妄想が暴走し爆発した短編集   作:鈴北岳

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暴走した。
しかし後悔はしない。


冥界にて修羅道様

 彼らは浮きに浮いていた。華やかな衣装とは程遠い軍服のまま、華やかに着飾るべきであるパーティー会場を席巻する一つの集団。

 

 その集団の中心には、そんな軍服姿でありながら誰よりも華々しく輝く者がいた。

 

 それは歩く黄金比。神域を平然と侵す逆徒。しかし、そんな存在でありながら、誰の目であろうと惹きつけ羨望させ求めさせずにはいられぬ、愛すべからざる光(メフィストフェレス)。黄金に輝く長い髪を、肩にかけた軍服を悠然と揺らしながら、獣の王が如く威風堂々と歩く。

 

「・・・ラインハルト・ハイドリヒ」

 

 誰かがポツリとそう呟いた。

 

 メフィストフェレス、黄金の獣――そうとも呼ばれる彼の名はラインハルト・ハイドリヒ。人の身でありながら、真性の悪魔とまで称された最強の転生悪魔。その力は絶対的なまでに、絶望的なまでに強力で――彼の誇りを犯そうとした元主はこの世に既に無く、彼の世に食われてしまった。

 

「久しぶりだね、ラインハルト。元気そうでなにより」

 

 そんな圧倒的な存在感を放つラインハルトの前に、同等――ともすれば同等以上――の存在感を放つ美丈夫が歩み寄った。

 

「卿もだ、サーゼクス・ルシファー。奥方は壮健かね?」

 

 サーゼクス・ルシファー――現四大魔王の一角ルシファーを担う者。紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)と呼ばれ、ラインハルト以上に冥界の悪魔達から畏怖と尊敬を集める、赤より鮮烈な紅色の髪の美青年。

 

「壮健も壮健。昨日の夜それを嫌というほ、どっ!?」

 

「・・・すみません」

 

「いや、こちらこそすまない。彼の性格を失念していた」

 

 サーゼクスのわき腹に肘を叩き込んだメイド服姿の、怜悧な印象を与える銀髪の美しい女性。彼女の名前はグレイフィア・ルキフグス。サーゼクスの侍女であり妻である。同時に、最強の女王(クイーン)でもある。

 

「ふむ・・・」

 

 グレイフィアは痛むわき腹をおさえる夫を余所に、眼前の美丈夫をしげしげと見る。世の女性が放ってはおくことができないであろうその美貌。しかし、この黄金の獣にそういった類の浮ついた噂は何一つとしてない・・・わけでもないが。

 

女王(クイーン)のザミエル卿は最近どうです?」

 

「む?」

 

 ラインハルトはその急な質問の意図を図りかねた。

 

 ザミエルが彼女に相談事でも持ちかけたのか、と、ラインハルトは数秒いつもの光景を思い返してそう結論付ける。

 

「どうもなにも、彼女はいつも通り良く働いてくれている。その忠は卿の彼に対するものには及ばずとしても、迫るものだ」

 

 ラインハルトがそう言った瞬間、パーティーに参加している未婚の女性、その十数名が倒れた。それと同時に、ラインハルトが腕を振るって指令を下していた。

 

「シュピーネ」

 

了解です(ヤヴォール)

 

 瞬く間に形成された蜘蛛の糸が、床に崩れ落ちる直前に未婚の麗しき女性らを支える。彼女らの衣服に埃がついた様子は無い。

 

「良くやった。――さて、ご婦人方は気分が優れないようだ。支配人、後は頼む。シュピーネは好きに使って構わん。シュピーネよ、我が爪牙が単なる戦闘集団でないことを知らしめよ」

 

 ――ちょっ!?

 

 そんな言葉を喉元奥深く、胸の奥深くに沈めてシュピーネと呼ばれた痩身のやつれた男性は恭しく――しかしどこか小者臭を醸し出して――一礼し、支配人と共にパーティー会場を出て行った。

 

 それを傍らで見ていた一人の青年が苦笑を漏らした。

 

 ところどころ跳ねた茶髪の、容姿の整った青年。どことなく物憂げな印象がある割に、がっしりとした体格をしている。

 

「戒、笑ってはいけませんよ。あれでも目上の人なんですからね」

 

 彼――戒の隣にひょっこりと一人の女性が現れてそんなことを言った。

 

 金髪をポニーテールにした快活な美少女だ。年齢は戒と呼ばれた青年よりやや年下に見えるが、先ほどの先輩風のある発言どおりに彼女は彼より年上である。

 

