妄想が暴走し爆発した短編集   作:鈴北岳

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旧外道神父.3

「キレイ、今日はいける?」

 

「ああ。幸い、今日はバイトも用も無い。――遅くまで付き合えるぞ」

 

「そうか、それは良かった」

 

 僕はありったけの感謝をその言葉に込めた。

 

 

「こ、これは木場君×言峰さん!?」

 

「いえ! 言峰様×木場君よ!!」

 

 

 ……? 僕とキレイがどうかしたのだろうか? 女子のほうがなにやら騒がしい。

 

 僕はキレイの表情を――……凄く複雑そうな表情をしている。

 

「……私のようなもののどこが良いのだろうか……? いや、ここは彼女達の役に立って良かった、と思うべきだろう……。このような瑣末なこと、考えるだけ無駄だ。そうだ、そもそもやめるよう嘆願したところでなにも変わらないのだ。むしろこれ以上広がらないことを願うしか――――――」

 

 ……訂正。複雑そうじゃなくて、まさしく複雑な表情だった。羞恥と嘆願と諦観、そしてほんの少しのほとんどないような愉悦が入り混じっている。

 

 ……愉悦に関しては無理矢理出そうとしているようにしか見えない。

 

「キレイ、どうかした?」

 

「些細なことだ……。君が気にかける必要は無い」

 

 とは言っているものの、

 

「気分が悪いのなら、保健室に行くかい?」

 

 とても気にかける必要がなさそうには見えない。

 

 

「キャー! 木場君大胆!!」

 

「これは木場君×言峰さんよ!」

 

「それも保健室! 来た来た来た!」

 

「行くぞ皆の衆。記録の貯蔵は充分か――」

 

 

 ……その興奮する女子の声に比例するように、キレイの表情はますます酷くなっていった。

 

「……君は狙ってやっているのかね?」

 

「え? なにを」

 

「……無自覚か。ならば仕方あるまい、か」

 

 達観した表情で空を見上げるキレイ。僕もつられて天を仰ぐ。

 

「早く行こうか。時間は有限だ。私は無くなってしまっても構わないが、君はそうではあるまい」

 

「そうだね」

 

 もっともだ。どうせ考えたってわからないんだから、早く始めよう。

 

 僕とキレイは真っ直ぐにある場所へと向かう。そこへ近づいていくたび、鋭く吐き出された呼気と、乾いた音が聞こえてくる。

 

「すいませーん」

 

「あ! 木場さん――と言峰さん!」

 

「久しいな、藤村後輩」

 

「あーもう! 大河で良いですって!」

 

 ……学校の一角。柔道部や剣道部が練習に使う専用の体育館に入ると、一人の顔見知りの女生徒がキレイの肩を叩いていた。

 

 ばしばしと。……痛くないのだろうか? 藤村さんは。キレイの体は見かけによらず筋肉質で、とても硬いんだけど。

 

「生憎と、今日は談笑をしに来たのではない。木場との組み手だ。一角を貸してもらえるかね?」

 

「ええ、ええ! もちろん!」

 

「なんであんたが許可出しているのよ!」

 

「良いじゃないですか、先輩。どうせ許可するんでしょう。だったら私が言おうと先輩が言おうと同じです!」

 

「そ、それはそうだけど……。ぅぅ~…………」

 

「許可ももらったことだ。それでは始めようか」

 

 キレイはそう言うと許可されたいつもの一角へと足を運ぶ。

 

 ……なにやら悶えている女生徒は放っておく。というか放っておくしかない。キレイになら、どうにかできるかもしれないけど、僕には無理だ。

 

 制服の上着を脱いで、肩を回す。うん、調子は良い。

 

 キレイの方を見ると、すでにキレイは上着とシャツを脱いでいた。力が強そうではない体格。しかし、侮ることはできない。

 

 僕はいつもの通り、竹刀を構える。

 

「いくよ――――!」

 

 僕は駆け出した。悪魔や駒『騎士』の力は使わない。キレイ相手にその力が使えないのは惜しいが、これはこれで良い。

 

 キレイは僕が駆け出してなお、悠然と構えている。場合によっては気を抜いているようにも見えるほどだ。

 

