IS-Lost Boy-   作:reizen

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ep.62 そして彼は修行する

 凰鈴音は唖然としていた。そして同時に、自分たちが以前戦った時のことを思い出す。

 次々と破壊されていく周囲。瓦礫が次々と出てくるが、それがさらに砂に近くなっていく。そのせいか、もはや第四アリーナの3分の1は破壊され続けていた。

 

「………まさか……ここまでとは……」

 

 近くではあまりにも激しすぎる姉弟喧嘩に圧倒されてか戦いを止めた雫は思わず溢す。

 

「これが轟家が暗部最強と名高った所以ですよ。同じような力が本気でぶつかればこんなことになるのは必然。あなた方は、そのようなお方に喧嘩を売ったことを理解しなさい」

 

 そう言って幸那は銃を展開するが、雫が素早く鞭を振るって攻撃を防ぐ。

 

「早く下がってください。邪魔です」

「うっさいわね! 言われなくてもわかってるわよ」

「だったら早く消えてください。邪魔です」

 

 年下に邪険に扱われるが、鈴音は今は言う事に従う。

 雫はハッとして振り向くが、其処には既に幸那の姿はない。すぐにハイパーセンサーで幸那のISの反応を見ると、全く別の方向に移動していた。

 雫も今は、幸那を追うことを選択し、次々と戦闘の余波で破壊されていく第四アリーナを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、オータムは逃げ出していた。

 

(やべぇ。これ、下手すれば死ぬ!)

 

 まさに全力だった。後ろからは瓦礫が飛び散り、今すぐにでも飛び出したい―――それが彼女の本音だが、生憎機体は逃げる時に目くらましのために爆発させた。

 しばらく走り、ようやく水飲み場を見つけた彼女はそこで休憩した。

 

(いくら実力を見るって言ったって、限度があんだろうが!!)

 

 内心、ここにいない自分の思い人並みに強い女性を思い浮かべながら怒りを露わにする。同時に、今もその女と戦っているIS初心者の男を思い出して身震いした。

 

(あの男に躊躇いなんてなかった……いくら元暗部って言っても子どもの時の話だろ……)

 

 人が他人を攻撃するのは、子どもの時からそういうトレーニングをしていなければまず難しい。だが智久は平然とオータムを攻撃し、意外な攻撃をするたびに笑みを浮かべていた。

 

(まぁいい。データは取れた。後は帰って対策を―――)

 

 そこまで考えた時、オータムは自分の周囲の違和感を感じたが、その場から離れることができなかった。

 

「まさか……AICか!?」

「ご名答。拘束させてもらうぞ、亡国機業」

 

 ラウラが静かにそう言うと、彼女の後ろで爆発が起こった。

 

「何!?」

 

 咄嗟の事にラウラは後ろを向き、オータムから視線を逸らしたことでAICが解かれた。オータムはすぐさまはそこから離脱しようとすると、乱暴に身体を持ち上げられる。

 

「やっと来たか」

「拾ってやっただけ感謝しろ、愚図。それで、成果は?」

「無理だったっての。何なんだあの男は! 常識を外れすぎだろ!?」

『それが本来の彼の能力ですよ。そんなことで今更驚かないでください』

 

 唐突に回線が開き、幸那が2人の会話に入った。

 

 

「随分と余裕ですわね!!」

 

 ラウラの後ろにはセシリアがおり、先程の爆発は彼女を狙ったものだった。

 だがセシリアは回避し、今は幸那と戦っている。

 

「いただきますわ!!」

 

 死角からのBT兵器。セシリアはその攻撃を当たると確信していた。しかし、まるで気付いて敢えて放置していたかのように幸那は回避したのだ。

 

「どうして!?」

「ずっとイメージしてきましたから。あなたを殺すために―――では、死になさい」

 

 幸那が駆るラファール・リヴァイヴのウイングスラスターが開き、そこからまるで光の翼が展開された。そして―――幸那は消えた。実際はハイパーセンサーですら捉えられない程早く移動しているのだが、セシリアはそのこと自体に混乱している。

 移動はしているがラファール・リヴァイヴのウイングスラスターからは特殊な粒子が含まれており、ハイパーセンサー越しでは視認しにくくされているのだ。

 ヒット&アウェイで装甲を抉り取られていくセシリア。そして―――至近距離から榴弾を発射され、直撃した。

 

「これで終わ―――」

 

 何かを使おうとした幸那。しかしそれが使用不可になっていることに気付いた彼女はため息を吐き、同時に鳴ったアラームに顔を歪ませる。

 

「待て!」

 

 援護に来たラウラ。幸那は興味がないのか離脱しようとしたが、AICに拘束されているためか動けないでいた。

 

「別にあなたは私の標的ではないのですが……」

「こちらの標的にお前は含まれている。大人しく捕まってもらおうか」

「別に構いませんよ?」

 

