翌日、1時限目の半分くらいまで使われる全校集会。僕は一般生徒として並んでいたけど、本音さんがいないから完全に四面楚歌だった。まぁ、織斑君は完全に唖然としていたが。
それもそのはず、彼はいつの間にか学園祭の各部対抗争奪戦の賞品にされていた。それによって生徒たちの士気は一気に上昇。流石は暗部。人の弱いところを平気で突いてくる。………何故か僕は賞品にされていなかったけど、そのせいで彼に睨まれていた。いや、知らないよ。僕だって初耳だよ。……昨日のことで色々とあって容量オーバーによる記憶障害が起こっていたら話は別だけど。というか今日から織斑君は楯無さんと一緒に暮らすんだから睨まれる謂れはない。
そして、現在。電子黒板にはクラスからの出し物案が書かれていたが、
『織斑一夏のホストクラブ』
『織斑一夏とツイスター』
『織斑一夏とポッキーゲーム』
『織斑一夏と王様ゲーム』
見事に私利私欲で埋まっていた。
「却下」
まぁ、そうだろうと思ったけど、出された時に拒否すればよかったのに。
「あ、あほか!! 誰が嬉しいんだ、こんなもん!」
「私は嬉しいわね。断言する!」
「そうだそうだ! 女子を喜ばせる義務を全うせよ!」
「織斑一夏は共有財産である!」
「ただでさえ君を含めて数人は害悪なんだから、もっと過激なサービスしたって問題ないよ」
「他のクラスから色々と言われてるんだってば。うちの部の先輩もうるさいし」
と、女子に紛れて言うと何故か僕だけ突っ込まれた。
「ふざけんなよ! 智久だってこんなことされたら困るだろ! わかってて見捨てるなんて悪魔か!!」
「わかったよ。確かに君だけにこんなことをさせるなんて確かに酷だね」
そう言って僕は立ち上がってから、この時間で言えば余計な憑きものを置いて出し物を追加した。
『篠ノ之箒がエッチなご奉仕』
『セシリア・オルコットを過激調教』
『シャルロット・デュノアを強制服従』
これで良し。これなら来てくれるゲストも満足するだろう。僕は少し満足していると、早速3人から抗議が入った。
「な、何故私がそのようなことをしないといけないのだ!?」
「そうですわ! 仮にもわたくしはオルコット家当主。そのような変態行為に身を染める気はありませんわ!!」
「いくらなんでもこれは酷いよ!!」
そうは言われても、
「……………わかったよ。代わりにこっちの案にするよ」
そう言って僕はさらに追加させた。
『織斑一夏の股間終了のお知らせ』
『篠ノ之箒、デッドオアダイ』
『セシリア・オルコットが窒息死』
『シャルロット・デュノア、男湯侵入事件』
「「「「却下!!!」」」」
全く。わがままだ。
とはいえ、この人たちで遊ぶのはここまでにして……と、
『ご奉仕喫茶~No R-18~』
どこぞのタイトルのように書くと、全員が唖然とする。
「これなら収益だって見込める。特にIS学園の生徒は見た目はトップクラスばかりなんだから、メイド服を着れば人を集めるのは容易いよ」
そう。メイドに関して言えばこっちには織斑君のようなポンコツと違って僕がいる。この僕が、真の萌えメイド道を叩き込めば問題ない。
「………えっと、見た目だけって?」
「ん? だって僕、このクラスだと本音さんとボーデヴィッヒさん以外に性格まで把握している人っていないから」
そんなことを言うと重い空気が充満したけど気にしない。
「………で、できなくはないけどさ………」
「でも、ちょっと……ね……」
「ところで織斑君、執事とメイド、どっちがいい?」
「何がだ?」
「君が着る服」
「何でそれで選択肢の中に「メイド」があるんだよ!!」
嫌だなぁ。それくらい普通じゃないか……君限定で言えば。
「お、織斑君の執事服………」
「それ良くない!?」
「そう言えば、さっき他のクラスから織斑君を前面に出してほしいって要望も来ているんだよね? だったら織斑君の特別メニューを考えれば全く問題ないし、1組は他の生徒に文句を言われないでしょ?」
そう言うとほとんど全員が頷く。まぁ、要注意人物は後でどうにかして……。
「だったらこれで決まりってことで。じゃあ、具体的な役割を決めようか」
織斑君の代わりにそう指示して、主にリーダーとして使えそうなのをピックアップする。持ってきているルーズリーフに名前を書いて、役割の分担を始めた。
しばらくしてチャイムが鳴り、とりあえず織斑君には報告。動きたいものが残って動くという形を取った。
