私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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第三勢力

 

  介入者が現れる。

  第三勢力。

 

 

 

 

 

  エンクレイブの構築した第二防衛線突破。

  リバティプライムはエネルギー切れで沈黙したものの、幸いなことに向こうのデカブツも沈黙した。

  デカブツ?

  どこから調達したかは知らないけど、スーパーミュータント・ベヒモスだ。

  それも2体。

  エンクレイブがボルト87を占領しているのかもしれないけど、あの場所にベヒモスがいるとは思えない。

  まあ、教授が協力してるー、ということはないだろ。

  死んだし。

  そもそもボルト87での教授との会話を思い出す限り、仮に生きてても手を組むことはあり得ない。教授は教授でエンクレイプを意識し、敵対意識を燃やし、

  スーパーミュータントを軍団化し、対抗しようとしていた。手を組むことはあり得ない。

  となるとキャピタル・ウェイストランドを徘徊していたベヒモスを捕獲したのかな?

  前にライリー・レンジャーに聞いたところベヒモスは5体いるらしい。

  ベヒモスはでかい。

  まともに戦えば脅威だ。

  もっとも。

  もっとも打ち止めに近いけどさ。

  GNR前で1体。

  ワシントンDC残骸の街で1体。

  そして今回2体。

  残りは1体だけど、既に死んでるのか、まだキャピタル・ウェイストランドを徘徊しているかは謎。

  残る防衛線はいくつ?

  いずれにせよ私たちは進むだけだ。

  「サラ、敵さんが本気出してきたわよ」

  「攻撃開始っ!」

 

 

 

 

 

  その頃。

  テンペニータワー。内部。5階の通路。

 

  通路を歩く者。

  クリスティーナとガルライン中佐。

  中佐はワイヤレスの無線機で何かの応対をしている。

  「了解した。……閣下」

  「どうした?」

  止まらずに問うクリス。

  「赤毛の冒険者は第二防衛線を突破。ベヒモス2体を排除したようです」

  「ほう?」

  「リバティプライムは機能停止。赤毛の冒険者は第三防衛線に到達、現在交戦中です」

  「ふむ」

  「閣下。お聞きしてもよいでしょうか」

  「何だ」

  「閣下は赤毛の冒険者が勝つ、とお思いなのですか?」

  「態度に出てたか?」

  立ち止まらずにクリスは微笑。

  当然背後に続くガルラインにはその微笑は見えない。

  「兵力的にオータムの方が上だ。まず、奴が勝つだろうな。しかしミスティが勝つよ。……ふふふ、矛盾だな」

  「何故、勝つと?」

  「各地の偵察と、まあ、流れというやつで私はキャピタル・ウェイストランドを彼女と旅した。彼女はイライラするほどにお人好しだったよ。原住民など放っておけと言っても

  律儀に救い続けた。途中から面白いとは思ってたがね。私は計算高いがミスティは天然だよ。ふふふ」

  「閣下?」

  「ミスティは繋がりを作るのが上手い。まあ、意識してやってはいないのだろうがね。……いくら緻密に計算しても、私ではあの人間関係は築けないだろうな」

  「つまり赤毛は原住民を組織するのが上手いということですか?」

  「そうではない」

  自分以外には分からないだろうなとクリスは思った。

  もちろんそれは口にしていない。

  旅は楽しかった。

  最初はキャラ作りして付き合っていたが、途中からは素だった。

  感傷を振り切るようにクリスは言う。

  淡々と。

  「オータムとミスティ、どちらが人を引き付けるか、それがこの戦いの結末の決定的な差だと私は思う。彼女の旅が無駄でなかったとしたら……勝てんだろうな、オータムでは」

  「無駄な時は……」

  「問題あるまい。どちらが残ろうとも、いずれにしても私が勝つ。それだけだ。異論はあるまい?」

  「御意」

 

 

 

 

 

  同時刻。

  ジェファーソン記念館。浄化システムルーム。

 

  浄化システム。

  ジェームスが考案、構築したシステム。

  従来の浄水システムの十分の一以下のコストで抑えられる。その為、オータムは配下の科学者たちに命じてデータを引き出すべく躍起になっている。

  白衣の科学者たちが計器を弄繰り回すさまをオータムは見ていた。

  「オータム大佐」

  「どうした、サーヴィス少佐」

  「赤毛の冒険者が率いる軍勢が第三防衛線に到達しました。現在交戦が開始されました。当方の被害軽微。我が軍優勢で展開しています」

  「増援を送れ。一気に叩く」

  「了解しました」

 

