アニメが始まってもプリヤの二次が増える様子が無さそうなのでヤケクソになって書いた
反省はしている。後悔もしている
この時期に何やってんだ私、とかなってる
外道神父書こうぜ、ともなってる
誰か、プリヤの二次書いて
オリ主じゃないような方向で(ぇ
「……おかしいな」
俺、衛宮士郎は家を抜け出したイリヤを追って河川敷まで来ていた。
たしかこの辺りでイリヤと、イリヤと同じ年代の女の子と、……俺と同じくらいの、赤い服と青い服の女の子がいたはずだ。親しげな雰囲気だったから、悪い事は起きないはず――だと思いたい。
最初は花火でもするのかと思っていた。夏の夜、河川敷ですることといったら花火しか考えられない。
だけど。
「……花火の袋は無かったな」
忘れたのか。
……いやいやいや。そういう問題じゃない。
問題は、イリヤ達四人が光の渦と共に消えたということだ。現場にはどことなく、魔力の残滓が感じられていた。
となれば――何かの魔術が行われたということ。
魔術師は非常に冷酷で残虐だ。自分の研究のためならば、神秘の秘匿がきちんとなされるのならば、どんな犠牲だって厭わない。
この状況からしてイリヤが魔術師に連れて行かれたのは明白。本当ならばこんな場所でのんびりと考察を続けられるような状況ではないのだが――なぜだろう。
「……なんだか、愉快な展開になっているとしか思えない」
脳裏を過ぎるのは鮮烈な赤。
赤い服を着た女の子。
――きっと、衛宮士郎はあの赤い女の子ならば大丈夫だと思ってしまっているのだろう。
▽
うだうだと衛宮士郎が河川敷で突っ立っていること数分。
その頃、位相のズレた世界では最優の騎士はその剣の正体を顕にした。
▽
激震が起こって、俺は気がつけば変な風景の場所にいた。
ぐにゃぐにゃと揺らめく巨大な四角い空間。もうもうと立ち込める水蒸気。灼熱が吹き荒れたかのような河川敷。
――その中で、在り得ない存在を認めてしまった。
黒い剣を構えた騎士。禍々しい魔力の渦を纏った暴君。魔術師など足元に及ぶべくも術も無い超常の存在。其は常勝の王、其は永久に語り継がれる英雄。伝説の聖剣の主――。
「――――」
黒いバイザーの下。
琥珀色の無機質な双眸が俺を射抜く。
――それは在りし日の再現。
呼吸が止まる。当然だ。これだけの魔力の、神秘の塊が――伝説の存在が、俺を見ているなんて、それだけで生きた心地なんてしない。
――それは失った人の再会。
それが無機質なだけ、俺にはいつ殺されるなんてわからないから、心臓の鼓動は加速するばかり。早鐘のようになる心臓は、確実に俺を追いつめている。
――弱かった無力だった。だから失った色あせた過去だった。
――ああ、でも。
この鼓動はどこか、俺を安らかに――。
「――イリヤスフィール!」
その声で眼が覚めた。そうだ、俺はさっきまでイリヤを探していた。
そこで気づく。眼の前の存在とは違う人間が放つ魔力の渦に。それは無色の魔力。純白無垢の何物にも染まりやすそうな淡雪のような――されど、圧倒的な魔力。
漆黒の騎士がそれを見る。つられるように俺もそれを見る。
だからわかる。その魔力の渦の中心にいる人間が――イリヤだと。
「イリヤ――何を」
声が掠れた。
掠れた声には誰も反応しない。誰も彼も。何もかも。
――黒い弓を構えた赤い外套の
酷い
だから、理解する。
これは――衛宮士郎はけっして逃げてはならないと。
▽
「イリヤのお兄さん……ねえ」
イリヤが投影した
……ああ、うん。神秘の秘匿は大切だと思うよ。自分の魔術の秘匿は大切だと思うよ。
でも、この扱いは果たしてどうだろうか。
「血縁上のつながりはありませんが、れっきとした士郎お兄ちゃんですねー。イリヤさんにぞっこんな」
不思議生物がステッキの柄頭で俺の頭をグリグリしていることも含めて。
「ええ、そうね。何せルビーの暗示を無視してここまできたくらいですもの。筋金入りのシスコン兄貴なのは間違いないわ」
そんな俺を仁王立ちして見下ろすあかいあくま。名前はまだ紹介してもらえていない。
しかしそんな短いスカートはいかがなものか。スカートの裾の端からチラチラと何かが見えているような気がするけども、あえて無視してやろう。
