ネギまに百人斬り隊長
「――お前、俺と一緒に来ねえか?」
まったく見覚えの無い光景を目の当たりにし、いつも通りに殺しつくした後、最初に聞いたのはそんな暢気過ぎる声だった。
その時の事は、今でもはっきりと覚えていた。血に塗れ泥に塗れ、悪意と憎悪と殺意に塗り潰され――それらの激情が潮を引き、泥のように眠るその寸前。あまりにもそれに頓着しない、軽過ぎるその台詞。
そんな声をかけられたのは何時以来だっただろう、そんな声を聞いていたのは何時の頃の話だったか。
「いかねえ」
「なんでだよ。この天下無敵の英雄、ナギ・スプリングフィールド様が声をかけてやってんだぜ?」
そんな軽過ぎる台詞を吐いていたのはナギ・スプリングフィールドといった赤毛の少年。彼からすれば、生意気な小僧という印象だった。
「――はっ」
彼はその時、嘲笑した。
「天下無敵の英雄、ナギ・スプリングフィールド様だァ? 聞いた事ねえよ、んな名前。おい小僧、英雄願望も程々にしとけよ。剣もとれねえようなひょろっちいガタイで、英雄になんざなれるわけがねえだろ」
ナギはその彼の言葉を聞いた後、どのようなことを言ったのか。それをあいにく、彼は覚えていない。ただ――その次の瞬間に雷が迸り、容赦無く叩きつけられ闇の中へと落とされたことは覚えていた。
「――・・・」
むくり、と、彼は起き上がった。夢を見ていたようだ。それも寝覚めが悪くなるような夢を。胸中がもやもやして落ち着かない、そんな夢。
「・・・ばっかばかしい」
なにが天下無敵だ、なにが英雄だ。誰よりも強い強いとほざいて、しょっちゅう苦戦して、でも辛い勝利を掴み取る。ああ、あいつは誰よりも英雄だろうよ。上がり下がりの激しい気性と、ここ一番の根性は。
――そして、古今東西の英雄譚の通り、姿を消していなくなってしまうのも。
彼は布団から這い出て、大きな欠伸を漏らしながら洗面所へと向かう。洗面所の鏡に映るのはいつも通りの、あの十年以上前から一切として変わらない、冗談のような強面のおっさんのような顔。そして、夢の内容がかなり複雑なものであったためか、その鏡の中の強面は睨んでいる。
目をつぶり、眉間をほぐす。以前にこんな顔をしていて、こっぴどく叱られた事があった。別にそれが堪えたわけでは無いが、それをしてくる相手が相手だ。面倒なことになりかねない。
服を脱いでシャワーを浴びる。その途中に洗顔用石鹸を使って顔を洗い、そのついでに口ひげを剃る。その後バスタオルで体を拭いて、腰にそれを巻いただけで部屋を歩いて着替えを出す。彼はこのアパートに一人暮らしをしている。同居人はいない、というか、いさせなかった。
とりあえず下着上下をつけて冷蔵庫を開ける。冷えた缶ビールを一つ取り出して一息に飲む――その姿は完全におっさんである。冷蔵庫の中を見て、昨日の夕飯の残りをひょいひょいと取り出し、それを電子レンジにかける。
その間に、食器を出して食卓に並べ、職場に持っていくものを点検する。夕飯の残りが温まったらそれを取り出して食べる。その後に歯磨きをして短い髪を後ろに逆立て、似合わない職場の制服を着て家を出る。
彼のスーツ姿は職場において、いささか以上に似つかわしくなかった。スーツの下からでもわかるくらいに、彼の鍛えられた肉体が盛り上がっている。常に片眼を瞑った強面も相まって、どうしてもマフィアやギャング、暴力団の一員にしか見えない。
「よ・・・、おはよう・・・ございます、新田、先生」
「おはよう。――いい加減、敬語に慣れてはどうかね? ここに就任してもう何年も経っているというのに」
「慣れねえもんは慣れねえ、んですよ。そもそも俺はこういうのとは無縁のはずなんだ――・・・なんです」
「だったらなんで教師に?」
「・・・特にすること無かったから、爺さんに言われてしただけです」
彼がそう言うと、新田先生と呼ばれた初老の先生は顔をしかめた。あ、やべえ、と彼が思ったのも束の間、彼はそれから職場である麻帆良学園に着くまで、教師の何たるかを説教された。
彼はその新田先生が嫌いではない。ただ不用意な発言をすると、心構えに関する説教がくるので少し苦手だ。教育に生涯を捧げている――そんな、人間。それは彼にとっては好ましいと思い、同時、眩しくもある。
