「とぉおおもぉおおひぃいいいさぁああああッ!!」
「煩いですわよ、下郎。せっかくの私と智久様の優雅な時間を邪魔するとは。身の程を弁えなさい」
織斑君に対して冷静に対処する北条さん。
「北条さんは彼を見てなんとも思わないの?」
「蛆虫だなぁとしか」
「そんなドストレートに言われたの初めてだぞ!?」
「そんなことより、私のことは名前で呼んでくださっても良いのですよ? もうほとんど私たちの関係は決まっている事ですし」
「……雫ちゃん?」
名前を呼ぶと目を輝かせて僕の胸に飛び込んで来た。にしても、今まで敢えてスルーしていたけどかなり胸が大きいんだよね。確かDぐらいかな。身長は158㎝だから……ちょうど良いのか?
「えへへ……初めて名前呼ばれた……」
名前を呼んだのがそんなに嬉しいのか、雫ちゃんは普段見せるクールな感じが完全に崩れていた。
「なんか、そうして見ると兄貴に甘える妹みたいな感じだな」
「それよりも織斑君、仕事は?」
後ろから鷹月さんに言われて織斑君は固まった。
「で、でも智久は―――」
「言ってなかった? 時雨君は学園祭中は仕事なしだよ」
「………え?」
「そんなことより、織斑君はさっさと仕事してきなさい」
「でも―――」
「織斑君」
雫ちゃんを少し離して、僕は織斑君の肩に手を置いて言った。
「このままだと、織斑先生がメイド服で肥えた豚共の相手をすることになるけど、そしてエロ展開に発展することになるけど?」
「な!? 本気で言ってるのかよ?!」
「織斑先生には既に了承を得ています」
すると織斑君は目の色を変えて仕事に戻った。
「ありがとう、時雨君。それにごめんなさいね。せっかくのデートなのに………」
「気にしないで。それに謝るのはこっちだよ。結局鷹月さんに問題児関係を押し付けているし」
「それこそ気にしないでよ。時雨君は織斑君の代わりにクラスの意見をまとめて、ケーキ作りだって監督してもらったんだし。衣装だって大半を作ったんでしょ? これくらい安いわよ」
ここまでしっかり者だと、彼女だったらクラス委員としてちゃんとできていたかもしれない。一度楯無さんにクラス代表の仕事の分担制度の導入を考えてもらおうかな。
「だから、今日くらい楽しんできてね」
「ありがとう。今日はお言葉に甘えさせてもらうよ」
そろそろお暇しますか。
会計を済ませて僕らは外に出る。当然、ここでおごってもらうなんてことはしない。むしろおごることが体勢追だ。
「……それで、織斑君はどうだった?」
「所詮は七光りですわね。あのようなゴミが智久様の友人面するのが耐えられないので―――あわや殺すところでした」
………早めに出て正解だったみたいだ。
午後も2時を回った頃。
流石に盛況だったのか、1組の方は閑散し初めてきた。うん。まさしく頃合いだね。
「じゃあ、僕は行って来るから。いざという時はちゃんと連絡してね。カッコつけて時間稼ぎをする展開は所詮小説だけだから」
「わかりました。いざという時は連絡します」
僕は雫ちゃんと別れて闇鋼に搭載されているセンサービットを飛ばす。これで戦闘区域をすぐに特定するためだ。
(………僕の予想通りだったら、ちょっと戦いにくいかな)
とは言っても、覚悟はとっくにできている。生かす覚悟と、殺す覚悟。
したは良いけど動かなかったら恥ずかしいけど。
■■■
一夏は嵌められていた。
楯無からの急な呼び出し。応じる時に静寐から許可が出たのは驚き、どうしてか―――殺されかけているのである。
実は一夏が残念極まりない王子の格好をさせられたのは、王冠を手に入れたら一夏と同居する権利が与えられるのである。そうしたのは襲撃後も油断したところに襲ってくる可能性があるため、その可能性を潰すためだ。もっとも、今は―――一夏を餌にチャンスを与えているわけだが。
「ちょっ、何で―――」
「良いから寄越しなさい!」
そして今、一夏は鈴音に殺されかけていた。
その光景は智久はもちろん、最終的に様々な女を抱いた男や好きな女を魔術に近い科学力で奪った男が見れば本気で引くぐらいの戦闘が繰り広げられていた。
「何がだよ!?」
「王冠よ!!」