僕はとうとう、1組に対してキレた。まさかあんなことを言われるとは思わなかったのだ。
なので騒がしい奴らを拘束して、ショートケーキを作る。材料は自炊派のために小さなスーパーがあるのでそこで仕入れてきて、学園に用意されている厨房を借りて作ったのである。
「で、感想は?」
出来上がったので僕は拘束を解除してそれぞれ食べさせる。食べた人たちは全員が信じられないという顔をして僕を見た。
「ごめんなさい……」
「何よこれ、ありえない……」
「まぁ、これくらい子どもを相手にしていれば普通だよ。店で買うよりも物を限定すれば安く済むしね」
そう。僕は厨房担当に回ろうとしたら、あろうことか「お前には無理」だと言われたのである。全く、僕がかつて「家庭科番長」や「指先の魔術師」という称号を持った男だと知らないからそんな馬鹿なことを言えるんだよ。
「すっごい。ねぇ、もっと食べていい?」
「残りは同居人に渡すからダメ」
そう言って僕は予め持って来た大きなタッパを出して残ったケーキを詰めていく。タッパに鍵をして冷蔵庫に入れる。先に使ったものを洗って水気を拭っていると電話がかかってきた。楯無さんだった。
「どうしたの?」
『ごめん。緊急事態だから今すぐ来て』
そう言えば、この後は織斑君を鍛えるために敢えて挑発して力の差を見せつけるんだったよね。……もしかして、織斑君が白式で無理矢理バリアを割いて攻撃したとか―――よし、殺そう。
闇鋼の中に冷やしていたタッパを入れて残りの洗い物を脅しながら頼み、畳道場の方に移動した。
「…………何だ。良かった」
織斑君が倒れているのを見てホッと胸を撫でおろす。
「それで、一体どうしたの?」
「実は、織斑君が私の身体に触れることができなくて―――ストップ! 前もって言ってたことよ! 他に意味はないから!!」
何だ。良かった。
「てっきり織斑君が発情して楯無さんに襲い掛かったのかと思った」
「そんなことするわけないだろ!? お前は俺のことを何だと思っているんだよ?!」
「ハイエナのゾンビ」
つまり、頭が空っぽだということだ。
とはいえ、実力を示すのに触れることができないんじゃ意味がない。ただ、解呪するにしても方法が特殊なのだ。
「じゃあ、こうしよう。僕と戦って君が勝ったら楯無さんが言った条件は無し。だけど、君が負けたら大人しく指示に従ってもらう。これで良い?」
「ああ! もちろんだ!」
僕は2人が来ているタイプの胴着に服装に姿を変える。そして僕は右手を上げて織斑君を挑発した。
すると彼は僕に向かって突っ込み、腕を取ろうと手を伸ばしてきた。
「もらっ―――」
軽く左腕を弾くように移動させると、織斑君は簡単に体勢を崩したので腹部に飛び蹴りを放つ。諸に食らった織斑君はそのまま倒れるけど、大人しく倒すほど僕は―――君に対して友好的じゃない。
そのまま引きずるようにしてその場を回転。掴まれた腕を今度は僕が掴んで遠心力を利用して織斑君を放した。
「うわぁあああああッ!?」
辛うじて頭を守るために背中を犠牲にする織斑君。咄嗟に白式をボディにのみ展開してやり過ごしたようだ。そのセンスだけは凄いと思うけど、そうしないといけないのは君が対応できないのは敗北宣言に等しい。
「これでわかった?」
「クソ! まだだ、まだ終わな―――」
「もう終わりだよ」
すぐに彼の側面に回って飛び蹴り。だけどそれが織斑君の狙いだったのか、僕の足を掴んだ。
「捕まえた!」
「でも片足だけだよね?」
「え?」
残った左足で思いっきり織斑君の顎を蹴り、意識を飛ばした。
なんとか異能を使わずに勝てたけど、もう少し立ち回りを改良する余地がある。これじゃあ、彼に―――舞崎静流に勝つのは難しい。
「………ところで思ったんだけど」
「何かしら?」
「今の織斑君、ちょっと違和感がなかった?」
戦闘力が底上げされているみたいな感じだ。僕の戦い方そのものは型がないタイプだから対応しきれなかっただけで、これまでの織斑君から考えてそれなりのスピードになったはずの僕の側面からの攻撃に対応できるなんて思わない。
「……正直なところ、彼自身が何かをしていたかどうかわからないの。あなたが夏祭りで会った事で夏休み中に初めて居場所がわかった程よ」
「………ちょっと、怪しいね」
本音を言えば、僕としてはこのまま織斑を消し炭にしたい。したところで真っ先に僕が疑われるからしないけど。
