智久が戦闘を開始した頃、次々と球体が降り専用機持ちや緊急事態のためISを展開した人たちの前に現れた。
「こいつらは、学園祭の時のか!?」
「全員、固まって行動して。相手の戦力は未知数だから」
簪が素早く指示を飛ばすと、鈴音が返す。
「セシリアはどうするのよ?」
「戻るように指示は出している。お姉ちゃんたちに任せて私たちは早くこいつらを追い出さないと―――」
途端に彼女らの近くが爆発した。観客席の方では火の手が上がっており、その中心で常識外の戦闘が行われていた。
「あの2人のせいでアリーナとその周辺が消滅する」
「あの惨状を見れば否定できんな……」
一応、このアリーナだけでなくIS関係のものはISが全力でぶつかっても耐え得る装甲が備わっている。
しかしある一部の戦闘だけはそれを軽く超えてしまうのではないかと怯えてしまえることが行われていた。
「―――哀れですね」
全員がその場から退避する。床が吹き飛び、少し後ろにはラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを母体とした機体がおり、
「悪いけど……あなたを捕まえさせてもらう」
「構いませんわ。ですが―――」
大型のウイングスラスターが開き、高速で簪に接近する。
―――ギンッ!!
簪は咄嗟に防いでその勢いに乗って下がる。
「いくら智久様と共にいるとはいえ、痛めつけますよ」
「こっちにも一応はその覚悟はある」
幸那は少し下がると、急に身体が動かなくなった。
「AICですか」
「そうだ。降伏を進めるが?」
「…………クスッ」
幸那の機体から青く光るブレードが飛び出し、ラウラに攻撃した。攻撃を回避したラウラはAICを解かなかった。
「なるほど。多少は成長しているのですか。智久様といる割には弱いとは思っていましたが」
「……言ってくれるな」
「ですが事実でしょう? あの方の友でいてくれたことは少なからず感謝してはいます。ですが、あなたはそれだけですし―――」
今度は青い波動を放つ。すると幸那はそこから離脱し、周囲に機雷をばらまいてすぐに爆発させた。
「なにっ!?」
「サードウェポンキャンセラー。わかりやすく言えば、AICや衝撃砲、BT兵器などの第三世代兵器を無効化するものです。とはいえ、一定時間が経てば使えるようになりますが」
「な、なにそれ!? 強すぎじゃない?!」
鈴音が驚きを露わにした。
だが幸那は馬鹿を見るような目で一瞥する。
「それ、あれを見て同じような事を言えますか?」
「え―――」
鈴音は咄嗟に振り向く。だがそこには何もなく、彼女のすぐ近くを2機のISが通過した。戦いの衝撃をまともに食らった鈴音はバランスを崩される。
「?!」
「鈴!」
箒が鈴音を守ろうと移動するが、重い衝撃によって吹き飛ばされる。
「『舞え! 波龍!!』」
右手を突き出す敵。そこから紅い龍が智久めがけて飛ぶが智久はそれを腕から発する電気の刃で切り裂く。
「『流石は轟。俺の気を軽く裂くとは―――これだから貴様との戦いは止められない!』」
敵は気の球体を連続で生成して打ち出す。智久はそれをすべていなし、今度はマニピュレーターを介してレーザーを放った。
「『効くか』」
だが相手はそれを片手で受け止め、耐える。
その光景を見ていた簪たちはレベルはもちろんこれまでの常識を遥かに塗り替えるレベルの攻防に驚きを隠せないでいた―――が、幸那の存在がその思考を中断させる。
「このっ―――当たれ!!」
衝撃砲の砲身を幸那に向けて発射する。だが当たるよりも先に幸那は消えており、鈴音に蹴りを入れた。
「動きは以前よりにマシになっていますね。でも―――弱すぎますよ」
後ろから幸那に斬りかかる箒の斬撃を振るわれる前に弾き、《空裂》の副次効果である「レーザーを奥義に発射する」効果を防ぐ。
「くっ。貴様―――」
「たった少し鍛えた程度で何が変わるんだと言うんですか。本当に強くなりたいなら、その手を血に染めなさい」
脇腹を踵で蹴り、箒の動きを鈍らせて引き寄せ、レールカノンの砲撃を防いだ。
「がっ?!」
「す、すまん、箒」
「気にすることはありませんよ、遺伝子強化素体。この女が弱すぎるだけですから」
「―――それに関しては同意する」
今度は簪が仕掛けた。
15基のミサイル群。幸那はそれを両肩に装備されているビームソードを引き抜いてすべて破壊し、同系統のビームサーベルを装備している簪と鍔競り合う。そこで幸那は気付いた。
「………あなた……その装備……」
「……メタルシリーズ。この機体はその2番機」
打鉄弐式の開発は本格的に凍結された。
というのも、打鉄弐式の本来のスペックは簪の要求するものとはかけ離れており、そもそも47基のミサイルを同時に操作することが無理という判断が下されたのである。
その結果、北条カンパニーは新シリーズである「メタルシリーズ」を打ち出し、その二番機である「荒鋼」を簪に預けた。