「それは君もだよ、ベアトリス。まあ、シュピーネさんのことはいつものことだからしょうがないといえばしょうがないけど」

 

「けど、なに?」

 

 ベアトリスは一旦言葉を切った戒にその先を促した。

 

「首領はもう少し考えて発言するべきだなぁ、と」

 

「やっぱりそっちよね。シュピーネなんかより」

 

 さらりと酷いことを言うベアトリスに戒はただ苦笑いする。

 

 ベアトリスはそんな戒の諦観に少しも気づく事無く、件の麗しの獣殿の発言を思い返す。その時の顔がどうしようもなくニヤついていたことにも戒は諦観を感じつつ苦笑いの表情を作ってしまう。無論、先のものにも気づかない彼女が気づくわけがない。

 

「『女は所詮、駄菓子に過ぎん』」

 

「それに『私は総てを愛している』よねー」

 

「あの容姿でそこまではっきり言うとむしろカッコよく感じるのかしらね」

 

 横合いから新たに二人、会話に参加した。

 

 一人は桃色の髪の小柄な少女、もう一人は青紫色の髪のグラマラスな女性。言わずもがな彼女らも美しい女性である。前者は女性ではなく少女であるが。まあ、容姿が整っていることに変わりは無い。

 

 話は横に逸れるが、ラインハルトの眷属である悪魔達はとある研究者(シュピーネ)やつれた神父(トリファ)の二人を除いて、ラインハルトから始まり容姿の整った者揃いである。それ故か、ラインハルト率いる眷属は、ラインハルトの呼ぶ「聖槍十三騎士団」より、「黄金の爪牙」と呼ばれることが多い。とはいえどちらも有名であることに変わりは無いのだが。またまた話は逸れるが、そうやって自分の眷属のチーム名を決めることが冥界にて流行りつつある。

 

「あれ? お二人ともさっきまで一緒に居た方は?」

 

「飽きちゃった」

 

 小柄な少女――ルサルカ・シュヴェーゲリンはあっけからんと笑顔で酷いことをのたまった。どこかでグサアッ、という擬音が聞こえてきたのは単なる偶然ではないだろう。

 

「私は少し疲れたからよ」

 

 そう言って微笑んだのはグラマラスな女性――リザ・ブレンナー。そんな彼女をルサルカはどことなく恨めしそうな顔で睨む。

 

「そうよねえ、バビロンってば大きなモノを抱えているもの」

 

「まったくその通りです。ええ、これっぽっちも羨ましくなんかありませんよ」

 

 ニヤニヤした表情でルサルカの言葉に乗っかるベアトリス。その表情の割には台詞には羨望が見え隠れするのだが。

 

「貴女達も子供を産めば大きくなるわ」

 

 そんな二人――二人は未だ結婚していない――に対し、リザは少しも揺るがずに茶目っ気たっぷりにそう答えた。すると。

 

「「そんなのじゃ遅いのよ!」」

 

 未婚の恋する女性二人は奇しくも声を揃えてそう叫んだ。

 

 そしてはたまたそれを遠くから眺める少年と男性の二人。

 

「ははは、リザはなかなかに厳しいことを仰る」

 

 そう言ったのは壁にもたれてパーティー会場を穏やかに眺めている茶髪の男性。風が吹くだけでも倒れそうな、そんな貧弱な雰囲気だ。儚げとも言えなくともないが、それは少しそぐわない。彼の名前はヴァレリアン・トリファ。元神父であり、現在は孤児院の院長をしていることでそれなりに有名だ。

 

 パッと見とその噂ではかのラインハルト率いる眷属では一番の異質だ。腕の立つ者、性格のおかしな者がほとんどの集団の中では。しかし、この集団の中で最も厄介な異質さを持つのはこのヴァレリアン・トリファを置いて他にはいない。

 

「なぜだ? クリストフ」

 

 そう尋ねるのはヴァレリアン――クリストフの隣にいた少年だ。

 

 遠目から見てもわかるほどの紅顔の美少年だ。ともすれば少女にも見える。黄金の髪と黄金の瞳。整った容貌は鉄面皮といっても過言ではないほどに無表情で、しかし、いやだからこそか庇護欲をかきたたせられる――そうだ。

 

 この少年の名前はイザーク・アイン・ゾーネンキント。聖十三騎士団において、ただの一度も戦闘に参加したことの無い唯一のメンバーである。

 

「イザーク、貴方は我々聖槍十三騎士団において最も女性的であるのは誰だとお思いですか?」

 

「・・・母様、だな」

 

 なお、イザークの母親はリザである。

 

「少しも男には見えない」

 

「ええ。そうですね。私も彼らの中で最も女らしいというのであればリザを挙げます」

 

