私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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見えない悪魔

 

  人は未知の事象を恐れる。

  それは無意識に刻まれた原初の記憶。

 

 

 

 

 

  ブラックホール邸。夜。

  2階、廊下。

  「じゃあミスティ、また明日。……気をつけてね」

  「ええ。そっちこそ」

  サラはそう言って宛がわれた部屋に入った。気をつけてね発言、この屋敷の爺さんに対してだ。まあ、不意打ちはしてこないだろ。殺す気なら収容所で殺せたし。

  廊下には私とグリン・フィスがいるだけ。

  オリンと彼女は同室。

  与えられた部屋は2人用で、マクグロウとポールソンは同室、私はグリン・フィスと同室だ。まあ、グリン・フィスは男性だけど心配してない。妙なことをするタイプではない。

  そのあたりは安心だ。

  妙なこと?

  まあ、エロいこと。

  「主」

  「何?」

  「今夜は頑張っちゃうぞ」

  「死ね」

  「……最近辛辣な返しですね。そ、その、ユーモアです」

  「どうだか」

  気の置けない仲間とはいいものだ。

  思えば付き合い長いな。

  感傷的になるけど不思議な旅をしてきたと思います、私。それに妙に濃いし。

  さてさて。

  「グリン・フィス、どう思う? ここの爺さん」

  ブラックホール邸の親玉の顔を思い出す。

  晩餐の際に妙な咳をしてたしあの車椅子、歳だけではなく何らかの病に蝕まれているように見えた。頬が痩せてたし。先が長くないのかな?

  「ここの主人、ですか?」

  「うん」

  「敵です」

  「あー、それは満場一致で私もそう思う」

  探し物だか知らないけどスワンプフォークけし掛けてきたんだ、敵以外の何物でもない。

  グール探しの一環?

  はっ、そんなの知ったことか。

  理不尽に命を狙われたには変わりない。

  敵だ。

  「本絡みことでの思惑に関しては、私見ですが、ただの奪還ではないと思われます。何かに執着しているように見えました。あれは水辺で溺れる者の目です。あくまで例としての言葉ですが」

  「溺れる者、ね」

  そう。

  私もそう思ってた。なかなかうまい例だ。

  水の中でもがき、必死に生き延びようとしている、そんな感じに見えた。瞳には生への執着が見えた。

  見た感じ、全体的に死の影に包まれていた老人だったけど、目だけは死んでなかった。執着心。それはおそらく生に対しての。

  もちろん生の対しての執着は生き物の本質だ。

  ただ、家宝の奪還の際にあの目をする意味が分からない。

  「まさかあの爺さん、魔力を信じてるのかな?」

  思わず呟く。

  だとしたらあの爺さんも大概オカルトマニアだ。

  この世界には不思議が充ちているにしても私はわざわざオカルトには関わりたくない。というかこの件に首を突っ込まなくてはならない状況が信じられない。

  やれやれだ。

  「主にもお聞きしたく」

  「何?」

  「あの市長はどう思いますか?」

  「詐欺師」

  即答。

 

  「やあ旅の人。……そいつは聞き捨てならないが、まあ、胡散臭いのは認めるよ。それだけのことはしたしな」

 

  背後から声。

  ソドムの市長バルトだ。

  グリン・フィスは近付いているのに気付いて今の発言なんだろうけど私はまったく気付かなかった。

  「忍び足だなんて悪趣味」

  「ふん。陰口は悪徳だと思うがね」

  「発信機は美徳?」

  「はあ。よそうや。今のところ、同じ陣営にいる。いやいや同じライン上にいる。明日は本番だぜ、余計は喧嘩はよそう。だろ?」

  「アンクル・レオやシーの居場所は追跡できてるの?」

  「お友達の居場所かい? 残念ながら光点はなくなってる。……つまり、追跡装置の画面上には光が全くない。皆気付いて外したんだろ、たぶんな」

  「追跡できてないってこと?」

  「まあ、そうだ。だが俺だって頑張ってるんだ。だろ?」

  「さてね」

  曖昧に答えると彼は苦笑して脇を通って部屋に消えた。

  私は肩を竦める。

  「とりあえず明日に備えましょう。私たちも寝ようか」

  「御意。初夜ですね」

  「死ね」

  「も、もちろんユーモアです」

  「どうだか」

  「あ、あの本当です」

  「はいはい」

 

