私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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旅は道連れ世は情け

  彼女の旅に意味はあるのだろうか。

 

  

 

 

 

  「久し振りだな、ミスティ」

  「……」

  珍しい奴が来たもんだ。

  要塞にある応接間の1つで私は珍しい奴と再会した。OC専属スカベンジャーのケリィ。

  私はモグラ生活者時代に接した記憶はないんだけど彼もボルト101の出身者でパパの旧友だったらしい。

  お腹が出てるメタボは相変わらずなんだけど服装が違う。

  出っ腹仕様のコンバットアーマーを着てる(笑)。

  特注だろう。

  そしてその背後には少々野粗な顔つきな連中が居並んでる。傭兵かスカベンジャー仲間、かな。

  「おっほん」

  威厳を払うようにケリィが妙な咳払い。

  ああ。

  そういえば特使云々言ってたな。

  出世したから威張ってるのだろうし出世しているからこそ威厳を払いたいのだろう。

  威厳なんてないけど(笑)。

  というかデイブ共和国なんて知らないなぁ。

  他所からここまで来たサラ達BOSがデイブ共和国を知らなくてもおかしくないけど、この地に深く根付く仕置き人組織レギュレーターの元締めのソノラで

  さえ知らないらしいから本当に最近の新興国家……なのだろう、たぶん。

  「私はBOSのサラ・リオンズ。交渉の用件をお伺いします」

  「俺は今回デイブ大統領から派遣された特使のケリィ将軍である。取り引きがしたい」

  「取り引き?」

  ぷっ(笑)。

  こいつが将軍ですか?(爆笑)

  交渉は勝手に進んでます。

  私?

  私は冷やかしでいるだけだからサラの隣で笑いをこらえて聞いているだけ。

  「街道が全て封鎖された事はご存知ですな?」

  「BOSでも把握してます」

  「デイブ共和国は北にある小さな集落の集合体。自給自足が旨ではあるが必ずしもそれが毎回可能なわけではない。今まではカンタベリー・コモンズの

  キャラバン隊との交渉で何とか成り立っていたのだがエンクレイブの台頭でそれが断たれた」

  「1つ質問が」

  「何ですかな、サラ殿」

  「どうしてカンタベリー・コモンズに頼まないのですか? 地理的にここに来るよりは近いはず」

  「確かに」

  もったいぶった口調の将軍閣下。

  確かにだって(笑)。

  確かにだって口調変えても威厳まるでナッシングなのに(爆笑)。

  笑い堪えるの苦しいーっ!

  「市長のロエさんはエンクレイブを刺激したくないとの事でしてね。それでここまで来たという次第です。お宅らならエンクレイブびびらないでしょう?」

  「面白いことをおっしゃる」

  すぅぅぅぅぅぅっとサラは眼を細めた。

  その眼をしばらく眺めてからケリィは笑い出した。

  「いやすまない。慣れない将軍なんてやってると少々ハッタリとかジョークとかしてみたくなったんだ。ははは、他意はないよ。失礼も詫びる。俺は、いや俺らは

  スカベンジャー上がりなんだ。あの村、いや国を拠点に廃品回収していたのが縁で国軍にされちまったのさ。エンクレイブがいて物騒だしな」

  「それでBOSとどう関りたいの?」

  「デイブは取り引きがしたいと考えてる。理由はさっき言ったとおり食料などの物資が欲しいからだ。あんたらならエンクレイブをびびらないし、こちらが提示する

  取り引きの材料はエナジーウェポン等だ。デイブ共和国は良質の遺物をかなり抱え込んでてな。それを元手に取り引きしたいらしい。現物も持ち込んである」

  「数は?」

  「とれあえずレーザーピストルとレーザーライフルをそれぞれ30挺持ち込んだ。お宅らの科学者曰く素晴しい保存状態らしいぜ?」

  「分かったわ。父に上申しておくわ」

  「頼むぜ」

  交渉は纏まったらしい。

  というか私の発言なかったような……まあ、いいけど。

  どうせ冷やかしだし。

  「ところでミスティ。ジェームスは元気かい?」

  何気ない口調で彼は言った。

  知らない、か。

  当然ね。

  知るわけがない。

  「パパは亡くなったわ」

  「はっ?」

  「……」

  「……悪い。聞こえなかった。もう一度言ってくれ」

  「パパは亡くなったのよ」

  「ジェームスが、死んだだと?」

  「ええ」

  私は静かに頷いた。

  ケリィの様子を見ると明らかに動揺してた。

  ……。

  ……いや。動揺とかそういう生易しい状態じゃなかった。完全に取り乱してた。

  驚いた。

  パパとの関係性はそんなに強かったのだろうか?

