私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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能力者

  特殊な力を持つ者がいる。

  能力者。

 

  だが覚えておいた方がいい。

  強力過ぎる力を行使する者は尊敬などされない。最終的に恐れられ、憎まれるだけだという事を。

 

  力には責任が伴う。

  それが力を持つ者の責任。

 

 

 

 

 

  「殺れ」

  特殊部隊の隊長ウェスカーが冷酷に部隊に命令する。

  ふん。

  下らない。

  ボルト101脱出当時のど素人じゃないんだ、今の私は。

  こんな数、大したことがない。

  時間が止められるんだぞ、私は。

  カンフーだって出来る。

  中国まで蹴っ飛ばしてやろうか?

  「すーはー」

  さあ、やるぞ。

 

  どくん。

  どくん。

  どくん。

 

  心臓が脈打つ音が聞こえてくる。

  私の特殊能力発動っ!

  原理は分からない。

  原理は分からないけど私は周囲の時間枠を越えて行動出来るらしい。

  視覚的な特殊能力なのかそれともエスパー的な能力なのか。もしかしたら私はボルト101でサイボーグ009に改造されたのかもしれない。

  加速装置ーっ!(笑)。

  ともかく。

  ともかく私は周囲の状況をスロー、もしくは完全に止めれる。

  周囲はストップ。

  私は?

  私は動ける。

  つまりどういう事かは言うまでもないでしょう?

  二挺の44マグナムを引き抜く。

  狙いはボルトテック社特殊部隊を名乗る妙な連中。

  本物?

  さあね。それは知らない。

  ボルトテック社の本社そのものは核で街ごと吹っ飛んだらしい。私もキャピタル・ウェイストランドは長いからその手の情報は入手済みだ。ウェスカーと

  名乗ってる金髪野郎は正規のボルトテックの残党なのか、それともただの騙りなのか。それはまだ分からない。

  ただイチャモン付けに来たのは確かだ。

  レッドレーサー工場での一件でこいつらは私達を追ってきたらしい。

  誓って言うけど私は工場を壊滅はさせたけど研究資料は盗んでない。工場内を殲滅後、触るべきではないというクリスの忠告を受けたから研究資料には

  触れてすらいない。無用な厄介を背負う必要はないと判断した。クリスの忠告を妥当と判断した。

  だから触っていない。

  なのにこいつらは『盗んだものを返せ』と言っている。

  そう喚くのは完全武装の特殊部隊。

  まあ、物騒な世の中なので武装は平服と言ってもいいだろう、だから武装は気にしない。しかしこいつらは銃口をこちらに向けていた。

  実力行使もやむなしってやつですか?

  どっちにしても『持ってません』と言っても信じないだろう。信じるような顔をしていない。

  戦闘になるなら先手必勝っ!

  わざわざ相手の囀りを聞いてやる義理なんてないし、つもりもない。

  現在周囲の面々は私の能力の範囲にいる。

  つまり。

  つまり全員停止している。動けるのは私だけ。

  44マグナムの引き金を連続で引く。

  12連発ーっ!

  そして時が動く。

 

  『ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!』

 

  突然特殊部隊の面々は悲鳴とともに後ろに吹っ飛ぶ。

  44マグナムの衝撃だ。

  撃った弾丸の数は12発。

  悲鳴を上げながら吹っ飛んだのは12名。

  全弾命中っ!

  全て急所を射抜いた。

  わずか数秒で部隊員は絶命。この場にいるのは30名ほど。半分以上まだ残っているけどいきなりのこちらの容赦ない攻撃に相手は怖気付いた。

  一気に叩くっ!

  「グリン・フィスっ!」

  「御意のままに」

  シシケハブを手にしたグリン・フィスが特殊部隊に向って疾走。走りながらシシケハブの刃に炎が宿った。石油の香りが漂う。

  相手側はまだ動揺から立ち直っていない。

  わずか数秒で戦力の半減。

  この同様を覆すには時間が少な過ぎる。

  「斬っ!」

  特殊部隊に斬り込むグリン・フィス。

  炎の刃が部隊員を次々と斬って捨てる。コンバットアーマーを焼き切っているのだ。私は私でただ黙って見ているわけではない。残弾がゼロになった44マグ

  ナムを腰のホルスターに戻し、ピットで手に入れたインフィルトレイターを手にして構える。

  静かな振動音とともに無数の弾丸が飛ぶ。

  バタバタと倒れる特殊部隊員。

  グリン・フィスはシシケハブを手近にいた部隊員に一閃、部隊員は自動小銃でガードするものの自動小銃は切断された。その部隊員は後ろによろける、自動

  小銃が切断されただけで外傷はない。とりあえずこの瞬間までは。

 

  ばぁんっ!

 

  部隊員が小型拳銃を引き抜くよりも早く銃声が響く。そして部隊員の額に銃創を残す。

  私が撃った?