「………ちょっと調べておく必要があるわね」
そう言って楯無さんは織斑君の髪を採取する。僕は保存用の袋を出して渡した。さて、運ぶか。
僕は台車を出してその上に織斑君を乗せて運んだ。
「………何をやっている、時雨」
「諸事情により織斑君を気絶させたので、その処理です」
「………………まぁ、お前がされたことを考えればそうしたいのはわかるが、埋めるなよ」
「姉としてのコメントは……?」
「正直言うと、まだ状況に追いつけていない」
ショタ時代のイメージが根強いのか、織斑先生の目が虚ろになっていくのは正直楽しい。
「大丈夫です。とりあえず保健室のベッドの上に放置しておくので」
「運び出す前に症状は見ましたが、気を失っているだけです。時期に目を覚ますでしょう」
楯無さんのフォローもあって、「そ、それなら良いが」といった風に去っていく。
「やっぱり、拘束して「ご自由にどうぞ」って書かれたプラカードでも置いて下半身を露出させておくべきかな」
「止めて。そんなことをしたら問題になるから!」
生徒会としてはこれ以上の問題は起こしたくないようだ。仕方ないので自重しておく。良かったね、織斑君。生徒会長が常識ある人で。
■■■
男はふと、何かを感じた。
恍惚な表情を浮かべる女性を放置し、無理矢理抜く。懇願するように女性が男の局部に近付くが、遠慮なく引っ叩いた。そしてシャワーを浴びて、最低限の服装を着ると彼のプライベートルームに入る。
(………チッ。オリジナルの奴、やられてやんの……)
パソコンを起動させると、20秒もしない内に10台のモニターが展開される。
男は腕を大小様々な腕を両肩から出して作業に取り掛かった。
(どいつもこいつも、情事に浮かれているってか? 本当に緩いな、この学園は)
画面の1つには智久と楯無が映し出されている。その近くには一夏がおり、寝ている姿を見て男はため息を吐いた。
(……クッソ使えねえな)
心からため息を吐く。男にとっては予想通りではあるが、素直に喜べない。
そもそも、一夏には男の戦闘データが入っているはず。レベルとしてはかなり上がっているはずなのに倒せる存在を倒せていない現実に男は頭を抱えた。
(………だから俺らが舐められるんだろうが……)
本音を言えば、男は自分が一夏に入って戻るべきだったと思っている。そうすれば自分を生み出した女の妹を孕ませることは最早秒読み。晴れて創造主の願いは叶えられるだけでなく、自分の欲求も満たされて一石二鳥だ。もちろんそこにはその妹―――箒の意思はない。
(………って言うか、何で俺が人間なんかに素直に従っているんだか。馬鹿らしい)
頭部を掻きながらそんなことを思うが、創造主からは無用な暴走は厳禁とされている。闘争と性交が好きな男にとってそれは最早苦痛でしかない。
「あーあ。暴れてえな」
「―――ダメですよ」
後ろから少女にそう言われて男は舌打ちした。
「あなたの暴走によってこちらが色々と面倒な事をさせられるのは割に合いません。自重しなさい」
「イチイチうるせぇんだよ、チビ」
「………どうやら痛い目に遭いたいみたいですね」
「事実を言われてキレてんじゃねえよ、ガキ。あーあ、何かやる気なくし―――」
男は腕を薙いで飛んでくるナイフを弾いた。
「………何弾いてんだよ」
「何だ、負け犬。って言うか、いきなりナイフ投げんなよ。そんなに自分の居場所をちゃんとした準備の状態で攻められたのが悔しかったのか?」
これまで束は何度か外部の襲撃を受けたことがある。しかしそれはどれも軽い装備しかなく、たまたま鉢合わせた程度のものだった。しかし、あの襲撃は明らかに異常だった。
あの日に限って言えば襲って来た兵器のすべてが完全装備であり、特に戦闘機のパイロットは完全に自分を殺しに来ていた。それに加えて、自分のどこか似ている意匠を持つ無人機。しかも束にすぐに奪い取れないものという事はつまり、自分が作ったコアが使用されていないことを示している。
それ以降、束はとにかく荒れていた。一夏に何かされていたのも八つ当たりに近いものがあった。
「あまり余計なことを言うと、消すよ? お前はもう用済みなんだから」
「へいへい。自重しますよ」
そう答えると満足したのか束は消える。しかし本音を言えば、男は気付いていた。オリジナルである織斑一夏にはもっと自分が必要だと思われていることを。