 

 

 

 

  「こんのぉーっ!」

  「攻撃続行。私に続けっ!」

  激しい銃撃戦が展開。

  第一、第二はあくまで露払い程度だったのかもしれない。

  そうね。

  オータムはそもそもこちらを消耗させる為だけに第一、第二を展開させていた感がある。正確にはリバティプライムを投入することを想定し、そして想定することに

  よってリバティプライムのエネルギーを消耗させようとしていたのだろう。考えてみたら投入していた兵力も絶対的ではなかった。

  ふぅん。

  戦略家のようだ。

  オータムはエンクレイブの実力者で、エデン大統領の腹心(土壇場で裏切ったけど)、ただの経歴馬鹿ではなく実力はあるのだろう。

  そして……。

  「ちっ」

  私は遮蔽物に身を隠してエンクレイブの攻撃を防ぐ。

  数人が弾け飛ぶように倒れた。

  犠牲者は続出。

  エンクレイプの第三防衛線は強固。そして攻撃的。

  敵は旧世紀の古びた交差点に展開している。そのど真ん中に大規模なトーチカーを構築している。配置しているエンクレイプ兵は100名ほど。

  数はこちらが多い。

  6倍はいる。

  当然こちらの方が有利……かと言えばそうでもない。

  多数のミニガンを向こうは準備しているので鉛玉の量は向こうが圧倒的だ。ミサイルランチャーの類も使用してくる。

  攻撃は激しい。

  近付くことはおろか身を乗り出して銃も撃てしやしない。

  向かう先はトーチカーの先。

  その左右の道路にはエンクレイブがしたのか以前に誰かがしたのかは知らないけど大量の車の残骸が積み重なっている。

  進むにはここを突破するしかない。

  戻れば道がある?

  なかったなぁ。

  脇道程度はあるかもしれないけど……うーん、どうしたもんか。

  旧世紀の崩壊した都市の往来での戦闘。

  隠れれる場所はたくさんある。残骸と化したビルに入るなり崩れた壁に身を隠すなりと遮蔽物はたくさんある。ひとたび隠れればミニガンの殺人的な量の銃弾だろうが

  ミサイルランチャーません例だろうが耐えられるけど攻撃の手段もない。身を乗り出したら即死だからだ。

  そしてこちらは数が多過ぎる。

  中途半端に体を露出しただけで死にかねない。

  だからサラはそれを考慮して命じた。

  「グロス、後退させてっ!」

  「了解しましたっ!」

  サラが一部の部隊を後退させる。

  こちらの方が大規模な部隊を率いている、向こうが撃てば必ず当たる。隠れれる場所は限られてるし、ひしめいていては的でしかない。

  一部後退。

  とはいえ、これでは何の意味もない。

  犠牲は少なくできたけどいずれにしても前進もできない。

  遮蔽物に隠れながら各々が銃だけ出して一斉射撃しているけど防御が完全に整っている向こうには何の意味もない。そもそも銃だけ露出での攻撃だから狙いも曖昧だ。

  まず当たらない。

  そしてかなりの確率で銃身が敵さんの銃弾に弾かれて仲間はひっくり返る。

  やばいな、この状況。

  エンクレイブの攻撃は有効でもこちらの攻撃が届かない。

  向こうは無効。

  なんちって♪

  ……。

  ……うにゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!

