IS-Lost Boy-   作:reizen

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ep.59 学園祭、始まる

「………智久、聞いていいか?」

 

 学園祭当日。執事服を着た織斑君がそう聞いてくる。

 

「何かな? 個人的に君は敵役かクール系がハマると思うんだけど」

「いや、何がだよ。じゃなくてだな―――このメニューは何だよ!?」

 

 そう言ってメニューを見せてくる織斑君。何か不満かな。

 

「別に普通だよ?」

「普通じゃないだろ!? 何だよこの「織斑執事とポッキー占い」ってのは!?」

「織斑執事と情熱的な舌絡めキスをすることができるだけなんだけど?」

 

 もしかして織斑君の脳波もうとんでもないレベルで退化していたのか? そっか。

 

「仕方ない。わかりやすく説明するとね、注文した人と1本のポッキーを食べていくんだ。そして最後にキスをする―――というのが通例の流れ。というわけで頑張れ」

「頑張れじゃねえよ!? お前もしろよ!!」

「いや、僕執事じゃないし。それに学園内での人気投票だと僕より君の方が圧倒的に多かったから仕方ないんだ」

 

 だから僕は荷物運搬に回るよ。レシピは僕に土下座してまで頼んできた人たちに教えたし、きっといい物ができるだろう。

 

「頑張れ、織斑君。この学園祭での成功は君にかかっている」

「ふざけんな!!」

「僕は運搬係だから、ゴミが溜まったりしたら捨てに行ったり別の部屋から運ばないといけないから」

「それは俺もや―――」

「適材適所だよ、織斑君。あ、君に休憩時間はないから」

「ブラック企業も涙目だろ?!」

「さっきも言ったでしょ、適材適所だって。あ、だからもし友人を呼んでたりしたら今の内に断っててね。まぁ、呼ぶわけないよね。こんな祭りに一般人を呼んでいるならそれこそ正気の沙汰じゃないけど」

 

 ちなみに僕は呼んでない。まぁ、あの子なら呼ばずとも企業の力で来るだろうしね。

 少しすると学園祭が始まり、宣伝係がIS関係者の大人たちを狙って宣伝に出発した。それを見送りながら僕は少し前に言われたことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「侵入者?」

「そう。おそらく危ない人たちが来るから十分に警戒してね」

「私の方でもそう言った人間かどうかを確認しますが、何分人が多くて見落とす可能性の方が高いんです」

「…………というよりも、どっちかというと「捕縛」が目的ですよね?」

「……そうね。今回の相手はひたすら存在が謎だから、織斑君を餌にして誘き出そうって作戦よ」

 

 本人が聞いたら怒りそうな作戦だなぁ。うんまぁでも、僕は笑って聞かなかったことにしよう。

 というか、それなら最初から織斑君を1人で放置させて釣ればいいのでは?

 

「そうしようかと思ったんだけど……実は今年度の予算が、ね」

「………まぁ、なんとなく予想は付きましたが、そういう場合ってその国から請求できるのでは?」

「それでもある程度なんです。自分の国の代表候補生がした分の補償ぐらいちゃんとしていただきたいものです」

 

 虚さんがそう愚痴をこぼすと、僕の心情が下がると思ったのか僕の方を見る。だけど僕は日頃から彼女の苦労はなんとなくわかっているから彼女を抱きしめて頭を撫でてあげた。反応が可愛いしして良かったと思ったけど、楯無さんからの視線が怖いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに本音さんは最初から仕事のメンバーに入れていない。というか、これはわがままなんだけど………他の男にあまりメイド姿を見せたくないって言うか……。そう言うと全員から微笑ましそうな笑みを浮かべられた。

 

(あ、そうだ。人員の整理をしないと……)

 

 僕は布仏姉妹にスポーツドリンクをお届けしに行くつもりだったんだけど、後ろから妙な気配を感じた僕は少し遠回りをすることにした。

 

(かなり好戦的だった気がするけど……)

 

 気のせいだと思うけど、悪い予感が当たりやすいのは人間の運命かもしれない。

 まぁ、好戦的な人と会ったらドンパチに発展するし、大人しく過ごしたい僕としてはあまり会いたくない人間だろう。

 しばらくすると学園の正門に着いた。そこでは布仏姉妹がせっせと来賓を捌いている。声をかけるのは少し後にしておこう。もし僕が割って入ったら2人に迷惑がかかるし。

 大人しく待っていると、後ろから急に誰かに抱き着かれた。ヤバい。警戒を―――

 

