私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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そして連鎖は続く

  まるで感染するように続いていく。

 

 

 

 

 

  <ボルト77のあいつ>

 

  正式名称不明。

  年齢不詳。

  右手には鋼鉄と思われる物質で補強された警棒。

  左手にはボルトテック社のマスコットでもあるボルトボーイのマペットを装着し、腹話術のように会話をしている。人形発言時には人間の方の口は動かない。

  人形の名は<ユージン>でありおそらく友人を意味していると思われる。

  また人形から人間に対しての呼称は<ボーイ>。

 

  FEVウイルス感染者。

  ウイルスに致死率99パーセントで感染者は例外を除いて確実に死ぬ。効果的に投与することによりスーパーミュータントへと変異させることが可能。極稀に

  肉体を変異させることなく適応する者がおりその際には驚異的な身体能力もしくは動体視力を有する(ミスティは驚異的な動体視力を得た)。

  また適応者は特殊な能力を得ている。

  ミスティの場合は飛来物のスロー化(実際にはスローにはなっていないものの彼女の眼にはスローに映る。その際には自身だけは普通に動ける為ある意味

  でミスティは高速で動いているようなもの)でありボルト77のあいつの能力は<Bloody Mess>、攻撃を加えた相手の肉体の粉砕。

 

  以下弱点と特性。

  FEV感染者同士は能力が反発し合い、その能力が発動せず激しい頭痛に襲われる。

  またジェネラルやオーパーロードのようなFEVウイルス高濃度感染体の場合にも能力は発動しない。

  ベヒモスやマスター級のスーパーミュータントの場合には能力は発動する。

  なおリーヴァー化したウェスカーの場合は放射能汚染の産物でありFEV感染濃度は低く能力を阻害されることはない。

 

  数少ないFEV適応者であるミスティを付け狙う。

  目的は感染者の仲間を増やすこと。

  旧ボルトテック社残党からは<ボルト77>のあいつとして恐れられていた。

 

 

 

 

 

  「主。自分にお任せを」

  「異能力者同士、僕は彼女と友達になるんだ。君は眼中にないよ。でも邪魔するならそれもいい。潰してあげるよ。それが礼儀だよね、ユージン?」

  「その通りだよボーイ」

  静かに対峙するグリン・フィスとボルト77のあいつ。

  ショックソードを鞘に戻して腰を低く沈めて身構えるグリン・フィス。右手にある補強された警棒を高々と掲げてニコニコ笑う、あいつ。

  私はその様を見る。

  私だけじゃない。

  アンクル・レオもユニオンテンプルの面々も、そして1人生き残ったクローバーも遠巻きに2人の対峙を見ている。

  パラダイスフォールズ中庭で新たな局面。

  突如現れたボルト77のあいつ。

  目的はどうやら私らしい。

  私をどうしたいのか?

  それは分からない。

  能力者同士で仲間を増やしたいだけかもしれない。

  ただ、あいつと仲間になる謂われはない。

  仲間になるつもりもない。

  問題はあいつの能力。

  FEVウイルス感染者は特殊能力を持っている。しかし能力者同士の場合、能力を発動させようとする反発し合う。激しい頭痛。そして能力は無効化される。

  能力が相殺されると私は弱体化する。いやまあそれ以前に頭痛で戦うどころではない。

  もっとも……。

  「グリン・フィス」

  「主。手出し無用です」

  あらら。

  釘刺されちゃった。

  私が能力を発動したらボルト77のあいつも頭痛で引っくり返る。つまり能力者は2人で組めば実際問題敵ではない。

  だけど釘を刺された。

  私に絶対服従だけど武人としての誇りがあるからグリン・フィスはわりと意地を張る。

  こりゃ最後まで彼に任せるしかない。

  「グリン・ティス、参る」

  「来なよ、サムライマン」

 

  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

 