  精神的に追い詰められてます。

  おおぅ。

  「グリン・フィス、無理に撃つ必要はないわ。弾丸の無駄よ」

  「御意」

  「どうしたもんかな」

  「斬り込みましょうか?」

  「さすがに無理よ。私でもあんなの全部避けれない」

  私の能力。

  視界に入る限りは銃弾はスローになる。というか周囲には私が加速的に動いてるように見えるらしい。

  この能力は自動的に発動する。

  銃弾云々抜きに周囲をスローにする能力は任意だけどさ。

  いずれにしてもマトリックス的な動きをしたとしても全部は避けれない。毎分何百発も飛んできてるだろうさ、さすがに全部は無理だ。

  グリン・フィスの脅威的な身体能力でも無理。

  遮蔽物から飛び出しても1メートルも向こうには行けない。

  「ミスティ。どうする?」

  「はぁ。サラにはどうしたらいいと思う?」

  彼女は肩を竦めた。

  「良い案があれば聞かないわ」

  「ですよねー」

  「爆撃機でもピザ屋にデリバリーしたらどうかしらね。Lサイズでアンチョビ乗せてさ。ミスティはどう思う?」

  「……現実逃避し過ぎじゃんか……」

  「仕方ないじゃない。状況は最悪よ」

  「そうね」

  敵さんは防御が絶対的。

  隠れてる場所から出ようものならミニガンの嵐。どんだけ用意してるのかは知らないけど30ぐらいのミニガンで撃ってきてる。

  攻守完璧。

  エンクレイブ部隊は100程度で、数は大したことはない。

  問題は兵の種類だ。

  全員パワーアーマーです(泣)

  BOS曰く「うちのより二世代は上」で、オータム曰く「四から五世代は上」らしい。いずれにしてもBOSより堅く、BOSより機能的なのは確かだ。

  問題はそれだけじゃない。

  私たちは短期決戦で挑んでる。

  長期化はまずい。

  何故なら、あくまでエンクレイブの混乱に乗じているからだ。

  混乱が沈静化したら。

  つまり他の方面のエンクレイブ部隊がこちらに対して攻撃を開始したら到底勝ち目がない。

  もちろんあのまま要塞にこもってたら確実に負けてた。

  だから決戦を挑んだ。

  ジェファーソン記念館を奪還することでキャピタル・ウェイストランドのエンクレイブ部隊の一角を崩し、有利に立とうとしてた。

  長期戦はまずい。

  「案はあるわ」

  「さすがはミスティね。それで?」

  「私とグリン・フィス、それと少し兵貸して。脇道を探してここを迂回するわ」

  「迂回? それでも向こうの数は圧倒的よ」

  「綻びを作る。その為にライリーやブッチたちを別行動させたんだし」

  「少数で崩せる陣営じゃないわっ!」

  ライリー・レンジャー、ブッチ達、ヘリ組はこの先に展開しているタロン社を引っ掻き回す為に別行動させた。

  私たちが攻撃した際にタロン社を内部から崩壊させる為の布石。

  今頃は内部に入り込んでいるはず。

  少々予定が異なるけど少数の部隊を率いて攻撃しようと思う。もちろんそれで勝てるとは思ってないし思い上がってもない。連中を引っ掻き回したいのだよ、私は。

  特に第四防衛線を受け持っているのはエンクレイブではなくタロン社というのがミソですね。

  カールが大佐となって仕切ってるらしいけど、あの虚栄心の強い野郎なら状況次第では……逃げるだろうね。保身も強いし。見切りつけて逃げるはず。

  いずれにしても付け入る隙はある。

  ……。

  ……ちなみにレギュレーターの動きは不明。

  完全に謎。

  先行して配置に付いているみたいだけど……うーん、独立軍過ぎてソノラたちの動向は分かりません。

  第四か第五あたりの部隊に喧嘩売るのだろうさ、今のところ音沙汰なしだし。

  全く動かずに終わることはあるまいよ。

  たぶん(汗)

  「サラ、ここは任せるわ。私は先に行く」

  「ミスティっ!」

  「ここで足止め受けてる場合じゃないわ。崩せないしにしても、揺さ振りはかけられる。考えなしに動く気はないわ」

  「だけど……っ!」

  「議論は無用よ。ここは任せる。兵は適当に連れて行くわ。行きましょう、グリン・フィス」

  「御意」

 

  「敵、増援っ!」

 

