IS-Lost Boy-   作:reizen

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ep.51 ドキドキ! プールデート!

 翌日。僕は何故かウォーターワールドの入り口前で待っていた。本当は一緒に来たかったけど、少し準備する必要があるからって10時ぐらいに集合だという話だ。

 

「……それにしても」

 

 カップルが多いな。

 いや、男女で構成されている組が多くなっている。これもあの演説と女尊男卑の崩壊のおかげか。こうして平和な日常が戻ったっていうなら、それはそれで悪くない。…………という気持ちは実は1割ぐらいしかないけどね。

 

(………ともかく、今日は気持ちを切り替えて遊ぶか)

 

 IS学園に入学してからというもの、全然遊んでいない。息を抜いたとしても誰からも非難されないだろう。

 

「しぐしぐ~」

 

 聞き覚えがある声がした方向を見ると、そこには女子高生がいた。…いや、元々女子高生なんだけど、普段の幼い言動とかでそう言ったことを忘れていた。………だからこそ、もしかしたら僕は平静を保っていたのかもしれない。

 

「ごめんね。待った?」

「全然。僕も今来たところだから」

 

 ……実のところ、僕がIS学園を出たのは3時間前だ。

 ここから電車を乗り継いで行けば1時間もかからずに着くことができるけど、僕は敢えて徒歩で移動した。

 僕だって何もただ帰ってからのんびりしていたわけじゃない。本音さんに無理やり約束させられた後すぐに荷物を置いて特訓しているくらいだ。

 ともかく、今は何かしていないと逆に疲れる。……たまには休まないといけないって思うけど、昼寝すらできないしね。

 

「じゃあ、行こうか」

「うん」

 

 それにしても、ワンピースっていうのはまた珍しいな。しかも少し胸が目立つ……だから、行くのはプールじゃなくて服屋だ。

 

「しぐしぐ、プールは目の前―――」

「今はそんなことよりも夏用カーディガン!」

 

 さっきから視線が向けられていることに気付いてほしい。それが本音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 服を着替えて、水着姿になった僕は本音さんに引っ張られる形で流れるプールをグルグル回ってた。

 

「ねぇ本音さん、そろそろ僕はあっちのプールに行きたいな」

「……しぐしぐ?」

「すみません」

 

 どうしよう。本音さんに勝てる気がしない。というか笑顔が怖い。

 というか、どうして25mのプールに行かせてくれないんだろう。僕はただ遠泳をするために行こうとしているのに。

 

「しぐしぐ、今回のこのお出かけの趣旨をわかってないでしょ」

「流石にそれくらいはわかってるよ」

「……じゃあ、言ってみて」

「トレーニング。最近まともなのをしてな―――」

 

 手刀が飛んできたので、僕はそれを受け止めた。

 

「しぐしぐ、今日はここに遊びに来ているんだよ」

「……いや、でもね」

「…だって最近、ずっとしぐしぐは戦い続けているから。それにあんなことがあったし、たまには息抜きしないとダメだよ」

 

 そう言われた僕は一瞬言葉を失った。けど、すぐに正気に戻って本音さんの頭を撫でる。服の効果で少し大人っぽく見えたけど、やっぱり本音さんは本音さんだ。

 でもワンピースは少し早いよね。いつもは7月でも比較的大き目なパジャマとか着ていたから寒がりな体質なのかと思ったけど、臨海学校の時みたいにキグルミに近いパジャマじゃなかったし。

 

「そうだね。じゃあ、今日は一杯遊ぼうか」

「うん!」

 

 思わず抱きしめそうになったので、理性でなんとかセーブする。

 そもそも声からして可愛すぎるし、本人はその気はないだろうが背が低いのに出ているところは出ているから地味に周りからの注目浴びてるし。それに以前オルコットさんが来ていたパレオビキニだし。ダメだ。少し混乱してきた。

 

「……なあ、あの男殺していい?」

「モテる男、死すべし」

「更衣室で殺るか」

 

 ワー、男からの嫉妬による殺意って新鮮ダナー。このところ、女からの殺意とかならあったけど、女尊男卑が無くなっている今の情勢だと、こういうことで殺されるのかな。

 なんて考えていると、感じたことがある気配を感じて僕は辺りを見回した。

 

「しぐしぐ?」

「………あ、ううん。なんでもない」

 

 まさか、あの2人が帰ってきた、なんてことはないはずだ。機体を壊したことと無断出撃でこってり絞られているか絞っているのどっちかだから。

 

「ねぇ、しぐしぐ。あれ行こう?」

「あれって……」

 

