私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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エンクレイブ襲来

 

  誰も気付かなかった。

  世界が管理されている事に。

 

 

 

 

 

  「遠回りだー」

  「御意」

  パパの頼みで私は浸水している区画の排水の為にシステムの点検に向った。

  システムの一部がショートしていたので予備の部品を使って修理、そしてシステムを起動させて排水。ただし排水をする過程で自動的に隔壁が閉鎖、

  通って来た道が通れなくなったので私達は遠回りで戻ってる。私達、それは私とグリン・フィス。

  ブッチ?

  ブッチは研究区画でダラダラしてる。

  サボってんなぁ、あいつ。

 

  ザー。

 

  「ん?」

  「ノイズ音ですね、主」

  館内放送かな?

  もしかしてパパがここで私に告白っすか?

  くっはぁ☆

  ここは1つ血の繋がりを乗り越えてフォーリンラブしちゃってもよござんすよー☆

  ……。

  ……という冗談は置いといてー。

  ノイズ音が数秒続く。

  その後男性の声が流れた。

  知らない声。

 

  「私はエンクレイブのオータム大佐だ。現在当施設は私の指揮下にある。繰り返す、オータム大佐の指揮下にある。抵抗する者は排除する。以上だ」

 

  アナウンスが切られる。

  今の意味を理解するのに数秒掛かる。

  「エンクレイブ?」

  キャピタル・ウェイストランド解放を謳うエンクレイブラジオが真っ先に連想され、その次にボルトテック社のウェスカーの言葉が思い浮かぶ。

  奴曰くエンクレイブはボルトテック社を仕切る立場。

  まさか本当に存在するの?

  確かに。

  確かにラジオの内容は一般的に過去の再放送というのは常だった。

  だけど内容が最近の状況を知らなければ成り立たないものも多く(例えばOCの存在をラジオの内容で論じていたり)完全なる過去のラジオ内容では

  ないのを私は気付いていた。もっともこんな妙な形で出張ってくるとは思ってなかった。

  アナウンスの男性はオータム大佐。

  大佐、か。

  動員兵力は分からないけど私達より多いのは確かだろう。

  「主、エンクレイブとは?」

  「今はそれどころじゃないわ。戻るわよっ!」

  「御意」

  パパ。

  無事でいてよっ!

 

 

 

  研究区画に戻るとDrリーが軍服姿の兵士に銃を向けられていた。この兵士は軍帽を被り、その脇に控える2人の兵士を統率する立場にあるようだ。

  軍帽=仕官?

  そうかもしれない。

  他の研究員はどこだろう?

  ブッチもどこに?

  ここにはDrリーしかいない。それと兵士2人。

  兵士2人は私達にも銃口を向けた。

  始末する?

  数はそう問題ではない。瞬時に始末できる。

  その時、声が上の方からした。

  視線を上に向けると浄化システムを内包した硬質の強化ガラスの中にパパがいた。

  パパの隣には科学者の女性がいる。そんなパパ達と相対する形でコートを羽織ったエンクレイブの仕官、そして黒いパワーアーマーを装備した兵士が2人。

 

  「ここの責任者は誰だ?」

  「俺だが」

  「私はエンクレイブのオータム大佐だ。君に命じる。浄化プロジェクトを起動させてもらおう」

  「不可能だ」

  「逆らう気か?」

  「大佐、そうじゃない。システムはまだ不完全で完成していないんだ」

  「そうか」

 

  ばぁんっ!

 

  銃声。

  オータム大佐と名乗る人物が銃を引き抜いてパパの隣の女性科学者を射殺したのだ。

  銃を抜くその動作は滑らかだった。

  相当な腕前と見ていい。

  Drリーが悲鳴をあげるとパパが下を見た。私とも目が合う。オータム大佐もこちらを向き、それから再びパパに向き直る。

 

  「システム起動を出し惜しみするなら君以外の者を1人ずつ順に殺すとしよう」

  「何だとっ!」

  「シムズ少佐、まずはそっちの赤毛を殺せ」

 

  Drリーに銃を向けていた軍帽の男が銃口を私に向け直す。

  シムズ少佐とはこいつらしい。

  さてどうする?

  この場にいる連中を倒すのは容易い。

  少佐と兵士2人、それは可能。

  問題はパパと向かい合ってる連中だ。

  44マグナムでパワーアーマーを貫通出来るかという問題もあるけど、下手に騒ぎを起こすと階段を駆け上っている間にパパが殺されてしまう。

  どうする?

  どうしよう?

  パパはこちらを見て静かに笑った。とても澄み切った静かな微笑。

  「ティリアス、覚えているか」

  「えっ?」

  「ママの大好きだった言葉だ。覚えているか?」

  「覚えてる」

  ヨハネの黙示録21章6節。

  私はアルファでありオメガである。最初であり最後である。私は渇く者には命の水の泉から価なしに飲ませる。

  それがママの好きだった言葉。

  でもそれが何?

  「いつかそれが役に立つ。困った時、それを思い出してくれ。お前に託すよ、全て」

  「……?」

  どういう意味だろ?