  言葉と同時に2人は地を蹴って前に詰めた。

  そして武器と武器を交差させる。

  激しい応酬。

  最初に交差した一撃で私は警棒を斬ったと思った。シシケハブの時とは違い今の武器はショックソード。オータムのテスラすら斬った武器だ。

  なのに斬れない。

  何度も激しい応酬を繰り返している。

  どうやら鋼鉄ではないようだ。材質が何かは知らないけどかなり補強されているのは確かだ。

  「駄目よ」

  「ふん」

  私は振り返らずに制止した。

  自動小銃の照準をボルト77のあいつに定めたシモーネは舌打ちして銃を下ろす。

  邪魔は出来ない。

  これは2人だけの決闘だ。

  「そらそらぁーっ!」

  ボルト77のあいつの乱打をグリン・フィスはショックソードで受け流す。

  白兵戦の能力はグリン・フィスが上だろう。

  剣の腕は巧緻の一言に尽きる。

  ただボルト77のあいつも修羅場を潜り抜けているらしく戦闘のスキルは恐ろしく高い。どういう能力かは知らないけどあいつも私同様に能力者。動体視力や

  身体能力が異能の力で強化されているからかグリン・フィスと対等に渡り合っている。いやそれ以上かもしれない。

  刃を交える度にグリン・フィスの体が揺れる。

  どうやら奴の腕力はかなりのものらしい。

  「……」

  腕力では負けると思ったのかグリン・フィスは軽やかなステップで後退。

  間合いを取る気だ。

  「ボーイ、追いかけっこだよ、君が鬼さ」

  「じゃああいつを捕まえたら勝ちだねユージンっ!」

  追撃するボルト77のあいつ。

  こんな時まで腹話術とは随分余裕あるな、あいつ。

  何か意味あるのかな、あれ。

  宗教的な何か?

  それとも頭のネジがぶっ飛んでる?

  何となく後者な気もする。

  「逃がさないぞぉーっ!」

  「死ね」

  冷たい一言。

  そして、冷たく死に満ちた銃弾が飛び出す。

  32口径ピストル。

  グリン・フィスの銃。彼は基本的にショックソードを帯びている。誰が見ても白兵戦に特化したように見える。しかし正確には彼はそのように<見せている>。

  実際には銃を帯びている。

  隠し持てるサイズに限られるので32口径だけど人を殺すには充分な威力。

  彼は軽やかに後退しつつ全弾発射。

  普通ならこれでお終い。

  普通なら。

  「あまーいっ!」

  「ちっ」

  ボルト77のあいつ、全て回避。

  多分私のように弾丸が見えるのだろう。銃弾飛び交う乱戦ならともかく単独での銃撃なら回避される。奴には通じない。少なくとも単発銃では無理だ。

  奴は迫る。

  グリン・フィスはさらに後退。

  「ちょっと、本当に手を貸さなくていいの?」

  詰るように言うシモーネを黙殺。

  グリン・フィスは転がっている奴隷商人の死体を飛び越え、着地。そしてそのまま死体を奴に向って蹴り飛ばした。

  ……。

  ……どんな脚力してんだ、グリン・フィス。

  傍から見てると楽そうだけど実際にはとんでもない力がいる。それをやってのけるんだから大概あいつも人類規格外。

  死体はボルト77のあいつに向かって飛んでいく。

  ニヤリと奴は笑った。

  そして左手の警棒を一閃。死体を払い除ける。

  瞬間……。

 

  ボンっ!

 

  死体が爆ぜた。

  まるで数個のグレネードを仕込んだかのように死体はバラバラに消し飛んだ。大量の血液と肉片が周囲に飛び散る。

  初めて見たけどこれが奴の能力かっ!

  物騒な力だ。

  だがグリン・フィスは怯まない。

  まるで死体が爆ぜることを予想していたかのようにまっすぐと奴に挑みかかる。

  爆ぜた瞬間には前に出ていた。

  「斬っ!」

  「あまーいっ!」

  必殺の一閃を高く跳躍して回避。デタラメな跳躍力で避けた後、警棒を手にグリン・フィスに襲い掛かる。

  脳天を割る気だ。

  ……。

  ……正確には脳天を爆発させるつもり、かな。

  FEVウイルスによる身体能力の強化具合は私以上だ。少なくとも私は普通の女性より強い程度で腕力や体力はさほどではない。どちらかというと私は

  動体視力が特化されているけどボルト77のあいつは私とは逆に身体能力が大幅に強化されているようだ。

  まあ、私にしても奴にしても、強化ではなく変異なんだろうけど。

  グリン・フィスは前に詰める。

  ボルト77のあいつは何もない空間に降り立った。

  そして……。

 

