私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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マリオネット

  操り人形たちは舞う。

  自分たちを操る者が既にいないことも気付かずに。

 

 

 

 

 

  「無事でよかったわ、ポールソン」

  「大分情けなくはあるがな」

  カルバート邸。二階。

  部屋数はたくさんある。さすがはメリーランド州の王様ですな。

  まあ、本人は死んでるけど。

  そんな一室でポールソンは寝ていた。輸血は終わり、現在は安静にしている最中。私は宴会を中座してポールソンの様子を見に来たわけだけど、無事でよかった。

  壁に立てかけているレバーアクションショットガンを見ながらポールソンは呟いた。

  「あいつら今度会ったら頭吹き飛ばしてやる」

  「そうね。その為にも体を休めなきゃね」

  あいつら、マクグロウとオリンを指す。

  あの二人はバルト側に転んだ。正確には独立した勢力ではあるけど、まあ、一緒にくっ付いたようなものだ。どの時点でマクグロウとオリンはCOSが原子力潜水艦を引き上げようとし

  ていることを知ったのかは不明。そしてバルトと組んだ時期もよく分からない。

  ブラックホール邸でかな?

  そうかもね。

  時期的にはそうなるのかな。

  マクグロウはポールソンを不意打ちで撃って瀕死にし、オリンは建物に火をつけて逃げた、らしい。

  まあ、頭吹き飛ばされても文句は言えんだろ。

  「ミスティ」

  「ん?」

  「下は随分と賑やかだが……俺の葬式でもしてるのか?」

  「またまた」

  「ははは。飲んで騒いでるんだろ? 戻っていいよ、俺は寝てる。ここの主に礼を言っておいてくれ」

  「まだ会ってないんだ?」

  「ずっと気を失ってたからな」

  「ふぅん」

  「にしてもこの体のけだるさは何だ? こんな感覚は初めてだ」

  「ああ、それはスティムパックの副作用かな」

  「スティ……何だそれ?」

  知らないらしい。

  本当にどこの田舎者だ?

  「外傷における、万能の薬、かな。どんな傷でも治るのよ。骨折もね。治癒力を爆発的に高めて治すの。スティムパックを結構な量使ったみたいだから、反動でだるいんでしょうね」

  「よく分からんが、すげぇのがあるんだな」

  「まあね」

  正直スティムパックなかったら死んでたと思う。

  シーが内偵でソドムに来た時、所持してくれたお蔭だ。なかったら今頃死んでる。

  本当に助かってよかった。

  「じゃあ私は行くね。眠くなくても無理して寝た方がいいわよ、体力つけなきゃ」

  「スコッチとタバコを差し入れしてくれたら治りが早くなるぜ? ビールでもいい。あと、肉もいいな」

  「全部却下」

  「ははは、厳しい先生だぜ」

  「でも食べ物は食べなきゃね。何か持ってくるわ」

  「いや、今はいい。胃がなくなったみたいな感じなんだよ」

  「気のせいよ」

  実際胃は穴だらけだったらしい。

  スティパックで治ったけど。

  「じゃあ、寝るぜ。またな」

  「ええ」

  ウインクして私は部屋を後にした。部屋を出ると私はそのまま一階に戻る。

  応接間。

  飲み始めて一時間ってところかな。

  グリン・フィスはかなりの酒豪らしく今はビールを手酌で飲みながらソールズベリーステーキを平らげてる。

  なかなかワイルドですね。

  その横ではシーが酔い潰れて寝息を立てていた。

  私はソファに座ってテーブルに置かれたポテトチップスを摘まんで食べる。やっぱりコンソメだよねー。

  「主、ポールソンの容態はいかかでしたか?」

  「大丈夫そう」

  「そうですか、まずは一安心ですね」

  「ええ。それでね、グリン・フィス、私はそっちじゃない、右手の方よ」

  こいつ実は酔ってる?

  酔ってるのか?

