私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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ボルト87〜静寂〜

 

 

 

 

  静寂。

  その先にはあるものは……。

 

 

 

 

 

  ボルト87。

  フォークス曰く聖域。

  教授がいる研究区画に私たちは足を踏み入れた。

  私の武装はレギュレーターの刻印入り44マグナムが2丁、弾丸は充分にある。

  デズモンドはグレネードランチャー装着のアサルトライフル、弾倉が2、グレネード弾が1個。自前の9㎜ピストル。

  フォークスに関しては無手。

  まあ、スーパーミュータントは怪力だから問題ないだろう。

  ……。

  ……たぶん(汗)

  何しろデズモンドがアサルトライフルを貸したがらないんだから仕方ない。いやまあ私のなんだけど。

  「ここは何だ」

  デズモンドが呟く。

  私たちが到達した場所、そこは円形の部屋。

  かなり広い。

  そして何もない。

  部屋の中心の床には星条旗が描かれていた。かなり劣化しててかすれてるけど星条旗がある。

  ここが終着点ってわけではなさそうだ。

  扉がある。

  研究区画と紹介されたものの、ただの広い部屋だ。

  先に研究室があるのだろうか。

  そして私が目指すモノも。

  「おい、教授はどこだ? 奥にいるのか?」

 

  「ここにいるよ。デズモンド・ロックハート。200年振りじゃないか。私の古い醜い友人殿」

 

  奴だ。

  ヒャッハーどもをけし掛けた、白衣を着た長い黒髪の男がそこにいた。

  「よう教授。わざわざお出ましとは痛み入るぜ」

  「奥は私の研究室だ。荒らされては困るのでね。出向いた次第だ」

  冷ややかな目。

  両手をポケットに入れたまま扉から現れた。

  手下はいない。

  能力者もスーパーミュータントも。

  ジェネラルも。

  誰もいない。

  私とデズモンドは同時に銃口を奴に向けるものの動じない。フォークスにも一瞥を向けただけで表情はまるで変わらない。

  まるで仮面のようだ。

  眼中に入らないと言いたげに語りだす。

  「ここはボルト87の監督官を始めとする幹部クラスたちの会議室だった場所だ。私が来たときには円卓があった。今はないけどね。ここで連中はボルトの運営方針を話し合ってい

  たのだろう。FEV実験はここと西海岸のマリポサ基地のみで行われていた。競争だよ、互いに競い合っていた。スーパーソルジャーの実験だよ」

  「……」

  何言いだしたんだ、こいつ。

  デズモンドと視線が合う。彼にも教授の講釈の意味が分からないらしい。

  私にも当然わからない。

  何だ、この余裕。

  「西海岸では陸軍兵士を実験体として使っていた。元々の身体能力の高さが研究を成功させると信じたからだ。ここではボルト87居住者を実験体として使っていた。抑圧され、従順

  化されたボルト居住者を使うことで命令に忠実な超兵士にすることを目的としていた。そして成功した。西海岸は独立性のある知性を持ち、ここは忠実で馬鹿なものに成り果てた」

  「興味深いけど」

 

  チャ。

 

  改めて奴の頭に照準を向ける。

  2丁のマグナム。

  奴をザクロのようにしてやることは常に可能。

  引き金を引くだけ。

  実に簡単だ。

  「興味深いけど、あなたは何がしたいわけ?」

  「ここの管理者たちは自滅した。いつかは知らんがね。来たときには廃墟だった。空き家だったから私が引き継いだ。元からいたスーパーミュータントどもはワシントンDCの廃墟に進出していた。何故

  かは分からん。もしかしたら刷り込まれていたDC防衛という役目を果たしていたのかもしれん。ともかくここは空だった。私は人をさらい、改造し、増やした」

  「……」

  こいつ私が言った意味が分かってるのか?

  話が脱線してる。

  完全に。

  「進出していた連中を手駒にするために私はジェネラルという新しい種を作った。そしてそいつの頭に遠隔操作の装置を埋め込み、思念波で操った。連中を傘下にした後は

  簡単だった。容易に増やせるようになった。廃墟の連中はそこに留めた。BOSの遊び相手としてな。連中を引き付けている間に他の方面で人間狩りを続けた」

  「教授」

  「ザ・マスターと同じ過ちをするつもりはなかった。連中に知性などいらん。私の計画は完ぺきだった。西海岸の連中がこの地に干渉してくることは分かってた。地元の英雄になりた

  がったのはいささか予想外だったが修正可能範囲だった。エンクレイブの到来も予期してた。私は、十分な兵力を確保できる……はずだった。だが予想外が起きた」

  「教授、悪いけど……」

  「予想外はお前だよ、赤毛の冒険者。まさかお前がここまで化けるとは思ってなかった。私の計画は失敗した。タイムスケジュールが合わなくなった。エンクレイブにもう勝てない」

