私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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陰謀編
平穏の裏側


 

  パラダイス・フォールズの奴隷商人。

  エバーグリーン・ミルズのレイダー連合。

  傭兵会社タロン社。

 

  闘争はまだ終わらない。

  最終的な決着はまだ付いていない。

 

 

 

 

 

  「くそぅっ!」

  手当たり次第に調度品を叩き壊す。

  その男、パラダイス・フォールズの奴隷商人の元締め。名をユーロジー・ジョーンズ。

  奴隷王アッシャーの支配するピットでの闘争に敗北。

  その後、ジェットヘリでキャピタル・ウェイストランドに何とか帰還した。

  だが……。

  「くそぅっ! くそぅっ! くそぅっ!」

  ユーロジーの怒りは収まらない。

  それもそのはずだ。

  投入した部隊は全て壊滅。

  生存者はユーロジー、クローバー、クリムゾン、その3人だけだ。あとは全滅。全て壊滅。

  これによりパラダイス・フォールズの戦力は半減した。

  「くそぅっ!」

  投入した理由。

  今回ピットに手を出した理由。

  それは奴隷購入の大口であるピットで1つの動きがあったからだった。治療薬の発見、それが今回介入せざるを得なかった理由。治療薬が完成すれば奴隷が必要でなくなる。

  つまりパラダイス・フォールズの利益が大幅に減少する事になる。

  特に最近ではエバーグリーン・ミルズのレイダー達も奴隷売買に手を出してきている。

  つまりこのままでは奴隷商人のシェアが低くなる一方だ。

  だから。

  だからいっそピットを奪おうと考えた。

  その一環としてジャンダース・プランケットを利用した。偽ワーナーとして利用した。そしてミスティを拉致してピットに送り込んだ。

  ユーロジーは一人息子の仇の女ではあるものの利用出来ると思い殺さずに送り込んだ。

  最初は上手く行っていた。

  拉致する為にラムジーを捨て駒にした。

  誘き出す為の餌とした。

  だが……。

  「くそぅっ! くそぅっ! くそぅっ!」

  結果は壊滅。

  結果は失敗。

  結果は全滅。

  投入した戦力、人材、資金、全てが無駄となった。

  最悪なのはそれだけではない。

  ユーロジーが留守の間に各地を巡回していた奴隷商人の部隊をレイダー連合が狙い撃ちにし始めていた。

  今までは双方非干渉。

  しかし今は違う。

  完全にレイダー連合はパラダイス・フォールズを潰しに掛かっている。

  銃の数も人数も向うが上だ。

  現在の状況では全面対決となれば奴隷商人の側が負けるのは必至。

  「くそぅっ!」

  結局のところ。

  結局のところユーロジーは引き際を誤った。ピットの街を奪い取るという事に執着し過ぎた。そしてミスティ。彼女の存在によりユーロジーはスチールヤードで敗北する事になった。