  そうじゃない。

  これはグリン・フィスだ。

  どういう心境の変化があったのかは知らないけど、私がピットに行っている間にグリン・フィスは銃を使うようになった。

  あまり強力ではないけど32口径ピストル。

  もちろん強力ではないけど人間を殺すに充分過ぎる威力がある。

  まあ、スーパーミュータント相手にはパワー不足だとは思うけど人間殺すには特に問題はない。

  さて。

  「それで? 話し合いでもする?」

  「馬鹿なっ!」

  残ったのは3人。

  ウェスカー、自動小銃持った特殊部隊員1人、手にPIPBOYを装着した特殊部隊員1人、合計で3人。

  グリン・フィスは後退りして私の隣に並ぶ。

  相手が何か仕掛けてきたらグリン・フィスは即座に相手に斬り込むだろう。それだけグリン・フィスの攻撃範囲は広い。既に敵は私の戦友の間合にいる。

  私は落ち着きながら口を開く。

  「私はレッドレーサー工場の研究資料なんて知らない。おっけぇ?」

  「嘘をつけ」

  「根拠は?」

  「監視カメラに映っていた」

  「盗難のシーンが?」

  「いや。システムがダウンしている間にデータが破損したらしい。お前がその場にいた、それだけが確認された。もちろんそれだけでいい。ただでさえお前は我々のボルトを次々と破壊して行った。

  どっちにしてもお前は我々ボルトテック社の敵なのだ」

  「一応聞いとくけど分かってるの?」

  「何がだ?」

  「あんたら私達に勝てると思ってんの? 随分と簡単な理由で死にに来たのね」

  「ボルトテック社的に回す気か?」

  「違う。それ少し違う。あんたらが私達に喧嘩を売りに来てるだけ。私も言い返してあげる。本気で私達を敵に回す気なのね?」

  「ボルトテック随一の俺の銃の腕に勝てるか」

  「よし、試そう」

  ホルスターからベレッタを引き抜くウェスカー。

  やれやれ。

  死に急ぐか。

 

  どくん。

  どくん。

  どくん。

 

  周囲のスピードが遅くなる。

  何だかよく分からんけどこいつらは敵認定。処方箋は当然排除、それで充分だ。

  一気に蹴散らしてやるっ!

  「……っ!」

  な、何?

  頭が痛い、ガンガンするっ!

  「くっ!」

  私はその場に膝をつく。当然時間は動き始める。ウェスカーは銃を引き抜くものの、グリン・フィスが手にしている32口径ピストルからの発砲で持っていた銃が弾かれた。

  銃が飛ぶ、その間に自動小銃を持っていた特殊部隊員を射殺していた。

  銃の腕もなかなかのものだ。

  私はその場に膝をつく。

  だけど相手は相手で動揺していた。その動揺を発したのはPIPBOYを装着していた隊員だった。

  「た、隊長っ! 77のあいつが近くにいますっ!」

  「な、何だとっ!」

  「悪魔が来ます、悪魔がっ!」

  「面倒だな、撤退だ」

  突然訳の分からない事を喚いて逃げ出す2人。もちろんただ逃げるのではなくこちらに向かって断続的に銃弾を連打しながらだ。

  もっとも逃げるという意味合いの方が大きい。

  銃弾は牽制程度でしかなかった。

  グリン・フィスが駆け寄ってくる。

  「大丈夫ですか、主」

  「ええ。大丈夫」

  頭痛は治まりつつある。この状況を私は知っている。

  ジェネラル相手に能力を使うとこうなる。

  そのときの頭痛と同じ痛みだった。

  何なんだろ、この痛みは。

  何なんだろ。

  「主」

  「ん?」

  「何でしたら自分が人工呼吸をしてあげましょうか?」

  「はっ?」

  「息苦しそうに見えましたので。何でしたら心臓マッサージもして差し上げます。これは純然たる医療行為ですのでエロの要素などありません。もちろん

  主がその気になれば不肖グリン・フィス、その欲求に全力で応えるつもりです。最低でも3回ぐらいは頑張るつもりです。お互い若いですから」

  「ぶっころーす☆」

  「あ、主、ただのユーモアですっ!」

  なーにがユーモアだ。

  もうちょっと私が過激な性格だったら今頃三途の川を泳いでいるところだ。まったく。

  「主」

  「今度は何?」

  「あれを。クリス達です」

  「ほんとだ」

  クリスチームと合流。

  どうやら銃撃戦を聞きつけてきたらしい。激動の街ピットから私にくっついて来たアカハナと9名のレイダーも一緒だ。

  よーしよし。

  これでピット帰り直後の状況に戻った。

  クリスが駆け寄ってくる。

  「無事か、一兵卒」

  「まあね」

  「よし。おっぱいの形は戦闘で崩れていないようだな。私が直々にマッサージしてやろう。……うひ、うきゃきゃ……」

  「……」

  だんだん人間やめてないかこいつ?

  言動がサイコレズ過ぎる。

  嫌だなぁ。

  「主、そこは自分が従者として揉み解し……」

  「死ね」

  お前もうぜぇーっ!