  誰かが叫んだ。

  私とサラは口論をやめて戦線を見る。

  「ちっ」

  舌打ち。

  エンクレイブに増援到着。

  アーマー組ではなく軍服組だけどあれがトチーカーに籠りながら攻撃してきたら完全にここに固定されてしまう。

  数にして増援は100。

  タロン社ではなくエンクレイブ部隊。

  嫌だなぁ。

  練度は圧倒的にエンクレイブの方が高い。

  ただ……。

  「これで連中の後方の部隊は手薄になったわ。でしょ?」

  「……気休め程度にね」

  「絡むわね」

  「仕方ないじゃない。状況は最悪よ」

  そこで会話は途切れる。

  いや。

  正確には聞き取れないどの銃撃音が響いた。

  激しい轟音。

  そりゃそうか。

  撃つ銃の数が単純計算で100増えたわけだし。

  まずいな。

  まずいですよ、これは。

  圧倒的な鉛玉でこちらを完全に釘付けにしてる。今は不在みたいだけど、ベルチバードがやってきたらあっさり全滅してしまう。いやそれ以前に背後から別の部隊が

  攻撃してきたら、挟撃されてもアウト。確かリベットシティに駐留部隊がいるみたいだし、そいつらが来たらアウトだ。

  ジェファーソン記念館とリベットシティは目と鼻の先。

  まずいな。

  まずいですよ、これは。

 

  ギィィィィィィィンっ!

 

  「主、あれを」

  グリン・フィスが指差す方向。それはエンクレイブの側面に位置していた廃車の山。

  それが軋むような音を立てて揺れている。

  ぐらぐらと。

  そして……。

 

  ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!

 

  廃車の山が轟音を立てて崩れた。

  私たちも、エンクレイブ側も突然の崩壊音に一瞬戦闘を忘れる。

  戦闘はその一瞬で覆ることになった。

  先ほどまで存在していた廃車の山の向こう側にはひしめくように大部隊が存在していた。そしてその大部隊から決定的な、絶対的な銃弾の嵐がエンクレイブを襲う。

  側面からの攻撃は予測していなかったのだろう、バタバタと倒れていく。

  パワーアーマーと言えど完全な防弾ではない。

  BOSの二世代上だろうと激しい弾幕の前には成す術もなく倒れるしかなかった。

  新たに現われたのはレイダー然とした軍団。

  別行動を取っていたレギュレーター、というわけではなかった。

  エンクレイプはもちろんこちらもこの新手は想定していない。突然の第三勢力の登場にエンクレイブ第三防衛線は呆気なく陥落した。

  登場から数分の間の出来事。

  ……。

  ……まあ、ラッキー、かな。

  敵の敵は敵?

  そうは思わない。

  私は知ってる。

  この軍勢を。

  「何、こいつら?」

  「攻撃しないで、いいわねっ!」

  サラの問いに答える形で私は軍団に攻撃しないように叫ぶ。BOSは知らないけど他の面々は私に素直だ。まあ、BOSもサラの命令なければ動かんだろ。

  私はこの軍勢を知っている。

  一見するとレイダー。

  しかしその実態はそこらを徘徊しているレイダーとは異なる。

  完全に軍としての統率が出来ている、軍団だ。

  キャピタル・ウェイストランドではまずお目にかからないタイプのアサルトライフルを装備したレイダーたち。

  以前あれはボス専用の武器だったようだけど、見た感じ全員が装備している。

  インフェルトレイター。

  廃車の山を崩したのはブルドーザー。ある意味で戦車ですね。

  その戦車に乗っているのはパワーアーマーを着た黒人。そして戦車の周囲には数名のパワーアーマー、コンバットアーマーの戦士たち。

  200、いや、300近くいる?

  大部隊だ。

  「ミスティ、誰なの、こいつら」

  「ピット軍よ」

  「ピット……ピッツバーグの奴隷王がここに来たの? 何しに? 敵ってわけじゃなさそうだけど……」

  「アッシャー」

  私は手を振ると彼は鷹揚そうに笑った。

  ワーナールートだとこうはならなかったわけだから私の決断は正しかったわけですね。

  まあ、あれはワーナーじゃなくてジャンダース・ブランケットで、その背後にいたのはパラダイスフォールズだったわけですけど。

  しかしどうしてアッシャーは軍を繰り出したんだろ?

