改めて闇鋼を調べてみると、やはり予想以上の……下手をすれば福音すら超えるスペックが備わっていた。
まずは機動力を向上する可変式のウイングスラスター。しかもそれは一時的に残像を残せるようになっていて、敵を翻弄することができる。次に右腕に装備されている大型のクロー。これはレールガンにも変更することができ、不意打ちを食らわせることができる。さらにありがたいことに、非展開時は腕と一体になっているので大型ビームライフルを展開しても干渉しない作りになっている。
さらに左手首にはシールドとビームソードが複合されているバックルユニットもあり、シールドは弾丸を弾くだけでなくエネルギーを吸収できるようになっている。………つまり、オルコットさんのエネルギー兵装は完全に封じたも同然だ。
そんな紅椿なんて目じゃない超兵器を持った僕は、今とある問題に悩み中だ。
(……同居人が可愛すぎて困る)
あのプールの一件で僕にますます懐いてしまったらしい。帰ってきた時はお姫様抱っこで帰ってきたことに騒がれて最初はギクシャクしていたけど、そんなものはたった数時間で終わった。今では普通に一緒に寝ている。うん。高が高校生の分際で何をしているんだ、僕は。
「………って思ったら、今度はこれなんだ……」
流石は姉妹。とても柔らかいです。
…………もしかしてこれは何かの陰謀じゃないかな。
そうじゃなかったら男にとってこれほど幸せな状況はない。虚さんの胸部に布越しに触れられて、さらに抱かれて寝れるなんて……。
(………とりあえず、今はこの状況から離脱しないと)
そうじゃなかったら、僕の理性が持たない。ただでさえこういう状況は報道されたら「そういう関係になる」と誤解されないようにしているのに、いやでも、虚さんだったら良いお嫁さんになりそうだし。あれ? これ結構マズくない?
なんて考えていると、後ろが少し動いた………え? ちょっと待って? 後ろって虚さんがいたよね? もしかしてもう起きたの?
「あ、おはようございます」
「お、おはようございます」
僕たちはお互いお辞儀をして挨拶をする。って、何で真面目に変なことをしているんだ、僕は!?
僕はすぐにそこから離脱しようとすると、虚さんは僕を捕まえてキスをした。
「……………!?」
危ない。唐突の事で考えることを止めそうになった。じゃなくてどういうこと!? どうして僕が虚さんとキスしているの?!
あまりにも驚きの連発に、僕は虚さんの頭を叩いて止めようとすると、その後ろで誰かが先に虚さんを殴った。
「………お姉ちゃん?」
「………ん……ほ、本音。あ、智久君、おはようございます」
「それさっきしましたよ!?」
「そうですか? それよりも、もう少し抱きしめさせていただけると嬉しいのですが………」
僕は視線は彼女の胸に向いていた。なんていうか、彼女はとんでもない状態になっていた。
「………あの……服は……」
「服? 私はパンツ以外寝る時は着ませんよ?」
「妹の私も初耳だよ!? 良いから服を着て! 今すぐ!!」
本音さんが珍しく姉のように振舞う。確かいつもは逆だよね? もしかして―――
「本当は入れ替わっている、とか?」
「違うよしぐしぐ! お姉ちゃんは寝起きが悪いんだよ!!」
…………その原因は生徒会長ではないかなと思った僕は悪くない。
しばらくして僕は街に繰り出していた。もちろん、虚さんも一緒だ。今は虚さんも正気に戻ったみたいで、僕を見るたびに顔を赤くする。ごめんなさい。僕も恥ずかしいです。
ちなみに今日は、服を買いに来ている。……実はこれまでフォーリアが準備してくれていた服ばかり着ていたけど、そろそろちゃんとしたものを着るべきだと言う話になり、何故かたまたま予定が空いていた虚さんと行くことになった。以前なら僕も小さかったし弟と一緒に買い物をするという状況でいられたかもしれないけど、今は僕も織斑君を超える身長をしている。男らしくちゃんとエスコートしないと。
(………でも、服とかどうしようか考えたことなかったな)
いつもは幸那とか先生が準備してくれていたから、自分で考えることはなかった。
「そういえば、レゾナンスには私のお気に入りの店があるのですが、そこに行きませんか?」
「……………えっと」
「大丈夫。ちゃんと差別のない店ですから。それにした瞬間、全員のクビを切ります」
「それ、お気に入りの店じゃないような………」
もしかして更識家は店も経営しているのだろうか? あり得なくはない。そもそも暗部の活動資金ってどこから来ているかわからないし。あと、虚さんの笑顔が怖いです。
「さぁ、着きましたよ。………あら?」
「………あれは」
前回に引き続き、見知った顔が店を騒がしていたようだ。ただ、その見知った顔というのは―――何故かボーデヴィッヒさんだったけど。問題は、何故か随伴者にデュノアさんがいるってことなんだけど。
「ねぇデュノアさん、あまり僕の行く先々で問題を起こすの止めてくれる?」
「時雨君!? これは違うんだ。仕方なかったの!!」
「何が!?」
すると奥から見覚えのある顔が出てきた。ただ、その人は―――眼帯をしている。
「………ぼ、ボーデヴィッヒさん!?」
「ん? 時雨か。………もしやデートか?」
ボーデヴィッヒさんの天然発言にやられた虚さんが顔を赤くして停止する。
「そ、そういうわけじゃないよ………」
IS操縦者じゃなかったら盛大に頷いているけど、ここは敢えて否定する。
「そうか。私は思っていたのだが、お前はたまには息抜きをするぐらいは必要だぞ。クロニクル大臣曰く、「たまには女で遊んではどうだろうか」と」
「その「女で遊ぶ」というのは僕にはまだ早すぎるんだけど! 別にそれをするつもりないし!」
だって、女で遊ぶって言うのは猫と猫じゃらしを使って遊ぶのとはわけが違うんだよ? そんな無責任な事なんてできるか!
