膨大な処理をIS学園で行われている頃、とある人物がひっそりと目を覚ました。
状況がわからず、どうして自分に点滴が打たれているのかわかっていない彼は、目の前にいる小さくて丸い存在に唖然とする。
「よーやく起きたか、寝坊助。久しぶりの起床はどんな気分だ?」
「………は?」
突然話しかけられたこともあり、一夏は目の前で話したであろう存在を受け入れきれなかった。
「……スライム?」
「まぁな。まぁ、詳しい話は省略するとして―――」
「いや、話せよ!」
一夏は思わず突っ込むが、そのスライムは話す気がないのか話を進めた。
「まぁあれだ。一時期話題にもなった魔法少女の使い魔のセリフを思い出してみろ」
「……いや、何だそれ」
「…………ここまで無知だといっそ清々しいな」
あきれ果てるスライムだが、一夏の思考は未だ追いつかない。
そもそも、スライムが布団の上でおなじみのモンスターの姿で話しかけてくると言う状況に思考が追いついていないのだ。結局、彼もまた普通の男でしかない。
「まぁいい。でも良いのか? 俺の事情を知ったらお前―――最悪死ぬぞ?」
「……は?」
「なにせ俺の存在そのものが機密事項で極秘事項だからなぁ。大体、お前の今の状況は理解しているか?」
「………いや、さっぱり……」
スライムは心からため息を溢すが、一夏は気に入らず睨みつける。
「言っておくが、今IS委員会じゃお前を解剖するかしないで揉めているぞ」
「………か、解剖? 何言ってんだよ。そんなことしたら犯罪だろ!?」
「典型的な発言乙。犯罪も何も、「彼は我々人類のために自ら犠牲になった」とか言って好評したらそれで終わりだ。IS委員会に探りを入れる奴はいるだろうが、そいつらはいずれ事故に見せかけて殺されると言う末路を辿るし、他の奴らも詳しく調べるほど暇じゃねえ。時間が経てばいずれ人は忘れていくって話だ」
実際のところ、希少な存在である男性操縦者を解剖しているのだから続報を待っている人間は少なからず残っているが、このスライムはそういうのもいずれ消えて別のブームに向かうだろうと予測している。
「大体、それをお前が知らない事が異常なんだっての。まぁ、おそらく男性操縦者がお前だけだったらこんな話は出なかっただろうし、現に話が出てきたのってつい最近だしな」
「なんだそれ。じゃあそれも結局眉唾もの―――」
「最初は孤児院育ちということもあって時雨智久を真っ先に解剖しようと言う話だったんだけどな」
そう言われ、一夏は黙った。
「まぁ単純な話。IS学園の理事長と学園長が反対したおかげで話はこじれ、しばらくは様子見ということになった。これまでおかしいことはあっただろ。特に学年別トーナメントでお前たちが優勝したこと」
「あれがなんだって言うんだよ―――」
「対外的にはシュヴァルツェア・レーゲンに不正システムが入れられていたことから反則負けということになっているが、見ている奴は見ているってことだ。それにな、あの試合が無効試合にならなかった最大の理由が何か教えてやろうか?」
「………何だよ」
「篠ノ之束、そして織斑千冬に対するご機嫌取り」
その言葉に一夏は愕然とする。
だが少し妙な既視感を感じたが、気のせいだと思った。
「結果として、織斑千冬は公正な審判を判断を行わなかったことに激怒して、理事長と学園長は時雨智久の今後を期待して特別賞を授与した。俺でも正当な評価だとは思うがな。試合前にブースターを壊されるというアクシデントを仕掛けられたのにも関わらずお前たち2人を倒したのだから」
「……お、俺たちを倒したって………」
「いやぁ、お笑い草だな、織斑一夏。片や専用機持ちと組んだ専用機で簡単に決勝に進出し、片や実力を見込んで問題児の専用機と組み、努力し続けた結果が妨害の上にご機嫌取りのために失格扱い。しかも本来なら専用機持ちの暴走の尻拭いをして生徒を守ったのに仕組んだ本人として感謝させられずに犯罪者扱い。おまけに織斑千冬とキスをしたという理由で家族を殺される始末。しかし片や専用機持ちの方はまたご機嫌取りのために奪われた機体を戻すと言う特典付き………で、どうだ織斑」
「…………何がだよ」
「お前は織斑千冬と篠ノ之束のご機嫌を取るための道具としか見られていないんだが?」
スライムは真実を言い放った。
「ただのらりくらりとしていただけで自分の評価はうなぎのぼり。誰からも文句言われない幸せな路線を歩み続けれた。けどその代償としてお前は圧倒的に弱くなった。完全に、取り戻せない程手遅れに、な」
言われていることを一夏は理解できなかった。
「お前は弱いんだ、織斑一夏。だが、俺を取り込めば強くなれるぞ」
