この癖、改めたいなぁ。
新人達の成長度合いを見る模擬戦。なのはとの2on1を俺は少し離れた場所から観戦していた。なのはの生徒を想う気持ちも、新人の強くなりたいという願いも、どちらも分から上でのどちらつかづな状況に多少なりとも罪悪感を感じる。
「やっぱり、あんまし向いてないのかな」
背中で語る男になりたいと、昔いつの日か思ったことがあった。最速で突っ走る男として、その背中を見て後ろを続く奴らがいてくれたら嬉しいとそう思っていた。
だが、そう思惑通りには行かなかった。本気で鍛えた俺の速さに追いついてくる者はいない。それは結果的に周りと自分との距離を遠く引き離すだけに過ぎなかった。だからといって適当にフラフラしている俺はどこかつかみどころのない人、としか認識されていないらしい。
はやては部隊指揮に、フェイトは執務官に、なのはは教導に、それぞれ自分の生きる場所を見つけている。
俺はどこに向かえばいい?
俺が求めた速さの先には何がある?
眼下では必死になのはに食らいつくティアナとスバル。その、無茶としか言い様のない特攻フォーメーションがなのはの懐に迫り……。
なのはが、切れた。
レイジングハートを待機状態に戻し、片手でスバルの鉄拳を、もう一方の手でティアナの銃剣魔法、おそらくオリジナル魔法のそれを素手で掴み、手から血を流すなのは。
そう言えば、なのはが本気で怒っているのを見たのはかなり久しぶりだ。
なのはを怒らせるのは禁物だと周囲のみんなは知っているからと言うのもあるが、そもそもなのはは自分のために怒ったりはしない。いつだって人のために怒るのだ。
その裏にはいつだって優しさが、愛が篭っていた。
「本当、なのはの教導を受ける奴って幸せ者だよ」
一旦距離をとって、全力の射撃を試みるティアナ。それさえなのはは許さず、射撃で牽制。同時にスバルのことをバインドで縛り上げた。更に、デバイスの補助なしで収束砲撃を行うなのは。そしてその直撃を受けたティアナの事を見ながら、俺はそう独り言ちた。
無残にも撃墜されたティアナと、彼女に駆け寄るスバル。スバルは振り返ってなのはを睨みつけている。バインドで動かない両腕と歯を食いしばった表情から、その心情が推測される。
無茶な訓練でも、ティアナを信じて付き合い続けたスバル。彼女たちの友情はそれほどにも厚いのだ。それが、スバルの憧れだと言っていたなのはに敵意となって剥き出されている。
これは俺が思っていた以上に深刻な問題になりそうだ。
撃墜されたティアナは長い時間起きることは無かった。おそらく疲れも溜まっていたのだろう。それでも先ほど、夜の九時過ぎになって目が覚めたらしく、スバルと共になのはに謝りに来た。
生憎、なのははオフィスには居なかったので話は明日にして今日は返すことにした。このことはフェイトがなのはに伝えに行くというので任せることにする。
俺は別方向からのアポローチを試すべく、技術主任のシャーリーを訪ねていた。
「ということなんだけど、どう思う?」
もう割と遅い時間なので少し悪いかと思ったが、シャーリーはそんなこと臆面にも出さずに答えてくれた。
「いい考えがあるんです」
「ほう、それは?」
「実はですね……」
そう言って、別に悪いことをしている訳では無いが、何故かそういう雰囲気になっている所で、アラートが響き渡る。
「何とも都合が悪い……、後は頼んだぞ」
結局ロクな話は出来ないまま、俺も出動準備に取り掛かった。
ガジェットドローン二型、敵の航空機が海上に現れた。敵機の速度が以前よりも上がっているようだが、辺りにはレリックの反応もなく、戦略拠点も、船すらない。ぐるぐると旋回運動を続ける様子からみて、撃ち落としてくださいと言わんばかりだ。
おそらくはこちらの航空戦力を調べたいのだろうという事に落ち着く。だったらこちらわ今まで通りに、対処することとして結論とされた。万が一、これが陽動だった場合に備えて、俺は出撃待機とされた。
「今回は空戦だから出動はわたしとフェイト隊長、ヴィータ副隊長の三人」
「みんなはロビーで出撃待機ね」
「そっちの指揮はシグナムだ。留守を頼むぞ」
「「はいっ」」
いつも通り元気に返事をするライトニングの二人、それから、