「……お前ら、魔術師か?」
「……ルビー? たしかあんた、衛宮士郎は魔術師じゃないって言ってなかったかしら?」
「……気づきませんよー。こんなへっぽこ」
ちなみに、自分が魔術師だとはとっくにバラしてる。具体的には魔術を使用しようとして魔術回路を励起した。……その隙にこうされたのだけど。
「それもそうね」
へっぽこって言うな、へっぽこって。これでも強化と解析は得意なんだ。
そう苦言を呈したいけど、まずは状況を説明してもらうのが先だ。あえて無視する。……うん。無視するんだ、衛宮士郎。
「あんた、イリヤに何をさせているんだ?」
「――貴方、自分の今の立場をわかっていてそれを私に尋ねるの?」
もちろんわかっている。
俺はイリヤの家族であり、兄だ。そしてイリヤは俺の妹だ。その妹のしている危険なことを、兄として知ろうとするのは当たり前だろう。
俺がそう言うと、赤い魔術師はため息を吐く。
「貴方は私の魔術の領域に触れた。この意味がわかって?」
「家族に手を出されて黙っている奴がいると思うのか? お前。それを本気で訊いているのなら、俺はお前の正気を疑うぞ」
「あら? 貴方は魔術師のくせに甘っちょろいことを言っているのね。魔術師に一般人の正気を疑うなんて、貴方こそ正気じゃないんじゃないかしら?」
「失礼な、俺は至って正気だ」
ため息を吐く赤い魔術師。
ため息をつきたいのはこっちだと言いたい。
「もういいわ。なんだか貴方と話していても無駄な気がしてきた。――貴方の家の当主とお話できるかしら?」
「無理だな。爺さん、海外を飛びまわってて、滅多に家に帰ってこないから」
「――は?」
そこで初めて赤い魔術師は愕然とした表情を見せた。
「ちょっと、貴方の家って本当に魔術師の家系?」
「さあ? 爺さんは魔術師だけど、自分のこと、魔法使いって言ったり、魔術使いって言ったりから、違うんじゃないのか?」
「私に訊かないでよ。ああ、頭が痛い。こんな魔術師の風上になんか置けない奴が、ルビーの認識阻害を破ってきたの?」
「悪かったな、魔術師の風上に置けなくて」
それで結構だ。
俺の夢は魔術師なんかじゃなくて、正義の味方なんだから。
▽
あの次の朝、イリヤは熱を出して学校を休んでいた。
赤い魔術師――遠坂には俺の有用性を示してなんとかあの場で記憶を消されるのを免れた。その上で、あのカードの回収に協力することの承諾も受けた。その代わりというか、なんというか、俺は遠坂には色々と逆らえそうにない立場になってしまったのだが――その辺りは、まあ、どうでも良いだろう。
俺にとって大切なのは、イリヤを守るということなのだから。
それはさておいて、今の時刻は午後四時ごろ。俺は珍しく真っ直ぐに、急いで自宅に帰ってきていた。イリヤの体調が非常に心配で心配で堪らない。
今朝は熱だけで済んだが、あの魔力量、もしかするとイリヤに深刻なダメージを与えているかもしれない。生体相手には解析なんてできないから、イリヤの体調が良い状況かどうかがさっぱり不明で心配だ。
セラがいるからきっと問題は無いと思うが――やはり心配だ。
「ただいま。セラ、イリヤの体調はどうだ?」
「不本意ですが、お帰りなさいませ、シロウ様」
懐かしいメイド服を着たセラがいた。
――嫌な予感が背筋を凍らせる。
何か言おうとしている不機嫌そうなセラの表情。大抵セラは不機嫌そうな表情だが、今のそれはこれまでのものとは違って見えた。
「挨拶はいい! セラ! イリヤに何かあったのか!?」
気がつけば俺はセラの両肩を掴んで問い詰めていた。
セラがこの服装になっているということは、何か大事があったのだろう。
「は? え? シロ――」
――いや、セラに訊くよりもまず自分で見た方が早い。
「ってこら待ちなさい! 家の中を走るんじゃありません――――!」
階段を二段とばしで駆け上がる。セラがなにか言っているようだけど、心臓の音が大き過ぎて聞こえない。
「イリヤ!!」
「ひゃわうっ!? な、ななな何かなおに――――!」
「イリヤ! 体は――――!? ………………えっと――」
イリヤの部屋の扉を開けると、そこには見知らぬ女子小学生四人に小柄なメイド、さん?
