私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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広がる絆

  誰しもが順応性を持っている。

  穴蔵生活→『ひゃっはぁー☆』と叫ぶ連中がいる世界での生活。掛け離れた世界観。

  最初は当然戸惑ったものの次第に当たり前として受け入れつつある。

  順応性。

  それが崩壊した世界の中でしぶとく人間が生き残る最大の理由。

 

 

 

 

 

  「素晴しい献身ね☆」

  「……」

  「だけどミスティもっと怪我してくれないと実験にならないんだけどなー。も一度レイダーに撃たれて来てくれる?」

  「……」

  素っ頓狂なまでに明るい声のモイラ嬢。

  スーパーウルトラマーケットでの戦いから3日後。私は相変わらずメガトンに足止め状態。

  この街で何してるかって?

  モイラのサバイバルガイド作りの手伝いをしたり、メガトンの市長であり保安官であるルーカス・シムズの手伝いをしてる。ルーカス・シムズの仕事

  は爆弾解除とはまた別物。メガトンの治安維持だ。

  ついさっきもボルト101の裏側にあるハイウェイを拠点にしているレイダーの集団を叩きのめして来た。

  叩きのめす=デストロイ☆

  もちろん1人で行ったわけじゃあない。

  謎の拾い物グリン・フィス。

  軍人系&ツンデレ系&ボクっ娘系(……なんじゃそりゃ)の保安官助手クリスティーナ。

  眼帯伊達男のビリー・クリール。

  この3名の力を借りて一掃。

  随分と仲良くなった。

  特にビリーとはね。ダンディだし取っ付き易いし。メガトン随一のフェミニストな気がする。付き合い易い人柄だ。

  急速に人間関係は広がっていく。

  人間、悲壮だけでは生きられないらしい。

  パパを見つけたいだけなのに人間関係も構築されていく。

  まあ人間関係はいい。

  築けるのであれば築きたい。

  人間関係が広がって不快がる人間なんてまずいない。……いるとしたらよっぽどの人間不信の人よね。

  私?

  私は人好きのする女の子。

  ビバ人間関係☆

  さて。

  「これ売却処分したいんだけど……」

  「おっけぇ☆」

  レイダーから巻き上げた……じゃない、レイダーからリサイクルした武器や物資の類をあたしはモイラの店《クレーターサイド雑貨店》に持ち込んだ。

  だからこそここにいる。

  この街で唯一の換金場所だ。

  まあそれ以前に食料品も雑貨、銃器、銃弾等もこの店が手広く扱っている。

  手に入れた物はここに持ち込むのが最適だ。

  食料品やお酒の類はモリアティの店で買い取ってくれるけど、総合的に取り扱ってるのはクレーターサイド雑貨店。モリアティの店で食料品を売った

  ところで、銃器を売る為にはモイラの店に来る必要がある。

  それ二度手間。

  だからモイラの店に最近私は入り浸っている。

  街の外で得た物の換金の為にね。

  ……。

  まあ、それ以前にここに居候してるんだけどさ。

  助手としてね。

  「いくらになる?」

  「そうねぇ。50キャップかな」

  「……足元見てない?」

  「まさか」

  「……」

  「毎度ありー☆」

  「……」

  またぼったくられた。

  世間知らずのインテリかと思えば実は経済観念がしっかりした……というか徹底した女傑なのだ。

  確かに。

  確かにここに泊めて貰ってる。

  宿を借りると毎日150キャップ掛かる。その経費を引いた上で買取している、と考えたとしてもお手軽な値段だ。経費として計上した上で買取をし

  ている場合、売却品は無料で巻き上げられるだけだからだ。モイラの善意は分かる。

  分かるけど安い価格だなー。

  この街、というか世界。物価めちゃ高い。

  50キャップ。一日分の食費だ。

  いや正確には2日分なのよ。

  ただグリン・フィスはどうやら私のモノらしいので養わなきゃいけないし。結構食費掛かるのです。あいつ強いから戦闘では役に立つけど日常では

  ただの金食い虫。無愛想だし無口だし。一緒にいるときまずくなるし。

  ……やれやれだぜー。

  ……。

  あ、あれ?

  私があいつを養ってるこの状況、つまりあいつは私のヒモ?