  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

 

  互いに同時に振り返って武器を交差。

  だが……。

  「言ってるだろ、あまーいっ!」

  蹴りがグリン・フィスに入る……いや、グリン・フィスは蹴りが当たる瞬間に自ら後ろに転がった。

  この判断は正しいのかもしれない。

  奴の能力が触れた対象の爆破みたいなものだとしたら蹴りだろうが当たれば致命的になる。というか爆発しちゃうわけだから致命的では済まない。即死だ。

  即座に立ちあがってグリン・フィスは猛攻。

  執拗に攻撃を繰り返す。

  その猛攻を警棒で防ぐボルト77のあいつ。

 

  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

 

  凄いな。

  あのグリン・フィスと対等に渡り合ってる。

  ただボルト77のあいつにしてもグリン・フィスは片手間で相手できる相手ではない。蹴りは出来ない。グリン・フィスの猛攻に耐えている最中に蹴りなんてしたら

  体勢が不安定になって隙を見せることになるからだ。それに奴には弱点もある。人形してるから右手は使えない。左手で防ぐしかない。

  対してグリン・フィスは両手でショックソードを持って切り結んでいる。

  土壇場の力は彼が上だ。

  グリン・フィスは執拗に斬りかかる。

  狙いは左手。

  武器を持つ手だ。

  誰が見ても分かるし誰だってそうするだろう。左手を落とせばグリン・フィスの勝ちだし奴もそれが分かっているから次第に顔から笑みが消えた。

 

  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

 

  警棒で受け止める。

  グリン・フィスはそのまま力を込めて押し斬ろうとする。

  力と力の押し合い。

  だけど純然な力は奴の方が上だ。

  奴は笑う。

  グリン・フィスも笑い返す。

  グリン・フィスは右手を柄から離して左腰に伸ばす。帯びている鞘を掴むとそのまま奴の腹に叩きつけた。体を崩す。

  瞬間、鞘を捨てて剣を握りなおして上に切り上げた。

  宙に舞うボルト人形。

  グリン・フィスが狙っていたのは武器を持った左手ではなかった。

  最初から人形の方か。

  何故狙っていたのかは分からない。

  何らかの直感があった?

  そうかもしれない。

  「ユージンっ! ユージンっ! ユージンっ!」

  ボルト77のあいつは叫んだ。

  狂ったように。

  武器を捨てて顔を拭う。

  泣いている。

  まるで親を失った幼子のように。

  戦意が消えていた。

  「ユージンっ! ユージンっ! ユージンっ!」

  大量の出血。

  それでも動じないようにボルト77のあいつは右手に……いや、マペットの名を呼びながら走り寄ろうとする。

  グリン・フィスの横を通り過ぎようとした瞬間、ピカッと何かが光った。

 

  ドサ。

 

  転がる上半身と下半身。

  グリン・フィスは容赦などしない。もちろん立場が逆だったとしても、ボルト77のあいつも同じことをしただろう。

  別に責めたりはしない。

  否定もしない。

  斬って捨てた彼に対して批判もしなければ文句もない。

  戦いなのだから仕方ない。

  もっとも大抵はそこである程度心が動かされるのだけど……グリン・フィスは表情1つ変えない。戦闘に関しては彼は常にドライに処置する。

  頼もしい味方だ。

  少なくとも敵にはしたくはない。

 

  ズリズリ。

 

