「うわぁーん!! 宿題終わんないよぅ!!」
家の居間で紅葉がカレーパンを頬張っていると穂乃果が泣きながら数学の宿題を突然持って来てやってきた。
穂乃果と同じクラスである紅葉はその宿題が明日提出なのを知っているし、宿題自体は2日ほど前に出されたものだ。
紅葉も既に宿題は終えている。
そしてそんな穂乃果を見て大方、彼女が自分に「お兄ちゃん宿題の答え見せて!!」と言ってくるのは予想できる訳で……。
「お兄ちゃん!! 宿「見せないからな?」まだ何も言ってないよ!?」
驚く穂乃果だが、以前にもこういったことは何度もあったため、そんなことは言わなくとも分かる。
だがそれでも穂乃果は紅葉に抱きついて泣きながら宿題を見せてと頼み込んで来るのだが……当然紅葉はそれを断る。
「やらないと海未ちゃんに怒られちゃうよぉ!」
「それは穂乃果の自業自得だろ? 2日間もあったのに何してたんだ?」
「そ、それはμ'sの練習が忙しくて……」
言い訳を始める穂乃果だが、海未やことり、他のメンバーだって同じ条件でやっているのだ。
凛は怪しいところではあるが。
なのでそんなものは宿題をやらなかった理由になる訳もなく、紅葉は穂乃果はもう1度断るのだが……。
「うぅ~」
今にも泣き出しそうな穂乃果の顔を見ると紅葉は「はぁ」と溜め息を吐いて立ち上がる。
「しょうがない。 宿題の答えを見せる訳にはいかないが、教えるくらいはしてやる」
「ホント!? ありがとうお兄ちゃん!! だぁーい好き!!」
穂乃果は満面の笑みで紅葉にまた抱きついて来るのだが紅葉はすぐに彼女を自分から引き離す。
「お前なぁ、兄貴だからってそうやって気安く異性に抱きつくのはやめろよ?」
「えへへ♪ 穂乃果がこうやって抱きつくのはお兄ちゃんだけだよ~♪」
(おぅ、嬉しいこと言ってくれるな……)
*
それから……。
頭から湯気を出しながら机に突っ伏している穂乃果だったが、なんとか数学の宿題は無事に終了。
「頭から湯気が出るほどよく頑張ったな、穂乃果」
紅葉は笑みを浮かべながら穂乃果の頭を撫で、撫でられた穂乃果もふにゃんっとした表情を浮かべて「えへへ~♪」と心地よさそうに笑う。
するとその時、紅葉は「ふぁ」と小さな欠伸をし、それを見た穂乃果は何かを閃いたような顔をする。
「ありがとうお兄ちゃん!! おかげで宿題終わったよ!! そうだ! お兄ちゃんにお礼してあげるね♪」
「お礼?」
「うん! お兄ちゃん、さっき欠伸してたでしょ? だから穂乃果の膝、貸してあげる!」
それを聞いた瞬間、一瞬思考停止した紅葉だったが……ついつい視線が彼女のとても柔らかそうな膝に映ると彼女の言葉の意味を理解しボッと顔を真っ赤にした。
「い、いやいやいや! 流石にそれはちょっと……」
「穂乃果の膝枕じゃ、イヤ?」
「言い方!! 言い方もう少し考えろ!!」
あくまで穂乃果の膝枕は遠慮すると言い張る紅葉だったが、それでは穂乃果が満足しないため彼女は紅葉の後ろに回り込み、「えーい!!」とかけ声をあげて抱きつく。
そのまま彼女は紅葉の脇腹をくすぐり始める。
「わっ!? あははは!!? な、なにすんだ!!? ははっ!? ほの、かぁ!!? あははは!!」
「それ今だー!!」
「うぉ!?」
穂乃果は紅葉の両肩を掴んで後ろの方に引っ張って倒させると紅葉の頭は穂乃果の膝に置かれる形となり、結局彼は彼女に膝枕をして貰うことになったのだった。
「どう? お兄ちゃん?」
「あー、クソ。 ヤバい、これは……一度されると離れ、られな……い……」
紅葉はそのまま穂乃果の膝の上で眠ってしまい、穂乃果は満足そうな顔をしていた。
「えへへ~♪ こうやってみるとお兄ちゃん意外と可愛いんだね~♪」
穂乃果は紅葉が眠っている間、嬉しそうにしながら紅葉の頬を一差し指でツンツンするのだった。
*
夕方、穂乃果の膝枕から起き上がった紅葉は少し汗をかいてしまった為、風呂に入って身体を洗っていたのだが……。