  デズモンドが笑う。

  「その旦那、既に瓶を5本は飲んでるよ。そりゃ酔うさ。ははは」

  そう言って彼はビールを飲む。

  サラはこの屋敷のどこからか引っ張り出してきた本を山積みにし、本を読みながらワインをグラスでチビチビと飲んでいる。

  「ミスティ、私ここに住もうかと思ってるの」

  「はっ?」

  「たくさん本があるわ。実に興味深い。実はスクライブになるか迷ってた時期があったのよ。まあ、父の手前それは出来なかったわけだけど」

  「ふぅん。デズモンド、本って持って行っちゃ駄目?」

  「ん? 別に俺の本じゃないし、ここにいつまでも永住するわけでもないから持って行って構わんぞ。一応地獄にいる教授に許可は取ってくれよ?」

  「だってさ。持って帰りなよ、サラ」

  「そうさせてもらうわ。本って好き」

  ふぅん。

  意外な一面だ。

  「ところでデズモンド、聞きたいことがあるんだけど」

  「何だ?」

  「結局教授って何だったの? 何だって争ってたの?」

  「ああ。言ってなかったよな」

  流されっ放しだったし。

  そもそも名前がカルバートと知ったのも最近だ。

  「戦前の大富豪でな、ここメリーランド州の半分は奴の王国だった。アメリカ政府の議会に自分の一族を何人も送り込んで政府を意のままにしてたのさ。エンクレイブの籍はなかったらしいが」

  「エンクレイブ? 戦前からあるの?」

  「元々は中国に対して強硬論を叫ぶタカ派の集まりなんだよ、エンクレイブはな。ただ加盟している奴らが将軍だったり閣僚だったりで実際は影の政府状態だったのさ」

  「へー。戦後の団体かと思ってた」

  「ともかくだ、俺と教授は戦前から争ってた。あいつはな、金になることには反射的に飛びつく奴なんだ」

  「例えば?」

  「例えば中国寄りのL.O.B.エンタープライスに出資したり、ビッシュ社に出資してルックアウトの地下に眠る天然ガスを安値でアメリカ中に売ってエネルギー業界を暴落させたり」

  「獅子身中の虫だったってこと?」

  「そうだ。あいつは戦争すらもビジネスの機会だと思ってたのさ。煽ってたんだ、戦争するように。ただ、危機を煽って開戦させて中国と戦争して勝利しようとしてたエンクレイブと違うのは、

  教授はアメリカと中国双方から金を巻き上げようって腹だったのさ。奴にとって戦争はビジネスだったんだ。混乱もな」

  「だからあなたがあいつと戦ったってわけ? 愛国心で?」

  「少し違うな。俺はイギリス人だ」

  「イギリス?」

  グールだから面影が分かんねぇ。

  「きっかけは些細な事だったんだよ。虫が好かなかった。それだけだ。気付けばつい最近まで追いかけっこだったのさ」

  「なかなか波乱万丈よね。でも分からないな、教授は何故スパミュを作ったの?」

  「さあな。そこは俺も知らん。だけどあいつ言ってただろ、エンクレイブの到来も予期してたってよ。今の世界を支配したかったんだろうよ。まあ、過去の人物だがな」

  「そうね」

  デズモンドはグラスを取ると高く掲げた。

  私もグラスを掲げる。

  「クソッタレの教授の来世がみじめでありますように」

  「何その乾杯の音頭」

  「ははは。今日は飲もうぜ。久しぶりに楽しい酒だぜ、ははは」

  夜は更けていく。

 

 

 

  「ん」

  気が付けば朝だった。

  やべー、完全に寝てた。応接間で寝てた。というか全員寝てる。

  飲んだな、昨晩は飲んだ。

  「うー」

  頭痛いー。

  シーとグリン・フィスは寄り添うように寝てる……付き合ってんのか、こいつら。サラは本を抱きかかえて横になってた。本の虫という新しい側面ゲット。

  デズモンドは……あれ、いない。

  私は立ち上がる。

  コンバットアーマーは、まあ、着なくていいか。

  ただ武装をおろそかにすると痛い目に合うという教訓をここ最近していたのでホルスターをして44マグナムを突っ込む。そしてアサルトライフルを背負う。異様な格好ではあるけど