 意外な言葉に一瞬驚くラウラだったが、すぐに冷静になって尋ねた。

 

「何が目的だ?」

「私の目的はある人物らを処刑し、時雨智久の物になることです」

 

 突然のカミングアウトにラウラは唖然とした。

 

「………は?」

「なるほど。遺伝子強化素体でも「人の物」という言語は理解できるみたいですね。どうやらそっちの方がインパクトがあって「処刑」の方に対するツッコミはないようですが」

「ああ。そうだな………じゃない。どういうことだ? 処刑など―――」

「ここにいるセシリア・オルコットを含め、福音事件の時に命令を無視して勝手に行動した屑たちを処理することですよ」

「………私怨、か」

「はい。さっきまで殺そうと思いましたが、気が変わりました。彼女を捕らえて金儲けに使う方法の面白いかもしれませんね」

「―――それ賛成だけど、そろそろ時間だって忘れてなーい?」

 

 ラウラはAICを解除し、瞬時加速で下がって回避。装甲をわずかに焼いただけだったが、それでもその威力に度肝を抜かれた。

 

「………新手か」

 

 さらに2機のISが現れ、ラウラは舌打ちをした。

 

「『帰るぞ』」

「そーそー。そんな雑魚なんて放っておいて帰ろ~」

「………逃がすと思っているのか?」

 

 完全に不利だが軍人としてのプライドか戦闘態勢を取るラウラ。幸那はその度胸に関心すると同時にアドバイスした。

 

「止めておいた方が良いですよ。まだあなたがその身体でちゃんとした恋愛をしたいというなら」

「………何?」

「機械音声を使っている方は先程、国家代表を潰してきているので」

「!?」

「『ま、そういうことだ。って言ってもいつもと変わらない作業だけどな』」

「ねぇねぇダーリン。私は帰ってイチャイチャしたい」

 

 既にIS越しに抱き着いていることに幸那はツッコミを入れようとするが、少し残っている欲望が出てきそうだと思ったので自重した。

 

「『じゃあ、帰るか。お前もそれを連れてきて良いが、たぶん傷を負った奴を相手にする奴はいないと思うぞ?』」

「そうですか? いずれ治りますし蜂の巣にでも入れておけば問題ないかと思いますが」

「『お前じゃなくて俺が勢い余って再起不能にしちまうから置いていけ』」

「………わかりました」

 

 幸那はそこから消え、2機もまた離脱する。

 ラウラがセシリアの元に移動したとき、彼女のISはまだ辛うじて―――次のイベントであるキャノンボール・ファストに間に合う程度だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唐突の離脱。

 まるで示し合わせていたかのように、彼女らは撤退を行った。突然現れた彼女らに対して1つの損害を与えることはできたが、被害はとても大きかった。

 

「量産型、ですか」

「…………やはりわかるか。信じられないことにな。更識らが簡単に倒せたことからスペックは抑えられているのか1機1機のは大したものではないだろう。しかしこうも多ければ対処のしようがない」

 

 その後片付けも済んだ僕ら専用機持ちは動ける者は視聴覚室で行われる会議に出席している。そこで今回の襲撃の詳細を聞いていた。どうやら僕が姉と戦っていた時に周りは酷いことになっていたみたいだ。

 

「それより、アタシはアンタに聞きたいんだけどさ」

 

 敢えてか、僕の近くを座っていた凰さんが言った。

 

「あの女2人、アンタの知り合いでしょ? まさかアンタが手引きしたんじゃないでしょうね?」

 

 その言葉に全員が僕に注目し始める。生徒会役員という事で参加している虚さんと本音さんが心配そうに僕を見るけど、問題はない。

 

「そんなわけないでしょ。帰ってこないからなんとなく予想はしていたけど、敵になったのって今日初めて知ったんだから」

 

 姉さんがどうして敵になった理由はただ世界に対して絶望したから。詳しい理由はわからない―――でも、幸那はわかっている。

 

「もっとも、ラファール・リヴァイヴを使っていた方の原因は君たちだけどね。下らない恋愛感情を持ったままの癖に告白する勇気もない屑が、僕の身内が敵になったからって騒がないでよ。どっちにしろ、ここにいる人のほとんどが使えないんだから。特に君たち1年の専用機持ちはさ」

 

 もっとも、ボーデヴィッヒさんは別だ。彼女の指揮は僕が持っていないもの。彼女がドイツに戻るのは現状的には不利だろう。………僕が言えた義理はないけど、IS操縦者って我が強すぎるからなぁ……。

 

「黙りなさい! こっちだって努力を怠ったことはないわ!!」

「どうでもいいけどね。どうせここにいる誰もが僕に勝てないのは変わらないんだからさ」

「へー、言うじゃない」

 

 怒りを露わにする凰さん。ちょうどいい。今一度―――僕の強さを確認させてや―――

 

「誰だ!!」

 