  ……何かムカつくなー。

  「ところでミスティ」

  「何?」

  「頼みがあるんだけど」

  「頼み?」

  サバイバルガイド絡みだろう。

  彼女の熱意は分かる。

  サバイバルガイドの作成と完成はリアルにこの世界の為になると思う。私はたまたま戦闘能力があった。だからこそこの世界で生きられた。

  でもそれはたまたまだ。

  普通穴蔵から抜け出た奴はすぐに死ぬ。

  いやまあサバイバルガイドはボルト脱走者用の教育本ではないけどさ。

  「モイラ、サバイバルガイド絡み?」

  「当然☆」

  「大した熱意よね」

  半ば呆れる。

  ここでしばらく暮らしてるから色々と話した。昼夜問わず色々と語り合った。

  モイラ頭は良いんだけど……どこか世間ズレしてる。

  それが感想だ。

  「大した熱意ですって?」

  「えっ? うん」

  「このサバイバル本が出来上がったらどうなると思うの? 強欲な商人達よりもよっぽどたくさんの命が救えるのよ。私は世界に貢献してる、違う?」

  「まあ、そうね」

  それは言える。

  オブリのオマケ本『シロディールの歩き方』ではなく『キャピタルウェイストランドの歩き方』みたいなものがあれば随分と役に立つ。

  役立つのは確かだとは思う。

  ただ……。

  「今までどうして案を温めてたわけ?」

  たくさん語り合った。

  どうもサバイバルガイドは数年前から考えていたらしい。

  モイラ、肩を竦める。

  「仕方ないじゃない」

  「仕方ない?」

  「まさか前の助手がケンタウロスにはご馳走に見えるだなんて思わなかったんだもの。ペロリと食べられるなんて予想外だったわー」

  「……」

  「助手がいないとサバイバルガイドは作れないし」

  「……」

  「ほら、私はインテリでしょ? 得意なのは何かを考え付く事とジャンク品を使える様にする事だけ。そんなにキャピタルウェイストランドの荒野に

  精通しているわけじゃないしね。外に出たら三秒で頭打ち抜かれるのがオチなわけよ」

  「……私はどうなるわけ?」

  「それは大丈夫よ。ミスティはちゃんと外の世界で振舞えるわけだから」

  「……」

  「最高の相棒よね、私達☆」

  「……」

  悪い人じゃない。

  悪い人じゃないのよモイラは。

  ただまあ自分の欲望……失礼。自分の知的好奇心に忠実な人なわけ。

  ……。

  ストレートに自分勝手な人とも言う。

  でもそこは言わない。

  言うと怖いもんっ!

  寝ている間にきっと改造されるーっ!

  言いたい事も言えないそんな世界キャピタルウェイストランド。自己表現大好きっ子の私にしてみれば生き辛いですなー。特にモイラの家では。

  ……やれやれだぜー。

  「ところでミスティ。頼みがあるんだけど」

  「何?」

  「人体が耐え得る量の放射能が知りたいの。どこかで被爆してきてくれない?」

  「絶対に嫌っ!」

  ……。

  ……こいつ怖すぎ。

 

 

  悪の巣窟……じゃない。モイラの店を出て私はモリアティの店に行く。

  50キャップを握り締めてね。

  パパ探しの情報料。

  ようやく支払えるだけ溜まった。

  確かに吹っ掛けられた時に支払えるだけの金額は持ち合わせていたものの武器修繕の費用の為に出し惜しみした。

  パパの居場所分かった→さあ行こう旅路→野垂れ死に。

  その方程式は容易に組み立てられた。

  世界は残酷に満ちている。

  武器が必要だと判断した。だから即座に支払う事を躊躇った。そして今に至る。

  ようやく貯金出来ました。

  武器も満足の行く状態(ハンティングライフルは調整不足だったけどさ)を維持出来てるし、物資に関してもそれなりに揃った。遠征するのには

  程遠いけどこの街でやっていける目処が立った。なので支払いに来たわけですよ。

  コリン・モリアティに情報料をね。

  パパの居場所を知る唯一の人物なのだ。

  ……

  ……けっ。そうじゃなかったら歯牙にも掛けないのに。

  感覚的に好きじゃないタイプだし。

  しかし状況が状況だ。

  パパの居場所を知る為に我慢して会わなきゃね。

  ……やれやれだぜー。

  「足りねぇな」

  モリアティの店の前での会話。

  第一声がそれだった。

  私の手のひらにある100キャップでは不足だとモリアティは言うのだ。

  なにぃー?