 本音さんが指を向けた先には、ウォータースライダーがあった。そう言えば、入り口に「世界最長、IS技術を応用したハイスピードスライダー」って触れ込みで書かれていたっけ? 今いるのは流れるプールだけど、時折カップルや女同士がトンネルの中でも滑っている音が聞こえた。

 ちなみに世界最長のウォータースライダーは500mあるようで、なんとジェットコースターのように1回転するようなものが存在している。いくらIS技術があるからって無茶だろうというのが本音だ。

 

(………ま、でもなんとかなるか)

 

 いざという時はISを使えば事故も回避できるし、その事故も起こっているわけじゃないから、安全と言えば安全だろう。

 

「じゃあ、一周してから行こうか」

「うん」

 

 少し楽しそうにする本音さん。僕は理性で欲望を抑え続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人は一周し終えると、プールから上がってウォータースライダーの方へと移動を始めた。

 列は長いが距離も長いこともあり、ある程度行ったところでスタートさせているのであまり待つこともない。

 

(……なるほど。専用の浮き輪を使っているからどれだけ重くても速度は変わらないし、7個くらいなら上昇スピードが速い輸送手段を使えば回せる。良いアイディアだ)

 

 そんなことを智久は思いながら物体を観察している。だが本音は気が気ではなかった。

 さっき上がる時に、智久が先に出たと思ったら手を差し出し、今も手を繋いでいる。智久にはその気はなかったとしても、本音にとっては好きな人と手を繋いでいるのである。

 悶々とした状態で移動していると、係員に声をかけられた。

 

「お客様方、浮き輪はどちらを選ばれますか?」

「ふぇ?!」

 

 別のことを考えていたということもあり、変な声を出す本音。智久はそれに驚いたが、すぐに応対する。

 

「じゃあ、密着している方で」

「わかりました。お幸せに!」

 

 その言葉に本音は慌てるが、智久は構わず本音の手を引いてゲート前に浮き輪を乗せて座り、本音を座らせた。その時点で本音は逃げ出しそうになったが、言い出したのは自分のため大人しく座った。

 

「じゃあ、発進しまーす」

 

 陽気な係員の声と共にゲートが開くと、浮き輪は自動で滑り始めた。

 一定のスピードで進む浮き輪。そのスピードは意外にも早かったのか、智久は次第に本音を強く抱きしめ始める。

 

 ―――むにゅ

 

 すると、智久は本音のお腹に触れたことで顔を赤くした。そのことに気付かない本音は本音でさらに顔を赤くする。しばらくして滑り終わったが、智久はトイレに行くことを伝えてすぐにその場から去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさか、生まれて初めて便器内に鼻血を限定的に出す行為をすることになるとは思わなったな。……っていうか、女の子の肌が気持ち良すぎて僕の理性が保っていられなくなってきてる。

 

(……こんな気持ち、本音さんだから抱くんだよね)

 

 もしこれが不特定多数の女の子に抱くとしたら、僕は色々と終わってしまう。

 なんて思いながら外に出ると、やっぱり感じたことがある気配がある。………って、何であの2人がいるの?

 

(もう帰って来たのか。本当によく帰ってこれたね)

 

 たぶん、会ったら罵倒しつくすかもしれない。ま、それはそれでいっか。それほどまでのことをしたんだし。全く、大した実力もないくせに色恋沙汰に現を抜かさないでもらいたいよ。………それは僕もだけどさ。

 

(そーだ。そろそろ喉も乾いた頃だし、ドリンクでも買っていこう)

 

 防水性の財布をチャックで密封されているポケットから取り出して移動する。後ろからどういう意図があるのか知らないけど2人が尾行してきた。今は気にせずそのまま行動しておく。手ごろな男でも捕まえて後ろの2人を押し付けよう。どうせなら豚小屋に裸で閉じ込めたいけど、人間相手なんだから多少はマシだと思ってほしい。

 ドリンクを買って待ち合わせ場所に戻ると、本音さんと見覚えがある女たちが男たちに絡まれていた。……女が4人いるから、数合わせで4人グループの男が移動したんだろう。

 

(………ちょうどいいや)

 

 僕は気配を殺して近付き、声をかける。

 

「すみません、ちょっと良いですか?」

「あ? 何だお前」

「俺たちは今取り込み中だ。話なら後で―――」

「実は、あそこの植木の所に女の子が隠れているんです。あなたたちのファンだ、とか言っていましたよ」

「「「「何ぃッ!?」」」」

 

 今まで女尊男卑だったこともあって、やっぱり性的にも抑圧されていたんだろう。凄い食いつきだ。

 