「………いらねえよ。急にしゃべって変なこと言って、挙句に弱いって。俺は―――」
「今のままじゃどれだけ努力したところで無駄だ。時雨智久に勝つよりも遥かに簡単な「ブリュンヒルデ」になることすらまず無理だ」
はっきり言われた一夏は少し苛立つが、実際のところそうだ。
「お前だってはっきり負けたじゃねえか」
「…は? 何言ってんだよ」
「………ああ、そういうことか」
スライムは一夏の額―――脳に自身の身体を鋭くして突き刺してあるツボを刺激する。一夏は驚き、硬直するが脳内にあるシーンが流れる。
―――自身が、姉を貫くシーンだった
「………な……なんだこれ……」
「安心しろ。幸い、織斑千冬は致命傷じゃなかったからピンピンしてる」
「そういう問題じゃねえよ! 何だよこれ! どうして俺が千冬姉を⁈ それに、更識さんと……えっと、もう1人は―――」
「確か前に篠ノ之箒が気絶させた奴だな―――って、そうじゃねえよ。おかしいと思わねえのか? どうしてお前がそんな大切なことを忘れているのか?」
「………もしかして、お前が見せたジョークとか―――」
「残念ながら本当だ。何だったら当時の報告書とか織斑千冬の事情聴取記録とか見るか?」
スライムは口を開けて記録のコピーを出していく。
「………あれ? 濡れてない」
「俺の口の中は四次元ポケットだからな。そんなことよりもだ―――何でお前は忘れていたんだ、そんな大事なことをよ」
スライムに問い詰められている一夏。本来なら大して大きくもない存在に怯むこともない一夏だが、今回ばかりは動揺を隠せていない。
「あの時の俺は正気じゃなかったから―――」
「それもあるが、お前の記憶自体が弄られていたからな」
「だ、誰がそんなことをしたんだよ!?」
「篠ノ之束以外あり得ないだろ」
あっさりと答えるスライムに呆気にとられる一夏だったが、すぐにさらに否定する。
「そ、それこそあり得ねえよ。確かに束さんってどこかおかしいけど―――」
「あれだけ迫られて全く動じないお前におかしいって言われるとかww」
「茶化すな! でも、実際束さんって他人に話すのが苦手みたいだし―――」
「興味を無くすのと現実から目を背けるのが上手いだけだ」
バッサリと斬るスライムはさらに畳みかける。
「そうだ。お前、白式に一体何のコアが使われているか知ってるか?」
「知らない」
「コアNo.001。篠ノ之束が最初に作り上げたISコアだ。それ故に介入もしやすい。記憶はそれを使って消したんだよ」
とはいえ、人の記憶は弄ることはできても完全に消すことはできない。だからこそ一夏はスライムの調整によってまた思い出すことができたのだが。
「お前も知っている通り、篠ノ之束は技術面だけでなく戦闘面でも高いスペックを持っている。それくらい成してもなんら不思議じゃない」
「じゃあお前は、束さんがこれまで妨害したとでも言うのかよ」
「そうだな。クラス対抗戦の時と銀の福音の時は間違いなくあの女の差し金だ。そもそもおかしいだろ? 無人機はどこも開発していないし、そもそもISコアは篠ノ之束以外開発することはできないんだぜ? それに―――ISの乱入なんて普通は考えねえしな」
そこまで説明すると、一夏はようやく今の状況を理解したのか顔を青くしていく。
考えてみればすべてそうだ。ISは篠ノ之束の専門分野。暴走を起こすのは容易だと一夏は考える。考えてしまい、しまいには思考がそれで独占されていく。
「…………でも、箒だっていたんだぞ? 束さんは箒のことが大切なはず。だったら―――」
「男でお前と同じく特別な時雨智久がISを持つことだって世間は反対したんだぞ? いくら篠ノ之束の妹だからって黙っていない奴はいないはずだ。だから―――」
「だから、認めさせるために暴走させるなんて―――」
―――やりかねない
一夏はとうとう認めた。そして、これから先に起こるであろう未来も。
「…………お前を受け入れたら、束さんを止めることはできるのか?」
「絶対的な保証はできないが、身体能力は向上する。後は、お前が如何に死に物狂いで努力するかだな」
「………わかった」
返事をした一夏は躊躇いなくスライムに触れる。すると激痛が体を蝕み、一時は心不全に陥る事態となったが―――数分後に回復した。
(計画通り、だな。あの女の予定を狂わせることになるけど、今織斑千冬がいる前で無理矢理引き剥がすなんてことはしないだろうし)
スライムは白式の一部と化した。だが束に仕込まれているであろうウイルスから自身を守る準備はしており、次々と弾いていく。
(………にしても、こいつは本当に……)
―――知識なさすぎだろ!!