  「あいつは良い奴だったっ! あいつは俺のダチだったっ! それが、それが死んだだと? 何でっ!」

  「エンクレイブに殺された」

  「どちくしょうがっ!」

 

  ガンっ!

 

  立ち上がって椅子を蹴飛ばした。

  完全に我を忘れてる。

  同調して私が怒るか泣くかすればいいのかもしれないけど……同調できないほどにケリィは荒れてた。逆に私がたしなめる側に回らないと。

  「ケリィ」

  「うるせぇっ!」

  「……」

  「殺ったのは誰だっ! 直接殺した奴はっ!」

  「オータム大佐よ」

  「オータムだなっ! よし決めたぞミスティ俺はそいつをぶっ殺す誰だか知らんが殺してやるっ! 将軍なんてやってられっかっ! ……お前ら、後は頼むぜっ!」

  後ろに居並ぶ部下達に叫ぶ。

  その内の1人が少々怯えたように言い返した。

  「旦那、まさかあれを起動させるつもりですか?」

  「ああ。そうだよっ!」

  「しかし今の旦那の体じゃあれは……っ!」

  「分かってるっ!」

  何だか分からないけどケリィが起動しようとしているものは体に負担が掛かるらしい。

  何だか分からないけど。

  「ミスティっ!」

  「何?」

  「俺はしがないスカベンジャーだ。兵士でも戦士でもねぇ。……だがな。戦い方はそれぞれにあるもんさ。スカベンジャーとしての戦いでオータムをぶっ飛ばすっ!」

  「……」

  「俺を仲間として信頼してくれるかっ!」

  「ええ。当然」

  「じゃあ信頼してくれ。調整には少々時間が掛かるが最終決戦には必ず行くぜっ!」

  「分かった」

  没主人公、戦いの場に立つっ!

 

 

 

  ケリィの決意。

  それはとても嬉しかった。彼が辞去した後、私は宛がわれている部屋に戻り仲間とまったり過ごしてた。

  部屋にいるのは私、グリン・フィス、ブッチ。

  アンクル・レオはまだガレージでジャンク品弄ってるみたい。

  まあ、それはいい。

  問題はグリン・フィスだ。

  「グリン・フィス、どうして落ち込んでるわけ?」

  「……いえ。別に」

  「グリン・フィス」

  「……お気遣いなく」

  やたらと気が滅入っている状態のグリン・フィス。

  何故に?

  彼がこの部屋に戻ってくるまで私はブッチと話してた。それに対してヤキモチ焼いてるのだろうか?