「さっき目撃したんですけど、美人の金髪の西洋人と可愛い中国系の女の子でした。是非ともお近づきになりたいって言ってたので、皆さんから声をかけてあげてください」

「わかった。ありがとな」

「よっしゃー! 行くぜ!」

 

 計画通りに事が運んだ。後はあの2人を処分できれば願ったり叶ったりだ。

 

「ごめんね、本音さん。これ、お詫びのオレンジジュース」

「ありがとー。ところで、さっき言ってた女の子って―――」

「もちろん、ゴミ金髪とアホ貧乳だよ」

 

 そう言うと、何故かみんな顔を引き攣らせる。さて、僕は高みの見物をするか。

 

『ちょっと、何よアンタたち!?』

『わたくしたちはあなた方に用はありませんわよ!?』

『そう照れんなって。俺たちと遊びに行こうぜ』

『ちょうど良いところ知ってるんだ』

 

「ところで、君たちは一体何の用?」

「たまたま遊びに来ただけよ。本当だったら本音も来る予定だったけど、急に断ったと思ったら来てたから話してただけ」

「へー」

 

 使い者にならないどころか足手纏い風情のくせして、随分と余裕だね。それとも、操縦科を諦めたのかな?

 でもバッタリ会ったってだけみたいだし、別にいいかな。

 すると向こうでのやり取りは終わったのか、殺気を放ちながら2人がこっちに来た。

 

「一体どういうつもりですの!?」

「そうよ! あんな知らない男をけしかけてさ!」

「別に? 僕はただ、君たち雑魚共の下手くそな尾行がウザかったのと、本音さんに迫っていたことが気に入らなかったから同士討ちしてもらいたかっただけだよ?」

「………時雨君の性格が変わってる?」

 

 まぁ、あれだけのイベントが続けば誰だって性格ぐらい歪むよ。

 

「し、信じられない! そんなことで普通けしかける!?」

「………自業自得なのにまともな判断を下せず命令違反をした人たちが言っても説得力ないよね?」

 

 そう言うと2人は言葉を詰まらせる。言い返してくると思ったけどそうしなかったのはどういうことだろうか?

 

「何のために僕を尾行していたのか知らないけどさ、そんなことをしている暇があるなら少しでも操縦技術を高めたら? 今の君たちは精々壁役にしかならないよ」

「何ですって!?」

「事実じゃないか。あっさりと僕に敗北したくせに。それとも何? 「あの時は本気じゃなかったからもう一度勝負しろ」とでも言うつもり? 別にいいけど、今度こそ僕は君たちを潰すよ。二度と動けない方が織斑君の同情も引けるんじゃない?」

 

 どうせ、ろくな手段を持っていないんだし。だからこそ勝手に暴走したり平然とISを展開して攻撃したりできるんだし。

 

「アンタ、何を言って―――」

「それにしても、君たちの国そのものにも期待外れだったね。軽く数年は幽閉して2、3人くらい産ませてから戻すと思ったけど見た感じそれもしていないし、本当に期待外れだよ。本当に」

 

 何か反論しようとするけど、すぐに口を閉ざすオルコットさん。本音さんと合流した3人も少し引く。

 

「しぐしぐ、行こ?」

「そうだね。こんなゴミ共といたところで無駄に時間が過ぎるだけだし」

 

 本音の手を引かれるがまま、僕らはその場から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ昼時だということもあって、智久と本音はフードコートで少し早めに食事をしている。その最中、本音は内心ため息を吐いた。言うまでもなく智久の事だ。

 さっきまで普通だったが、2人が現れてからというものかなり不機嫌だ。本当なら楽しいデートになるはずなのに、余計なことをしてくれた2人がどうしても許せない。

 

(もう、余計なことをしないでよ……)

 

 せっかくいい気分だったのに、ナンパといいあの2人に台無しにされたことといい、本音の気分も悪くなる。

 食べながら談笑も楽しみだったのにと心の中で不満を漏らしていると、智久がある部分に釘付けになっていた。視線を追うと、近くの柱には大きなポスターにこう書かれていた。

 

『本日午後1時から水上ペアタッグ障害物レースを行います。参加希望者は12時までにフロントにお越しください。優勝賞品はなんと沖縄5泊6日の旅をペアでご招待!』

 

 それを見た本音はすぐに時計を確認する。今の時間は11時半すぎ。今から行っても間に合うはずだと思った彼女はすぐに食事を入れて智久の腕を掴んだ。

 

「え? どうしたの!?」

「行こう! 沖縄に!」

「……は?」

 

 わけがわからないという風な反応する智久に構わず、本音は力技で智久を引っ張った。

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