  感情論に引き摺られたユーロジーの払った代償、それは投入した部隊の全滅だった。

  パラダイス・フォールズに戻ってから彼は荒れ続ける。

  すぐさま組織再建に乗り出すべきではあったものの実際には手がなかった。

  率いているのがレイダーではなく奴隷商人だからだ。

  基本的にレイダーは誰でもなれる。

  だが奴隷商人は違う。

  奴隷商人に必要なのは相手を生かしたまま捕獲する術であり、ただ銃を撃てばそれでいいというわけではない。むしろ撃たずに捕獲するのに特化する必要がある。

  つまり人数が欲しいからといってすぐに育成出来るわけではない。

  特殊な技能が必要なのだ。

  だから。

  だから奴隷商人はすぐさま数を増やす事が出来ない。

  戦闘要員だけを確保するのは可能と言えば可能ではあるものの、そういう人材が増えれば、比率として生粋の奴隷商人を上回れば『奴隷商人の組織』ではなくなってしまう。

  戦闘オンリーの人材は組織には相応しくない。

  それではただのレイダーの組織だ。

  「くそぅっ!」

  「相変わらず荒れてるわねぇ、ダーリン☆」

  クローバーが呆れ口調で呟いた。

  愛人であると同時に護衛のクローバーは怜悧な瞳でユーロジーを見ていた。

  「答え教えてあげようか?」

  「答えだと?」

  「ええ」

  「何の答えだ?」

  「今、どうするべきか」

  「お前がそんな事を知っているのか? 面白い、言ってみろ」

  「簡単よ。質の良い銃を揃えればいいの」

  「銃」

  「そー。ダーリンは赤毛の女、部隊の全滅、レイダーの猛攻だけに捉われてる。本質はそこじゃない。連中への対応ではなく組織のバージョンアップが必要なの」

  「なるほどな」

  レイダー連合の数は多い。

  人数。

  銃器。

  全てがパラダイス・フォールズを上回っている。しかしパラダイス・フォールズは銃の数では劣っているものの質は高い。

  さらに上を目指す、そうする事で厄介な展開に対応する。

  悪くない手だった。

  「なるほど、お前にしては上出来だ」

  「ありがと☆」

  「誰かいないかっ!」

  「何でしょう、ボス」

  扉の向こうから声。

  ユーロジーは幾分か冷静になった口調で言葉を続けた。

  「武器商人ドゥコフの組織に連絡を付けろ。あのロシア野郎に頼るのは癪に障るが、奴のロシア製銃火器はウェイストランドでは最高の質だ。繋ぎを付けろっ!」

  「了解しましたっ!」

 

 

 

 

 

  エバーグリーン・ミルズ。レイダー連合の本拠地。

  完全に1つの組織ではなく無数の組織が一定の規律の元に纏まっている組織。

  最近は奴隷売買にも手を出し莫大な利益を得ている。

  つまり。

  つまりパラダイス・フォールズの領分を侵している。結果として敵対の一途を辿るわけだが、今更莫大な利益を生む奴隷売買をやめる気はない。

  結果としてレイダー連合は戦力の増強を図っている。

  その一環としてスーパーミュータント・ベヒモスの捕獲があった。もちろん飼い慣らせるわけではないものの相手への脅しとなる。

  人数。

  銃器。

  全てに置いてレイダー連合が勝っている、負ける要素はない。

  現在各地で奴隷商人の部隊を急襲する騒ぎが起こっているもののレイダー連合はさらに攻勢を強めるつもりでいた。

  それと同時に……。

 

  「デリンジャーが失敗したらしいぞっ!」

  「もっと腕の良い暗殺者を雇った、後は俺に任せておけっ!」

  「馬鹿言うなっ! 最高の手柄首、我々が取るっ!」

  「いいや何を言う、殺すのは俺だっ!」

  「幾らでも金を積めよ。殺し屋を差し向けるぞっ!」

 