  軽装備でソドムの街にいたらスワンプフォークで苦戦した、なので武装するに越したことはないと悟りました。まあ、時と場合によるけど。

  予備の弾丸も持ち歩くとしよう。

  襲撃のフラグを自分で建てているような気はするけど、まあ、備えがないよりはいいか。

  応接間を出る。

  屋敷内を歩きホールに出る。ホールは二階への階段が中央にある作りだ。ホールの一階部分にデズモンドがいた。腰に45オートピストルを突っ込んでる。

  「よーしよし、ご飯だ」

  ワン。

  犬たちは元気いっぱいに犬皿に盛られた食事食べ始めた。

  なるほど。

  ワンコのご飯の時間だったのか。

  私に気付いたのか、デズモンドがこちらを見た。犬たちはお構いなしにがっついている。

  「よお。おはよう」

  「おはよう、デズモンド」

  「あんたも朝飯にするか? まあ、インスタントしかないが腹が減ってるなら用意するぞ? 味気ないかもしれないが勘弁してくれ」

  「食材あるなら私作れるけど」

  「お前さんが?」

  「えっ、なんか不服?」

  「いやいやバトル系の主人公様がまさか食事作れるだなんてなぁ。やっぱあれか、何作ってもダークマターみたいになるのか?」

  「すいません意味分かんないんですけど」

  喧嘩売ってるのか?

  がるるー。

  シーよりは下手だけどスマイリーは喜んでくれたなぁ。

  ……。

  ……スマイリーの話題はまだ出てきてないけど、このまま出ない方がいいな。

  嘘は付けるけど、表情変えない自信はない。

  「これでも私は……」

  「ちょっと待て」

  「えっ?」

 

  ピピピピピ。

 

  何かの電子音がする。

  ヒューとデズモンドは口笛を吹くと犬たちは食べるのをやめて応接間に駆け込んでいった。

  「何の音?」

  「敷地内に誰か入った。センサーが作動した音だ」

  「敵?」

  「かもしれん」

  直後に激しい銃撃音。

  外で機銃型のタレットが起動したらしい。

  えっと、敵かどうか確かめる間もなく自動迎撃しちゃってるの?

  敵じゃなかったらどうすんだ。

  おおぅ。

  「下がるぞ」

  「ええ」

  扉に銃を向けながら私たちは下がる。デズモンドは45オートピストルを、私はグレネード付きアサルトライフルを。

  外では銃撃音だけではなく悲鳴と怒声がする。

  無数に。

  大量の迷子か大量の敵か。

  「ちょっと何の音っ!」

  サラがデザートイーグルを手にホールに出てくる。一緒に飛び出してきたシーはどこから調達したのかインフェルトレイターを持っていた。あー、ピット去る時に確かパクってたな。

  グリン・フィスは頭が痛そうな顔でショックソードを腰に差している。

  「主、何事ですか」

  「二日酔い? 顔色悪いけど」

  「はあ、まるで頭を断続的にゴブリンに殴られているようです」

  「例え分からんけど大丈夫?」

  「問題なしです」

  全員が揃う。

  まあ、ポールソンは二階だけど。

 

  ピピピピ……。

 

  音が唐突に消えた。

  銃声も。

  聞こえるのは怒声だけ。

  デズモンドが舌打ちした。私はその意味を察して仲間たちに後ろに下がるように促す。ハッキングか何かしてこちらのセキュリティを潰したようだ。タレットは当てにならなくなった。

  やれやれ。

  休息は半日だけか。

  嫌だなぁ。

 

  ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!

 

  扉をぶち破ってジャンプスーツ姿の集団がなだれ込んでくる。

  何だこいつらっ!

  顔立ちは全員違うけど、共通しているのはツルツルな禿げ頭、頭部の傷痕、そして虚ろな目。

  そんな連中が斧を手に突入してきた。

  スワンプフォークか、とも思ったけど、顔立ちは至って普通だ。

  「撃て撃て撃てっ!」

  私が叫ぶと同時に全員が銃を乱射する。

  敵は近接武器しか手にしていない。接近さえされなければ怖くない。ただ相手はなかなかしぶとく数発受けても平然と突っ込んで来ようとする。ただ撃たれた際の反動を無効にする

  ほどの根性はないらしく耐えても後ろに数歩下がるしかない。結果としてこちらに近付けない。大体10数発受けると永遠に無口になる。とはいえこのタフさ、異常だ。

  数は20人ほどか。

  「こんのぉーっ!」

  頭を撃ち抜く。

  するとその場に崩れ去った。

  タフではあるけど一応は生物ではあるようだ。頭が効かないとなれば生物ではないからね。

  「頭を狙ってっ!」

  「あー、もうー、あたしこういうの嫌なのにー」

  ブツブツ呟くシー。

  だけどピット産のパワフルで、それでいて静かな銃は次々と敵を撃ち抜いていく。

  「何なんだこいつらはっ!」

  デズモンドが叫ぶ。

  この状況下だ、恐らくバルトだろう。COSではないはず。連中は外で機銃で死んでた。

  つまり?