「――ハアッ!」

 

 竹刀を振るう。僕にできる限りの速さで。

 

 

「竹刀が消えたっ!?」

 

「あ、君は見るの初めてか」

 

「この程度で驚いちゃいけないよ」

 

 

 ……外野の声なんて聞こえない。

 

 キレイは僕の竹刀を難なく受け止め、あまつさえその竹刀を掴もうとした。

 

「――疾ッ――――!」

 

 掴まれるより速く、僕は竹刀を回転するように振りぬいた。キレイの手が竹刀から離れる。

 

 竹刀の回転を細かく速く。一箇所にとどまるな、一瞬の停滞も許すな。相手の攻撃が来る領域に踏み入れるな。

 

 選択を間違えれば、今の僕ではキレイに勝てないのだから――!

 

 上下左右前後の全方向。考えられる限りの、できる限りの斬撃を繰り出す。

 

「――ヌァッ!」

 

 キレイが僕の竹刀に蹴りを叩き込んだ。今まさにキレイに振るったその斬撃のうち一つ。竹刀を持つ手が痺れる……!

 

「くそっ!」

 

 その一瞬の停滞をついた肘。蹴り抜いた足で踏み込むという、とてもできなさそうな動作から生まれたその攻撃。

 

 腕を交差させて受け止め、後方へと跳び下がる。

 

「ハァッ――!」

 

 追撃。掌底が僕の鳩尾めがけ、放たれた。

 

「……ッ!」

 

 体を横転してなんとか回避。キレイから距離をとらなければ――!

 

「砕く――!」

 

 ズドン、と僕の顔のすぐ横に、踏みおろされたキレイの足があった。

 

「君の負けだ、木場」

 

「……そうだね」

 

 畜生。結果はいつもこうなんだ。

 

「気に病む必要は無い。君と私では、圧倒的に経験と環境が違う」

 

 キレイは、物心ついた時から八極拳をやっている。やり始めたきっかけは、子供の頃に見たなにかの格闘アニメの影響だとか。

 

 ……アニメを見ているキレイ、想像がつかない。

 

 ともかく、そんなわけで彼は偶然近くにいた八極拳の達人に師事した。その達人は……実の父親。

 

 ……突っ込まないよ。絶対に突っ込まないよ。神父がなぜ中国拳法をやっているかなんて。

 

「中国拳法には思想が絡む。己を弛まず高める、といったものがな。聖書にはあまり書かれん大事な思想がそこにあったから、習得したのだろうな」

 

「心を読むな」

 

 キレイは他の友人がスポーツの習い事をしている間、ずっとそれをやっていた。部活などには入らず、ずっとそれを父親から教わっていた。

 

「君のは完全な我流。劣っていると思わず、むしろ、誇るべきだ。我流であるというのに、正当な武術を学んだ私に苦戦を強いるのだから」

 

「……ありがとう」

 

 我流じゃ、ないんだけどね。……それよりも。

 

 苦戦? キレイが?

 

 僕はキレイの表情を見る。汗だくの僕とは違い、彼はいつも通りだ。多少の汗はかいていたとしても、僕よりはるかに少ないだろう。

 

 心の中、僕は無力感をかみ締める。

 

 僕は悪魔になって、強くなったと思っていた。剣の扱い方を習った。戦い方も習った。そして、普通の人ではけっして経験できない、超常の力の飛び交う戦場を体験したのだ。

 

 その中に苦戦はあった。死にそうになった戦闘もあった。でも、僕はこうして生きている。死線を乗り越えてきた僕が弱いはずがない、ただの人間より弱いはずが無い、そう思っていた。

 

 キレイと、闘うまで。

 

 彼は完膚なきまでに僕を叩きのめした。その場から一歩も踏み出さず、僕の繰り出す攻撃の一つ一つに対応し、それぞれにカウンターを叩き込まれた。

 

 仮に攻撃が当たろうと、彼の頑丈な体の前では無力だった。竹刀が腕を打とうと、彼は少しの停滞も無く豪腕を振りぬいた。

 

 何度それに苦汁を飲まされたことか。

 