  エバーグリーン・ミルズでは1つの騒動が起きていた。

  赤毛の冒険者に対する処置だ。

  既にタロン社、パラダイス・フォールズの奴隷商人からも狙われている赤毛の冒険者ミスティ。そいつを殺す事で相手のメンツを潰すのが目的だ。

  そして自身の発言力の強化。

  レイダー連合の中で成り上がる為の手段としてミスティは首を狙われていた。

  そんな騒ぎを冷徹な眼差しで見ている者がいる。

  深紅の髪を持つレイダーの女ボスで虐殺将軍という異名を持つエリニースだ。

  他のボス達の騒ぎなどお構いなしに1人距離を置いてタバコを吸いながら無線を聞き入っている。

  「……ふぅん」

  何の通信を傍受しているのか。

  エリニースの腹心のレイダーにも分からない。

  「あのー」

  「……」

  「あのー、エリニースの姐さん」

  「ん?」

  「何を聞き入っているので?」

  「秘密だよ。それよりも私に従うレイダーは何人いる? エバーグリーン・ミルズなんてクソ食らえという思想の奴がいいね」

  「はっ?」

  「大体でいい。何人いる?」

  「30名ぐらいっすかね」

  「そいつらを集めな。お出掛けするよ。リベットシティにね」

  「リベットに?」

  「私に従えば儲け放題だと言いな。成り上がる為には動く必要がある。さて、まずは何をするべきだと思う? 何が必要だ?」

  「何が……キャップですか?」

  「馬鹿が。銃だよ、銃」

  「銃」

  「銃があれば相手を殺してキャップが奪える。食い物も飲み物もね。あんたらの場合は女も手に入る。そうさ、まずは銃が必要なんだよ。強力なやつがね」

  「心当たりがあるんで?」

  「ああ。だがその前にまずリベットシティに行く必要がある。さあ、成り上がる為に行くよっ!」

  エバーグリーン・ミルズのレイダー連合、亀裂が走る。

  混乱はさらに拍車が掛かり……。

 

 

 

 

 

  カチャカチャカチャ。

  何かの音が断続的に響く。それは医療器具の音。薄暗い部屋にはベッドが1つある。

  その上に横たわる金髪の男は死んだように眼を閉じていた。

  生気のない顔。

  意識こそないものの口元には野心的な微笑が浮かんでいた。

  このような状況でこの男は一体何の夢を見ているのか、医者達は首をかしげた。

  横たわる男はカール。

  タロン社の中佐であり特務大隊の司令官……だった男だ。ピットにおける敗北により彼はその立場から転落した。大怪我を負っていて予断を許さない状況ではあったものの報酬目当てで

  カールに付いたジェリコの応急処置のお陰で一命を取りとめた。

  その後ジェリコはカールが持っていた無線機で通信。

  その通信を受信したのがタロン社ではなくダニエル・リトルホーンだった。

  彼は医療団を率いて現地に赴きカールに手術を施した。

  今、カールがいるのは医療団が建てた簡易型医療テントの中だ。

  カールは医者達に囲まれている。

  「……ここは……」

  「気が付いたかね、カール君」

  薄っすらと目を開いたカールは呟いた。しかし体は動かないし顔は強張ったままだ。

  麻酔がまだ切れてないし本調子ではない。

  大量に血を流し過ぎたカールには立ち上がって強がるだけの力はない。

  静かな眼差しでダニエルを見ている。

  「ジェリコ君に感謝するんだね。彼がいなければ君は死んでいたよ」

  「……」

  「ああ。彼に関しては心配しないでいい。報酬を与えておいた。その後、姿を消したが、まあ、彼がいなくても別に問題はないだろう?」

  「……」

  「タロン社には報告しておいたよ。その報告に対する答えも受け取ってある。目を覚ました瞬間から君は曹長に降格だそうだ」

  「随分と、まあ、降格したもんだな」

  「仕方あるまい? 特務大隊の壊滅の責任を取らされただけの話だ。指揮官とはそういうものだろう?」

  「ふん」

  「話は変わるが」

  ダニエルは手をあげると医者の1人がカルテを差し出した。

  ダニエルはそれを受け取って目を通す。

  内容を読み上げた。

  「右腕は我々の機械工学の総力を挙げた義手を付けておいたよ。ただ人工皮膚がないので機械剥き出しなのは勘弁して欲しい。まあ、そうだね、手袋でもしておくといい。何なら後で革の手袋を進呈しよう」

  「……機械の腕……?」

  カールは何気なく視線を動かす。

  グリン・フィスに切り落された右の二の腕の部分は鋼鉄製の骨格の腕に変わっていた。

  ダニエルは続ける。

  「胸の銃弾は摘出しておいたが肺の損傷が酷かった。よって人工肺に変えておいたよ。適応したようだね、よかった」

  「リトルホーン」

  「礼なら別にいい。君はキャピタル・ウェイストランドで我々が使える唯一の手駒。Drジマーの失敗でアーミテージ部隊が壊滅した以上、君が必要なのだ」

  「お前の正体が分かったぜ」

  「ほう?」

  「てめぇは連邦の人間だったのか」

  「ふふふ」

  「何だって連邦がピットの奴隷王の餓鬼を欲しがった?」

  「レールロードという連中の扇動に無知な領民が乗ってしまってね。連邦の強みであるサイバネティックは使い辛くなっている。馬鹿な連中だよ、自ら牙をへし折ろうとしている。