 急に殺気を感じた僕はドアの方を向いて叫ぶ。凰さんは突然のことにポカンとしていたけど、状況を理解したのか笑い始める。

 

「なに言ってんのよ。そこに誰もいるわけが―――」

「―――いいや、いたよ。彼の行動は正解だ」

 

 僕は咄嗟に後ろに下がって戦闘態勢を取る。その間に凰さんは壁の投げられてぶつかっていた。

 

「不合格の君は下がっていたまえ。さて、君が時雨智久君だね。写真とはだいぶ違ったが成長期というものか」

「……お前は誰だ?」

「私かい? さぁ、私は誰でしょう?」

 

 織斑先生の問いかけにおどけたように返す不審者。だけど今の彼女にはそれが通じないようで、諦めたその不審者は笑みを浮かべて言った。

 

「私は夜塚透だよ、織斑千冬。しかし君はなんというか……弱くなったな。当然と言うべきかまだ現役時代の方が強かった記憶があるがね」

「………何が言いたい?」

「現学園最強の時雨智久を鍛えるためにここに来たのさ。ということで彼をしばらく借りるよ」

 

 伸ばされた腕を避ける。

 

「ふむ? どうやら君はお嬢から聞かされていないみたいだね」

「……お嬢?」

「私のことです、智久様」

 

 現れたのは雫ちゃんだった。

 

「君は?」

「北条雫。智久様の奴隷ですわ」

「……………」

 

 誰も突っ込まないのは少しありがたかった。

 

「それで博士、どうですの?」

「そうだな。これくらいなら私の組むメニューに慣れたら強くなれるだろう」

「…………えっと、もしかして……」

「はい。修行の時間ですわ」

 

 そう答える雫ちゃんに、楯無さんは唖然とした。

 

「と、唐突すぎない………?」

「ですが、智久様も今回の襲撃で己の能力の低さを感じ取ったご様子。私ではお役に立つことはできないので、その筋の専門家である方を及びしたのです!」

 

 本音さんのツッコミを軽く流してそう堂々と答える雫ちゃんはしてやったりという顔をする。デキる女アピールだろうが、少なくとも雑魚共に比べたら彼女は十二分にできると思う。まぁ、その気持ちはありがたいけど……。

 

「ごめん。ありがたいけど数日は無理かな」

「な、何故ですか………?」

「じ……事情聴取……」

「…………あ」

 

 忘れていたのか、雫ちゃんはバツが悪そうな顔をした。

 それから後は簡単な話し合い程度で終わり、僕だけ織斑先生に残らされた。もしかして弟をボコったことで流石にご立腹なのだろうか。

 

「……聞きたいことがある」

「あなたの弟さんを潰したのは戦いの邪魔になると思ったからです」

「だと思ったのでそれに関してはもういい。それよりも、お前の姉のことだ」

 

 僕は正直驚いていた。姉のことを聞かれたこともあるけど、何よりもその時の織斑先生の真剣さにだ。

 

「お前の姉の名前を……まだ聞いていなかったと思ってな。悪いが教えてもらえないか?」

 

 ……ああ、そう言えば言っていなかったっけ。

 

(とどろき)(かすみ)。それが姉の名前ですが―――」

「轟だと!?」

 

 いつもとは違う異常な反応にさらに驚く。どうしたの? 何があったの?

 

「…………だが何故、2人で名字が違うんだ?」

「僕の場合は家族が死んでその後のゴタゴタで記憶喪失。それからしばらくは幸那と一緒にいたので隠しの姓を使っていたんです」

「………そうか」

 

 それにしても驚きようが異常だった。そう言えば姉さんは一時期日本の代表候補生だったから、その関係で会ってたのかな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、智久はまたIS学園を後にする。

 楯無をはじめ、生徒会役員の3人は不服そうだったが、キャノンボール・ファストを含めさらにある催しも行おうと計画し始めたからだ。そして―――

 

「以上が、IS学園部隊に所属することに関する注意事項だ」

 

 会議室を1室借り、千冬は生徒の中からIS部隊に所属しようと考える者を対象とする説明会を開いていた。

 内容は以前なら少しオブラートに包んで内容を易しくしていたが、今回はその正反対の事を言っているのである。何故そうしたのかというと、それは彼女のとある成績が関係している。

 実は千冬は智久の姉「轟霞」に一度として勝ったことがない。人によっては「それがどうした」という話になるだろうが、この状況において全く変わる。

 何故なら、千冬を相手に勝てるという事はIS操縦者としての能力は既にトップクラス。下手をすれば勝てる者はたった1人を除いていないということになる。

 

「今年度から様々な問題が起きた。この部隊に所属すれば厳しい訓練をほぼ毎日課されることになる。最悪の場合、出撃時に殺される可能性もある。そのことを留意して欲しい」

 

 それで説明会を終わらせる千冬。説明に来た生徒全員が青い顔をしていた。




夜勤明け……限界……
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