  上半身だけになりながらもボルト77のあいつは死んではいない。

  這いずりながらマペットに近付く。

  「ユージン、寂しいよぉ」

  そう一言呟いた。

  そしてそのまま動かなくなる。

  地面には赤い染みが急速に広がっていく。

  血の海の中で奴は果てた。

  「ご苦労様」

  「ありがとうございます」

  労う。

  グリン・フィスの処置は何一つ間違っていない。

  ハンニバルは眉を潜めているけど戦いは洒落ではない。勝てる時に徹底的に勝っておきたいところだ。

  仲間を守りたいなら。

  さて最後の障害もついに潰えた。

  少なくとも現状ここにいる敵は最早残すところただ1人だけとなった。

  私は改めてクローバを見る。

  多分彼女は元奴隷。

  ……。

  ……いや。

  爆弾首輪をクリムゾン同様今だ付けられたままだから奴隷なのかもしれない。

  愛人であり用心棒。

  そして奴隷。

  いずれにしても彼女に選択権はなかったはずだ。

  それは容易に想像出来る。

  望む望まぬ関係なく今の生き方をするしかなかった、それは分かる。もちろん彼女がしてきたであろう悪事は相殺されないのが世の中の非情さ。

  悪人には違いない。

  殺す?

  それは彼女の出方次第だ。

  私としても別に殺したいわけではないし痛めつけたいわけではない。しかし後々「ユーロジーの仇っ!」とか騒がれて付け狙われるのは困る。

  さてさてどうしたものか。

  「あっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」

  「……?」

  突然狂ったようにクローバーが笑い出した。

  発狂した?

  ユーロジーやクリムゾン、仲間達が全滅したのが彼女をおかしくした?

  彼女は笑い続ける。

  ただただ笑う。

  楽しそうに。

  「何が楽しいの?」

  「ユーロジーが死んだぁっ!」

  おや?

  風向きが変わった。

  彼女は別にユーロジーの死を悼んではない。気が狂ったのでないとしたら彼女は心底喜んでいるということになる。

  何が楽しいのだろう?

  聞いてみる。

  「正気よね?」

  「正気よ、正気じゃなくちゃ駄目よこれはっ!」

  「……?」

  意味が分からない。

  彼女は続ける。

  「ユーロジーは死んだ、クリムゾンも死んだ、全部死んだぁっ! 残ったのは私だけだっ! そうよここにある財産は全部私のものよっ! ぜーんぶっ!」

  「ああ」

  なるほどね。

  確かに死人はキャップも使えなければお酒も飲めない。

  「私のものよぉーっ!」

  くるくると舞いながら彼女は笑い続ける。ハンニバルとシモーネは顔を見合わせた。彼女をどうするか判断できないのだろう。

  まあいいさ。

  遺産で喜んでいるのであれば勝手に喜べばいい。

  親玉の仇として狙われなければそれでいい。

  クローバは笑いながら豪邸に入った。

  正気?

  狂気に足を踏み込んでいる気もするけど好きにすればいいさ。

  「ハンニバル。解放した人とともに撤退した方がいいわ。それも早急に」

  「ミスティ、何故急ぐ? 奴隷商人は……」

  「全滅したわ。パラダイスフォールズは完全に壊滅。ここにいなかった残党は多分まだウェイストランドを徘徊していると思うけど問題は奴隷商人じゃないわ」

  「あの娘か?」

  「いやクローバーでもない。まあ、ちょっと危ない領域に踏み込んでるけど問題はそこじゃない。エンクレイブよ」

  「ここに来ると思うのか?」

  「分からないけどここにいた奴らを蹴散らした。追討部隊が派遣されるかもしれない」

  「それは確かに面倒だな」

  「でしょ?」

  「しかしこれだけの大所帯だ。リンカーン記念館に戻るのは不可能だ」

  「確かに」

  これだけの数だ。

  必ずエンクレイブに捕捉されるだろう。

  例え追討部隊が出ていようがいまいがエンクレイブに監視網に捕捉される。

  ならば。

  「ランプライト洞穴に向って」

  「ランプライト洞穴?」

 

  「行ったってムンゴなんか入れないぞ」

 

  おやおや戦いが終わったら勇ましいことで。

  どこから出てきたスティッキー?