「………………………………………………あー、と、もう起きてて大丈夫なのか? イリヤ」
いたたまれない。
非常にいたたまれない。
何がいたたまれないのかっていうと、女子小学生三人から向けられる生暖かい視線である。
「えっと、うん。大丈夫だよ、お兄ちゃん。寝たらすっかり良くなってた」
「そうか。うん。良かった」
恥ずかしさと酸素不足でその場にへたり込む。
なんとも間抜けな兄貴だと思ってしまう。
「シロウさん! 家の中では走らないでください! 貴方はいったい何歳だと思っているんですか!!」
「誰のせいだよっ! まったく、そんな紛らわしい格好を!」
「何が紛らわしいのですか! これは由緒正しきアインツベルンのメイド服なんですよ!」
「だから紛らわしいんだよっ! セラが凄く真面目になるほどイリヤが重体なんじゃないかって心配したんだ!」
「なっ、失礼な! それはいつも私が不真面目だということですかっ! 選択掃除炊事家事全般きっちりしっかりしている私がどう不真面――ああ、そういえば貴方の教育は不真面目ですね」
「違う! そういう意味じゃない! セラが形からも気を引き締めないといけないくらい切羽詰ってるだとかそういうのだっての!」
「わかりました。ええ、ではこれから真面目にさせていただきますとも!」
「全然わかってないじゃないかっ!」
ぎゃいぎゃいやいのやいのいいぞいいぞーもっとやれー――――って、ん?
ふと視線を感じた。
セラの怒涛の怒号を無視してイリヤの部屋を見る。
俺の視線に気がついたのだろう。セラも口を閉じてイリヤの部屋、というよりイリヤを見た。
うん、見て、ヤバイと思った。
「――――二人とも出てってー――――――――!!!」
顔を真っ赤にしたイリヤはそう叫んだ。
▽
「あー、うん。俺も悪かったよ、セラ」
イリヤから追い出された俺とセラはリビングにいた。
ソファーではどんよりとしたオーラを放っているセラがいる。それに何の反応も示さずゴロゴロとしているリズもいる。
さっきのは俺にも非があった。よくよく考えると本当に重体ならば学校に連絡が着ていたはずだ。それが無かったってことは、特に問題が無かったってこと。……なんて無様。
「ふ、ふふ、ふふふふふふふ…………」
ぞっとするような虚ろな笑みを浮かべるセラ。なまじ服装と容姿が綺麗な人形のように整っているため、凄く怖い。どれくらい怖いかというと、今すぐに逃げ出したいくらい。リズは鈍感なのか、変わらずリラックスしている。その鈍感さが少し羨ましい。
「嫌われた、嫌われた……、イリヤさんに嫌われた……」
壊れたラジオ以上に手強そうな壊れたセラさん。
はてさて、どうしたものか。
「………………」
リズに視線を向ける。それに気づいたリズも俺に視線を向ける。
――へるぷみー
――ふぁいとー
以上、アイコンタクト終了。
リズお姉ちゃんは弟分を助けてくれないそうだ。
▽
イリヤがカード収集を止めた。
原因はイリヤとあの場の異常に気づかなかった俺だろう。あのメンバーの中で、一番戦闘に向いていたのは俺だというのに、アサシンの狙いに一切気がつかなかった。結果、イリヤは恐怖から魔力を爆発させて、アサシンを一掃し、その時に少しばかり怪我をした俺に罪悪感を持ってしまった。
イリヤには悪いが、これで良かったのだと思う。
イリヤは俺と違って普通の女の子だ。戦闘の心得なんてものはないし、性格もそれ向きじゃない。……まあ、保有する魔力が多いってことは、普通じゃないけど、何も、力のある人間がわざわざ戦う必要なんて無い。
だからこれで良い。これでイリヤはこれ以上はけっして傷つかない。
この時の記憶はイリヤに必ず、少なくない影響を与えるだろうけど、いずれは消える。普通の日常の中で、普通の女の子として生きていく。それで良い。
▽
一目見たときから理解していた。
この敵は、イリヤにけっして倒させてはならないと。
筋骨隆々とした屈強な体躯の半裸の男。彼こそは世界でもっとも有名な英雄豪傑の一人。十二の試練を乗り越えた大英雄、ヘラクレス。最後のクラスカード、バーサーカー。
遠坂とルヴィアが撤退を指示する。ミユちゃんとサファイアもそれに賛成している。かくいう俺も、三人が撤退することは賛成だ。
撤退用の魔方陣から抜け出した。ミユちゃんも抜け出そうとしていたが、そこは年上の矜持。ミユちゃんの体を無理矢理魔方陣の方に押しやって、俺だけが鏡面世界に居残った。
なにやら三人が喚いていたけど気にしない。