  パパは私に反駁の余地を与えないまま大佐を見て頷いた。

 

  「分かった大佐。システムを起動させよう」

  「賢明だな」

 

  「駄目よジェームスっ!」

  Drリーが叫んだ。

  だがその悲痛な叫びは無機質な声に阻まれた。機械の声に。

 

  『コウノウドノホウシャノウヲカンチ。コントロールルームヲキンキュウヘイサ、キンキュウヘイサ』

 

  強化ガラスがスライドして、システム周辺の区画が遮断される。

  私のPIPBOY3000がガーガーと音を出す。

  ガイガーカウンターだ。

  放射能を感知してる。

  パパが修理に出る前に言っていた事を思い出す。システムは不完全で一度起動させると放射能が満ちると。じゃ、じゃあ、今あの場所は……。

  「くそっ!」

 

  ばぁん。

  ばぁん。

 

  兵士2人を即座に射殺。仕官はDrリーを人質にすべく銃口を彼女に向けるものの、そのまま後ろに吹っ飛ぶ。私の飛び蹴りが決まったのだ。

  階段を駆け上る。

  背後で断末魔が響く。

  おそらくグリン・フィスが起き上がろうとした士官を斬ったのだろう。

  私は銃を構えて強化ガラスを撃ち抜こうとする。

  中ではパパとオータム達が倒れていた。

  ガーガーとガイガーカウンターが叫んでいる。遮断されているのにガイガーカウンターが反応する、それはつまり内部は高濃度の放射能ということだっ!

  撃ち抜くっ!

  「ティリアス、駄目よっ!」

  「離してっ!」

  背後からDrリーが私を羽交い絞めにした。

  純粋な力は私にはない。

  振り払うほどの腕力もない。

  「中は高放射能よ、開けては駄目っ!」

  「パパが……っ!」

  「もう無理よ。無理なのよっ!」

 

  「ぎゃっ!」

 

  階下で悲鳴が響く。無数に。

  見ると死体が増えていた。

  エンクレイブの兵隊だ。

  「主。異変を察知して敵の部隊がこちらに向かってきています。脱出を」

  「……」

  足跡は次第に近付いてくる。

  1つや2つではない。

  無数に。

  下手すると10人以上。

  エンクレイブの兵力がどの程度なのかは知らない。ジェファーソン記念館に投入されている人数がどれぐらいなのかは知らない。

  だけど。

  だけどこの施設を占領する気で来ているのであればかなりの戦力だと見た方がいい。

  パパの仇を討つ。

  それもいいだろう。能力を駆使して敵を迎え撃つのもいい。

  そう。

  1人ならそれでもいい。

  少なくとも私はここに1人でいるわけではない。グリン・フィスがいる。Drリーがいる。ブッチも生きてるかもしれないし他の科学者達もだ。

  アカハナ達は……そうだ、ピットレイダー達は外を警備していた。

  大丈夫だろうか?

  「主」

  「……撤退するわよ」

  「御意」

  グリン・フィスは頷く。

 

 

 

  Drリーとともにジェファーソン記念館内部を逃れる。

  今のところエンクレイブの巡回には引っかかっていない。私は神経を索敵に集中する。集中していれば考えなくて済む。

  悲しむに浸るのは後にしよう。

  ここを脱出してからだ。

  「突然だったわ。突然施設に侵入された。外のセキュリティ達は……どうなったか分からない……」

  「……」

  外のセキュリティ。

  それはリベットシティから派遣された部隊、そして私の部下のアカハナ達ピットレイダー。

  無線で応答を求めたけど反応がない。

  他の科学者達の安否は不明。

  エンクレイブの突然の襲撃により科学者達は混乱して逃げ惑ったらしい。

  通路を進む。

  その時、曲がり角から突然人影が躍り出た。私とグリン・フィスは瞬時に構える。

  「な、なんだ、ミスティか」

  「ブッチ」

  現れたのはブッチ。そして科学者8名。

  一瞬非難しそうになった。

  パパを放ってどこに行っていたのよ、そう罵りそうになった。だけど私はすぐに自分を取り戻した。彼を非難しても仕方がない。ブッチは自分の出来る

  事をしていた、他の科学者を連れて単身で守ってた。そんな彼を非難するのは筋違いというものだ。

  生き残りの科学者は8名。

  ああ、1人科学者じゃないか。確か荷物運びの人。まあ、そこはどうでもいいか。

 

  「いたぞっ!」

 

  わらわらと兵士が集まってくる。

  その動き、無駄がない。

  アサルトライフルを構えた走り、そして私達を包囲する。その数は約20名。

  全員が全員防弾ジャケットを着込んでいる。

  つまり一般兵か。

  パワーアーマーを着込んだ奴がいないのは救いね。どんだけ防弾性能かは知らないけど……あのジャケットでは胴体は防げても手足はノーガード。

  頭部も然り。

  どっちにしても胴体もそんなに万能ではあるまい。銃弾の直撃を緩和は出来ても何らかの損傷は出る。弾丸が体を貫通したり、骨折したり。

  問題は包囲か。

  今撃ち合えば100%死ぬのはこちら。

  科学者達も護身用に銃は持ってるけど単発の拳銃。それに今現在私達が置かれている状況を考慮すると……まあ、アサルトライフルを全員が装備して

  ても負けるかな。どっちにしても分が悪い。

  じりじりと輪を狭める兵士達。

  その時……。

 