  「マクレディ市長はよそ者は入れないよ。それはミスティだって知ってるだろ? ミスティだけは例外だったんだから無理だよ」

  「私が頼めば街はともかくとして洞穴には入れるでしょ?」

  「無理だよ」

  「大丈夫よ。ハンニバル達はランプライトの生き方に干渉しない。人柄は保証するわ。奴隷商人の仲間じゃないってのは分かるでしょ?」

  「それはー……」

  スティッキーはハンニバルをまじまじと見る。

  そして頷いた。

  ランプライト洞穴の子供を高値で売る為に奴隷商人達は共謀してパラダイスフォールズを滅ぼしたというシナリオには無理がある。マクレディ市長も私が

  説けば分かってくれるだろう。まあ仲良しにはならないだろうけど双方非干渉ぐらいには持っていけるはず。

  それにハンニバル達は永遠にランプライト洞穴にいるわけではない。

  あくまで旅の安全が確保されるまでの間の滞在だ。

  期間?

  出来るだけ早くには実現させたいな。

  エンクレイブをウェイストランドから追い出してやる。

  さて。

  「ハンニバル、パラダイスフォールズにある物資を手早く必要なだけ回収したら出発して。あの女王様が怒り出す前にね」

  私は豪邸を見ながら呟く。

  クローバはここに居座るつもりはないだろうと私は見ている。

  エンクレイブが来る可能性があるし奴隷商人の残党が戻ってくる可能性だってある。クローバーの口振りからすれば財産が欲しいのであってユーロジーの

  地位が欲しいわけではあるまい。めぼしい物をかっさらって逃げるはずだ。

  「主」

  「何?」

  「あれは使えませんか?」

  グリン・フィスは屋上にあるジェットヘリを指差す。

  ピットで見た機体だ。

  ただ私は使えないと思った。

  直感です。

  使えるのであれば今回の戦闘で使ってたはず。航空兵力はこちらを圧倒出来る代物なのだから使わないのはおかしい。

  故障してる?

  そうかもしれない。

  何しろピットで散々銃撃したからね。

  もちろん調べる価値はある。

 

 

 

  調べる価値はあった。

  豪邸の屋上にあったジェットヘリは応急的な修理である程度は飛べる。修理方法はボルト101のシュミレーション学習である程度は分かる。

  部品もある。

  工具もある。

  そしてやり方も知っている。

  修理できない道理はなかった。

  2時間ほどで何とかなった。

  操縦方法もある程度は分かる。ただ学習したものより機体の型が古いから若干心配はあるけど……まあ大丈夫だろ。

  屋上に上がるには豪邸に入る必要があったけどクローバーは宝石の類を掻き集めるのに忙しく私達なんて眼中にない模様。

  まあ楽で良いけど。

  「乗って」

  私はマクレディ市長に頼まれた子供3人を搭乗させる。奴隷商人とドンパチやったという実績を持つ私には警戒心を持っていないようで素直に言うことを聞いてくれる。

  グリン・フィスも搭乗、ちゃっかりスティッキーも搭乗。

  だけど……。

  「ここでお別れだ、ミスティ」

  「アンクル・レオ」

  彼は乗れない。

  でか過ぎる。

  搭乗したら確実に重量オーバーで墜落する。いやそもそも飛べないだろう。

  私は手を出す。

  「少しの間お別れね、アンクル・レオ。助けてくれてありがとう」

  「よせ。友達だから当たり前だ」

  「全部終わったら戦いとかなしでどこかに遠出しましょ、友達集めて冒険しましょう」

  「それいいな。楽しそうだ」

  グリン・フィスもアンクル・レオには思うところがあるのだろう、微笑して目礼した。

  しばしの別れだ。

  「さあ行くわよっ!」

  ジェットヘリは大空を舞うっ!