  わざわざ関係ないこの地に。

  というかどうやってエンクレイブ襲来を知ったのか謎。

  その時、パワーアーマーの1人がヘルメットを外して叫ぶ。

  部下を引き連れてこちらに駆け寄ってきた。

 

  「ボスっ!」

 

  声を掛けてきたのはアカハナだった。その後ろには9名の部下。私の部隊だ。ミスティ組。

  部下たちの武装はコンバットアーマー。

  ただアカハナはパワーアーマーを着用していた。

  BOSカラーのアーマー。

  どっから調達したんだろ。

  古巣の武装……いや、アカハナはアウトキャスト組だったから柄が違うか。塗り直したのか、ああ、それか天罰の際に遺棄されたBOSアーマーがあってそれを改修したのかな。

  「今まで何してたのっ!」

  思わず声を荒げてしまう。

  駄目だ。

  感動的にはいかないものです。

  「無事でよかった」

  幾分か声を和らげる。

  グリン・フィスも柔らかな笑みを浮かべて彼らに目礼、アカハナを始めとするミスティチームも嬉しそうな顔をした。

  そういえば仲良かったな、彼ら。

  「生きてて嬉しいけど、経緯を教えて。どうしていなくなったの?」

  「すいませんボス。記念館前を警備していたらエンクレイプに攻撃されまして。リベットシティのセキュリティ部隊は真っ先に逃亡し、我々は踏み止まったのですが全員重軽傷で

  結局は脱出を。その後酷いヤブ医者の元で療養を……いえ、それは置いときましょう。治った時、この地は完全に抑えられてました」

  「どうして今まで音信不通だったのよ、心配したわ」

  「すぐに合流するつもりだったんです。しかし我々が合流したところで展開は覆せないと思い、それでピットに帰還を……」

  「そこからは私が話そう」

  アッシャーが割って入る。

  アカハナ達は一礼、一歩下がる。

  「お前の部下たちがピットに戻り、私に事態を告げたのだ。お前には借りがある。そしてそれ以上に、お前はピットのファミリーだ。助けるべきだと判断した。お前の部下はまさに

  鑑だな。その忠誠心は俺も感服した。それもまた、援軍を出そうとしたきっかけの一つだよ」

  「わざわざ軍を率いて遠征してくれたのはありがたいけど……」

  「ん? 何か問題があるのか?」

  「ピット全員で来る必要は、その、ありがたいけど、街はどうするのよ?」

  見た感じピット軍は300以上はいる。

  確か私がいた時の正規軍は100ちょっとだった。全国民は何人かは知らないけど、今ここにいる兵士は200人以上だから……ほぼピットは空だ。

  サンドラいないし全員引率ってわけじゃないだろ。

  まあ、戦場にマリー連れてくるわけないし女子供のみはピット残留?

  私の問いにアッシャーは笑った。

  「発展したんだよ」

  「発展?」

  「ミスティのやり方が当たったんだ。待遇改善ってやつだ。投資は掛かったが、その分市民は懐いた。そして旅人が訪れ、暮らす者が増えた。観光案内に載ったのかもな」

  そう言って彼は楽しそうに笑った。

  観光案内云々は私がピットを去る際に彼に言った言葉だ。

  「アッシャー」

  「何かな?」

  「つまりここにいるのは全部正規軍で、これだけ率いてもピットにも守備軍がいるってことよね? さらに言うなら、兵士より住民の方が多いわけよね?」

  「総兵力は500、住民は1200。まあ、私のちょっとした手腕の賜物だな。お蔭で税収も上がったから投資の元も取れたよ。はっはっはっ」

  「……自慢オツです」

  「お前の名も使ったがな」

  「私の?」

  「赤毛の冒険者の名はピット近辺にも鳴り響いている。お前が私の腹心だと宣伝したらたちまち国民が増えたよ」

  「名前の使用料を請求するわよ?」

  「ははは」

  発展し過ぎだろ、ピット。

  まあ向こうは工業都市の残骸の上に成り立っている。そしてその残骸はかつての意味を取り戻している。

  製鉄で成り立つ都市ピット。

  もっと言うなら銃火器生産できる強みもあるんだろうな。

  強国の素質は大です。

  

  「アッシャーだ。イスマイル・アッシャーだぞ、あいつ」

  「生きてたのか」

  「エルダー・リオンズに忠義を立てるために戻ってきたのか」

 

  BOSの面々はこそこそと話し合っている。

  全員が全員アッシャーを知っているわけではないだろうけどさ。顔見知りであろう者たちは囁き合っている。

  アッシャーは鼻で笑った。

  「屑どもが」

  まあ、そうでしょうね。

  戦死扱いで放置されたわけですし。

  遺体の捜索?