楯無の口車に乗せられたとはいえ、仮にも好きな相手に付き合ってもいない段階で暴力をしたら嫌われるのは必須なのだが、鈴音は国からの命令や智久にぼろ負けしたストレスを一夏に攻撃することによって発散していた。さらにセシリアやシャルロット、箒までいる。
それを中継で見ていた簪は本気で呆れていた。
(………バカばっか)
いざとなれば戦力として使うことは頭に数えられているが、簪的には「こんな馬鹿共と組みたくない」というのが本音だ。
そもそも簪も智久と同じく「帰ったら戻って来ない」と思っていたのだが、平然と戻ってきて内心呆れていた。今はまだ問題を起こしていないが、いずれ問題を起こす爆弾のような存在が現れて気だるいほどである。
「ともかく、どこかに隠れないと………」
強襲に加え、狙撃に襲われる一夏。なんとか逃げ切った―――と思ったら、箒が刀を構えていた。
「一夏。お前の事情は把握した」
「箒……」
「大丈夫だ―――私が一撃で終わらせる」
箒にしてみれば「一撃で王冠を奪う」のことだが、一夏にしてみれば「お前を殺す」と宣言されている風にしか聞こえなかった。
「待ってくれ箒!」
「問答無用! はぁあああッ!!」
斬られた―――そう思った一夏だが、気が付けば自身が宙に浮いていた。
「え? な―――」
「こっちです。早く」
何かに叩きつけられ、一夏は腕を引っ張られる形でその場を去る。
その光景を見ていた楯無も、そして簪も驚いた。
「着きましたよ」
「はぁ……はぁ……ど、どうも…………。えっと、ところであなたは―――」
「あ、私は―――いや、まぁいいか」
営業スマイルを解いたその女性は脅すように言った。
「選べ。白式を寄越すか。今ここで死ぬか。まぁ、死んでも結局奪うがな」
「なに言ってんだよ、アンタ」
「何だまだわからねえのかよ。とっとと死ねって言ってんだよ!!」
一夏を蹴り飛ばす女性。それでようやく理解したのか、一夏は白式を展開した。女性は邪悪な笑みを見せて同じくISを展開する。
「何なんだよ、お前は!」
「ああん? 何も知らねーのか? 悪の組織の1人だっつーの!」
「ふざけんな!」
「ふざけてねえっつの! ガキが! 秘密結社『亡国機業』が1人、オータム様って言えばわかるかぁ!?」
そう言いながら蜘蛛型のISの特徴である8本の足を同時に、そしてバラバラに使用する。一夏はこれまでの訓練の成果が表れているのか、巧みに攻撃をかわした。
「そこだ!」
「あめぇッ!!」
天井に避け、隙を見つけた一夏―――だがそれは彼の思い込みでしかなく、オータムと名乗った女性は8本の服腕部装甲で受け止めた。
「クソッ!」
オータムが使用する蜘蛛型のIS―――アラクネは、分類上は第二世代型ISとなっているが、実際は第三世代型ISのプロトタイプだ。それを彼女が所属する「亡国機業」の技術力、そしてオータム自身の操縦センスも相まってかなりのスペックとなっている。それは―――
(………手が打てねぇ)
一夏を―――素人を苦しめるには十分だった。もっともこれが彼女の本気というわけでない。わざわざ一夏に合わせているのだ。
「ハッ! 予想よりやるじゃねえかよ! この『アラクネ』相手にちょこまかとよぉ!!」
アラクネの主武装は言うなればティアーズ型や闇鋼のそれとは違い接続されたBTに近い。だが操作はかなりの熟練もそうだがセンスも必要だ。実は彼女が所属する場所ではその適性が一番高いのは意外にもオータムである。
「うおおおッ!!」
「ハッ! あぶねぇあぶねぇなぁ……っと!」
ただでさえ操作が難しいアラクネを器用に操り、一夏の攻撃を巧みに回避するオータム。そして、あることを思いついて言った。
「そうそう、ついでに教えてやんよ。第二回モンド・グロッソでお前を拉致したのはうちの組織だ! 感動のご対面だなぁ、ハハハハハ!!」
「―――!!」
その言葉で一夏に火が付いた。
「だったら、あの時を借りを返してやらぁ!!」
一夏はそう言いながら瞬時加速し、オータムの懐に入り込んだ。だがそれは―――罠だった。
「やっぱガキだなぁ。こんな真正面から突っ込んできやがって……よぉ!!」
マニピュレーターで精製した塊を一夏に投げつけたオータム。それが一夏の目前で弾けてISを包み込めるような網へと変化した。
網はエネルギー体でできているが、伸張が早くすぐに拘束された。
「くっ! このっ!!」