  「そりゃどうも」

  「最初にDCの廃墟でお前に会ったときに確実に殺しておくべきだった。誤算だな」

  「で? どうする?」

  「どうもしないさ。私は失敗した。今回のデータを持って別に移る。この地にはもう用がない」

 

  バリバリバリ。

 

  「もう用がないのは、俺だよ、教授っ!」

  アサルトライフルを乱射。

  教授の体がまるで舞うように踊り、そしてズザザザザーと床を滑りながら転がった。そして動かない。

  弾倉一本まるまる使ったデズモンドの掃射。

  容赦ない。

  デズモンドはまるで遊園地に来た子供のように笑顔を見せた。

  「奴は死んだ。厄介払いだ」

  「随分と呆気なかったわね」

 

  「では期待を裏切るとしよう」

 

  「……っ!」

  教授が立ち上がった!

  悠々と。

  デズモンドは急いで最後の弾倉を装填する。奴の攻撃に備えるためだ。攻撃手段があるようには見えないけど……少なくともデズモンドと同世代でこの若さは普通じゃない。

  何らかの改造を施している可能性は否定できない。

  不意打ちに備える。

  「この程度では私は死なないよ」

  「化け物がぁっ!」

  「グールの君に言われたくはないな、古い醜い友人殿」

  「いっけぇーっ!」

 

  どくん。

  どくん。

  どくん。

 

  周囲がスローになる。

  鼓動が脈打つ音がリアルに響く。二丁のマグナムの引き金を連続で引く。

  そして時間が元の流れで動き出す。

  瞬間、吐き出されたすべての弾丸が奴の体に叩き込まれた。

  さっきの衝撃の比じゃない。

  アサルトライフルを叩き込まれた時とは違い、教授の体は宙を舞って後ろに吹っ飛んだ。

  やったか?

  ……。

  ……普通はこれで終わりなんだけど……奴は油断できない。

  人間ではない?

  そうね。

  何しろ200年前の奴だ。

  人間じゃない。

  空の薬莢を捨てて弾丸を装填する。

  「……すげぇな。赤毛さんよ」

  「ミスティ。プロフェッサーの体を見ろ」

  体?

  フォークスに促されて倒れている教授の体を見る。撃たれた部分の白衣は当然裂け、皮膚が露出している。弾丸は貫通していなかった。皮膚で弾かれたらしい。

  だけど皮膚の一部が衝撃で剥がれてる。

  あれは金属?

  ははあん。

  そういうことか。

  「教授。あなたはアンドロイドってわけか」

  「脳だけ移植している。正確には人間だよ。入れ物を機械にしただけだ」

  なるほど。

  余裕の理由はこれか。

  マグナム叩き込まれてもまるで動じない。武器はないようだけど防御力はめちゃくちゃ高い。

  ……。

  ……あー、訂正。

  あれだけ硬いんだ。白兵戦でその真価を発揮するかな。

  近付かれたら粉砕されかねない。

  撃たれた部分の人工皮膚の一部が剥がれているけどダメージを受けたようには見えない。弾丸さえあればいいんだけど……弾丸も銃の種類も限定される。

  正直ちと面倒かも。

  ただ戦闘云々は置いとくとして、デズモンドはこの状況を楽しんでいるらしい。

  妙な奴だ。

  「おーおー教授さんよ。かつてはメリーランド州を仕切ってた奴が今じゃ鉄屑の体かよ。世の中ってのは面白いもんだな」

  「相変わらず下品な奴だ」

  「そろそろこの関係性も飽きてきたな。ええ? どう思う? まあ、あれだ。刺客とか追いかけっこも飽きた。そろそろ別の人生をエンジョイしたいのさ、俺はよ」

  「奇遇だね。私もお前を見飽きた」

  「私も見飽きた、なんだそのお上品な言葉遣いは。見た目に合わせて気品漂わしてるってか?」

  はぁ。

  めんどい。

  めんどいです、こいつら。

  餓鬼の喧嘩か。

 

  ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。ドン。

 

  12連射っ!

  弾丸全て奴に叩き込む。

  弾けるように吹っ飛んだ。効いているかは不明だけど。

  薬莢を捨てて素早く装填。

  構えたまま、仰向けに倒れている教授を見据える。

  デズモンドが非難。

  「おいっ! もう少しで言い負かせたんだぞっ!」

  「……子供の喧嘩なの?」

  「ちっ。あと少しだったんだ」

  「はあ」

  ブツブツと呟くデズモンド。

  めんどい。

  めんどいです、こいつら。

  「まあいい。さよならだ、教授」

  仰向けに倒れている教授の胸を踏みつけ、アサルトライフルの銃口を頭部に向ける。

  そして……。

 

  バリバリバリ。

 

  長い掃射音を立てて連続で叩き込む。

  教授の本体は脳。

  まあ、生命維持の役目のある体を破壊すれば死ぬわけだけど、脳を叩き潰せば確実に死ぬ。

 