  民衆も議会もね。だからだよ。この地にはボルトテック社のウイルスがある。それが欲しい。だから私が来たのだ」

  「新たな技術を漁りに来たってわけか」

  「そうだよ。アンドロイドだけでは今後立ち行かなくなる。新しい分野の開発の為に、ボルトテック社の遺産が欲しいのだ」

  「つまり?」

  「ウイルスは最強の矛となる。そして奴隷王の娘には抗体、つまりは最強の盾。その2つがあってこその、技術でありビジネスだ」

  「……」

  「カール曹長。君は私に借りがあるのを忘れてもらっては困るぞ。それを必ず返して貰おう。まずはウイルスを探したまえ、いいな、必ずだ」

 

 

 

 

 

  その頃。

  キャピタル・ウェイストランド最北端。ごつごつとした岩場が広がる辺境。

  展開している部隊がいた。

  スーパーミュータントのパトロール部隊だ。

  数は10。

  キャピタル北部はスーパーミュータントの支配下であり幾つもの部隊が徘徊していた。

  その目的は1つ。

  示威行為。

  完全なる制圧下にある事を知らしめる為の行為であり、そしてさらに支配地を増やす為の行為。

  スーパーミュータントの本拠地ボルト87から円を広げるように陣地を増やしている。

  「オマエ、ナンダっ!」

  巨人達は包囲していた。

  1人の青年を包囲していた。

  スーパーミュータントの勢力化にある場所だと知らずに迷い込んでくる旅人は多い。その青年もその1人なのかもしれない。通常の場合ならば拘束してボルト87に強制連行される。

  そしてスーパーミュータントに改造される。

  しかし今回は違った。

  包囲こそしたものの傍観しているだけ。

  気になるのだ。

  この青年が。

  年の頃は二十代前半。

  ボルトのジャンプスーツに身を包んだ青年だ。

  腰には1本の警棒。

  使い込まれているらしく血糊が既に染み込んでいた。

  他に武器らしいものは何一つ所持していない。

  だがスーパーミュータントは好奇心と同時に警戒心も抱いていた。

  青年が手にしている人形。

  そしてボルトのジャンプスーツの背にあるナンバリングは『77』と記されていた。

  スーパーミュータントの支配者であるジェネラルから通達を受けていた。

  絶対にボルト77の住人には手を出すな、と。

  そう常々に言われていた。

  だから臆する。

  その青年は包囲しているスーパーミュータントになど気にならないかのように独り言を呟いた。

  いや。

  正確には独り言ではない。

  そう。

  彼は喋っているのだ、手にしている人形と。

  「彼らは僕と遊んでくれると思うかい、ユージン?」

  「さあ? 誘ってみればいいんじゃないの、鬼ごっこでもしようかってさ、ボーイ。リアル鬼ごっこだと、捕まった奴は貪り食われちゃうけどさ」

 

 

  ボルト77の「あいつ」、キャピタル・ウェイストランドに介入。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょこっと説明。
ボルト77。西海岸にあると思われる、1人の男と大量の人形だけのボルト。実験内容不明。男は人形たちと会話することで孤独を紛らわせていたものの、ある日王様の人形が無残に壊されていることに気づく。そして手に装着してたマペットは言う、君が殺した、逃げろと。その後ボルトを脱した彼は複数のレイダーを素手で虐殺、ボルトは住民のためとは限らない的な終わり方で幕を閉じる。
年代的に核戦争前後、ネクロポリスの住民と話してることから西海岸だと思われる(=゚ω゚)ノ
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