「・・・クリストフ、回りくどいことはやめろ。結論はなんだ」

 

「まあ要は、体の起伏に富んだ方がより女性らしく、一般に良く男性を惹き付けます。どうやら彼女達は意中の相手がいるようで、その相手の興味を惹きたいが故に胸が大きくなって欲しい、そう思っているようだ。――ここまで言えば、お分かりいただけましたかな?」

 

「つまり、本末転倒だと」

 

「ええ、そうです。よくできました」

 

 ヴァレリアンは孤児達によくやるような極自然な動作でイザークの頭を撫でた。

 

 その会話を彼ら二人と同じく、壁の華となりながら、パーティーのボーイがおそるおそる運んできたシャンパンを飲みながら、聞いている女性がいた。

 

 赤い髪の、長身の女性だ。それだけでも充分に傍目を引くというのに、彼女にはもう一つ、大きな特徴があった。それは左顔面にある大きな火傷痕である。ともすれば醜悪と見られかねないその容姿、しかし彼女はそれでこそ美しいと感じさせる何かがあった。それは彼女の元の容姿が整っていたこともあるだろうが、最も大きい要因はその身に纏う威厳だろう。

 

 彼女の名前はエレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ。先のグレイフィアが言った通り、ラインハルトの女王(クイーン)である。エレオノーレはラインハルトの言う通り、その階級にふさわしい働きぶり――眷属の統括ぶりを示している。

 

「・・・」

 

 そんな英雄豪傑である彼女は、先ほどからずっと考えていた。ただひたすらに。これまでにないほど自己に埋没し、過去の記憶をずっと思い返しそこから考えられる()()発言の意図を考えていた。

 

 ――その忠は卿の彼に対するものには及ばずとしても、迫るものだ。

 

 これはラインハルトの先の発言である。ラインハルトの示す「卿」とは無論、会話を交わしていたグレイフィアのことだ。

 

 グレイフィア・ルキフグス、サーゼクス・ルシファー。彼ら二人は冥界きっての()()()()夫婦である。その恋は冥界の新魔王派と旧魔王派のいさかいの真っ只中から始まるものであり、冥界において知る者はいないというほどのラブロマンスに満ち溢れた作品となっている。こんな恋愛をしてみたい、というアンケートを取れば必ずこれがトップに躍り出るほどの。

 

 それ故にグレイフィアの忠、といえば最上級のものとされ、無論、そこには「愛」も含まれる。

 

 ここまで言えばもうおわかりだろう。エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグはラインハルト・ハイドリヒを敬愛し――同時に、恋い慕っている。故に彼女にとって、先ほどの彼の発言は天地を揺るがすものであり――。

 

「・・・」

 

 彼女の堅牢で強固な金剛石で築かれた名城が如き鉄壁の意識を、夢の浅瀬に追いやるには充分な威力だった。

 

 さて。

 

 ラインハルト率いる眷属の実質的な指揮官がそんな夢見心地にあるとは露も知らず、パーティーの夜は更けていく。そこでは多少なりとも疲弊するものがいるのだが、逆にドンドン勢いを増す、元気になっていくという輩はいない。

 

 ただ一人を除いて。

 

 パーティー会場から少し離れた場所。そこには一組の男女がいる。ドレス姿の蠱惑的な女性と、軍服姿のどことなく刹那的な男性。

 

「ヴィルヘルム様・・・」

 

 陶然と、女性は男性に囁く。砂糖もかくやというばかりの甘い声だ。

 

 男性は女性の肢体を自分に引き寄せ腕に抱く。女性の頬は闇夜でもはっきりとわかるほどに赤く染まっている。

 

 夜。パーティー会場から少し離れた、人気の少ない場所。体を寄せ合う男女二人。この三つの条件。それが揃えばこの二人が今から何を致すかは自明の理。故にここで一休みしようとした者は、例外なくその場から離れる。たとえそれを致すのが、自分の想い人であろうと。

 

 二人の顔の距離は徐々に徐々に狭まっていく。二人の世界は互いに互いだけをうつし、その間には何人たりとも入ることは不可能。

 

 ――だが。

 

「そこまでにしておけ、カズィクル・ベイ」

 

 それが、人で無き者ならば果たしてどうであろうか。

 

 腹にまで響く、低い声。それは重戦車を思わせ、けっして大きな声でなくとも、誰であれ耳を傾けずにはいられない。

 

 女性はすぐに男性から離れ、火照った顔を両手で隠してその場から逃げ出した。

 