 

 

  翌日。

  ブラックホール邸を出て私たちは東に進む。

  弾丸の補充は基本的にはなかった。ポールソンはショットガンの弾丸を補充されたので「撃ちまくってやるぜっ!」とご満悦だけどアサルトライフルの弾丸、44マグナムの弾丸等

  はありませんでした。あくまで10㎜とショットガンシェルのみ。アサルトライフルに関しては収容所でCOSから回収したマガジンがまだ若干あるけどさ。

  44口径がないのが痛い。

  私のお気に入りの銃なのに。

  痛いなぁ。

  手持ちが少ないし温存しなきゃ。

  屋敷で貰った白い服はジャングルに入ったと同時に茶色に染まりました。

  ドロドロです。サラとオリンも同じく。嫌だなぁ。

  服装に何らかの拘りがあるのか、ポールソンとグリン・フィスは頑なに自分の服装を変えず同じ服装。マクグロウはオバディアの昔の服を着てる。

  主要武器はポールソンとグリン・フィス以外はアサルトライフル。

  オバディア爺さんはスワンプフォークを私たちに同行させた。少数でどうにかしろとは言わないらしい。

  今まで厄介な展開の中では、まあ、良心的ですね。今まではお前らに任せたぞ信じているぞ的な展開が多かったので。

  同行する数は30ちょい。

  全員が全員古めかしい年代物の単発銃とはいえ持ってるしこちらの倍ぐらいのフェラルの群れが来ても怖くない。私らもいるし大概は何とかなるだろ。

  とはいえ喜んでもいられない。

  あくまで爺さんの目的は本であって、それが達成した後も味方とは思ってない。……いやまあ、そもそも味方と思ってないし。

  敵予備軍が味方に多いというのも厄介かな。

  あと……。

  「旅の人、一応言うが俺は戦力外だからな、そこのところは頼むぜ」

  あと、この胡散臭い奴も信用できない。

  同行しているオリンとマクグロウも私としては信用してない。あくまでサラ繋がりだし。とはいえサラを私は信じてるから、サラが信じてる彼らも間接的には信じてることになるのかな。

  グリン・フィスは言うまでもない。

  ポールソンは、不思議なんだけどこれまた信頼できるんだよなぁ。

  どっかで背中を預けて共闘したような。

  私たちは進む。

  ひたすら東に向けて。

  「あの、サラ・リオンズ」

  「何、オリン?」

  「マクグロウとも相談したんですけど、このまま……」

  「駄目よ」

  オリンたちの言いたいことは私にも分かる。

  礼拝地向かう際にソドムの近くを通る。ようはそのままバックレようというわけだ。

  サラは即座に否定したけど私もそう思う。

  引率しているスワンプフォークが黙っているとは思えない。

  東に向かう。

  東に。

 

 

 

  スワンプフォーク引率なので密林は簡単に突破できた。

  何しろこいつらが今までの主要な敵で、障害だったわけで、そいつらが味方であるのであれば邪魔なんてないわけで。それでも距離が距離だから1日かかった。

  親近感は湧かないけど、こいつらと一緒にいて分かったこともある。

  かなりフレンドリー。

  野営の準備とか食料の調達も率先してやってくれたし笑顔も多い。どうやら攻撃モードは命令されていたからだったらしい。

  まあ、いい迷惑でしたけど。

  さて。

  「ここが礼拝地」

  数軒の建物がある程度の場所。

  密林がないところに建てたのか、切り拓いたのか、見晴らしはいい。

  何だってここが礼拝地なんだ?