「ま、私もお前ならそう言うと思って言ったがな。とはいえたまには息抜きも必要だ。今日は買い物ついでに「らぶほてる」なるものに入って楽しむと良い」
瞬間、店内の気温が下がった気がした。
「ボーデヴィッヒさん、それがどこだか知っているの?」
「ん? 男が楽しむところだろう?」
「………………」
とりあえず、IS学園のカリキュラムに「一般常識」を入れるべきだと思った僕は悪くない。
とりあえず買い物を済ませた僕らはファミレス「@クルーズ」に足を運ぶ。予定よりも時間が過ぎたので、僕らはそこで昼食を取ることになったけれど、どうやらここは人気店のようだ。
「凄い反響ぶりですね。メニューも格安だからでしょうか?」
「………………私は今から億劫です」
「一体何があったんですか? もしかして学園外で問題でも起こったとか……………ああ、そういう」
僕は周囲の状況を見回して納得した。確かに虚さんの仕事は増えるだろう。
「………智久君、すみませんが生徒会に入ることを本気で考えてくれませんか? 私や本音で良ければある程度の希望に添えられるように努力しますから!」
「いえ、それは………」
流石は血の繋がった姉妹だ。半泣き状態の顔がそっくり。僕はその顔に癒されながら、仕事面では真剣に考えようかなと思った。
それにしても、どうしてデュノアさんとボーデヴィッヒさんがここでアルバイトをしているのだろう?
「お砂糖とミルクはお入れになりますか? よろしければ、こちらで入れさせていただきます」
「お、おねがいします。え、ええと、砂糖とミルク、たっぷりで」
「わ、私もそれでっ」
たぶん、デュノアさんは生まれてくる性別を盛大に間違えたのかもしれない。
「そう言えば、そろそろ学園祭ですよね? っていうかするんですか?」
「………私はあまりしたくないのですけれど、上からはどうしてもとお達しが来まして」
「……………お話なら、別の場所でお聞きしますよ」
生徒会の仕事の愚痴ぐらい聞いても良いかな? あと、長年経験した兄属性の行動からか、虚さんの頭を撫でたくなった。
「ねえ、君可愛いね。名前教えてよ」
「………………」
「あのさ、お店何時に終わるの? 一緒に遊びに―――」
―――ダンッ!!
近くで何かが叩きつけられるような音がした………って、ボーデヴィッヒさん?
「水だ。飲め」
僕が知るメイドさんとは何かが違う。しかし彼女のメイド衣装は可愛かった。
「こ、個性的だね。もっと君のことよく知りたくなっ―――」
ボーデヴィッヒさんはナンパ男を無視してオーダーを取らずにテーブルを離れる。え? ボーデヴィッヒさん? 注文は? っていうかコーヒー?
「飲め」
「え、えっと、コーヒーを頼んだ覚えは……」
「何だ? 客でないのなら出て行け」
「そ、そうじゃなくて、他のメニューも見たいわけでさ―――」
止めるべきだろうか。いやでも、僕らが割って入った所でややこしくなる―――って、あれ? 虚さん?