「あ~。智久様はいつもと同じく良い匂いがします~」

 

 ………あ、これはしなくていいものだ。

 誰がしてきたのか察した僕はその相手をゆっくり離そうとするけど、思いっきり抱き着かれているので全く離れないどころか抵抗してくる。

 

「こらこら。そろそろ離れなさい、雫」

 

 後ろから来た男性がそう言うと、北条さんはさらに強く僕を抱きしめた。

 

「嫌です。今日を逃せば私は他の方と違ってこうして抱き着くことができませんからハーレム人員の1人として甘えるのは合法なんです」

「………ごめん。せめて前からでお願いします」

「わかりました」

 

 僕は反転すると北条さんはまた抱き着いてきた。

 

「すまないね、時雨君。その、妹は少々甘えたがりというか、北条家にも色々あってね」

「いえ。女の子に好かれること自体嬉しいので」

 

 考えてみれば、中学時代の時は本当に低身長を馬鹿にされてたなぁ。今ではこんなに大きくなりました。

 

「ところで、あなたは……」

「私は北条卓。雫の兄だ。更識家では戦いを見せてもらったよ」

「………あの場にいたんですか」

 

 兄としてはかなり複雑な心境なのではないだろうか? 好きな女を奪われた挙句に妹も同じ男を好いているのだから。

 

「いやぁ、助かった。実は私もあの戦いに参加するのは心苦しくてね。優勝したら辞退して君にその権利を譲ろうと思ったんだけど、どうやら杞憂だったようだね。それに父も君が出ていることを伝えたら諦めてくれたよ」

「………それなら良いのですが、良かったのですか?」

「まぁ、個人的に子どもを作るのは高校卒業後にしてもらいたいけどね」

「私は今すぐでも構いませんよ?」

 

 上目遣い、ダメ、絶対。

 平然と上目遣いで誘惑まがいをしてくる北条さんに僕はチョップした。

 

「痛いです~」

「全く。抱き着くのは良いけど上目遣いはダメだよ」

「…………そこを注意する男は初めて見るな」

 

 僕をまじまじと見るお兄さん。まぁ、なんというか………こればかりはこだわりだ。

 

「ところで、これから邪魔者はいなくなるのでここでデートとかはどうでしょう?」

「………えっと……それは……」

 

 少しマズいのではないだろうか?

 男としてモテるのは嬉しい。だけどもう既に婚約者とか許嫁とかもいるし、イチャイチャしているし……。

 

「―――あら、良いじゃない」

 

 その声に僕は本気で震えた。って言うかあれ? 今日1日は織斑君に付くって言ってたのに……。

 

「何でこんなところにいるんですか? 織斑君には休憩時間がないようにメニュー設定してきたんですけど。………って、何で店のメイド服を着ているんですか!?」

 

 大衆に見せたくなかったからわざわざ作らなかったって言うのに……!!

 

「あら、嫌だった?」

「当たり前じゃないですか!? だから僕は本音さんの分も作らなかったのに………」

 

 何で僕があんなクズ共に本音さんや楯無さんの萌える姿を見せなければいけない。

 

「もう、脱いでください! 今すぐ!」

「ちょっと待って。流石にこの場で脱がすのはどうかと思うんだけど?!」

「じゃあちょっと動かないでください!!」

 

 そう言って僕は楯無さんの両肩に触れて服をいつもの制服に入れ替えた。もちろん肌は露わになっていない。日曜朝8時半から放送されている例の番組のように謎の光を発動して入れ替えたのだ。

 

「これで良し」

「いや、あの、良しじゃ………」

「ちょっとは自重してくださいよ、楯無さん。あまり勝手なことをされると、ここに来た大臣とか消す手間がかかるんですから」

 

 主に血を落とす作業なんだけどね。

 

「わかった。わかったから、ちょっと落ち着いて」

「智久様、今日は私でリラックスしてくださって構いませんからね」

 

 じゃあ、今日はお言葉に甘えようかな。国家代表候補生って、総じて使えなかったから。なお、接客に関しては意外にもラウラさんも含む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虚と本音に差し入れを置いて行った智久は雫と一緒に店を回る。とはいえ智久にも仕事はあるので1組からあまり距離を取らない場所での行動に限るが。

 

