曹操は約束の日の前日に、またしても老人を読んだ。 「いよいよ明日ですが?」 「分かっているよ、御老人。私の前世の人物は見当がついたよ。だが、その前に幾つか訊きたくてね。例の前世の話だが、約三百年から四百五十年と言ったが、それなら百五十年の期間がある。何も今の時代の人物は、楚漢の時代の者とは限らないのでは?」 「そう、勿論です。あくまで推論ですよ。唯、因縁という目で観ますと・・・・・。」 「因縁?」 曹操は眉をしかめ、黙考し始めた。 「ええ、人と人との結びつきと言うべきでしょうか・・・・・。」「・・・・・。」 曹操は無言で頷きながら、思案を続けた。その視線は、目先辺りではなかった。
「なるほど。」 曹操は数分後に呟いた。納得したようで、解決したよと笑った。老人の方も、どこまで解析したかの確認に入った。 「魏王様、そういえばこの前、袁紹殿が劉邦の生まれ変わりだといわれましたが?」 「そう思ったよ。もしも、呂布と袁紹が二大勢力で天下争いをしていたら、部下次第では、漢の高祖のように天下人になれたかもと。」「魏王様の、項羽や劉邦の評価などそんなものですか?」「そんなところだ、その四人など。」 曹操はそう言って笑い、さらに続けた。「勿論のこと、人徳や勇猛さは別だが、将としては・・・・・。」 曹操は擁護しながら、付け加えた。老人は暫し唖然としていたが、気を取り直して尋ねた。
「先ほど、幾つかと言われましたが?」「ああ、他のは玄徳のことだよ。」 曹操のその言葉は、老人にとってかなり意外だった。今まで軽くしか触れて来なかったからだ。 「あの男こそ、劉邦の生まれ変わりの、もう一人の候補だ。」 その魏王の言葉に、老人は有り得ますねと同意し手、続けた。「玄徳殿と呂布将軍は、因縁があったようですな。魏王様と玄徳殿もだし、魏王様と呂布殿も・・・・・。」 「そうかな?呂布とは敵対関係だけだったがね。」 曹操は軽く否定した。「そうですか。唯、呂布殿が玄徳殿に身を寄せた時に裏切ったとのことですが、私の分析では、前世では逆に何度もその行為をしたのは、玄徳殿の方だったと観ています。」「あの玄徳が?人格者で有名なのに?」「ええ、その辺りが謎解きの鍵になるでしょう。」 老人は笑顔で言い放ち、沈黙をつくらせた。
少し後に、さらに老人の方から口を開いた。意外な人物だった。 「名前を出しにくいのですが、今は亡き伏皇后もです。魏王様が許せなかったのは当然ですが、それ以上に憎悪の念など無かったですか?」 「伏皇后?」 その言葉に、曹操の顔は曇った。暗殺は未遂だったとはいえ、かつて自分を狙った相手の名だったし、なぶり殺した相手だったからだ。 「御老人、この質問に何か意図があるのかな?」 魏王は不機嫌な表情になり、語気を強めて聞いた。「ええ、因縁的なものですが・・・・・。」 「因縁?」 「それは明日に説明します。」 老人は冷や汗を垂らしながら取り繕い、約束した。「もしも無意味だったら・・・・・。」 曹操は冷たく言い放った。