「はい」
らしくない、スバルの覇気のない返事。
「……はい」
明らかに元気のないティアナ。
無理もない。あんなことがあってからまだ半日も経っていないのだし、気持ちの整理もついていないはずだ。
「ああ、それから、ティアナ。ティアナは出動待機から外れとこうか」
「……っ!」
それは実質的な戦力外通告と言っても良かった。解雇や除隊、といった意味ではないが、現状、戦力としては宛にならない。そう言う意味だ。
何も言えないティアナに、そんな彼女のことを心配する他のフォアードメンバー達。
「その方がいいな、そうしとけ」
「今夜は体調も魔力も、ベストじゃないだろうし」
もちろん普段の、いつも通りの彼女ならそんなことを言われることも無かった。しかし、今日に関して言えば別だ。体調的にも、精神的にも無理をするべきではないのは、誰の目から見ても明らかなのだ。
「言う事を聞かない奴は、使えないってことですか?」
ティアナの穿った……、しかし真実を的確に表した表現。その言葉を聞いてなのはは、
「自分で言ってて分からない? 当たり前のことだよ、それ」
とても悲しそうに、しかしその事を悟られないように引き締めた顔で、そう言い放った。
「現場での指示や命令は聞いています、教導だってちゃんとサボらずやっています。それ以外の場所での努力まで、教えられた通りじゃなきゃダメなんですか?」
感情的になっているティアナに対して、同じく感情的になりやすいヴィータが動く、がしかし、黙って差し出されたなのはの手がその動きを制した。
「私は、なのはさん達みたいにエリートじゃないし、スバルやエリオみたいな才能も、キャロみたいなレアスキルもない。少し位無茶したって、死ぬ気でやらなきゃ、強くなんてなれないじゃないですか!」
本音を、自分の劣等感を構わずさらけ出したティアナにの、その胸ぐらを掴みかかったのはシグナムだった。そしてそのまま、有無を言わせず殴りつけた。その一発には少しの遠慮も感じられなかった。
「シグナム……!」
「シグナムさん!」
「心配するな、加減はした」
フェイトやなのはが抗議の声を上げるが、当の本人はなんの悪びれもなくそう言った。俺的には加減してるならまあ、いいんじゃない?
倒れ込んだティアナにスバルが駆け寄る。
「駄々をこねるだけの馬鹿はなまじ付き合ってやるから付け上がる。ヴァイス、もう出られるな?」
「乗り込んでいただけりゃ、直ぐにでも!」
その言葉を聞いてフェイトは直ぐに、ヴィータはその後に乗り込もうとしたが、なのははこんな状況下でも自分の生徒を放っておくことは出来ないらしく、
「ティアナ! 思いつめちゃってるみたいだけど、戻って来たらゆっくり話そう!」
「ほーら! だから付き合うなってのに!」
最後までティアナのことを心配するなのはをヴィータが機内へと引っ張り込み、ヘリはゆっくりと離陸、速度を上げて現場空域へと向かった。
市街地上空を抜けた辺りで、なのはが後部ハッチを開け、風を感じながら眼下の星光を反射する海面と、流れすぎる夜空の雲を見て、思案に耽っていた。
「やっぱり心配か?」
「うん、それはやっぱりね……。って隼人君ヘリに乗ってるの!? 出動待機じゃ……」
「俺は真っ先にヘリに乗り込んだけどな。大丈夫大丈夫、はやての許可は貰ったから」
ヘリが飛び立ったあとの事後承諾だけど。その時のはやての引きつった顔が忘れられない。後が怖いんだよなー、本当は。
「一分一秒でも早く終わらせて帰りたいんだろう? だったら俺の出番だ。もし陽動だったりしても、俺には関係ないね。本部からだろうと、現場空域からだろうと最速で突っ走るだけさ」
「もしも本部をはさんで反対側が本命だったらどうするの?」
「その時は二倍……、いや三倍の速度で飛んでみせるさ」
なんの躊躇いもなくそう答えると、なのははいつものように呆れ顔をした。
「ちゃんと考えて返事してる? 反射神経だけで会話してない?」
「問題ない。本当に緊急事態ならリミッターも解除されるだろうし、現場まで急行するだけなら三倍は軽いね。その時はヴィータを抱えて一直線だ」
「ばッ! なんであたしなんだよ!」
今まで黙ってこちらを伺っていたヴィータが驚きとともに声を上げる。