「多少………いえ、その機体もこの「ラファール・リヴァイヴ・デスティニー」と同等のものなのでしょう。なら―――」
幸那が消えた。
しかし簪にとって相手が消えることは日常茶飯事だ。追撃は容易い。
ウイングスラスターから8基のビットが射出され、それらが次に幸那が現れる場所に攻撃した。だが―――
「残像……」
「ご名答」
簪の後ろからウイングスラスターから赤紫の非実体ウイングを展開した幸那が現れる。だが簪はそこから動かず、攻撃を防いだ。
「これは―――」
「ビットでバリアも張れる。あなたを捕らえるにはこの帯で十分」
幸那の脚に帯が絡みつく。幸那はすぐに抜け出そうとビームソードで切断しようとするが、固くすぐに切り落とすことができない。
「取った」
簪は薙刀を展開して幸那の頭部に振り下ろす。幸那の頭部に当たろうとした瞬間、簪の眼前にはレーザーが直撃した。
「なっ」
「油断しましたね、更識簪」
幸那の機体の左腕部にいつの間にか弓が作られており、幸那はそこからレーザーの矢を射出したのだ。
「残酷なことに、この弓のチャージは―――たった1秒で最大出力に達します」
今度はまともに腹部に食らう簪。だが咄嗟に帯を放して防御したので威力は抑えることはできた。
「………忘れてた」
簪は眼鏡を外し、前髪に髪が掛からないためかカチューシャで止める。
「あなたはあの施設にいたんだから……手加減しなくっていっか」
腕部装甲を独立稼働させ、投影型キーボードを出して簪は目を疑うようなほど早くキーボードを叩く。
「あなたたちは周りのザコを片付けなさい。私がこの子の相手をするわ」
「ちょっ、何を勝手に―――」
「―――勝手?」
すると甲龍の衝撃砲が破壊される。下からのビームではなく、簪の機体である「荒鋼」のビットだった。
「妥当な判断よ。戦力評価もできない素人は下がってなさい。巻き込むわよ?」
幸那は背筋が凍るのを感じ、簪から離れるとセシリアが見れば泣いて逃げ出すであるほどの練度が高いビット裁きを披露した。さらに下の機体すらも破壊し始める始末である。
「む、無茶苦茶じゃない!?」
「何なんだ……あいつは同じ人間か?!」
補足すると、荒鋼は確かにメタルシリーズの2番機でありいずれは量産するであろう機体である。
しかし様々な攻撃手段を詰め込み、また簪自身もそれを求めた結果とんでもない性能に仕上がっていた。
―――脳思考、手動操作、ペダル操作
ありとあらゆる状況に対応できるように様々な要素を取り入れた結果、ある意味ではゲテモノ機体となっているのである。ビットは脳操作、手で格闘や射撃を行いつつペダル操作で細かな軌道を描く。それはつまり、従来の比でないほどの処理能力をパイロットに求めることとなった。
―――完全に無茶苦茶だった
楯無が知れば間違いなく止める代物であり、技術者たちもあまりの出来具合に解体しようかと思ったほどだ。だが簪は―――
「これくらいしないと、今後の戦いに付いて行けないから」
そう言い切った。とはいえ、簪に制限はある。
理性をほとんど吹き飛ばす代わりに、使用限界はあくまでも1分。それ以上は廃人となる可能性が高いので制限を設けたのだ。
「―――っつ」
簪の視界が霞み、一瞬攻撃が緩む。これまで防戦一方だった幸那は正気を見つけ、簪にビームを放つ。
しかしそれは、突然介入した存在によって弾かれて骨組みの一つに当たった。
「交代だよ、かんちゃん」
「……後はお願い、本音」
「任された」
その機体は、従来の物とは大きく変わっていた。
ベースとなっているのは打鉄だが、かつて弐式に備わっていたブースターを改良されており背部に三基設置されており、少し大きめの鳥の羽を思わせるウイングが備わっている黄色を基調色と機体。
―――通称、本音カスタム
「次から次へと………」
「だってぇ。しぐしぐの頼みでもあるんだもーん」
軽口を叩く本音は、さりげなく大鎌を展開して非実体の刃を飛ばした。
その頃、楯無は死を覚悟していた。
IS「ミステリアス・レイディ」は既に展開済み。だが、目の前の2人と対峙して上手く戦うどころか―――逃げ切れる気すらしない。
1人はスコール・ミューゼル。裏社会に存在する悪の組織「亡国機業」の幹部の一人であり、実働部隊「モノクローム・アバター」の隊長。そしてもう1人はかつて一族の大半を滅ぼした日本の代表候補生「轟霞」。
「そう警戒しないで、楯無」
「………警戒しないわけにはいきませんよ、霞さん」
「大丈夫。今日は面倒な茶番をしてきたから。用が終わったらさっさと消えるわ。私はそのためにあなたを止めに来たから」
楯無は思わず頬を引き攣らせる。
「そ・れ・に」
楯無も、そして味方であるスコールもその動きを追うことはできなかった。
いつの間にか霞は楯無の隣に立っており、耳打ちする。