  多分しなかったんじゃないのかなぁ。

  人が住めない地獄のような場所という認識だったみたいだから押し込み強盗した後にとっとと撤退したんだろ、BOS。

  私はBOS信者ないのでどうでもよいですけど。

  サラは好きだけど組織そのものを別にリスペクトしているわけではないのです。

  さて。

  「お前たちBOSの世間知らずどもに言っておくぞっ! 俺はBOSが大嫌いだ。天罰だと? 自分自身それに参加し、かつてはそれが正しいと思った。しかしそんなものはただの思い上

  がりだ。お前らはただ楽をしただけだ。それを天罰などと大層な言葉を使って誤魔化しているだけだ。あんなものはただの略奪だ。この薄汚いレイダーどもめっ!」

  『……っ!』

  ざわり。

  空気が一気に凍りつく。

  一触即発。

  まあ、あくまでBOSだけであって私のレイダー軍団は無反応。

  ライリーが招集した傭兵たちも特に何の反応もない。

  あんまりサラには言いたくはないけど、キャピタル・ウェイストランドの住民たちはBOS自身が思っているほど尊敬されているわけではなかったりする。

  言わんけどさ。

  「何なのよこいつっ! 喧嘩売りに来たのっ! ミスティ、こいつ撃っていいのよねっ!」

  サラは叫ぶ。

  サラ自身は天罰世代ではないのかな?

  そもそも天罰がいつなのか私も知らんし。

  まあいいや。

  「随分な挨拶ね、ピットの王殿?」

  微笑を浮かべて私は言う。

  色めきだつサラを止める形で彼女の前に立った。

  「BOSに宣戦布告に来ちゃったわけ?」

  「それはそれで楽しそうだな。エンクレイブを倒し、BOSを屈服させ、この地をピットの属領にするのも、悪くない。そして我が名は王としてさらに轟くだろう」

  「あらら」

  「ははは。なんてな」

  満足そうに豪快に笑うアッシャー。

  愉快そうだ。

  その笑みに毒はない。

  「お前がいなければ、それもいい。ははは。だがお前を敵にするのはいささか怖い。ここはお前の味方をした方がよさそうだ。何しろ、お前はとことん敵に祟るからな?」

  「何よそれ」

  「王に従うピットの戦士たちよっ!」

 

  バッ。

 

  アッシャーは両手を大きく掲げ、宣言する。

  ちょっと芝居掛かってるかな。

  「これよりピット軍はミスティを援護するっ! ……勘違いするなよ、BOSども。俺たちが共闘するのはBOSではなく、ミスティに対してだっ!」

  「ありがとう」

  「例には及ばんさ。お前はファミリーだ。それに我々はミスティに借りがある。今度は我々が助ける番だっ!」

 

 

 

 

 

 

  同時刻。

  ジェファーソン記念館。浄化システムルーム。

 

  「第三防衛線が全滅した?」

  「はい。現在赤毛の軍勢は進行中です。第四防衛線到達まで15分と言ったところでしょうか」

  「馬鹿な」

  「ピットの軍勢が第三勢力、いえ、赤毛の軍勢として合流したようです」

  「ピット……ビッツバーグの連中が何故ここにいる?」

  「赤毛、ピットの合同軍は推定1000以上です。こちらより上回っております。また、銃火器の質もかなり高いらしくタロン社では止められない可能性が高いかと思われます」

  「……」

  「閣下」

  「カールに命令しろ。第四防衛線を死守しろとな。が支援の必要はない。タロン社にやらせろ。連中は所詮消耗品だ」

  「時間稼ぎですか?」

  「そうだ。システムさえ解析できればここに用はない。必要であるならば記念館ごと吹き飛ばしてやる。が、まだその時ではない。リベットシティに駐留している部隊を呼び寄せろ」

  「まさか、あの部隊を投入なさるのですか?」

  「ヘルファイヤー部隊に挟撃させる。私の育て上げた、最強の部隊で捻り潰してやるっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




決戦の役者は揃いつつ。しかし現状クリス派エンクレイブは高みの見物状態で、各方面軍も動く気配なしなのです(=゚ω゚)ノ
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