  「お金はちゃんと揃ってるわよ」

  「時は金なりだよお嬢ちゃん。100キャップは、あの時の値段だ。今の値段はその3倍ってわけだ。300キャップには見えねぇよな、それは。きっちり

  と金額を揃えてから出直してくるんだな」

  「……」

  「情報社会ってのはいいもんだよな」

  「……」

  一瞬撃ち殺そうかとも思う。

  ボルトでの脱走劇の際の監督官の理不尽な行動の際に私の感性は《ぶっとんでる》のだ。

  結構過激派です。

  場合によって始末も選択肢の1つだ。

  人殺し?

  ほほほ。甘いわね。

  だって私は善人じゃないもの。善人のような事もするけど基本的に全ての主観は自分にある。行動の概念もね。

  私は私の為に行動してるに過ぎないのだよ。

  私は天使なんかじゃない。

  「だがお前は俺の親友の娘だ」

  「……」

  誰が親友だ誰が。

  たまたま立ち寄った際の関係でしょうが。私のパパとの関係なんてさ。

  「どうだ? ここで働かないか? お前のような上玉なら簡単にキャップが稼げる……はぐぅっ!」

  「ごめん。蹴っちゃった☆」

  「ぐぅぅぅぅぅっ」

  「股間蹴ると痛い? 悪いわねー☆」

  下ネタ言う奴が悪い。

  ていうか死ね。

  私はその場に蹲るモリアティを無視して店内に入った。

  

 