 残されたのは二人の男性。女性がその場から離れ切って数秒後、先ほどまで女性と抱き合っていた男性がもう一人に歩み寄った。それにより、パーティー会場から漏れる光が彼の姿を照らし出す。

 

 白髪に白い肌、眼は黒いサングラスに隠れて見えない。ラインハルト眷族であることを示す軍服を着た長身痩躯の白い男性。彼の名はヴィルヘルム・エーレンブルグ。異名を串刺し公(カズィクル・ベイ)。聖槍十三騎士団において、もっとも好戦的な男。そして男遊びに慣れた余裕のあるご婦人方に人気の男でもある。

 

「マキナ、なんの用で邪魔しやがる」

 

 マキナ――そう呼ばれたのはヴィルヘルムとは対照的な男性だった。黒い髪にm死んだ魚のような黒い瞳、そして無精ひげ。筋骨隆々とした体格こそ、理想的な男性のそれだ。

 

「ここはそういう場所ではない」

 

「――へえ、お前からそんな言葉が聞けるとは」

 

 マキナと呼ばれた男性の名前は、ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン。寡黙で知られ、戦闘中ですらその態度を崩さない、唯一の必殺を持つ戦車(ルーク)

 

「言えよ。誰の指図だ? 誰から俺を探すように言われた?」

 

 無意味を嫌い、いつも何もかにもに無関心なこの男が、たかだか戦場以外におけるどうでも良い事でこんな注意をしてくるわけが無い。ヴィルヘルムは決して論理的な男ではないが、マキナが他者への関心は無きに等しいことは感じている。

 

 だからこそ不自然。どうして自分に注意を、それもそんなくだらないことを注意するということだけで来る筈が無い。となれば必然、誰かからの頼みであるということが伺える。

 

「お前の妹からだ」

 

「――」

 

 ヴィルヘルムは途端に苦虫を噛み潰したような表情を作り、同時に、納得しため息をつく。その姿が煤けて見えたのは気のせいであり、しかしどこか嬉しそうな雰囲気であることは事実である。

 

「あれぇ? 意外な組み合わせだねえ。お喋りなベイとそうじゃないマキナが一緒なんてさ」

 

 新たな人物がそこに現れた。

 

 小柄で華奢な、少女と見紛えるような美貌の少年。髪は白く、肌も白く、しかし瞳は無機質な青緑色。少女と見紛うこの少年の名前はヴォルフガング・シュライバー。聖槍十三騎士団において、最速の狼。

 

「シュライバー・・・、テメエ、何しにここに来やがった」

 

「んーとねえ、おねーさん達から逃げてきたの。彼女達さ、僕のことすぐに触りたがるから」

 

 シュライバーは困ったなぁ、とため息をついた。まあ、そうなるのはある意味必然だろう。悪魔は自らの欲望に実に忠実である。シュライバーの容姿はまるで人形のように非常に整っている。ゆえに、彼女らはこの可愛い少年に構いたがった。

 

「それにしても酷いんだよねー、僕男なのにさぁ、女物の服を着ろって言うんだよ? いったい僕をなんだと思っているんだ」

 

「俺が知るかよ」

 

「知らん」

 

 シュライバーの質問を短く切って捨てる二人。その二人に対してシュライバーは、だよねー、と笑いながら肯定した。

 

「・・・しかし、変わったな」

 

 ポツリ、とマキナがそう零した。

 

「あぁ、変わった」

 

 ヴィルヘルムもそれに追従する。シュライバーもまた、それににこやかな笑顔で頷いた。以前のシュライバーならば考えられない反応である。

 

 変わった、というのはこんなインフレ上等の、()前に比べて能天気な世界に、いつの間にか流れ着いていたからだろうか。

 

 ――気がつけば、彼らはここにいた。

 

 目を覚ましたのは各々の部屋のベッドの上。寝起きはまるで悪夢を見ていたかのような感覚に襲われていた。しかして、そこはさすがに黄金の獣であり破壊の君であるラインハルト・ハイドリヒの部下、すぐさま気分を切り替えて、いつも通りに黄金の獣のもとへと集った。

 

 集ってしまっていた。

 

 

「――ふむ、どうやら成功したようだ。喜びたまえ、()()英雄達。卿らは、新たな世界で、新たな生を手に入れた」

 

 そこにはいたのは黄金の獣、ラインハルト。そして――。

 

「――久しいな、諸君。また会えて嬉しいよ」

 

 嬉かねえよ、その声を聞いた瞬間、その場にいた誰もがそう思った。

 