「木場さん、さっきの惜しかったねー。言峰さんを見ながら動いたのなら多分避けてたと思うよー」

 

 藤村さんが僕に笑ってそう言った。

 

「あの横転、避けることに必死になってて肝心の相手の姿を見るってことが疎かでしたよ」

 

「……そっか、教えてくれてありがとう」

 

 僕は無理矢理笑顔を作る。

 

 そして、キレイを探す。

 

 彼は、先程の場所で、変わらず、立っていた。

 

「もう一度するかね? 幸い、時間はまだまだある」

 

「……しようか」

 

 僕は先程までの感情を振り払って、キレイと対峙する。余計な思考は不必要。

 

 次は絶対にキレイを視界から外さない。

 

 

 

 

 結果を言えば、今日は一段と酷くやられた。

 

「感情が先走りすぎている」

 

 試合を終えると、キレイがそんなことを言った。

 

「なにを目的に君が戦っているかは知らん。故に、一つ忠告しておく。――君のその目的は、君の全てをかけてまで成す事なのか?」

 

 ああ、そうだよ、キレイ。この目的は僕の生きる意味そのものなんだ。

 

 僕はそのために悪魔に転生を果たしたんだ。

 

「……言峰先輩。祐斗先輩が怖い顔をしています」

 

 ふと、小さな声が聞こえた。

 

 前を見ると、小柄な少女――小猫ちゃんがいた。

 

「えっと、小猫ちゃん。キレイと知り合い?」

 

「……はい。ちょくちょくお菓子をいただいています」

 

 えっと……、それは、餌付け?

 

 キレイが小猫ちゃんにお菓子をあげる。……とても違和感しかない。そもそも、そもそもだ、キレイがお菓子を持っているということが違和感しかない。

 

「失礼なことは思わないでもらいたいものだ。私の趣味の一環でね。彼女には料理の味見を頼んでいる」

 

「その大半はお菓子です」

 

「……」

 

 これは、また。僕の知らないところで僕の友人がつながっていたとは、思ってもいなかった。

 

 ここでふと、一つの疑問が浮かんだ。

 

「……そういえば、キレイは普段、なにをして過ごしているのかな?」

 

「あ、私もそれは気になりました」

 

 小猫ちゃんも僕に続いた。

 

 キレイとはよく会話をするけど、よくよく思えばキレイについて知らないことが多すぎる。

 

 料理が趣味だということも初耳だ。

 

「……そういえば、私の同級生が言ってました」

 

「なにを?」

 

「言峰先輩が、怪しげな中華料理店へと入っていったと」

 

 それか。その話なら僕も聞いたことがある。

 

「そこにはよく行くのかい?」

 

「ふむ……」

 

 キレイは虚空に視線を移す。

 

「月に、一・二度くらいか。あそこは衝撃的でな、気分が滅入っている時には必ず行く」

 

「へえ。じゃあ、今度連れて行ってくれないかな?」

 

「別に構わんが……。多分、後悔するぞ」

 

 キレイにしては珍しい、意地悪な表情を見せた。にやり、と笑う表情。

 

 僕はもちろん、小猫ちゃんも後に思う。

 

 キレイは、どうかしていると。

 

 

 

 

 放課後、同じ高校の先輩二人と食事へ行きます。

 

 その先輩の一人はアイドルのような華やかな雰囲気の金髪の先輩。木場祐斗先輩。もう一人は学者のようなお堅い雰囲気の黒髪の先輩。言峰綺礼先輩。

 

 二人が並ぶととても対照的です。

 

 街中を歩いているとほとんどの人が振り返り、目を丸くしていました。

 

「そのキレイの行く中華料理店の名前はなにかな?」

 

「泰山だ」

 

 ……泰山とは確か、中国にある山。道教の聖地である五つの山の内の一つで、世界遺産に登録されているとか。

 

「ふぅん。その泰山ではキレイはなにを食べているの?」

 

「着いてからのお楽しみだ」

 

 あ、言峰先輩が聖職者に似つかわしくない意地の悪そうな、あくどそうな笑みを浮かべました。

 