  「待て待て。そこの赤毛の身柄は我々が預かるという盟約になっている」

 

  1人の大柄の男が私達を囲んでいる兵士達を押し退けて、私達の前に現れる。

  見知った顔だった。

  「……ハークネス?」

  「正確にはハークネス中尉だ。今回の作戦行動にあたり出世したんでね」

  「……」

  私は沈黙した。

  これは何?

  これは何?

  これは何?

  呆然しながらもハークネスの隣にいるエンクレイブの軍服姿のグールに気付く。こっちはハークネスとは異なり防弾ジャケットを装備している。

  「……あんたもそっち側なの?」

  「クリスティーナ様に聞けっ!」

  そう。

  カロンが叫ぶ通り彼女もまた関っているのだろう、クリスもまたエンクレイブに……?

  これは何?

  これは何?

  これは何?

  一体全体これは何の冗談なんだ?

  エンクレイブの兵士達は遠巻きに私達を包囲している。アサルトライフルをこちらに向けている者もいるけど全員ではない。どうやらハークネス&カロンが

  私達の相手をするのを見届けるように命令されているのだろう。誰にかは知らない。クリスなのかオータムなのか。

  どちらにしても兵士達は当面は敵ではない。

  当面はね。

  「主、ここはお任せを」

  「グリン・フィス?」

  彼は一歩前に出る。そして1人でハークネスとカロンと対峙する。

  無茶だっ!

  カロンの戦闘能力は高い。それでもグリン・フィスが負ける気遣いはないけど問題はハークネスだ。

  奴はサイボーグ。しかしその機能までは詳しく知らない。

  ただ連邦がわざわざ追撃してくるほどの高性能の新型なのは知っている。正直グリン・フィスと対等に渡り合えるのはハークネスぐらいだろう。

  一対一ならそれでいい。

  だけどカロンがいる。

  この2人相手にグリン・フィス1人で何とかなるという保証はどこにもない。かといって私がここに残るのも……無理ね。科学者達を逃がすにしても護衛は

  必要だ。ブッチでは力量が足りない。護衛にしても残留にしてもだ。

 

  どす。どす。どす。

 

  「う、うおっ!」

  大きな足音を立てて巨漢がこちらに向かって現れる。エンクレイブ兵士の1人が振り返り動揺の声を上げた。

  そこにいたのはスーパーミュータント。

  「ミスティ、俺も戦うぞ。友達だからな」

  「アンクル・レオっ!」

  「この通路をまっすぐ行くとマンホールがあるんだ。その下から外に出られるぞ。大分汚いけど、まあ、仕方ないよな」

  そうか。

  前にいたところに忘れ物をしたから取りに行って来るとかメガトンで言っていたな。前にいたところ、つまりはジェファーソン記念館か。

  スレッジハンマーを持っている。

  あれが忘れ物らしい。

  「剣使い、あのでかい奴は俺が相手するぞ」

  「助太刀感謝する。では自分はカロンを相手にするとしよう。……一度全力でやり合ってみたかったところだ」

  二対二。

  だけど私はこんな展開を認めてないっ!

  仲間同士で戦うなんてっ!

  ……。

  ……いや。

  そもそも仲間同士だったのだろうか?

  クリスチームは私を欺いていた。

  これは何?

  これは何?

  これは何?

  この展開は一体、何?

  「主。お先にどうぞ。後で追いつきます」

  「グリン・フィスっ!」

  「主。お先に」

  「何を勝手に……っ!」

  「お願いします、主。無礼な態度でこの場から去らせたくありません。お先にどうぞ。後で追いつきます」

  「行くぜミスティっ!」

  「ちょっ!」

  ブッチが私を引き摺る。

  エンクレイブ兵士達が銃を構えようとするもののハークネスが手でそれを制した。

  私達は逃げていく。

  敗北。

  敗退。

  敗戦。

  どのような呼び方でも同じ。私達は負けた。

  そして私は無様にもこの場から逃げるしか出来なかった。展開を引っくり返すことなんて出来ない。

  エンクレイブは強大な敵。

  そう。

  パパが殺されたのに私は逃げるしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  GNRの緊急放送。

 

  『俺はスリードッグだっ! こちらはキャピタルウェイスランド解放ラジオだ』

  『現在ウェイストランド全域で異変が起きている。エンクレイブを名乗る軍隊が襲来し各地の平定に乗り出したっ!』

  『大勢のリスナーからメッセージが届いて……おい、これは何の音だ?』

  『空爆……っ!』

 

  ザー。

 

  ノイズ音だけがラジオに響く。

  ノイズ音だけが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




クリスチームとの対立は確定的に(=゚ω゚)ノ
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