これは、俺が倒さなくてはならない敵なのだ。
俺くらいにしか倒しえない敵なのだ。
…………といっても、殺しきれるかどうかはまったくさっぱりだけど。
勝率が最も高いのは俺だということに違いは無い。
咆哮が聞こえる。いや、雄叫びか。
ビルが壊れる音が耳朶を打つ。狂乱の檻に囚われた大英雄が、壁や床を壊してここまでやってくる。
恐怖が無いわけではない。命は惜しい。
「
――体内時間が加速する。
こっそりと所持していたクラスカード〝アーチャー〟を
このカードの使い方は把握している。この英霊の能力の使い方も理解している。
――ならば、あとは
「――――投影、開始」
――――瞬間、世界が崩壊した。
視界が白く染まっている。風が吹き付けている。白い鋼の暴風が体を圧縮していく。深い海の底に溺れたようだ。呼吸すらままならず、それでも足掻いて空気を求める手は押し潰されて跡形も無い。右手、右手は、どこにある。左手はもうとっくに潰れている。這い上がってくる。潰れた左手から、赤が漂白しようと左眼を焼く。どこでもいい。動いてくれ。動けないと、このまま死んでしまう。早く、早く、白くなっていく消えていく消失していくこのまま
――/思い出した。記憶を思い出した。覚えている、覚えている。泣いていた嘆いていた絶望していた――――その、心を。その心を、鋼にしたことを/――
右手の小指が動いた。右手が動く。右腕が動く。左眼が戻る。潰れた左手に感覚が戻る。土台は、ポイントは出来た。引き返すことができる。いや、なんとか残った。砕けたかけたものが、消えうせるはずだったものが逆流する。
「――――ギ」
鉄が噴き出す。剣を幻視する。
両手を見た。両手が見えた。赤い赤い両手が見えた。赤い罪を抱えたこの身を見た。
――赤い、ロングコートを着ている。
前方から、風が吹いた。
前方から、雄叫びが聞こえた。
筋骨隆々とした大男――獅子すら絞め殺したとされる大英雄ヘラクレス。
奴との距離は――およそ、三十メートル。奴なら三秒で距離を詰める。
ならば、一殺目は――それは、雷の矢がもっとも良いだろう。
「
捻れた剣が右手に現れる。こちらの魔術行使を敵対行為だと認識した奴が雄叫びを上げて直進する。それだけの行為で、いつ床が崩れ落ちるか心配で堪らない。
「
振るわれた豪腕をかいくぐり、懐から脳天へと捻れた雷の矢を放つ。それは頭蓋を貫き、奴から五感を一時的に奪う。
「
次の剣を投影する。真名は
動けるまでに再生した奴が動く。
その瞬間に心臓を含む重要内臓器官に相当する部位を斬り裂き、腕を、脚を、腰を、胴体も斬り裂く。所詮時間稼ぎ。この程度では二つも削れない。
現状の俺の力量では到底
――だから、あとはこれしかない。
左手を宙に掲げる。
俺の通常の投影魔術では届かない。オレの技量では奴を殺せない。
――ならば、この大英雄自身の技量はどうか。
高速で回復してゆく大英雄。炯々と輝く眼は俺に狙いを定めている。もう少し細切れにすべきだったか。
無限の剣製より、大英雄の斧剣を選択。読み込み、完了。投影開始。
雄叫びが上がる。それに比例して戻りゆく体。
――――間に合うか。
▽
遠坂からイリヤが二人になったとの報告が入った。
「うっかりか?」
「失礼ね! 完っ全に私の管轄外よ、イリヤの異常は!」
「そうか。それは不安だな。……ところで、鍛錬の途中に大きな地震があったんだけど、大丈夫だったか?」
「…………だ、大丈夫だったわよ」
そうか。お前が犯人か。
俺がそういう目で見ているのがわかったのだろう。遠坂はきれいな笑顔を浮かべた。
「他に何かあるのかしら? 衛宮君」
いえ、滅相もございません。
あかいあくま、ご光臨。
▽
ふらふらと、二人目のイリヤを探すために当ても無く自転車を走らせる。
二人目のイリヤ――肌の色が黒いらしいので、便宜上黒イリヤを呼ぶことにする――は、イリヤを殺そうとしているらしい。理由は不明。捕らえ次第、尋問するのだとか。
使用する能力はアーチャーのクラスカードと同じ、つまり、俺と同類の贋作者。一日の長ということで、俺が有利だと嬉しいけど、イリヤの話を聞く限りは無さそうだ。
元々のスペックで劣っているとか、一対一だと確実に負ける自信がある。
「…………それでも、やらなくちゃな」
黒イリヤを捕まえる。
イリヤの命を狙っているのならなおさらだし、そいつがいつイリヤ以外を害そうとするかなんてわからない。正義の味方を目指す身としては、絶対に捕まえないと。
「あ、お兄ちゃんだ。やっほー」
…………ん?