「いらっしゃいアルー! はいはい、ご注文はなににするアルかー?」

 

 すりがらすで見えない店内に入ると、甲高い声が来ました。

 

 祐斗先輩は引きつった笑顔のまま固まっていました。気持ちは解ります。私は無表情ですが、内心、凄く戸惑っています。

 

「私は麻婆豆腐だ」

 

「あ、じゃ、じゃあ、僕もそれで」

 

「……」

 

 祐斗先輩は言峰先輩と同じものを注文しました。……なんだろう、第六感がこれまでにないほどに警報を鳴らしています。

 

「メニューはこれアルよ。とりあえず、麻婆豆腐お二つアルねー」

 

 コック……でしょうか。コックさんは厨房にはいっていきました。

 

「デザートの類が良いのなら杏仁豆腐がお勧めだ。それと、最初に注文した品の料金は、お試しということで私のおごりだ」

 

「そう? じゃあ、お言葉に甘えるよ。ありがと、キレイ」

 

「気にするな」

 

 ……言峰先輩はまたあくどい笑みを浮かべました。なんでしょうか、先輩が詐欺師に見えます。

 

 祐斗先輩は気づいて……いないそうです。不思議そうに店内を見回していました。……失礼ですが、なんだか小動物のような感じがします。

 

 私達三人はがら空きの店内の一つのテーブル席に座りました。

 

「えっと、僕とキレイが頼んだマーボー豆腐はどんなの?」

 

「衝撃的だ」

 

「へえ、衝撃的なほどに美味しいんだ。それは楽しみだなぁ」

 

 祐斗先輩。今の言峰先輩は詐欺師です。衝撃的だとは言いましたが、美味しいとは一言も言ってませんよ。

 

 ちょいちょいと袖を引っ張り、なんとかアイコンタクトでそれを伝えようとしましたが。

 

「ん? 小猫ちゃんはどれにするのか決めたの?」

 

 ……まったく気づいてくれません。いや、私の無表情が悪いのだとは思いますけど。

 

「小猫ちゃんはキレイの言ってた通り、杏仁豆腐にする? それとも、僕らと同じマーボー豆腐を頼む?」

 

「……杏仁豆腐お願いします」

 

 私がそう答えると、祐斗先輩は

 

「店長さーん。杏仁豆腐一つー」

 

「わかったアル!」

 

 そう、先程のコックさんに注文してくれました。

 

「ふむ。塔城後輩は声を出すのが苦手なのか?」

 

「うん。あまり喋らないし、普段はキレイと同じくらい無表情だね」

 

「そうか」

 

 言峰先輩はコップに水をついで、それを飲みました。

 

「……ふむ。ところで木場。君は塔城後輩とどのように知り合ったのだ?」

 

「あぁっとね……」

 

 祐斗先輩は曖昧な笑みを浮かべて頬をかきました。

 

 ……それはそうですよね。まさか一人の悪魔、今では私達の主である人。その人にお互いに拾われて、知り合ったなんていえませんよね。

 

「そ、その前にどうしてキレイのほうから教えてよ。どうやって小猫ちゃんと知り合ったのか。僕はそっちのほうが気になるんだけど……」

 

「簡潔に言えば、私が菓子を食おうとしていたところに塔城後輩が現れた」

 

「……そこでキレイは小猫ちゃんにお菓子をあげて、それから味見を頼んだの?」

 

「概ねその通りだ」

 

 祐斗先輩はわずかに安堵の息をつきます。私も心の中で息をつきました。これで追求は――。

 

「そして、君はどうなのかね?」

 

 ――逃れられなかった。

 

「えっとね……」

 

「……同じ部活です」

 

「ほう。部活か。どのような部活だ?」

 

 ……これは、言っても良いのでしょうか? 所属している部員を他の人達に知られたらとても大変なことになりそうですが。

 

「……えっと、内緒にしてくれるかな?」

 

「無論。君達が所属していることを言えば、その部活は必ず大変なことになるからな」

 

 そうですよね。祐斗先輩の人気は凄いですから。

 

 ……言峰先輩? どうして私を見て残念そうな表情をするんですか?

