私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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I Don't Want to Set the World on Fire

 

  世界は変わる。

  今ここで。

 

 

 

 

 

  キャピタル・ウェイストランド全域に流れた陽気な声。

  ギャラクシーニュースラジオ。

 

  『いやっほぉーっ!』

  『俺はスリードッグだ。こちらはキャピタル・ウェイストランド解放放送、ギャラクシーニュースラジオだっ!』

  『現在要塞の特設ステージからお送りしているぜ』

  『音質が悪かったりするのはBOSの器材がみみっちぃ所為だが俺は別に何とも思っていないから文句を言っちゃあ駄目だぜ?』

 

  『リスナーの皆、朗報だぜっ!』

  『ジェファーソン記念館の奪還が成功したとの報告が入った。詳しい詳細は分からないが、俺たちウェイストランド人の勝ちだっ!』

  『戦った皆に感謝しなきゃだな、ありがとうだぜ、戦士たちっ!』

 

  『エンクレイブの再来とかは、今は言わないぜ。何たってめでたい日だからな』

  『ただこのままじゃ終わらないだろうな。いや戦いとかじゃなくて、今後の俺たちのことさ。そう、キャピタル・ウェイストランドの将来の話だ』

  『エデンは嫌いだったが奴の言葉で気に入っているのがあるんだ』

  『民主主義の基本は投票権では、なかったかな? ……ははは。似てたか? そう、投票権だっ!』

  『まあ、この状況だ』

  『投票が可能かどうかと言えば、まあ、難しいな。そのあたりの整備も必要だ。しかし指導者は必要だよな? 俺たちをよりよく纏めるためにもな』

  『さて問おう。リスナーの諸君なら誰を入れる?』

  『特例的に最初の一期だけは赤毛の冒険者……いやいや、俺は中立だぜ? 今のは失言だ。おっと、エルダー・リオンズがやってきたようだ』

  『爺さんの話は長いからな。ここで一丁曲を流そうっ!』

  『曲はI Don't Want to Set the World on Fire』

 

 

 

  I Don't Want to Set the World on Fire。

  それは旧世紀の歌。

  歌詞の内容。

 

  「僕は世界に火をつけたいわけじゃないんだ」

  「ただ、君の心に火をつけたいだけ」

  「僕の心にあるたった一つの願い」

  「それは君、他の人じゃダメなんだ」

  「世界中から喝采を浴びたいなんて望みはない」

  「ただ君の愛する人になりたい」

  「そして君も同じ気持ちだと言ってくれるなら、ずっと夢見ていた願いがかなうんだ、本当だよ」

  「僕は世界に火をつけたいわけじゃないんだ」

 

  赤毛の冒険者。

  名をティリアス、愛称はミスティ。

  彼女は決して英雄になりたかったわけでもなければ世界を救いたかったわけでもない。

  ただ、ボルト101を脱走した父親を追い続けていた。

  彼女の願いは父親と再会すること。

  それだけ。

  それだけだった。

  その結果、父親はエンクレイブの襲来で命を落とし、その娘である赤毛の冒険者もまた、エンクレイブからこの地を救って命を落とした。

  決して英雄になりたいわけではなかった。

  彼女は報われたのだろうか?

 

 

 

  ギャラクシーニュースラジオから音楽が流れ続ける。

  この時代、生まれる音楽は存在しない。

  全て昔の歌。

 

  ウェイストランドには旧世紀のブルースというという言い回しがある。

  過去を執着する者には現在が見えず、まして未来が見通せるわけがない、という。

  人々は在りし日の名残を見続けていた。

  BOS、エンクレイブ、そしてウェイストランドの人々も。

  目をくたびれてちらつくパイロットランプのようにして過去の残骸を見続けていた。

  その間にも世界は彼らの周りで現実を営み続けているというのに。

  だが世界は未来へと向けて、ゆっくりと、着実に進んでいる。

  

  エンクレイブとの戦いの後、旧世紀のブルースは別の意味で使われるようになった。

  かつて哀愁の、郷愁の表れと見られていたキャピタル・ウェイストランドは未来への萌芽の象徴となったのだ。

  新世界への希望が芽生えた。

  そして希望はキャピタル・ウェイストランドの新たなる指針となったのだ。

 

 

 

  ジェファーソン記念館。

  エンクレイブ敗退。

  沸き立つキャピタル・ウェイストランドの軍勢、そしてピット軍。

  彼ら彼女らは知らなかった。

  自分たちが変わってきたことを。

  いや。

  全てのウェイストランド人も同じだった。

  以前は否定していた感情を、今はまるで当たり前のように肯定しているということを。

  赤毛の冒険者。

  彼女の足跡が全てを変えたのだ。

 

  かつて、自分を育てるために人類の明日に背を向けた父ジェームス。

  その父の足跡を追うため、ボルト101を飛び出した一人の旅人がいた。

 

  キャピタル・ウェイストランドは悪の温床だった。

  レイダー。

  奴隷商人。

  タロン社。

  スーパーミュータント。

  悪ではないものの決して善人ともいえないBOS、レギュレーター、そして小さな利益を守り続けるために他者を否定し、関係を拒絶してきたウェイストランド人。

 

  荒れた大地と荒んだ心が支配している不毛の地で、多くの人々が悪に屈していく中、赤毛の冒険者は歩み続けた。

  彼女は語りかけ、戦い、その足は止まることはなかった。

  父の教えは彼女の中に息づいていた。

  勇気。

  愛。

  仲間。

  その気高き心がウェイストランドの人々を導いた。

 

  そして、長い旅の果てに、辿り着いた答え。

  勇気の持つ真の意味。

  それは犠牲。

  己の身を、汚染された制御室に投じ、かつて父がそうしたように人類の明日の為にその身を捧げた。

 

  選ばれし者として多くの命を奪うことを赤毛の冒険者は拒んだ。

  人々の過ちを許し、絶やすことのないように、命の水が流れ始める。

  邪悪な大統領の野望に彼女は屈しなかったのだ。

  全ての人類の為に、誰にも奪われることのない美しい水が、不毛の大地を救った。

 

  ボルト101を飛び出した赤毛の冒険者の、一つの旅が今終わり、歴史に綴られた。

  生き残りを賭けた終わりなき戦い。

  正しい選択と同時に、人は過ちを繰り返す。

  だがそれでも人類が歩みを止めることはない。歩き続ける。

  赤毛の冒険者のように。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  キャピタル・ウェイストランド上空。オータム大佐専用のベルチバード。

  交信される無線通信。

 

  『今回の一件、報告は既に私の手元にも来ている。良くやってくれた、サーヴィス君』

  「ありがとうございます」

  『他の者たちからは危惧も出ているが……オータム大佐の件は大丈夫なのかね? 人選に問題があると報告も受けているが……』

  「彼は我々に好意的です。この人選なくして先には進めません」

  『君がそういうならそれもいいだろう。次の作戦はいつ……』

  「機は熟しています。今しかありません。Operation EDENの実行を提案します」

  『……』

  「おそらくクリスティーナ・エデンを大統領に据えてくるでしょう。対抗するためにはこちらも動くしかありません。今が好機なのです」

  『実行を許可しよう』

  「ありがとうございます、大統領」

  

 

 

 

 

 

 

  ※今回次作のOld World Bluesのエンディングも流用しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




完結(=゚ω゚)ノ

後腐れもなく、伏線全て解決しましたな。
次回は補足及び説明回です(=゚ω゚)ノ
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