  よく分からん。

  「îìÝÂëóっ! ýIJ§·¶Áっ!」

  「はっ?」

  スワンプフォークが私の肩を叩き何か叫ぶ。

  えっと、何言ってるか分からない。

  「おいミスティ、あれを見ろ」

  「あれは……」

  建物から2人のグールが出てくる。

  パン一コートと傭兵服のグール。

  ピックマン、いや、ジェイミと奴のダチだ。たぶんあれがそうなんだろう。ジェイミは妙な装飾が施されたナイフを持っている。私の隣にいたスワンプフォークが何かを呟き、それが

  他のスワンプフォーク達にも伝わっていく。ざわざわと騒ぎ出す。

  ふぅん。

  あれが儀式用ナイフか。

  スワンプフォークが崇拝している、そしてあのナイフがここにあるからこそここが礼拝地ってわけだ。

  向こうはまだこちらに気付いていない。

  アサルトライフルの照準をジェイミに合わせる。

 

  バリバリバリ。

 

  その時、突然銃声が響いた。グール2人ではない、2人はあたふたしている。銃声は近くからした。マクグロウだ。マクグロウが撃ったんだ。

  何もないところ目掛けて。

  ジェイミが何か叫んでる。

  くそ。

  ばれたっ!

  「おいボコボコの旦那、あんた何してんだっ!」

  「い、いや、何かいたんだ、本当だっ!」

  口論はここで終わった。

  フェラルの群れが私たち目掛けて襲いかかってきたからだ。

  数が多い。

  200はいるっ!

  「撃て撃て撃てっ!」

  叫ぶ同時に仲間たちは撃つ。言われなくても撃ったかな。言語が通じてるのかは知らんけどスワンプフォーク達も撃ちはじめる。

  怒涛の数だけど怖くはない。

  武装したグールの部隊ならともかく恐れ知らずとはいえ丸腰のフェラルだ。突撃一本槍の連中だ。別に怖くはない。

  もちろんこちらの弾幕を突破してくるのもいるけど中距離ならポールソンのショットガンでバラバラだし、それをかわして突っ込んできてもグリン・フィスの餌食。

  連携は完璧。

  怖くない。

  フェラルの群れはスワンプフォークたちと総力戦。

  数の上では亡者たちが上だけど密林の住人達は単発とはいえ銃を持っている。真正面からぶつかれば勝負になるはずもない。

  フェラルの群れは退くことは知らない、ただただ突撃するだけ。

  開始早々決したようなものだ。勝ったな。

  私たちは銃を連射する。

  そのたびにフェラルはバタバタと倒れていく。

  簡単な戦いだ。

  ただ、数だけは多い。

  波状攻撃されるのが厄介ではある。そしてその間に逃げようとしている奴を視界に捉えた。

  フェラルじゃないな、あれは。

  コートを着たパン一のグールだ。

  ジェイミっ!