 そこにいたのは青く黒い影法師。長い藍色の髪を背中に流し、藍色の衣を纏った枯れ木のような隠者。水銀の蛇、カール・クラフト。またの名をメルクリウス、またの名をカリオストロ、そしてまたの名をトリスメギストス。世界の〝座〟に君臨する神。

 

「などと、私が言うとでも思ったのかね? ああ、つまらない、実につまらない。我が目的は達したものの、しかしその実、またしてもこのように生きる羽目になるとは・・・」

 

 悲嘆したような大仰な態度を示すカール。それにまず最初に頭に着た白貌の吸血鬼が言った。

 

「ならさっさと命を絶てよ。介錯くらいはしてやるぜ」

 

「戯け、シスコン吸血鬼。私を殺すのは女神をおいて他にない。獣殿ならいざ知らず、有象無象である塵芥風情が私を殺せるなどと――自惚れるなよ、私は今現在神ではないが、それでも、一介の吸血鬼モドキを捻り潰す程度の力はある。――なんなら、貴様ら全員でかかってきても良いぞ」

 

 その言葉の後の惨劇は、語るに語れないものである。

 

 要は、その後しばらくしてその場に立っていたのは双首領のみだったというわけだ。

 

 

 ――場所は変わる。

 

 ラインハルトはパーティー会場の廊下を独り歩いていた。

 

「いやはや、あの時は大変だったなカールよ」

 

 そのラインハルトはそう、廊下で呟いた。周囲に誰かがいる様子は無い。

 

「我が爪牙が卿に突っ込んでいったのはある意味、驚嘆した。同時に、歓喜もしたよ。ああ、彼らはこんなにも凄烈で美しい、と。今の卿ならばわかるだろう? あの者達の輝きが」

 

「然り。あれで認めぬわけにはいくまいよ、獣殿。もっとも、彼らは遠く私には及ばんが」

 

「だが、()()()()範囲にはいる」

 

 ラインハルトは、そうだろう、と自らの背後で蠢く影にそう投げかけた。

 

「流石だ、獣殿。見事な慧眼。そう、彼らと私は今やその程度の存在。私は堕ち、彼らは上がった。――いやはや、永い時を生きていたが、このようなことは初めてだよ、我が友よ」

 

「だが、悪くない」

 

「それもまた、然り」

 

「然り、だよ。カールよ、盟約はかの時に果たしたが、いやはやなんと素晴らしい。こうも既知感が途絶え、そして挑むべき敵がいる。――あぁ、なんと素晴らしい。なんと美しい、そしてなんと愛おしいことか――!」

 

 ラインハルトは感極まった様子でそう胸のうちを吐き出す。

 

「今、友のような語彙の多さが無くてとても口惜しい。この感動は――」

 

「――書き留めておきたい。歌にし、詩にし、物語にし――、我が身朽ち果てた後世までに伝えたい。わかるよ、我が友よ。その気持ち、私が女神に会った時がそうだ。しかしだ、そんな時に限って言葉は出ない。否、出してはいけないと感じてしまう。ああ、本当に――」

 

「もどかしい。――世の中とは、ままならんな」

 

「然り。しかしその中でこそ――」

 

 ――美しき刹那は生み出されるのだ。

 

「ところで獣殿」

 

「それは愚問だぞ、カール。問うまでもない」

 

 二人はここで、互いの姿を視認しあう。

 

 黄金の獣と、水銀の蛇。

 

 二人は互いに互いの瞳を覗き込み、相手の真意を見事に見抜く。

 

「やはり、変わらぬな。それでこそラインハルト・ハイドリヒだ」

 

「ああ、そうだともカールよ。我が座右の銘は死を想え(メメント・モリ)

 

 故に、黄金の獣がすることは決まっている。

 

「――私は、総てを愛している」

 

 しかし、ラインハルトにとってこの世界は繊細に過ぎる。柔肌を撫でただけですらも壊れてしまうから、真に愛し抱き締めることなどできやしない。

 

 故に――彼の愛は破壊の慕情。

 

 愛でる為にまずは壊そう。

 

 故に真摯に受け止めて欲しい。我が(破壊)を。その()を。なに、後悔などさせん。私は愛しているのだから、その願い叶えよう。翼が欲しいのならば与えよう。

 

 再度、ラインハルトは息を吸う。これは誓い。自らがこうであるという宣言。

 

「私は総てを――()()のだ」

 

 黄金の獣は止まらない。

 

 森羅万象三千世界、その総てを遍く悉く須らく例外は無く、破壊()する。

 

 なぜなら彼の愛は破壊であるから。

 

 壊したことの無いものが無くなるまで、ラインハルトは()しつくす。




タグに新たにDies iraeとハイスクールD×Dを追加。
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