その新田先生もまた、彼のことは嫌いではない。むしろ好ましい人間だ。彼は体育教師で剣道部の顧問をしている。一見というか話をしても、彼の柄は悪くとても教師には思えないのだが、なんだかんだで面倒見は良い。彼の剣道の指導を何度か見たことがあるが、投遣りな態度の割にはしっかりと教えている。
彼は新田先生と一緒に職員室に入る。するとそこで一人の教師に呼び止められた。曰く、学園長室に来るように、と。職員室に荷物を置いて学園長室へと向かう。
「ふぉっふぉっふぉ、よく来てくれたの」
そこにいたのは好々爺然とした、やけに後頭部と髭の長い和装の老人。洋装の部屋と机と椅子に腰掛ける姿はどことなく奇妙だ。また、最近のとある少年誌に掲載された漫画の影響によるものか、どことなくぬらりひょんが勝手に上がっているとも。
学園長室には彼の他に、数名の先生方がいる。その数、十人以上。彼はこれまで新田先生と接していた時のような、どことなく不自然だが敬意の払われた態度を――かなぐり捨てた。
獰猛な笑みを浮かべる。
「なあ、爺さん。やっぱ俺は要らねえだろ。――こんだけ暇な奴等がいるんだ。警備は事足りてるだろ、本当はよ」
あまりにも不遜な物言い。それに周囲は顔色を変えるものの、ある二人を除いて何も言わない。
「それがのぅ、要るんじゃよ」
「残念だけどね」
苦笑してそう言ったのは苦みばしった金髪の男性で、人を食ったような笑みと共に言ったのが学園長。金髪の男性の名前は高畑・T・タカミチ。この麻帆良学園における、学園長を除いた魔法先生で最も強いとされる教師。こと、戦闘に関しては。
その返しに、彼は獰猛な笑みを浮かべた。
「だったら殺せよ。お前ら、俺が必要なのはこの呪があるからだろ? ああ、そうだよなあ、これはかなり強力だ。手元において、厳重に封印してえよな」
腰抜けと、揶揄するようにそう吐き捨てる。
誰もそれに何も言わない。それどころか痛ましそうな、哀れむような表情を浮かべる。彼はそれに、暗い激情を覚えながらも、彼らを内心で嘲た。
「彼が思ってるより、儂らは暇じゃないのでの。用件をさっさと伝えるぞい」
学園長は簡潔にそれを言い渡した。曰く――かの英雄ナギ・スプリングフィールドの息子がここ、麻帆良学園に来る、と。
その出来事は、この世界における彼の大きなターニングポイントとなる。
■
それは――剣と呼ぶにはあまりにも躊躇われるものだった。
大きく分厚く、そしてなにより大雑把な――ともすれば鉄の塊としか見えないような、大剣だった。
■
「ようやく――俺は帰る事ができる」
それは邪悪な福音。過去に闇の福音と恐れられたものなどこれの比ではない。
それはただひたすらに、生きとし生けるものを面白おかしく犯しぬき踏みにじって食らうものども。邪悪という概念、化け物という概念、怪物という概念、絶対悪という概念――それらを具象化したような、否、それらはそう在るとして信じられ幽世に漂っていたもの。
全人類の誰もが恐れ唾棄する異形のものども。それら真の化け物を前にして彼は――笑っていた。
■
「思い出したよ・・・、久しぶりに、最初の気持ちってやつをよ」
獰猛な笑みを浮かべ、強大な狂った敵を前にしてそう猛る。
全身は満身創痍。内臓のいくつかは既に破裂し、青あざの無い箇所はどこにも無いようなそんな凄惨過ぎる状態で――彼は依然として猛り狂う。
「――ありがとうよ、最悪の気分だ」
生きているのが不思議な状態、だが、これはかつての彼にとって日常茶飯事の出来事。それ故に――彼は過去の自分を思い出す。
「夜が明けるまで、死に続けろ――――!」
狂敵を屠り続けてきた大剣が、
■
かくしてかの狂戦士は、復讐を成す為に戦い続ける。
恐怖を殺意で塗り潰し、憎悪で身を焦がしてただひたすらに仇敵を滅ぼしつくす。
かつて自らの大切なものを奪ったものたちに復讐するため、彼らがいるあの修羅の地へと戻るため――
それがたとえ、自らの身を滅ぼすとしても。
若干、前半と後半が噛み合っていない気がする・・・。
■ネギまの世界にトリップした人
名前:ガッツ
作品:ベルセルク
著者:三浦健太郎
作者お奨めの漫画。
ダークファンタジーが好きな人にはかなりおすすめ。