  クリプニーと儀式用ナイフを持っての逃走。腰には10㎜サブマシンガン。

  その後ろを追うグール。服を着てる。傭兵の服だ。ジェイミのダチが9㎜ピストルを私たちに向けた。銃口的にポールソンを狙ってる。

  「ジェイミ、ここは俺が引き受ける。お前は……っ!」

  「逝けっ!」

  サラの手にあったデザートイーグルが火を噴いた。

  グールの頭に穴が開く。

  その命中率は目を見張るものがあるな。さすがはBOSのエリート部隊の隊長だ。

  「ブリックっ! くそぅっ!」

  ジェイミが逃げる。

  その時、フェラルの動きに若干の乱れが生まれ始めたような気がした。ブリックと呼ばれた奴がフェラルを統率していたようだ。

  サラは叫ぶ。

  「追ってっ!」

  私もこのまま逃がす気はない。

  仲間たちに託すとしよう。

  私は走りだす。

  「逃がすかっ!」

  一直線に私はあいつを追いかける。ブリックの死体を通り過ぎる際に9㎜ピストルをゲット。ズボンに突っ込む。

  ここまで展開をめんどくしてくれたあいつを逃がす気はない。フェラルが突出した私目がけて突っ込んでくる。私を掴み掛ろうとした瞬間、バタバタと倒れた。

  仲間たちからの援護だ。

  心強い。

  前方のフェラルはいなくなったけど、それでも周囲にはフェラルの群れがわんさかいる。

  構っている場合ではない、ジェイミを追う。

  「しつこい」

  追いすがってくるフェラルを走りながら半身を後ろに向け、アサルトライフルを連射。弾倉が空になったぐらいには追撃してくるものはいなくなった。

  弾丸は空。

  予備もない。アサルトライフルを捨てて、身軽になって私はスピードを上げる。44マグナムは弾丸が心許ないので鹵獲してズボンに突っ込んでた9㎜ピストルを引き抜く。

  後ろの方で銃撃音が響き渡る。フェラルを引き受けてくれるらしい。助かります。

  密林まで到達したとき、フェラルは追いすがってこなかった。

  ジェイミが視界に入る。

  奴は密林に入るべきか右往左往していた。

  気持ちは分かる。

  密林はスワンプフォークのテリトリーだ、迂闊には入れない。

  追いついた。

  9㎜ピストルを構えて奴の背に照準を合わせる。

  「止まりなさいっ!」

  「……っ!」

  「今度は逃がすわけにはいかないわよ、ピックマン。いえ、ジェイミ」

  「くそくそくそっ!」

  私はジェイミを追って密林近くまで来た。近くにはフェラルはいない。そもそも彼にはフェラルを従える能力はないらしい。少なくとも収容所の話ではダチが操れると言っただけだ。

  嘘をついている?

  かもね。

  だけど嘘でも関係ない。

  近くにはフェラルはいない。奴の味方はいない。こちらの味方もいない。サシの勝負だ。

  奴は振り返った。

  右手には本を、左手にはナイフを、腰のサブマシンガンには触れてすらいない。

  笑う。

  「あの爺さんにいくらで頼まれた? それともレギュレーターとしての使命感からか? いずれにしても安っぽい感情だ。神々に尽くすという大義すらない」

  「偽名を使ったけど何なの?」

  「ソノラの手下なんだろ?」

  「仲間よ」

  「ふん」

  なるほど。

  やはり私がレギュレーターだと踏んで偽名を使ったのか。となるとこいつジャンダース・ブランケットのようにブラックリストに載ってる超悪党か。

  始末したらソノラが喜んでくれそうだ。

  お土産ってやつですね。

  他にも聞きたいことはある。この状況は私に有利。今のところはね。多少の好奇心を満たす時間はある。

  「その本の出所は?」

  「知らんよ。親父が見つけたんだ、キャピタル・ウェイストランドでな。俺は行方不明になった親父を追ってダンウィッチ・ビルに行ったんだ。親父はフェラルになってた。それで本を受け継いだのさ」

  「ふぅん」

  ブラックホールの爺さん曰く、5年前に何者かに盗まれたとか言ってたな。

  こいつの親父が盗んだ?

  もしくは色々な奴の手に渡っているのかもね。そしてここに戻ってきた。

  妙な因縁は感じる。

  そして純粋に中身が気になる。

  ポールソンの案件も聞いてみるとするか。

  「マーセラって知ってる?」

  「マーセラ? ……あー、あの女か。禁断の不死魔道書ネクロノミコンを狙ってきたあの女か。傭兵引き連れて襲撃してきたから返り討ちにしてやったよ。飼ってたフェラルが

  傭兵どもの死体を貪ってたが、そういえば女の死体はなかったな。それがどうした?」

  「こっちの事情」

  「それで? お前はどうしたいんだ?」

  「儀式用ナイフは何も言われてないけど、本……クリプニー? いや、ネクロ……まあいいや、本を渡しなさい。それが目的。渡せば殺しはしないわ。ソノラには黙っててあげる」

  「渡せだと?」

  「ええ」

  「欲しければこの俺を殺してからにしろっ!」

  「そうする」

 

  ばぁん。

 

  凄んだグールの心臓を9㎜ピストルが貫く。

  躊躇い?