  モリアティの店。

  メガトンで随一(というか唯一)の娯楽の殿堂。

  酒場兼宿屋。

  最も宿屋には連れ込み宿的な側面の方が強い。……いやまあ純粋に宿泊だけも出来るんだけどさ。

  ともかく。

  ともかくこの街では人気スポットの1つだ。

  食事は下の階層にあるお店の方がおいしいけど、私はここを贔屓にしてる。

  店主のモリアティは嫌い。

  だけど従業員のゴブとノヴァ姉さんは好き。向こうも私を気に入ってくれているらしく色々とオマケしてくれるのだ。モリアティには内緒でね。

  精神的な居心地も良いので暇を見つけては食事に来ている。

  「ハロー☆」

  店内に入る。

  時間帯が中途半端なのか客は誰もいなかった。

  赤毛の女性がお出迎え。

  「いらっしゃい。ミス・デンジャラス」

  「な、なんですかその名称は?」

  「モリアティぶっ飛ばしたでしょ」

  「なるほど」

  「やめてよねあのロクデナシ叩きのめすのは。私の笑顔が大爆笑に変わっちゃう。……あいつに、私があいつ嫌いなのばれたらどうするの?」

  「あははははっ」

  ノヴァ姉さんが微笑を浮かべながら迎えてくれる。

  酌婦であり……まあ、男性と色々する職業の人だ。私と同じ赤毛なんだけどノヴァ姉さんの方が似合ってる。大人な女性だなーと憧れてます。

  微笑を浮かべたまま私をからかう。

  「私と一晩過ごしたいなら120キャップよ?」

  「あの」

  「なあに? ハニー?」

  「100キャップしかないので、出来れば宿泊ではなく休憩料金でお願いしたいのですけど」

  「……」

  「ノヴァ姉さん?」

  「……まさか本気じゃないでしょうね?」

  「性に興味のある年頃なので本気ですけどそれが何か? ドキドキ☆」

  「……うちは女性にはサービスしてないのよ」

  「えー」

  やれやれと言いたげな顔のままノヴァ姉さんは店の奥に消えた。

  ちぇっ。残念だな。

  まあいいか。

  「よっと」

  私はカウンター席に座る。

  粗末な木の椅子。

  座り心地は悪い。堅い。お尻が痛い。ボルト101では考えられない粗悪な椅子だ。しかし生活感は感じる。ボルトでの暮らしを否定はしないけど

  今思うとあの場所での生活は、必要以上に滅菌され尽くした世界だった。生活感は今考えるとあまりない。

  ……。

  まあ、キャピタルウェイストランドは不潔過ぎるんだけどさ。

  世の中突飛な方向性しかないらしい。

  中間で良いんだけどね、中間で。

  さて。

  「ゴブ」

  バーテンに声を掛ける。

  モリアティが店を任せているのはグールの男性ゴブ。ノヴァ姉さん同様に既に顔なじみだ。

  ゴブは笑う。

  「よ、よお」

  相変わらず《いじめられっ子属性》な感じの喋り方だ。

  意味は分かる。

  グールは基本的に忌むべき存在。この街でも虐げられているのは確かだ。だからこそ顔色を窺うような態度と口調なのだ。

  「今日のお勧めは?」

  「ははは」

  「……? 何故笑う?」

  「モリアティの奴がここ最近いつにも増して不機嫌でさ。丁度人懐っこい顔が見たかったところなんだ」

  「それ私の事?」

  「そ、そうだ」

  「光栄ですわ、ジェントルマン」

  立ち上がり恭しく一礼。

  一瞬キョトンとするものの、ゴブは笑った。

  2人の笑い声が店内に響く。

  「それでゴブ、今日のお勧めは?」

  「マカロニ&チーズが手に入ったんだ。そいつとビールでどうだい?」

  「悪くないわねー」

  「よし待ってろ、今用意してやるぜ。……モリアティには内緒だぞ?」

  「はいな」

 

 

  食事を終えて私は外に。

  食事に要した時間は一時間。

  もちろん食事オンリーに使った時間ではなくゴブやノヴァ姉さん、さらには飲みに来たビリー・クリールとの雑談の時間も込みでだ。

  ビリーの《マギーって最高だぜ☆》は聞き飽きましたけどねー。

  てか紹介してくださいよ。

  相変わらず街で遭遇しても逃げられるんですけど。

  ……。

  まあ、そこはいい。

  ともかく一時間。

  当然モリアティは《股間全力で蹴り上げられちゃった☆》から復活しているものの私に絡もうとはせず嫌な顔をした。

  にっこり微笑して私は通り過ぎる。

  もしかしたらまた情報料を吊り上げられたかも知れないかも。

  「何とかなるかな」

  クレーターサイド雑貨店に戻りつつ私は呟く。

  問題はないですわ。

  この世界での振舞い方は既に分かった。レイダーには基本的人権はない。つまり連中叩き潰す→物資は私のモノ→世界も平和、という方程式

  が成り立つのだ。懐も暖まり世界平和にも貢献する。まさに一石二鳥とはこの事だ。

  稼ぎ口はある。

  吊り上げられたならその分稼げばいい。

  それは容易な事だ。

  パパには早く会いたいけど追うべき段階は心得ている。

  世界は過酷で残酷。

  何とか今は切り抜けているもののこの先も必ずしも生き残れる保証などはない。

  能力だけでは限度がある。

  だから。

  だから準備をしよう。

  パパを探す為に必要な装備を買い揃える必要があるのだ。サブマシンガンとハンティングライフルでは少し心許ない。狙撃用にライフルはその

  ままでもいいんだけどサブマシンガンではなくアサルトライフルが理想的。

  情報の為。

  装備の為。

  まずはお金稼がないとね。

  メガトンでのコミニュティは広がりつつある。絆は広がりつつある。

  ルーカス・シムズに狩るべきレイダーの情報を貰うとしよう。

  このままモイラのところに帰るのも策がない。人生設計としては、無駄かな。ルーカス・シムズに仕事を聞いてから帰るとしよう。

  その時。

  「偉大なる主」

  「うっわびっくりしたー」

  忍び寄るように黒衣の男が私の背後に現れる。

  謎の拾得物グリン・フィス。

  銀髪のインペリアル。……てかそもそもインペリアルって何?

  まあいい。

  何故か私に絶対服従する、黒衣の侍。

  「懐いてくれるのはいいんだけど偉大なる主はやめてよ」

  「しかしアークエンからはそう教わりました」

  「アーク……誰?」

  「アークエン」

  「ふーん」

  で誰だ?

  「偉大なる聞こえし者、偉大なる伝えし者、偉大なる奪いし者……役職者には全て偉大なる、を付けろと徹底されましたので」

  「ああ。そう」

  受け流す。

  余計な議論は避けたい。

  意味分からんし。

  「それで何?」

  「ルーカス・シムズが呼んでいます」

  「ルーカス・シムズが?」

  現在グリン・フィスはルーカス・シムズに頼まれて保安官助手として活動している。……私の承認を求められたけどさ、グリン・フィスに。本気で

  絶対服従のようだ。その証拠に暫定的な上司のルーカスには《偉大なる》は付けていない。

  まあいい。

  「それで?」

  「爆弾解除の工具が揃ったとのこと」

  「マジ? 了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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