  何なんだよお前らは。

  まったく。

  「ボス、お怪我は?」

  「大丈夫よ。そっちは?」

  「へへへ、キャピタルの手荒い出迎えはもう勘弁ですぜ」

  そう言ったのはピットレイダーの1人。

  そういや名前すら知らんなー。

  「クリス、何体殺した?」

  「赤い奴か?」

  「うん」

  良い相棒関係になったな、今のだけで分かるなんてね。

  「5体だ」

  「そっか」

  アンクル・レオが前に言ってたな、殺しても殺してもジェネラルは起きる、だから奴はボスになったとか何とか。

  言っている意味が未だによく分からないけど、あの赤い奴は本当のボスじゃないな。

  完全に量産タイプ化してる、ただの雑魚だ。

  だけどDC残骸で殺したのと、ビッグタウンで殺したのは同一の存在として振る舞っていた。

  思考を共有している量産タイプ、とか?

  「はあ」

  「何だ、一兵卒。ため息なんてついて」

  「面倒になってきた。敵の勢力が減るどころか増えてきたし。ボルトテックの残党まで私の人生に絡んできた」

  「別にいいんじゃないか? 少なくともも私はお前の味方だぞ。絶対に悪いようにはしない」

  「あはは、そうね」

  「クリスティーナ様、そろそろ引き上げたほうが。スーパーミュータントがまた追撃してくるかもしれません」

  ハークネスが恭しく彼女に言った。

  完全に従者化してるな、カロンとハークネス。私とグリン・フィスとはまた別の関係性だと思う。

  「ふむ、確かにな。カロン、先行しろ。行くぞ」

  「御意のままに」

  「主、行きましょう」

  「そうね」

  さて。

  予定になかったピットからウェイストランドにようやく帰ってきた。とっととメガトンに帰るとしよう。

  愛しの故郷に帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  「大丈夫かい、ボーイ」

  「久し振りに頭痛がしたんだ。だからつい倒れてしまった。もう大丈夫だよ、ユージン。それにしても痛みは久し振りだよ」

  オアシス付近。

  ミスティ達とボルトテック社の特殊部隊が激突したすぐ近くの場所で1人の金髪の青年が立ち上がった。

  頭を横に数度軽く振った。

  「あー、頭が痛かった」

  「痛みも時にはいいんじゃないかい、ボーイ?」

  「まあ、痛みは久し振りではあったけど……やっぱり勘弁して欲しいかな、ユージン」

  「そういうものかい? いつも無双過ぎるより、たまには痛みを感じる人間やってみるのも楽しいんじゃない?」

  「失礼だな、ユージン。僕は人間だよ」

  「ははは」

  この会話、2人で行っているものではない。

  この場にいるのは1人だけ。

  金髪の青年だけだ。

  ボルトテック社のジャンプスーツを着込んでいる。これは地下施設ボルトに移住する者に与えられる普段着のようなものだ。背中にはそれぞれのボルトの

  ナンバリングが刻まれている。ボルト101には101が、ボルト112には112が刻まれている。

  この青年のボルトスーツには77と刻まれていた。

  ボルト77。

  それはキャピタル・ウェイストランドには存在しないボルトの名だ。

  西海岸にあるボルト。

  そのボルトに収容されたのは1人、ボルト77は1人と大量の人形だけが放置されたボルトだった。だがボルト77の収容開始は全面核戦争直前、つまりは200年以上前。当然ながら当時の住人が

  生きているわけがない。彼はその子孫なのか、それともボルト77のジャンプスーツを手に入れただけの部外者なのか。

  「ボーイ」

  「なんだい、ユージン」

  「君はあの場にいた連中を皆殺しにしようとしただろう?」

  「失礼だな、ユージン。僕はただ遊ぶつもりだっただけだよ。殴って、潰して、壊して、千切って啜って齧って貪ってっ! 僕のお腹の中でグチャグチャに

  なってから吐き出すつもりだっただけだよ。なのに殺すつもりだ何て酷いな。人権侵害で訴えるところだよ。ユージン、君が僕の友人じゃなければね」

  「特別扱い、光栄だね」

  繰り返す。

  この場にいるのは1人だけ。

  ユージンというのは彼の手に装着されている人形。もちろん人形が喋っているわけではない。青年が一人二役しているだけだ。

  「教えてあげようか、頭痛の原因」

  「えっ?」

  「教えてあげようか、ボーイ」

  「是非教えて欲しいな」

  「君は能力を使ってあの場にいた連中を殺そうとした。だけどあの場にいた連中の1人、赤毛の女も能力を使おうとした。だからあの女も、君も、激しい頭痛を覚えたんだよ。強力な能力者同士は、

  能力を行使すると反発し合うものなんだ。ああ、いや。能力者ではなく厳密には感染者かな」

  「ユージン、つまり彼女は」

  「君と同じさ、ボーイ」

 

 

  能力者、襲来。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




能力者。要はPERK持ちの方々のことですが、ミスティさんのようにオリジナルだったり、メタルマックスから持ってきたスキル持ちの方もいます。基本強さが人類規格外の方々っす(=゚ω゚)ノ
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