スライムだったものは中でOSの書き換えを行い、最適化を図る。そして内心、自分がしっかりしないといけないと自覚する。
―――その時だった
一夏は誰かが窓の外にいる気配を感じ、振り向く。
そこには、自分が良く知る顔をした少女が笑みを浮かべて銃口を向けていた。
■■■
(………まさか、こんな状況になるなんてね……)
事情聴取を終えた僕は先に部屋に戻ったけど、どうやらそれは正解だったようだ。
僕はすぐに風呂場に入り、浴槽の中で口からあるものを吐く。
(……これはバレたらマズいか……)
シャワーで血を洗い流しながら、僕はため息を吐く。現状、ISに乗れて姉さんやあの相手と戦える戦士はいない。もし僕がここで倒れてしまったら、一体誰が戦うと言うのか―――
―――それを考えると、心から寒気がする
(冗談じゃない。あの人たちに戦わせてたまるか)
それなら早々に降伏した方がまだマシだ。機密事項なんか取られて当たり前。人の方が………4人を守るためなら明け渡す。
「辛そうね」
後ろから声をかけられる。この声は、フォーリアか。
「フォーリア。どうしてこうなったのかわかる?」
「………おそらく、まだ慣れない身体に急激な成長を遂げた反動。それに加えてあの
「………正解。まさか自分の身体がここまで弱っていたなんて思わなかったよ」
たぶん、夏ごろの覚醒程度だったらまだ大丈夫だったんだ。でも、姉さんとの力の差を知ってしまって、それで焦ってってところだな。肉体にも馴染んでいるわけじゃない。
(………潰れるのが先か。それとも馴染むのが先、か)
どっちにしろ、もしかしたら僕は近い内に死んでしまうかもしれない。そんな予感だけはあった。
■■■
その頃、霞は帰り際に感じたある気配を感じていた。
「どうした? 何か考え事か?」
静流が缶を握り潰しながら尋ねる。
「違う。ただ、妙な気配……いや、おそらくだけど―――」
―――最悪の事態が近い内に起こりそうだ
そう言った霞に対して静流は笑みを浮かべた。
「なるほど。ようやく、か」
静流が亡国機業に―――いや、霞に付いて行く理由は3つある。一つは自分と境遇が似ている楓を守る事。二つ目は思い上がった女を破壊すること。そして三つ目は―――強敵との出会いだ。
静流はかつて母親に八つ当たりに近い方法で殺されかけており、反撃したことで母を溺愛していた父に捨てられ父方の祖父母に育てられていた。だが当時は馴染めずにあらゆる場所に八つ当たりをしていた。
元々、戦いの才能はあったのだろう。理不尽という暴力を振るい、潰し、学校だけでなく本職の組を襲撃し、その伝手である工場を破壊して回り、静流はそこで楓と、楓を探していた霞と出会った。
色々あり、静流は楓を霞に託すことを選択した。当時静流は中学1年。自分では守り切れないことを身に染みて理解させられたからである。もっとも、霞に負けたおかげで自分がまだまだ弱いことを知ったことで覚醒してしまったのだが。
「わかっていると思っているけど、私はあなたには死んでもらおうと思っていないわ。もし危ないと思ったら逃げなさい。智久が悪い方に覚醒したら、あなたでは太刀打ちできない可能性が遥かに高いわ」
「……ああ。心配ありがとうな」
―――当然、死ぬ気はないけどな
そう言い切った静流はしばらくしてから休んだ。
お察しかと思いますが、これで第6章は終わりです。
俺たちの戦いはこれからだ! ……はなく、ここまでの設定集を書こうかなと思っています(前々から書きたかったけど、どうにも中途半端な気がして書く気になれなかっただけです)