「イリ――ヤ?」
黒い肌と長い銀髪。そしてなにより――ボロボロの赤い外套。否が応にも、アイツを連想させる。
俺の緊張を感じ取ったのか、わずかに黒イリヤは身構える。
「…………お兄ちゃんも、敵?」
アイツとそっくりの臨戦態勢にはそぐわない口調だ。怯えるような、そんな感じの。
おかげで頭が冷えた。黒イリヤはスペック的に俺より高いので、緊張感は未だに拭えない。けれどやっぱり、あまり怖がらせたくはない。なんだかイリヤを怖がらせているようで嫌だ。
「……個人的には、戦いたくない」
偽らざる本音。
そうとも、俺はできる限り戦いたくは無い。イリヤから分かれたというのであれば、イリヤとはなんらかの関係性がある。
「…………本当に?」
「……ああ、本当だ」
「……」
疑いの眼差し。
……まあ、当然だろう。返答は不自然だったし、未だに俺には緊張感があるし。これで疑わない方がおかしい。
「……えっと、俺は、君の事をなんて呼べば良い?」
「イリヤで構わないよ、お兄ちゃん。ある意味私は、あのイリヤより、イリヤとしての時間は長かったはずだったんだから」
「ごめん。その名前では呼べない」
そう言うと、悲しそうな顔をする黒イリヤ。
「君自身が自分が本当のイリヤだと言っても、俺にとっては、君じゃない方がイリヤなんだ。だから、その名前では呼べない」
「……そう。じゃあ、アーチャーで良いわ。今の私は、アーチャーのクラスカードを核にしているから」
「わかった」
悪い、とは言わない。
「何しに来たんだ?」
「別に。偶然お兄ちゃんを見つけたから、お話しようと思っただけよ」
「…………隠れてた方が良いんじゃないか? 遠坂に見つかったら大変だぞ」
「大丈夫よ。あんな女、私にとって敵じゃないもの。あっちの私はともかくね」
ふふん、と得意げな黒イリヤ改めアーチャー。
まあたしかに、その能力を持っていれば、遠坂に勝てるだろうけれど。
「あの遠坂だぞ? 気を抜いたら絶対に大変なことをやらかすあの遠坂だぞ?」
一応、遠坂の被害者はあまり出したくない。俺の精神衛生上にとって非常によろしくないのだ。あのあかいあくまは、本当にあかいあくまなんだから。
「……何? お兄ちゃん。私がお兄ちゃんとお揃いの能力を持っているの知っていてそれを言うの?」
「ああ、言うぞ。遠坂は凄いからな」
色々な意味で。
「なにせ一度会ったら二度と忘れられない。あいつの上辺だけを見て、慢心すると痛い目を見る」
ついでに見た目にも要注意だ。超優等生だと思っていたら、猫かぶりのあかいあくまだなんてことはおかしくはない。
というか一番それが堪えた。
「……お兄ちゃんはよっぽどあの女が好きなんだ」
「ああ、好きだぞ。遠坂は本当に凄いからな」
「……………………………………え」
アーチャーが固まる。
呆然とした表情で、信じられないといったような表情で。
▽
結局、アーチャー改めクロエ・フォン・アインツベルンはアインツベルン家に住むことになった。
イリヤとクロエは和解し、同じ家で同じ部屋で住むことになる。
「俺、どっかに引っ越そうか?」
クロエとイリヤだけ一人部屋じゃないっていうのは何だか不公平なので、俺の部屋を空けてクロエに譲るためにそう言ってみた。
「ダメ。私の仕事が増える」
「ダメです。もし貴方が出て行ったのなら私は奥様になんと言えば……」
「ぜーったいダメ! お兄ちゃんが出て行く必要無い!」
「私もはんたーい。そりゃイリヤと離れられるのは良いけど、お兄ちゃんが出て行くのは嫌」
と、一家満場一致で反対。
…………親父、そろそろ帰ってきてくれないかな。
我が家の男女比が酷い。
一成の寺にしばらく厄介になりたいと思うくらいに。