「店長さんですね? 少々、奥をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「え? ええ………あなたも一緒にどう?」
「―――え?」
途中から会話が聞こえなかった。というのも、
「あ、あの子……超良い……」
「罵られたいっ、見下ろされたいっ、差別されたいぃっ!!」
変態が湧いたからである。
そう言えば、僕らはまだ料理を注文してなかったっけ? 虚さんもいつ戻ってくるかわからないし、先に食べておこうかな………いや、もしそれで嫌われたら嫌だ。
(………とりあえず)
「ご、ご注文は何にしますか?」
少し怯える風にするデュノアさん。バレるのが怖かったらやらなきゃいいのに。
「オレンジフロートで。それと後で話がある」
「…………はい」
ボーデヴィッヒさんには悪いけど、2人は後で説教だ。
(……あ、虚さんの様子を見に行ってもらえば良かった)
後から少し後悔した。っていうか何で虚さんは行動したんだろう? 従者という職にいる以上、ボーデヴィッヒさんの接客に納得が行かなかったとか? いや、そんなまさか……ね?
オレンジフロートが来たけど、虚さんがまだ戻って来ない。少し心配になった僕はデュノアさんを呼んで様子を見に来てもらおうと思ったら―――そこに究極があった。
「な、なんて綺麗な人だ」
「あの人、胸が大きくないか? しかも可愛い! タイプだ!」
「お、お姉さん! 僕とメールアドレスを交換してくれ!!」
―――ハッ!? 今僕少し意識が飛んでたよ!?
なんとメイド服で登場した虚さんに男性陣が殺到する。僕は急いでそれを止めようと瞬間にさらにまた変なことが起こった。
「―――全員、動くんじゃねえ!!」
ドアを破ろうとする勢いで雪崩れ込んで来た男性3人。3人共銃を装備していて、それぞれショットガン、サブマシンガン、ハンドガンを装備している。
(………まだ僕が電気をうまく扱えないって時に)
いくつか指南書を持って帰って読んだら、そこには轟家が代々受け継いで来たらしい電気の扱い方が記されていた。電気はいわば鉄を防ぎ、それは徹甲弾すら無力化すると記されてあった。だからこういう所では重宝されるはず。
なんて考えていると、男の1人が客に守られる形でいる虚さんに目を向けた。
「兄貴、あの女はとても良いんじゃねえですかい?」
「あん? 今俺は警察に要求を―――確かに良い女だ。おいヤス! テメェは警察にワゴンカーを用意させろ! 追跡車や発信機なんか付けるんじゃねえともな!」
「わかりやした!!」
変な話し方をする人たちが作戦会議を終えたのか、虚さんを捕まえて移動させる。特に抵抗しないのは様子を伺っているからだろう。まぁでも、僕は止めるけどね。
「彼女を離してくれませんか? それに今ここで女を連れて行っても足手纏いになるだけでしょう?」
「あ? 何だおめぇ。この銃が見えないのか!?」
リーダー格が銃を掲げる。だけど僕はそんなものは怖くない。
「………ああ、やっぱりあなたもそう言うタイプですか」
「あ―――」
とりあえず顔面に蹴りを入れて後頭部から床に叩きつける。
「汚い手で僕の女性に触らないでくださいよ」
手下Aを肘討ちで吹き飛ばす。痛みからか虚さんを離したことを確認したけど、その一瞬を突かれて僕はサブマシンガンを撃たれた。
「いやぁああああ!!」
「お前たち、なんてことを―――」
「智久君!!」
だけど、僕は倒れなかった。
「………お前……何なんだ……」
「……ねぇ」
ああ、やっぱりムカつく。どうしてこんな人間がまだ―――
「お前たち全員倒すけど良いよね? 答えは―――聞いてない」
―――生きているなんて
■■■
そこからはまさしく圧巻という言葉しか出てこなかった。
銃弾はすべて電気の網に引っかかっており、智久はすべてを床に落としている間―――同時にサブマシンガンを持った男を容赦なく踵落としで昏倒させる。
「ヒコ! テメェ!!」
「うるさいよ」
智久は右腕で薙ぎ、リーダー格の男から爆弾を奪った。それだけでなくリーダーの股間を蹴り潰して銃を奪い取り、包囲網を敷いている警察たちの方に蹴り飛ばす。
「そこのお前、止まれ!! この女がどうなっても良いのか!!」
声に反応した智久は同時に奪った銃をヤスと呼ばれた男の頭部に向けて撃った。その銃弾はヤスの髪を削って壁にめり込む。
「と、智久君……」
「その人を離さないと次は―――殺すよ?」
笑みを浮かべて舐めるようにヤスを見る智久。殺気がすべてヤスに直撃しているからか、ヤスは次第に生気を失ってそのまま倒れ込む。智久はショットガンを取って虚を抱きかかえて外に出た。
「そこの男、止まれ! そしてこちらに従ってもら―――」
警告した男、そしてその周囲にいた男たちが次々と倒れる。智久は紫の翼を展開してそこから離脱。IS学園に戻ると同時に意識を失った。
それからしばらくして、虚の携帯電話にある情報が送られた。