「え、一番軽いから」
「ばっか、重装備のあたしより軽装のフェイトの方が軽いだろうが!」
「えぇ!? 私は良いよ、そんな! 抱きかかえられるだなんてゴニョゴニョ……」
予想外の方向から話に加えられて照れるフェイト。
「いや、俺を除いて一番速いフェイトは運ぶ必要ないだろ。それに装備の重量を鑑みても、ヴィータの方が軽くないか?」
「てぇめー、あたしに喧嘩売ってんだな?」
「ひ、必要ない……、可能性も皆無……?」
瞬く間に表情が怒りへとシフトチェンジするヴィータと、対象に何故か落ち込み始めるフェイト。みんな大人になったように見えて、内面はあまり変わっていないようだ。
「冗談だって。大体、俺に足りないパワーを持ってて都合がいいのはやっぱりヴィータだろう?」
「む、むぅ……。間違っちゃいねーが何か腹立つ!」
それは理不尽な怒りだと思う。
「ヴィータの体重は良く分からないけどたぶんこれくらいとして……、重装備って言っても十キロは無いでしょう? だったら合計……、これより私軽くないとダメなの? そうじゃないとおかしいのかな?」
それは多分間違ってる。
「かくなる上は装甲を更に薄く……」
それは絶対間違ってる。
「ふふふっ、隼人君。私は運んでくれないのかな?」
何時の間にか笑顔を取り戻したなのはが、意地悪そうにそう聞いてきた。
「いや、なのはは最前線に放り込まれても困るだろ? 砲撃型なんだからさ」
「今は現場空域間の話をしてるんでしょう? 流石に何十キロも先までは私も撃てないと思うなー」
本気を出せばそれくらいできそうだと思うのは黙っておこう。
「しかしまあ、俺は壁役はこなせないからな。なのはの戦闘スタイルとはあんまし相性良くないだろ?」
「そんなことないって。私が壁役やって、隼人くんが遊撃して、隙ができたら私がぶち抜く。ね、十分通じるって」
それは普段なのはが一人でやってる事とそう変わりなかった。俺=誘導弾くらいの扱い。むしろ意思疎通が取れなければ誘導弾以下かもしれない。明らかに負担がなのはに寄り過ぎている気がする。
「それは、なんか駄目だろ」
「えー、なんでー?」
主に俺の心情がそう訴えるんです。
「まあ、ほらあれだ。なのはが困ったときは最速で駆けつけるって約束だろ?」
「あ、うん。覚えててくれたんだ、その約束」
それは昔、なのはと俺が初めて魔法に触れたあの事件。何の力も持たない餓鬼に過ぎなかった俺がなのはに向けて言った言葉だ。当初から魔法の才能を遺憾なく発揮していたなのはが困っている時に、なんの力も持たない俺が助けに行ったところで何の意味も無いかもしれないけど、それでも俺はそう誓ったのだ。
「ああ、今だからこそあえてもう一度言うよ。最速で駆けつけるってな」
過去に、一度だけなのはが撃墜された例の事件。それは日々蓄積された無茶の代償で、ひどい怪我を負うことになった。
近くに居なかった俺が駆けつけたのは病院の、全身を包帯で包まれた痛々しい姿のなのはの前だった。その時なのははこう言った。
『来てくれてありがとう』
全然間に合ってないのに、来るのがどうしても遅くなってしまったのに、そう言って笑って、器用に笑いながら、涙を流したのだ。俺が知る限り、涙を流したのはその一度だけ。フェイトの前でも、はやての前でも、ヴォルケンリッターの前でも、笑顔を崩そうとはしなかったらしい。
だが今は、今なら。今度こそ約束は守ってみせる。同じ部隊でにいて、俺が望んでいた速さだって身につけた。
「さあ、さっさと片付けて帰ろうぜ。心配事があるのは分かるけど。即効で片付けてやるから少しだけ忘れてろ」
「あ、うん」
なのはがそう言って頷く。何、心配はいらない。
「そうだね、私も頑張るよ」
「オッケー、まかしときな」
賛同するフェイトとヴィータ。俺達には、頼りになる仲間がいる。
だからティアナ。お前も、お前の周りにいる大切な仲間と、それを見守る隊長、副隊長陣がいることを忘れないでいて欲しい。そう願わずにはいられなかった。
ついでと言ってはなんですが……。
前に後書きに書いたINNCENTの二次作『青葉空は策士である。』も調子にのって連載中です。よければご一緒にどうぞ……。