「ハハハ! 楽勝だぜ、まったくよぉ! クモの糸を甘く見るからそうなるんだぜ?」
一夏はなんとか脱出しようと試みるが、その様子を見ながらオータムは見学しつつある装置を起動させた。
「んじゃあ、お楽しみタイムと行こうぜ」
その装置の大きさは40㎝程度で、時間が経つにつれて駆動音が大きくなり先端の3本のアームが開いていく。
「お別れの挨拶は済んだか?」
「な、何のだよ……?」
装置が一夏の胸部に取りつけられ、アームが彼の身体に固定されるように閉じた。
「決まってんだろうが、テメェのISとだよ!!」
その声と共に一夏に電流が流される。身を引き裂かれそうな激痛を味わった一夏は叫ぶ。
「さて、終わりだな」
一夏は拘束を解かれた。瞬間、ある事情によって耐性ができていたのかオータムに飛び掛かった。
「当たらねえよ! ISの無いお前じゃなぁ!」
腹を蹴られた一夏はそのままロッカーに叩きつけられた。そこでようやく一夏は白式が奪い取られていることに気付いた。
「な、何が起こったんだ……白式……おい!」
「へっへっ、お前の大事なISならここにある………え? あれ?」
「おい! 白式をどこにやったんだ!?」
オータムが持つ装置。本来ならばそこにある筈なのだが、何故か付いていなかった。その状況にこれまで余裕だったオータムも慌てふためく。
「何でないんだよ!? あの技術部の奴ら、サボったな!!」
「テメェ!! 白式をどこにやった!!」
「―――お探しの物はこれかい?」
唐突に聞こえた声に1人は安堵を、そして1人は突然の人間に驚く。
その人間は1人にとっては味方であり、1人にとっては敵であるためそれぞれの対応を見せた。
「と、智久……ありがとう。今すぐ白式を俺に渡してくれ!」
「わかった」
智久は了承する。すぐにオータムは智久を捉えようと動くが、それを察知した智久は電気で自身を強化して回避したため、オータムはすぐに対応するが―――その攻防の間に電磁糸に拘束されていることに気付いた。
「テメェえええええええええええッッッ!!!」
叫ぶオータムを無視して智久は一夏に近付いていき―――ある程度の距離になった瞬間に急接近から蹴り飛ばした。それだけで終わらせる気はないようで、またロッカーに叩きつけられた一夏に遠慮なく連続で拳を叩き込み、その場で回転して床に叩きつけた。
「あ……が……ど……どうじで……」
「君さぁ、これまで一体何してたの?」
冷酷な瞳。それを見せた智久は動けない一夏を何度も踏みつける。
「本来、楯無さんも僕と一緒にいるべきなんだよ? だけど君が狙われているし、楯無さんの評価にも繋がるから仕方なく君と一緒にいさせてあげただけなのに………まさかこうもあっさり負けるなんてさ」
一夏の頭を鷲掴みして持ち上げる。そして―――
「ふざけてんの?」
先程の食らった電流以上のものを一夏に味合わせた。
あまりの威力に声も出ないのか、もしくは全身の骨を折られて動けないのか抵抗も見せずに食らう一夏。智久は一夏を投げて壁に叩きつけた。
「全く。弱虫は土に還れよ」
オータムはその光景を目の当たりにして本気で引いていた。
「………お前………仲間じゃ……ないのか……?」
「仲間? 誰が? まさかあの男の事を言っているの?」
「………ああ」
オータムは頷くと、智久は大声で笑った。10秒ほど笑った後、まるでさっきまでの笑い声がなかったようにぱったりと止み、
「あーあ、つまんない。何それ? そうやって「同じ学校にいる=仲間」という方程式を構築するの止めてくれない? 悪いけど僕がIS学園にいる理由はあくまでも「IS技術の習得」であって「ゴミと慣れ合う」わけじゃないよ」
今回、学園祭に積極的だったのはあくまで「統率力など必要なことを舐めてかかる奴らに見せつける」のが目的であって、それ以降のことは智久にとって大したことではない。
「だからそうやってあんな奴らと同類扱いされるのは心外なんだ。だからさぁ―――死んでくれない?」
智久はISを装着せずにオータムに接近。蹴り飛ばすと同時にオータムの拘束を解いた。
「さぁ、始めようか。僕の僕による僕のためだけの制裁を」
そう宣言するように言った智久は闇鋼を展開し、オータムに対する一方的な攻撃を始めた。
タグには記載済みだからセーフ。八つ当たりだからセーフ。