  ないわ。

  この状況だ、完全に敵対してたし戦闘状態だった。躊躇いなんてしない、必要だから、撃った。

  それだけだ。

  ジェイミは仰向けになって倒れている。依然として握っている本を見る。表紙にナイフで切り裂いたような跡があった。

  持ち帰るとしよう。

  「くくく」

  「はっ?」

  心臓を撃たれたグールは不敵な笑みを浮かべながら立ち上がる。

  弱々しくではない。

  力強く大地を踏みしめて立ち上がる。

  「何かしたか?」

  「……」

  「俺は常に信仰を捧げている。俺の信仰は旧支配者たちに捧げられている。俺は死なない俺は不死身不死身不死身ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

  「うるさいっ!」

 

  ばぁん。ばぁん。ばぁん。

 

  3連発。

  右胸、左胸、頭を撃ち抜く。

  グールは倒れた。

  「ふぅ」

  たぶん心臓をわずかに逸れていたのだろう。それで死ななかったってわけだ。あと何か薬やってるんだろ、きっと。

  本を回収して戻るか。

  ナイフは知らないけど、まあ、ナイフも回収しとくとしよう。

  「くくく」

  再び立ち上がる。

  ゆらりゆらりと揺れながらナイフを振りかざしこちらに突進してくる。

  「俺は死なん死なん死なんうぃやはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

  「死ね」

 

  ばぁん。

 

  弾丸を叩き込む。

  奴は後退し、撃たれた衝撃でナイフを落とすものの本は右手で握ったまま。左手でサブマシンガンをこちらに向かって構える。

  何だこいつ?

  何だこいつっ!

  「世界の真理も知らぬ愚か者めいひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

  「さっさと死ねって言ってるでしょっ! 何なんだあんたはっ!」

 

  ばぁん。ばぁん。ばぁん。ばぁん。ばぁん。

 

  サブマシンガンを弾き、鉛弾を体に叩き込む。銃撃の威力は確かに軽いけど何故死なない?

  ドサっと今度こそ倒れる。

  動くなよ。

  そのまま死んどけ。

  私は9㎜の銃口を覗き込んでみる。空砲か、これ?

  ……。

  ……いやいやいや。

  奴の体は穴だらけで出血してる。本物の銃だ。

  だったら何で生きてる?

  「くくく」

  「化け物っ!」

 

  タッ。

 

  血を蹴って奴に肉薄。

  立ち上がろうとした瞬間、私は奴の顎を蹴り上げる。そのまま奴は倒れた。胸を足で踏んで残った弾丸を体に叩き込む。

  カチカチっと音がする。9㎜は残り弾ゼロだ。

  これで死んだろ。

  「ふゃーはーはーはひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

  「勘弁してよ」

  バっと後ろに飛びのき、サブマシンガンを拾う。

  普通に奴は立ち上がる。

  まるでよろめきもせずに立ち上がる。

  落ちている儀式用ナイフを手に取り気味の悪い笑いを浮かべてた。

  そして叫ぶ。

  「ナイフだ鋭いナイフで奴をディープテンプルへ送るんだアブドゥルはまたやってくる弱き者の宴にディープテンプルの宴にっ!」

  「いい加減に死んでほしいんだけどっ!」

  バリバリバリ。

  サブマシンガンの掃射。

  だけど止まらない、奴は奇声を発しながら走りだす。

  「再び生まれ変わるっ! アルハザード・ギエス・ギエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェスっ!」

  カチ。

  弾丸が尽きた。

 

  チャっ。

 

  サブマシンガンを捨てて44マグナムを2丁引き抜く。

  弾丸がないとか言ってる場合じゃない。

  食らえーっ!

