実行犯の確保に向かいました」
目的はたぶん、僕を確保するためだろう。
倉持技研には欠陥ってわけじゃないけど、更識さんの機体を放置したというあまり突かれたくないであろう欠点がある。だけど、今までどこの企業も倉持技研を買収し、男性操縦者の機体を研究する機会を得ることができなかった。でも、僕が白式を奪ったことで「織斑千冬の弟」としてのアドバンテージは完全に消え去っただろう。
これまで、確かに彼にも活躍の機会はあった。事実彼が事件を解決したケースは存在する。だけど、僕がそれを超えることを平然と行った。
まず1つ、僕の機体が打鉄とラファール・リヴァイヴの融合体程度の荒風から、全く新しい機能を持つ闇鋼へと変化したこと。そして、その性能を生かして第三世代機を2機潰し、第四世代機を破壊した。さらに言えば、他人からISを奪うことができる能力も持っているとなれば、紅椿よりもその価値は上がる。いやもう超えたと言っても良いだろう。
ISの専用機を持つということは、かなり便利になると同時に制約も課せられる。まず提供された企業の威信を背負い、許可を出した国の期待を背負うことにもなる。そしてもう1つ。専用機持ちは、他の機体を使用することができない。………いや、厳密には使えなくはないが、それでも専用機に比べると同じスペックでもかなりの差が生じるようで、専用機持ちが負けるケースは珍しくないのだ。それを感じさせなかった織斑先生は本気でおかしい。たぶん化け物だろう。……自分で言うのもおかしいけど、僕にも化け物になるスペックは秘めているけど今はまだ一般人だ。少なくとも、まだ能力を満足に扱えない内は化け物レベルにはなれない。
「関東から出ていた彼女らは最近でき始めた地下街に逃げ込んでいました」
「地下街?」
「はい。数日前に男権団が開放した地下活動区域です、男権団はそう言ったところの支配を伸ばし反逆を行おうとしていたようですが、革命で計画が台無しになり、必要な物を回収した後に放棄した場所のようですが………」
「それが女たちが使ったのか。面白い冗談だね」
すると車が止まり、前の窓がノックされた。
「お嬢様。致している所もう訳ございませんが、会社に到着しました」
「わかりました。では智久様」
「………わかった」
僕らは車を折り、まずセキュリティチェックを受けてゲストパスをもらって中に入っていく。
しばらく歩いていると、北条さんは足を止めた。
「……ここです」
「……そう。ありがとう」
まるで体育館へ続くタイプのドアを押し開けると、狭い部屋の中に女性たちが縛られて座らされている。その周りには物騒な人たちが囲んでいた。
「………お前が、時雨智久……いや、とどろ―――」
「時雨で構いません。僕もそのつもりで来ましたから。それで、彼女らですか?」
「そうだ。だがまだ少し待て」
するとドアが開き、整った顔立ちをした男性が入って来た。一言で言えば、物静かなオジサマって感じだ。
「どうやら私が最後のようだな。…それで、君が時雨智久君か。初めまして。私は北条政道というものだ」
「時雨智久です。それで、彼女らが?」
「そうだ。君は彼女らの処遇を決めてもらいたいと思う」
処遇、か。
僕は先に政道と名乗った男の人に言った。
「ありがとうございます。ですが、僕はまだあなたたちの物になるつもりはありませんよ」
「………娘にはどういう風に聞いているか知らないが、これは私たちの復讐でもある。既に古き存在とはいえ、我が一族を殺した愚かな存在に制裁を下すに行動したまでだ」
「…そうですか」
だとすれば、断ることはできると踏んだ僕は笑みを作って一番近くにいた人に質問した。
「何の用よ、この異端者!」
「……あなた方が僕と織斑千冬が接吻したことで北条院を襲ったそうですが、理由はそれだけですか?」
「あ、当たり前じゃない! どういうつもりか知らないけど、ちょっと背が伸びただけで調子乗ってんじゃないわよ、屑が!!」
「……屑、ですか」
僕は笑みを作って彼女から離れて質問した。
「あなた方の中で誰が一番強いですか? もしその人が僕に勝ったら、僕は今後一切あなた方に手を出さない。そして解放することを約束しましょう。ただし、僕はこの企業の中にいるので白式を使うことになりますので、そちらは2人でどうでしょう?」
「びゃ、白式……? 何でアンタが白式を使えるのよ!?」
「確かそれは千冬様の弟の機体だったはず」
「彼には過ぎた玩具だったので僕が奪ったんです。まぁ、白式を使うのはこれで2度目なので、ちょうどいい戦力差になりますね」
そう言ってから僕は社長に視線を送った。
「………ちょうど、我が社に2機ほどISが開いている。そちらを使え」
「ありがとうございます。では僕は準備ができるまで待機しておきますので」