  うーん。

  謎。

  「ティリアス」

  「グロスさん」

  部屋に入ってきたのはグロスさん。パワーアーマーという組み合わせスレッジハンマーの女性。何か違和感あるなぁ、その装備。

  まあ別に問題はないんですけど。

  「和んでいる最中に冒険の話を持ってきたわ。聞きたい?」

  「話によりますけど」

  「ボルト87と言ったら?」

  「ボルト87っ!」

  パパが欲していたエデンの園創造キットがある場所だ。

  だけど結局場所が分からなかった。

  浄化システムはそれがなければ稼動しないらしい。エンクレイブの目的が浄化システムであった以上当然ながら稼動させたいはず。そして稼動に必要

  なモノを連中が把握しているのであればボルト87を狙うはず。

  敵の規模が大き過ぎるのでまともに対抗するのは至難の業。だからこそ敵の欲するものを先んじて入手したい。

  そうすることで敵を出し抜き、有利に立つ手段になりえる。

  だから。

  だからボルト87には連中より先に到達したい。

  問題は今まで場所が分からなかったということだけど、今それが解消された。

  「グロスさん、どこにあるのっ!」

  「落ち着いて」

  「だけど……っ!」

  「落ち着いて」

  「……分かりました」

  深呼吸。

  私が落ち着くのを見てグロスさんは言う。

  「要塞にはボルトテック本社から入手したPCのメインフレームがあるの。解析した結果、ボルト87の場所が判明したわ。もっとも正確な緯度や経緯は分かってない」

  「現地に行って手当たり次第に調べれば……」

  「無理ね」

  「無理?」

  「あの一帯は高濃度の放射能汚染地域がある。ボルト87はそのど真ん中。人の体では耐えられない。それにスーパーミュータントの巣窟」

  「だけど最初に冒険の話って言いましたよね? 何か手があるんですよね?」

  「鋭いのね。その通りよ。地下から行けばいい。リトル・ランプライトという場所からは入れるわ」

  「リトル・ランプライト?」

  「子供だけの街。ただし攻撃的な街で奴隷商人ですら撃退されてしまう場所よ。入れる方法は……」

  「ビッグタウン」

  「えっ?」

  「ビッグタウン」

  私は微笑。

  入れる術はあるかもしれない。今までの旅は無駄じゃなかった。

  私は仲間達を見る。

  「行くわよ、皆っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  キャピタル・ウェイストランドをエンクレイブが制圧した。

  この地における総司令部があるのはレイブンロック。その場にエンクレイブの総帥でありアメリカ政府の大統領ジョン・ヘンリー・エデンが座している。

  だが大統領が座すその場は基本的に手薄な状態だった。

  それには理由がある。

  現在に至るまでエンクレイブは各州を攻略、平定している。制圧完了した州の数は既に13州にも及ぶ。各州にはエンクレイブの駐留軍が進駐し改革を推し

  進めているのだが現地の平定は今だ完全ではなく進駐軍は事実上身動きが取れない状態となっている。

  BOSを遥かに超える動員兵力、BOSを遥かに超える科学力。

  その2つを兼ね揃えているものの今現在の総兵力ではアメリカ全土を統治するには程遠い状態。特に東海岸の新カリフォルニア共和国の勢力は強大で

  エンクレイブはその方面の攻略を全面的に中止して撤収作戦に切り替えている。

  つまり。

  つまり各方面の軍備はギリギリの状態。

  これ以上他の州に手を伸ばすのは時期尚早であり領土の拡大は戦線の崩壊に繋がりかねない。そういう意味合いでレイブンロックの兵力は最低限となっている。

  各方面の維持の為だ。

  最近までレイブンロックに詰めていた兵力の大半はキャピタル・ウェイストランドの制圧に動員されている。ただし他方面からの援軍はない。それは前述したとおり

  各州は援軍を出す余裕などなく、無理な援軍派兵は戦線に亀裂が生じるからだ。この地の平定に動員された戦力は現在行動している部隊のみ。

  だがそれでもキャピタル・ウェイスランドを制圧するに充分な勢力。

  ……。

  ……もっともそれは、通常ならだが。

  含みを持たすには理由がある。

  この地に置ける最高責任者は当然エデン大統領。しかし実際に軍を動かすのは3人の指揮官。

  1人はジェファーソン記念館を制圧するオータム大佐。

  1人はテンペニータワーを拠点とするクリスティーナ大佐。

  1人は現在OC包囲作戦及び敵対勢力一掃作戦を一任されているクラークソン准将。

  クラークソン准将は穏健派ではあるが、2人の大佐は互いに反目し合っていた。結果としてエンクレイブの軍は2分された状態となっており連携は皆無。

  そういう意味では不穏な状態とも言える。

  

 