  パワフルな12連発を全てお見舞いする。

  ジェイミの体はまるで強風に舞う木の葉のように派手に吹き飛んだ。そのまま密林の中に送り込む。

  「ふぅ」

  死んだろ、今度こそ。

  あー。疲れた。

 

  「俺は見た神を見た未知なるカダスの地で神を見たそして俺はその宮殿で暮らすだろう神々とともに黄昏の時代を過ごすだろうひゃっはぁーっ!」

 

  「……嘘でしょ」

  密林から奴が現れる。

  頭が半分なかったりするけど生きてる。どういう原理だ?

  神の力とか本の魔力とかじゃなくて……放射能か何かの影響だろうか。ウェスカーみたくなってる?

  でも奴もここまでデタラメではなかった。

  私は一歩下がる。

  さすがに怖いだろ、こいつ。

  空の薬莢を捨てて弾丸を装填。

  「ひゃひ?」

  奴は突然妙な声を発した。

  さっきから妙で奇妙で変だけど意識しての発言だった、でも今は違う。奴自身予想だにしていなかったことが起きたことに対する、声だろう。

  ジェイミの体が浮いている。

  そして突然右腕がなくなった。本が地面に落ちる。

  咀嚼音。

  狂信者ジェイミは見えない何かに貪り食われていく。ジェイミは悲鳴を上げ、逃げようとするものの逃げれずに次々と体が欠損していく。

  引きちぎる音。

  骨を噛み砕く音。

  咀嚼する音。

  生きたまま見えない何かに食われていくジェイミの絶叫。

  全てが非現実的だった。

  「……」

  さすがの私も言葉も出ない。

  何なんだ?

  何なんだっ!

  「……」

  最後には何も残らなかった。

  ただ地面に本とナイフが落ちているだけ。それが、この一連の流れが現実だと唯一主張していた。血溜りもまた、ジェイミが存在した証明。

  で奴はどこに?

  見えない悪魔がいる?

  44マグナムを構えて私は虚空を見据える。

  「……ん?」

  背景が揺らいでいる?

  何かいるのが分かる。

  輪郭がある。

  透明化しているのか?

 

  ぶぅん。

 

  「ひゃっ!」

  突然視界にクマが現れる。クマは血塗られた顔でこちらを見ている。

  ……。

  ……ルズカ?

  何だってまた透明化……あー、そういえばシーとスカベンジャーが前に何か言ってたな。ステルスボーイを密林で落としたとか何とか。ルズカがステルスボーイを器用に使って狩り

  をしているってわけではないだろう、たぶん誤って食べたのだ。でそれを利用しているのかたまたまなのか知らないけど、ステルスでジェイミを食った?

  まあ、たまたまよね。

  意識してステルスアタックされたらさすがの私でも勝てない。

  そうか、マクグロウが銃撃ったのはこいつを見たからか。さっきよく見たら透明化してても輪郭だけは見えたから、このクマを見たから撃ったのか。

  その時密林の奥から無数の鳴き声が響いた。

  応えるようにルズカも天を仰いで鳴く。

  同じ鳴き声。

  私と視線が交差するけどそれは数秒でルズカはそのまま密林に消えた。

  あれがルズカかは知らないけど、少なくともクマの個体数は1ではなく複数いるようだ。孤独のルズカってわけではないわけだ。仲間で仲良くやっておくれ。

  私を見逃してくれたのかは知らないけど気が変わらないうちに戻るとしよう。

  本とナイフを回収。

  好奇心から本を開いてみる。

  「……?」

  何語だ、これ?

  読めない。

 

  「やあ旅の人」

 

  市長のバルトが現れる。

  手には無線機。

  「いきなり背後から現れるのはやめてくれない? それ悪趣味だから」

  「本は入手できたのかい?」

  「まあね」

  「そうか。そいつはよかった。……オバディア・ブラックホール、本の回収は終わったよ」

  無線機で告げる。

  ブラックホール邸にいる爺さんに。バルトは無線機の音量を上げた。私にも声が聞こえてくる。

 

  『でかしたでかしたっ! すぐにそれを持ってくるのだ。ワシの寿命が尽きる前に、スワンプフォークの異常なまでの長命の理由を突き止められるっ! ひひひっ! 奇跡の書は我が手にっ!』