「……場所は中央試験場だ。雫に場所を教えてもらうといい」
「わかりました」
お礼を言った僕は外に出ると、メイド服から私服にしたのか、ワンピースにカーディガンを羽織る北条さんがいた。
「では、私に付いてきてください」
「……わかった」
しばらくただ彼女の後を追っていると、北条さんは唐突に振り向いてヘッドバットしてきたので反射的に抑えた。
「な、何するんですか~」
「ごめん。急に頭突きされそうになったから……つい……」
「頭突きではありません。キスしようとしていたんです」
「………ああ、そう」
試合前だと言うのに僕は脱力させられた。
「やっと元に戻りましたね」
「へ……?」
「ずっと思っていたんです。智久様が無理をしているのではないかって」
唐突にそんなことを言われて僕はため息を吐いた。
「そんなことないよ。僕は至って普通だ」
「……普通だと言うのならば、どうしてあなたから彼女らに喧嘩を吹っ掛けたんです?」
「彼女らが、僕が倒すべき敵だから。それじゃあ不満?」
「ええ。今のあなたを見れば、間違いなく幸那は自分を責めますよ」
僕は彼女を追い抜かす様にして距離を開けた。
「智久様……」
「大丈夫。さっきこの施設の地図は記憶したから1人で行けるよ。………今は1人でいたいんだ。だから、追いて来ないで」
そう言って僕は少し早足になり、中央試験場の控室に移動した。
「ホント、確かにあの子の言う通りね。私が言うのもなんだけど、あなたらしくないわよ」
「唐突に出てくるなよ、フォーリア」
「悪かったわね。でも、白式で良いの? 格差を見せつけるなら闇鋼で倒すべきじゃない?」
「確かにその通りだね。でも、それじゃあ彼女らを苦しめることができない。ちゃんと、苦しんでもらわなきゃ」
そのために僕は試合を挑んだから。
僕はすぐに白式の設定画面を出す。十蔵さんに倒されてからほとんどすぐにIS学園を出たから白式の設定を弄っていないんだ。
目当ての欄に来た僕は、あることに気付いた。
「………零落白夜が、ない?」
■■■
北条カンパニーがIS事業に参入したのは昨年のことだった。辛うじてISコアを2個手に入れられた状態だったため、開発協力や買収などの手法を用いてコアの確保に動いていたため、コアを2個だけなら用意することはできた。
当然、テロリストが乗るのだから警戒態勢は整えている。
「……にしても、あの小僧はどうしてISバトルを仕掛けたのでしょう?」
「さあな。私にもわからん」
ため息を吐く政道。すると後ろのドアを開き、雫が入ってくる。
「そちらの準備はできましたか?」
「ああ。そっちは?」
「わかりません。何か考えがあるようですが……それよりも―――何故その人たちが生きているのですか?」
急に視線を向けられた女たちは全員が震え始めた。
今は行方不明になっているがあの事件は幸那も巻き込まれている。元は同じ男に思いを寄せる恋敵ではあるが、同時に親友であるため雫は彼女らを見た瞬間に引き金を引いていた。辛うじてかすった程度だが、父親に止められなければおそらく全員殺していただろう。
「まだ殺す必要がない。そう判断しただけだ」
「………いざとなれば私が殺します」
「それは別の奴にやらせる。お前はお前がするべきことをしろ」
言われて雫は舌打ちし、それを女の1人が笑う。中ではほとんど同時に3人が出てきてすぐに試合を開始した。
「……それにしても、本当に馬鹿ね。よりにもよってあの2人を相手に選ぶなんて」
「………何か問題でも?」
「あの2人はね、代表候補生の中でもかなりのやり手だったのよ。だけどあの姉の七光りで手に入れた更識簪を虐めたってだけで候補生を辞めさせられた実力者コンビよ。時雨智久が勝てる確率なんて1%もないわ」
事実、ラファール・リヴァイヴを纏う2人は智久を相手に圧倒している。智久は回避に徹していて、中々反撃しない。
「―――随分とお粗末な計算ね。そんなのでウチの智久相手に勝った気でいないでもらえないかしら?」
瞬間、全員が声が下方向に銃を向ける。唐突のことに拘束されている女たちを除いた全員が驚きながらも冷静に声がした方向に銃を向けた。
「銃ごときで私は死なないわよ?」
「……反逆の乙女か。何の用か?」
「え? 私って今そんな大層な名前で呼ばれてるの?」
意外な呼ばれ方をしたからか、動揺したフォーリアは慌てた顔をした。
「そうだな。まぁ、あそこまでの大演説をされては誰もがそう思うだろう」
「いや、そうだけど………それはそうと、試合を見なくていいの?」
そう言ってフォーリアは画面を指差す。中では智久が《雪片弐型》で相手の喉を3回連続で突き、吹き飛ばしていた。
参考までに言っておきますと、彼女らが虐めた相手の力は強大です