「―――そろそろ、智久も我慢の限界かもね」
「何をしているのかしら?」
スコールからプレッシャーが放たれる。
「何もないわ。将来の妹の1人に簡単なアドバイスよ。あなたがしているとてもつまらないことよりもはるかにマシ」
「…………」
スコールは内心舌打ちした。
霞はとてもつかみどころがない性格をしている。実際、彼女の動きもまた独特で気が付けば自分が嫌な事を知って場をかき乱す。スコールも完全には抑えられていないのだ。
加えて、彼女側にいる静流と楓の存在も厄介だ。静流は戦闘能力の高さから、楓は篠ノ之束と並ぶ頭脳による想像力から、どちらも亡国機業に利益をもたらした。それは間違いないが、如何せんやり過ぎなのだ。
少し前に今セシリアと戦っているエムという少女と同じナノマシンを投与したが、おそらくそれはとっくに解除されているとスコールは考えている。
(舞崎静流が、幸いエムに興味を持っていないことがせめてもの救いね)
エムの正体を知る彼女にとって、これからしようと考えていることの切り札まで取られるのは癪だ。予めある程度のデータを取れば引くようには言っているが、とはいえそれまでに乱入されればおしまいだが。
「引くわよ」
「わかったわ………」
スコールは自分を炎に、霞は電気に変えて姿を消した。
「………なんなのよ、一体……」
楯無は自らの無力さを嘆く。目の前を2人が通りすぎるが、その異常な戦いがさらに拍車をかけていく。
そしてその2人の戦いは、とうとうアリーナを超えた。
その頃、BT搭載機の2機は街中を駆けながら戦闘をしていた。
下には避難どころかまだ状況を理解できていない人間が圧倒的に多く、セシリアたちの姿を見ても撮影か何かしか思っていない。
そんな状況だが無慈悲にもセシリアは追い詰められていく。
「お前はもう死ね」
冷たく言い放つエム。彼女は連続射撃をすべてセシリアに当て、ブルー・ティアーズのシールドエネルギーをごっそり削り、装甲と武装を破壊される。
「終わりだ」
下降していくセシリアに容赦なく引き金を引くエム。その下は高速道路で平日である今も車が走行しているのだが、彼女にとってどうでもいいことだった。しかし、セシリアにとってはそうではなく、彼女はすべて受けきり、ギリギリ耐える。
「まだ……ですわ。わたくしの切り札は……まだ……ありましてよ!」
叫んだセシリアは心の中でトリガーを引く。それを合図に高機動パッケージ『ストライクガンナー』を装備していることによって封じられたビット兵器が0.001秒で稼働、照準、狙撃を行った。しかしこの行為は最悪の場合は機体が空中分解するもの。事実反動で装甲の一部が吹き飛び、コアを収納するエリアの一部にヒビが入る。
「これが切り札だと? 笑わせるな!」
エムは声を荒げ、笑いながらもすべて高速ロールで回避しつつ接近する。そして彼女が持つライフル《スター・ブレイカー》の銃剣がセシリアに向けられる。だがそれは―――予期せぬ第三者の介入によって防がれた。
突然現れた盾。それが銃剣を防いだが―――
「なら、これでどうだ」
銃剣の刃部分が光り、熱を帯びたことによって盾を貫通して装備者の顔に銃剣が近付いた瞬間、エムが被るバイザーに蹴りが入った。
「―――ねぇ」
その声に、その場にいる全員が凍り付く。エムも、セシリアも、そしてセシリアを守り、本来向けられることもない虚すらも。
「貴様、どこか湧い―――」
叫ぶエムに対し、突然現れた存在は容赦なく蹴りを入れる。
「誰がしゃべって良いと許可した?」
―――バチッ
その男から放出される電気。それが黒色をしていて何度も飛び散る。
「ま、待ってください、智久君!」
「……………」
とりあえず制止はしているようだ。行動をしなくなった智久にエムが攻撃を加えようとすると、彼女が使用する「サイレント・ゼフィルス」の背部が爆発を起こした。
「時雨さん、今です! その方を―――ヒィッ⁈」
意識を向けられたことで怯えるセシリア。そんなやり取りをしていると、エムが奪われる形で智久から引き離された。
「何をする貴様!」
「『離脱命令が出てんだよ。後さぁ―――』」
―――何でさっさと消さなかった?
回収する相手に殺気を向けられて黙るエム。彼女は基地に戻って解放されるまで一切口を利かなかった。……というよりも利けなかった。
敵方が離脱したことによって戦いは強制的に終了という形になり、学園祭の時に出てきた無人機も次々と離脱しているという報告を聞いた
(とりあえずは終わり、でしょうか)
未だに動かない智久を見守りながら、徐々に殺気が引いていくのを感じる虚。張り詰めた空気が無くなったのを感じた彼女は智久に声をかけようとしたが、その前に智久が声をかけた。
「じゃあ、帰りましょうか」
「………ええ」
さっきまでの異常な気配が何事もなかったかのように消えていることに少し不安がる虚だったが、結局何も起こらなかった。