 

  バルトはそこで無線機を止めた。

  私は無言で微妙な表情で本を見ている。あの爺さんもイカレてたのか。肩を竦めてバルトは苦笑した。

  「結局奴も迷信に囚われてたってわけだ」

  「そのようね」

  「どうやらそいつはあの爺さんの延命のための代物らしい。……いやいや、不老不死の為の代物か? 見た目で騙されちゃいけないってやつの典型的な例だな。文明的な皮を被って

  いるからといって文明人というわけではないようだ。あんたもそう思うだろ?」

  「オカルトに興味はないわ」

  こんなものは必要ない。

  本を投げてよこす。

  「おっと。投げずに手渡してて欲しいものだな。さて、それで内容は……おやおや、これはこれは……」

  「読めるの?」

  数ページほどバルトはパラパラと本をめくる。

  含み笑いをして。

  「言ったろ。医者の真似事をしていると。こいつはドイツ語だな」

  「ドイツ語」

  「パッと見てだが医療書というよりは拷問の仕方だな。ブラックホール家が原住民相手にしてきた新薬の実験台とかの書物だ。本の争奪戦、蓋を開けてみたら全員の勘違いってわけだ」

  「くだらない」

  「だな。で本を渡したってことは戻らないんだろ? 奴の元に?」

  「危険性があるでしょ? あいつもジェイミ並みにイカレてる。報酬なんかいらない」

  「そうか。俺は戻るよ。あんたらの分の報酬も貰ってもいいか? 街の再建には金がかかるんでね」

  「ご勝手に」

  私は背を向けて歩き出す。

  もうここには用がない。

  「そうだ」

  ふと思い私は立ち止まる。

  「爺さんはどうすると思う?」

  「ん? 翻訳するだろうな。俺は内容は言わんよ。深い関わり合いはゴメンなんでな。翻訳には数年ってところか。奴が死ぬ前までには翻訳できるだろうよ。翻訳しつつ得た知識で

  スワンプフォーク相手に拷問という名の実験をするかもな。そして全て翻訳した時、あの爺さん、どうするんだろうな。あんたどう思う?」

  「知ったことではないわ」

  「俺もだよ」

  繰り返されるであろう実験。

  あの爺さんのさっきの無線から聞こえる声は少し、いや、ジェイミ並にイカレてた。

  狂気の声。

  だけどスワンプフォークもやられっ放しでは終わらないだろう。ちょっと考えれば自分たちが優位だと気付くはず。少しの間だけど一緒にいて分かった、連中は馬鹿じゃない。

  援助を、従属をやめたら爺さんは勝手に干上がって死ぬ。

  密林の中の豪邸で1人勝手に死ぬ。

  有利不利は簡単に逆転する。

  この場合爺さんはそれを覆せないだろう。接してみて分かったけどスワンプフォークは言語や習慣が違うだけで私らと変わらない。むしろ連帯感はウェイストランド人よりも強い。

  身内が拷問されたらあっさり反逆するだろうな、爺さんに対して。

  でも私の知ったことじゃない。

  私は歩き出す。

  私の背に向けてバルトは叫ぶ。だけど私ももう振り返らなかった。

  「市民銀行の武器は勝手に持って行ってくれよ。街から出ていくんだろ? 行方不明のスパミュを探すのか? いずれにしても武器は必要だ、勝手に持ち出してくれよっ!」

  「ええ」

  シーとアンクル・レオを見つけたらとっとと出て行くとしよう。

  この狂気の地からね。

  ここにはもう何の用もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにてオバティア爺さんは望みのものを手に入れ、スワンプフォークは奥地に引っ込み、ジェイミのカルトは壊滅し、バルトとミスティは仲良し、ハッピーエンドっすな。
COSなんて放っておこうシーたちもいいや。
次回感動の大団円。
さあキャピタルに帰ろう。

次回タイトル、根幹(=゚ω゚)ノ
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