 

「オカルト研究部っていうんだ」

 

「ふむ。聞いた事が無いな」

 

「それは目立たないようにしているからね」

 

「そうか。他に部員は――」

 

 言峰先輩がなにかを言おうとしたその時――。

 

「アイ、マーボードーフおまたせアルー!」

 

 ――二皿のアカイブッタイが運ばれてきま……!

 

 は、鼻が……! 鼻の奥が痛いです! においでここまで凄いなんて……! いったいどれだけのスパイスを入れればこうなるのですか!?

 

 あれですか!? まさか煉獄地獄の炎でもぶち込んだのですか!?

 

 祐斗先輩は笑顔で固まっています。おそらく運ばれてきた衝撃的なアカイブッタイに驚かれているのでしょう。

 

「いただきます」

 

 言峰先輩はレンゲを取り、それを――躊躇無く口に含みました。

 

 言峰先輩の額から汗がどっと流れ出ました。凄く辛いのでしょう、絶対に凄く辛いです。しかし、言峰先輩は手を休めません。修羅の如き勢いで、次々とアカイブッタイを食していきます。

 

 ……もしかして、美味しいのでしょうか。

 

 灼熱地獄から取り寄せた溶岩にありったけのスパイスとトリニダード・スコーピオン・ブッチ・テイラーをたくさんぶちこんで挙句怪しげな呪文を唱えながら百年以上煮込み続けたようなあれが完全に暗黒物質ダークマターいえ紅蓮物質レッドマターのようなあれが美味しいのでしょうか。

 

 頭の中に声が聞こえました。

 

『……小猫ちゃん』

 

 あ、意識が戻ったんですね、祐斗先輩。

 

『……キレイ、意地になってない?』

 

 ……そうですね。なんだか変な執念というか妄念というか、とにかく凄い気迫で、でも、その根底には意地しか感じられませんね。

 

『だよね……。というか……食べなきゃ、ダメ?』

 

 注文したんです。しっかりと食べてください。

 

 と、祐斗先輩と念話をしているうちに、言峰先輩があと少しで食べ終わりそうになっていました。

 

 ……凄いです。

 

 ふと、視線が合いました。

 

「――――――」

 

「…………」

 

 いつかの再現。

 

 しかし、あの時とは全く違った感覚です。

 

 悪寒しかしません。

 

「食うか――――――?」

 

「嫌です――――――!」

 

 即答しました。はい、即答しました。

 

 誰があんなもの食べますか! 食べたら冥界行きです! いくら私が悪魔だからって好き好んで冥界へ行くものですか!

 

「……そうか」

 

 ……なんでしょうか、若干落胆したようなその顔は。もしかしてわりと真剣に言ったのでしょうか?

 

 あ、言峰先輩が祐斗先輩のほうへ視線を移しました。

 

「……」

 

「…………」

 

「……」

 

「……………………」

 

「……」

 

「………………………………わかった」

 

 数十秒に渡るにらみ合いの末、祐斗先輩が折れました。

 

 祐斗先輩は、真っ白なレンゲを持ち上げました。そして、見惚れるほどに引き締めた表情で、真っ赤な強敵を見据えます。

 

「……」

 

「……」

 

「…………」

 

「……」

 

「……………………」

 

 私と言峰先輩が凝視する中、祐斗先輩はレンゲでアカイブッタイをすくい上げ、そして、口に含みました。

 

「――ッ!」

 

 祐斗先輩の顔からどっと汗が噴き出し――――――!

 

 

 

 

 今日、わかった事です。

 

 その一。

  言峰先輩は凄まじいドSです。……うちの副部長と会わせたらどうなるのでしょうか?

 

 その二。

  泰山の麻婆豆腐は殺人的です。……うちの部長のあの魔法とどっちが凄いでしょうか?

 

 その三。

  泰山の杏仁豆腐は非常に美味。……なのになぜ、麻婆豆腐はあんなのなんでしょうか?

 

 ……えっと、あの後の祐斗先輩の状態ですか? ……ご本人にお尋ねください。私の口ではとてもとても……。

 

 ただ、祐斗先輩が覚えているかどうかは不明ですが……。

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