  ぶわ。

 

  その時、デズモンドの体が宙を舞った。

  「調子に乗るな、グール」

  足首を掴んで投げたのだろう。

  鈍い音を立てて落下するデズモンド。しかしすぐさま9㎜ピストルを引き抜いて連射する。

  「お前の始末は後でしてやる。大人しくしておけ」

  あの掃射を食らったんだ、ただで済むわけがない。教授の顔は完全に皮膚がなくなっていた。

  金属の顔。

  どこのターミネーターだお前は。

  よほど固い骨格らしい。

  9㎜では全く歯が断たないだろう。

  事実微動だにしない。

  落下した際に足を痛めたのかデズモンドは這いつくばったまま攻撃を繰り返している。

  「まずはお前だ、赤毛」

  「光栄ね」

  「お前さえいなければタイムスケジュールが狂わずに済んだんだ。しかし、興味深くもある。お前の能力が面白くてね、FEVを使って能力者を作り出した。しかし

  同じにならない。全員自我がなくなって獣になる。能力の使い方も知らん愚かな奴らだった。強いとは思わなかっただろう? だからお前がほしい」

  「セクハラは嫌いなのよ」

  引き金を……。

 

  バキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

 

  「……っ!」

  一瞬息が出来なくなる。

  肋骨いったかも。

  奴が素早く私の懐に飛び込んできた。そして私の腹部に強烈なパンチを叩き込んできた。その結果、着込んでいたコンバットアーマーが砕けた。

  こいつ半端ないっ!

  「ふむ。強過ぎたか。加減が難しいな」

  「ミスティっ!」

  私の名前を叫びながら教授に飛びかかるフォークス。

  「ああ。いたのか、まだ。存在を忘れていたよ、出来そこない」

  「ぐふぅ」

  肉薄した次の瞬間にはフォークスはその場に膝をついていた。

  「ふむ。今度は弱過ぎたか。まあいい。お前に用はない。赤毛、私はお前に用があるのだ」

  「私にはないっ!」

  一発頭に叩き込む。

  仰け反っただけ。

  それだけ。

  ちっ。

  テスラみたくまったく手ごたえがないわけではないけど……それでも固い。

  「殺しはせんよ。お前の遺伝子解析がしたいだけだ」

  「私が許可すると思う?」

  「思わんが許可など必要ないだろ」

  ゆっくりと。

  ゆっくりとあいつは私に向かって歩いてくる。

  舐めやがって。

  44マグナムを全弾頭に叩き込む。

  生命維持に必要な部分が胴体のどこにあるか分からない以上、頭を狙うしかない。アンドロイドは構成しているものが違うだけど作りそのものは人体を踏襲しているらしい。

  前にハークネス絡みで聞いたことがある。奴のボディが戦前のものか連邦のものかは知らないけど、脳は頭部に収まっていると私は見ている。

  教授のハンドメイドで実は脳が胴体に収納されてあった場合はアウトだけど。

  「くっそ」

 

  カチ。

 

  全部撃ち尽くした。

  奴は私に迫る。

  まずいっ!

 

  「でかいの、こいつを使えっ! ぶちかませっ!」

  「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

  ガンっ!

 

  鈍い音を立てて、教授はその場に膝をついた。

  コンバットショットガンで背後からフォークスが殴ったのだ。一時的とはいえ動きを止める教授。

  その隙にフォークス銃口を頭に向ける。

  銃声。

  銃声。

  銃声。

  何度も何度もゼロ距離で発射される弾丸。

  やがて弾丸は尽き、フォークスは銃を下した。教授の体はその場に倒れている。もう動かない。

  「あぱよ、教授」

  デズモンドが吐き捨てた。

  私はゆっくりと息を吐く。安堵からだ。

  教授の体には頭がついていなかった。ようやく奴は活動を停止したのだ。

  「フォークス、ありがとう」

  「無事でよかった」

  「それにしてもデズモンド君? 弾はないんじゃなかったの?」

  「あんたが馬鹿正直なだけさ。俺の方が普通だよ、世間的にな。あんたは嫌いじゃないが信用してたってわけじゃないのさ。まあ、悪かったよ。あんたは人が良過ぎるんだ」

  「ふぅ」

  敵を欺くには味方からってか?

  まあいいや。

  教授は死んだ。

  これでスーパーミュータントの製造者はこの世からいなくなった。

  この施設に静寂が訪れたってわけだ。

 

  「ほお? まさかここでまた会えるとはな。確保しろ、赤毛の冒険者だけ。あとはいらん、殺せ」

 

  完全武装の兵士たちが部屋になだれ込んでくる。

  エンクレイブ。

  そして指揮しているのは……。

  「オータム大佐っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




わざわざ秘密の本拠地にミスティさんを拉致るオータム大佐(=゚ω゚)ノ
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