突如として「バン!!」っと勢いよく風呂場の扉が開かれ、それに思わず紅葉は「ビクッ!」と肩を震わせ、後ろを見てみる。
「お兄ちゃん! 背中流しに来たよ!!」
するとそこには髪を下ろしてスク水を着た穂乃果が立っていた。
「もう少し羞恥心持とうか!!?」
「ほぇ? なんで? ちゃんと水着も着てるし!」
そういう問題じゃないだろ……と心の中でツッコミを入れる紅葉だったが、穂乃果はそのまま紅葉の反論も持たず石鹸を持って紅葉の背中を洗い始める。
紅葉は少し顔を赤くしつつも「はぁ」と小さく溜め息を吐く。
「お前、俺がお前の兄だから良かったものの……。 あんまり異性にさっきみたいに気安く抱きついたり膝枕したりするなよ? 男はみんなケダモノなんだ」
「……」
紅葉の言葉に背中を洗いながらも黙り込む穂乃果。
不思議に思い、紅葉は振り返って穂乃果の顔を見ようとするが……「バシャーン!!」と顔にお湯をいきなりかけられる。
「おま、何すんだ!?」
「えへへ、悪戯成功~♪ お湯で石鹸流すね~♪」
無邪気に笑う穂乃果を見ると怒る気も失せてしまうのだった。
「……お兄ちゃん以外に、あんなことしないよ」
そう呟く穂乃果の言葉は……お湯で石鹸を洗い流す音にかき消されたのだった。
「んっ? なんか言ったか?」
「な、なんでもないよ!!」
先ほど呟いた言葉に穂乃果は恥ずかしさがこみ上げて来たのか耳元まで顔を真っ赤にして立ち上がる。
「それじゃ穂乃果、また後でお風呂入るから!!」
それだけを言い残して穂乃果は風呂場を出て行く。
「はぁ。 全く、あんな恥ずかしい台詞……よく言えるな……」
尚、先ほど穂乃果が呟いた言葉はウルトラマンである紅葉にはバッチリと聞こえており、彼は真っ赤に染まった自分の顔を隠すように手で口元を覆っていた。
*
その夜のことである。
「なんで俺の部屋に来るんだ」
「だ、だってぇ~!」
夜にテレビで恐怖映像の番組を見てしまった穂乃果は涙を浮かべながら自分の部屋の枕を抱えて紅葉の部屋へと訪れていた。
「怖いなら見なきゃ良いのに」
「だって、一度見だしたら続きが気になるんだもん」
だったら雪穂と一緒に寝れば良いのではないだろうかと紅葉は思ったのだが……。
「そんなことしたら雪穂にバカにされちゃうじゃん!!」
とのことだった。
「まぁ、別に良いんだけどさ。 俺もお前の寝顔は可愛くて好きだし」
「ふぇ!? も、もう……お兄ちゃんもあんまり人のこと言えないじゃん……」
穂乃果の言葉の意味がよく理解できず、首を傾げる紅葉だったが……兎に角、なんやかんやで紅葉と穂乃果は一緒のベッドの上で眠ることに。
しかし……。
(ね、眠れない……)
もう1時間くらいは経っている筈なのに、穂乃果は一向に眠ることができず……。
彼女は紅葉も眠ってしまったかと顔を覗き込むのだが……既に寝息を立てていてスッカリ眠っていた。
(た、確かさっき見た心霊番組もベッドで寝ている時に物音が聞こえて……)
とその時、どこからから「コトッ」という音が聞こえて穂乃果は「ひっ!」と小さな悲鳴をあげて紅葉に抱きつくように彼に寄り添う。
今にも泣き出しそうな穂乃果だったが……、その時彼女の右手に暖かい感触が伝わり、それに驚いて自分の右手を見てみると……。
紅葉が彼女の手を握りしめていたのだ。
「お前がなんかゴソゴソしてるから起きちまった」
「ご、ごめんね?」
「良いよ。 俺は幽霊なんか平気だから、お前が寝付くまでしっかりとこうやって手を握っておいてやる。 だから安心しろ、なっ?」
優しい微笑みを穂乃果に向ける紅葉。
それを見て穂乃果もどこか安堵したような表情を浮かべ、彼女は「うん!」と頷き、眠りにつくのだった。
*
「穂乃果が可愛すぎて辛い。 どうしたら良いですかね? 菊月さん?」
「手土産にことりちゃんのサイン色紙持って来てくれたのは嬉しいが、ワザワザ別の世界に来てまでなぜ私に相談するんだ? っていうか妹の自慢しに来ただけだろお前」
穂乃果ちゃんみたいな妹がいたらシスコンにならない奴なんていないんじゃないかな。