 

 

 

 

 

  3時間後。

  パラダイスフォールズ。

  奴隷商人達の楽園は既に廃墟と化していた。しばらく前までいたユニオンテンプルの戦士達もミスティの提案に乗ってランプライト洞穴へと

  移動しておりこの場には誰も残っていない。

  ……。

  ……いや。

  1人だけいる。

  「これでよしっと」

  クローバーだ。

  パラダイスフォールズのボスだったユーロジー・ジョーンズの愛人であり用心棒。ただしその全身は首輪が示すとおり奴隷。それ故にミスティにより見逃された。

  行ってきた悪事を考えると抹殺が妥当ではあるもののミスティは温情を示した。

  だからハンニバルもシモーネも手が出せなかった。

  処刑できなかった。

  クローバは掻き集めた宝石や酒精の類、武器や弾薬、キャップの詰まった木箱をトラックの荷台に載せる。このトラックは奴隷運搬用のものでガレージにあっ

  たのをクローバーが中庭まで乗りつけた。ユニオンテンプルは車両の有無には気が付かなかったようだ。

  「全部私のものよ全部っ!」

  クローバーはまるで狂った追い剥ぎの如く、嬉々としてめぼしい代物を荷台に載せる。

  彼女にはミスティへの報復の意思などなかった。

  そもそもユーロジーに対しての情愛などなく、あくまで奴隷商人達の上位に立つ為の道具としか見ていなかった。事実、愛人であった時分は奴隷商人達を命令

  出来る立場ではあったもののそれはもう終わった。

  過去の話だ。

  「退職金は貰っておかないとね」

  クローバーは笑った。

  次第のその笑い声は高くなる。

  ユーロジーが奴隷売買で蓄えた資産は全て自分の手の中に転がってきた。

  笑うしかなかった。

  赤毛絡みで大分散財はしたもののそれでもユーロジーの遺産は人生3回分はある。

  ひとしきり笑い終えた後、クローバーはふと視線を移す。

  ボルトスーツに包んだ死体。

  それは通称<ボルト77のあいつ>と呼ばれた男の遺体だった。

  見たのは今回が初めてではあるもののクローバーはこの男の子とは知っていた。キャピタル・ウェイストランドでは誰もが知る御伽噺の悪魔的な人物。

  クローバーも子供の頃は恐怖したものだった。

  「こんな奴がね」

  鼻で笑う。

  そしてボルトボーイのマペット人形を手に取り試みに装着した。

  「やあ、こんにちは」

  遊んでみたものの馬鹿馬鹿しくて笑う。

  そろそろ行こうかとクローバーは考えた。奴隷商人の残党が戻って来たら厄介だしエンクレイブの増援が万が一にも来たらさらに厄介だ。

  クローバーは組織に興味はなかった。

  人生3回分の遺産を手にしたのだからあとは悠々と暮らすだけだ。

  モハビ・ウェイストランドにはカジノがあるらしい。

  足を伸ばしてみようかと考える。

  キャップはあるのだ。

  有り余るほどに。

  「……?」

  ふと違和感を感じた。

  手だ。

  手に嵌めたマペットだ。

  「あ、あれ?」

  取れない。

  まるで吸い付くようにフィットしている。

  焦る。

  焦るほどのことではないと顔では笑うものの内心では焦っていた。マペットが勝手にこちらを見たのだ。クローバーは腕を動かしていないのに。

  そしてマペットは口を開いた。

  「やあ初めまして。僕はユージン。君の友人だよ。さあ新しい伝説の為に僕らの旅を始めようか、ガール」

  「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 

 

 

  そして連鎖は続く。

  悪夢の連鎖。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




補足(=゚ω゚)ノ

ボルト77のあいつ。
ゲーム中では全面核戦争前後の人間で本編開始時では生きてるわけがない人です。それはうちの小説でも同じで、彼はマペットに寄生されてる別人です。寄生先を取り替えては彷徨ってるわけです。

マペットの正体。
次作NVに出てくる科学の墓場ビッグエンプティで作られた、マペット型の機械です。実験の意味合いでボルト77にありました。
なおこの後の展開よりNV見越しての地名や用語とかが作中に出てきたりします。

マペットの名前。
ユージン、つまりは友人です。

結局どうなった?
クローバーを新たな寄生先にしました。

クロスオーバー。
設定的にはメタルマックス系ですな。マペットマン・ジョー、リモコン反太郎もマペット及びリモコンを通じてノアに操られてて、その流れを踏襲する形です。

以上説明終わり(=゚ω゚)ノ


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