「……それで、雫ちゃんはISを?」

「ええ。所持しています」

 

 今回、北条家がここに訪れた理由はいくつかある。

 1つは智久の護衛であり、雫はそれを担当するためにIS学園に来た。彼女も智久と一緒にいられるというメリットがあるためすぐに承諾したとか。

 そして、これは北条家がもっとも重要視していることだが―――

 

「それで、あの話は考えていただけましたか?」

「………ですが、それによってパワーバランスが崩れて戦争状態に発展するかと思いますよ?」

「その準備は既に揃っています。だからこそ決断していただきたいのです。北条家と更識家の合併を」

 

 その言葉に楯無は少し卓を睨む。

 

「少し声が大きいかと」

「すみません。ですが、これは急を要することでもあります。特にあなたたちは、ですが」

 

 この話は、北条家が持ち掛けたことだ。そして原因は智久にある。

 智久は轟家の生き残りであり、唯一その所在をわかっている存在だ。その智久は徐々に力を付けているがまだ幼さと優しさを残している。それ故に更識家のいずれ未来を担う女たちを手籠めにしただけでなく雫ともそう言う関係になりかけている。そこに目を付けた北条家は更識家と合併することを持ちかけたのだ。つまり、北条家は智久を使って轟家の再興―――というよりも、これからも狙われる智久を更識家と協力して守るつもりだった。

 そもそも智久をさらって遺伝子を取れば北条家の力ならばクローンなり北条の血を混ぜた子どもを生み出すこともできるが、それによって智久の反感を買いたくないだ。それほど北条家は智久の実力と闇鋼のスペックを危険視していた。

 そして更識家だが、最近の資金事情が苦しいのである。

 特に楯無がロシアの国家代表になってからというもの日本の仕事が一段と減ってきていて北条家の方へと流されているのである。もし北条家と合併すれば仕事量が戻るのもあるが、轟家の生き残りを独占することによる他家からの粛清も免れる。特に関東区域に関しては北条以外に更識に喧嘩を売れる家はないのだ。

 

「………もう少し時間をもらえませんか」

「ええ。こちらとしてはもう」

 

 楯無も正直、焦っている。

 父に相談すると「お前が決めろ」と返されるし、他に相談する宛てがないし、智久に相談すること自体論外だ。

 

(…………しかも、私だけ織斑君と同居だし)

 

 本当なら智久と同居して頭を撫でてもらおう―――と思っていたが、急に一夏がISを持ったことで各国から狙われているという報告が入ったりと楯無の夏休み後半のスケジュールは過密だった。それゆえに彼女は―――今日来るであろう敵に八つ当たりをしようと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………本当に、準備は良いの?」

 

 はるか上空、IS学園から探知されない空域には2機のISが滞空していた。とはいえ1機はISというよりもボールだが、ISである。

 

「構いません。それに今更、後に引けませんから」

 

 そう言ってオレンジ色のラファール・リヴァイヴを身に纏う少女はハイパーセンサーで智久と雫を見る。

 少女はこれまで、従者ではなく1人の似たような境遇の仲間として智久と接してきた。だがそれもここまでであり、これより彼女は偽りの主ではなく本物の主のための行動する。それが世界の―――いや、本当に仕えたい智久のためと考えている。

 

(………そもそも……この世界はまだ不完全だから……)

 

 女性優遇制度は確かに撤廃された。しかしまだ一部では「女性の方が優れている」という思考を持っている女は確かにいて、今も智久を殺そうとしている。少女にしてみればそんな愚かとしか言いようがないが、それらを撲滅するためにはまだまだISが足りないのだ。そして、そんな下らない存在ごときで少女は智久に人を殺してほしくなかった。

 

(………智久様のためなら………智久様がどのような形であれ私を愛してくれるなら………)

 

 ―――例えそれが―――わが身が監禁される程度ならば、私は喜んでこの身体を差し出しましょう

 

 そのために少女は引き金を引く。家族を殺した今の主に仕えているのは、それが本来の形というのもあるが、少女が殺したい人間を消すためにはそっちの方が都合が良いのだ。

 

 ―――セシリア・オルコット

 

 ―――凰鈴音

 

 ―――シャルロット・デュノア

 

 ―――篠ノ之箒

 

 そして―――織斑一夏

 

 少なくとも少女はその5人を―――自分たちの家族を奪ったその5人を隙あらば殺すつもりだった。

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