  テンペニータワー。

  ここはクリスティーナ大佐の拠点であり国防総省ペンタゴン包囲網の一角。現在クリスは自分の傘下の部隊を塔に集結中であり、見所のある新人の抜擢や

  能力のある仕官を自分の派閥に引き込むことに心血を注いでいた。

  そんな彼女の気分転換は屋上から景色を眺めること。

  現在のキャピタル・ウェイストランドにはテンペニータワーより高いも高い建物、少なくともまともな形で残っている建物はここ以外にはない。

  「……」

  無言で彼女は屋上から景色を眺めていた。

  彼女の階級は大佐。

  エデン大統領のお気に入りとして若年ながら大佐にまで昇進した。将軍という階級はあくまで名誉職であり必ずしも権力は保持していない。実質的にエンクレイブに

  とっての大佐は最高位であり彼女はエンクレイブという組織全体の中でももっともエデン大統領に近い地位にいる。

  もっとも彼女の上にはオータム大佐がいるのだが。

  「……」

  無言で景色を眺める彼女に寄り添うように、それでいて邪魔にならないように待立する女性がいる。

  クリスの副官の藤華。

  階級は大尉。

  日系の仕官で本名は橘藤華。地毛は黒髪だが染めるのが唯一の趣味で今は髪を青く染めている。そんな彼女が短く呟いた。

  時に陽気、時に冷静、しかしその本質は寡黙であり合理的な理論を好む人物でもある。

  「大佐、いらっしゃいました」

  「そうか」

  ゆっくりとクリスは振り向いた。

  テンペニータワーを中心としたクリスの軍団の士官達がそこにいた。

  合計4名。

  1人はガルライン中佐。最近第8歩兵連隊とともに移籍してきた仕官。

  1人はテンペニータワー攻略を実際に成したクィンシィ少佐。

  1人はクリス専用ペルチバードの操縦を任されているニムバス大尉。

  1人はドゥコフ邸制圧をわずかな小隊で達成した若き女性仕官のリナリィ中尉。つい3日ほど前にクリスが説き伏せて自分の傘下に部隊ごと引き入れた。

  「待ってた」

  「お呼びと聞きましたが、大佐?」

  代表してガルライン中佐が口を開く。

  クリスは簡潔に命令を告げる。

  「中佐。私はしばらくタワーを離れる。総指揮を貴官に命じる」

  「……」

  大任である。

  だが中佐は躊躇った。自分の能力に自信がないという単純な理由ではなく、中佐とはいえ新参者の自分に任せるという意図に戸惑った。そもそも移籍こそし

  ているものの元々はクリスと反目し合っているオータム大佐の指揮下だった自分に対しての大任に躊躇った。

  気心も知れていない新参者の、それも対抗馬の部下だった自分に任せるとはどういう事か。それが理解できなかった。

  クリスは静かに問う。

  「異論があるのか、中佐」

  「……いえ」

  「ならば何故黙る?」

  「無礼を承知で申し上げますが……」

  「無礼と思うなら言わなくていい。これは命令である。お前にしか頼めない」

  「御意のままにっ!」

  最敬礼。

  オータム大佐とは異なり自分を信じてくれる、それがガルライン中佐の心の中にクリスティーナに対しての忠誠心を芽生えさせるには充分だった。

  「クィンシィ少佐」

  「はい、大佐」

  「テンペニータワー周辺には<反ヒューマン同盟>と名乗るグールの残党がいるのは知っているな? その掃討命令がレイブンロックから発せされていることも」

  「はい」

  「グールは次世代には連れて行けない。だが進んで排除するまでもない。現在カロン中尉を交渉に派遣した。十中八九成功するだろう。そうすれば私の戦力は

  さらに増す。だが万が一に備えて討伐部隊の編成を整えよ。そして交渉決裂の場合は少佐が掃討せよ。異論は?」

  「実戦任務とは武人の誉れですな。喜んでお受けいたしますお嬢……いえ、大佐」

  「よし。リナリティ中尉。中尉は少佐の指揮下に入れ。私自ら引き抜いただけの実力を見せて欲しい。その勇猛さを示せ。問題はあるか?」

  「お任せください閣下」

  「ニムバス大尉。ご苦労だが大尉はレイブンロックから士官を3名連れてきて欲しい。私が引き抜いた人材だ。有能な人材は可能な限りあの場所にはいない

  方がいいのだ。無駄に死なせる事はない。引き抜いた士官指揮下の部隊は勝手にこちらに来るので士官だけ先行して連れてきて欲しい」

  「御意のままに」

  それぞれが一礼し、自分達に与えられた任務に勇躍しながらこの場を後にした

  再びクリスと藤華の2人となる。

  「藤華」

  「はい」

  「ハークネスは任務に向ったか?」

  「はい。中尉は小隊を率いてリベットシティに向いました」

  「そうか」

  リベットシティは現在エンクレイブの指揮下。

  そして駐留している部隊はオータム大佐の精鋭<特戦部隊>であり当然彼の制圧下にある。

  「クラークソン准将の動きはどうなっている?」

  「OCや敵対勢力の掃討で身動きが取れない状態です。また第2、第3空挺師団はキャピタル・ウェイスランドの各方面に展開している封鎖部隊に対しての

  補給任務に専念している状態です。ただオータム大佐の第1空挺師団は今だレイブンロックからまだ動いていません」

  「後生大事に出し惜しみするか。まあ、それもいい。それはそれでやり易い。だろう?」

  「はい。自分もそう思います、大佐」

  「スケジュールの遅延は?」

  「ありません。全てはクリスティーナ大佐のシナリオ通りに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




クリスさんの暗躍が開始されました。当面の敵であるオータム大佐よりも厄介なお方(=゚ω゚)ノ
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