  つまり、COSはセキュリティを無効にできなかった。BOS崩れでハイテク大好きなわけだからセキュリティ崩すスキルぐらいはあるはず。なのに崩せずに玉砕した、それだけこの

  屋敷のセキュリティは強力なのだろう。しかしバルトは元々教授の手下だ。奴ならハッキングして潰すぐらいはできるだろう。セキュリティの裏口ぐらい知ってるはず。

  ザ・ブレインかもしれない。

  いずれにしても屋敷のパスコード知ってたデズモンドがあっさり入れたんだ、連中もパスコードを知っててもおかしくない。

  となるとこの妙な集団も教授の手下の生き残り?

  異様に静かな連中だ。

  いや、だった、かな。

  全員永遠に喋らなくなった。突撃した時に奇声を発してたけど撃たれても何も喋らなかった。無口な性質なのかな?

  「ミスティ、あれは……何だと思う? 爆弾、ではないわよね?」

  サラが指差す先には謎の男の頭。

  誰かは知らないけど頭の一部が吹っ飛んで中身が見えている。

  「何あれ」

  頭の中身は空っぽ。

  少なくとも本来あるべき脳ミソはなく、代わりに丸い球体が入っていた。バチバチと球体の中で放電しているのか知らないけど雷のような光が踊ってる。

  文献で見たことはある。

  「サンダーボール?」

  旧世紀では展覧物としてよく使われていた、らしい。

  グリン・フィスは驚愕したように唸る。

  「い、印石ですか、あれは」

  「はっ?」

  「悪魔の世界オブリビオン産の時空を繋ぐ禁断の石。ま、まさかこの目で見ることができるとは」

  「えっと……」

  酔っぱらってる?

  酔っぱらってるのか、グリン・フィス。

  「ともかく脳の代わりなのかな、デズモンド、これは何か知ってる?」

  「ああ。知ってるよ。テスラコイルの簡易版だな」

  「テスラ……」

  「こいつらロボトミーだ。くそ、教授め、ビッグ・エンプティの狂った科学の真似事かよ。死んでからも俺に祟りやがるぜ」

  「ロボトミー? それって脳の一部を切り取る外科手術じゃなかった?」

  「本来の意味はな。教授はスーパーミュータントにはまる前は脳にはまってたのさ。脳を取り出して頭にテスラコイルを埋め込んで遠隔操作のロボットにし、脳はロボブレインと融合させてたのさ」

  「……教授って病んでたのね」

  「金儲けし過ぎて暇だったんだろ。本当に嫌な奴だぜ」

  「確かに」

  だけど遠隔操作、ね。

  つまりどっかから遠隔操作する電波だかが出ていることになる。

  「バルトがこいつら全部操ってるの? 何かの装置で? 全員を?」

  「そいつは無理だろうな。一人二人ならともかく全員操るのは人間じゃあ無理だ。頭で処理し切れないというより指示し切れない。たぶん何らかのロボがいるんだと思うよ。それがどうした?」

  「ふぅん」

  「何だ? 何を考えてる?」

  ザ・ブレインだろう。

  違うとしたら私の知らない別のロボットだ。いずれにしても指示が出ている、つまりリンクが繋がっているということだ。あのピカピカしてるのはまだ稼働してる。肉体は死んでるけど。

  操ってる奴に辿れるかも知れない。

  「デズモンド、どこからこいつらを操作しているかパソコンで調べられる? というかパソコンあるか知らないけど」

  「ああ。調べられるぜ」

  「じゃあお願い。場所調べて、一気に叩かないと段々面倒になってきた。ここは私達で死守する」

  「分かったぜ、赤毛さんよ。確かに面倒だよな」

  そう言ってデズモンドは奥に消えた。

  今のところ敵は全て沈黙してる。

  もちろんこれだけで終わるとは思ってない。デズモンドの言葉が正しいのであれば、こいつらの頭にあった脳はロボブレインの材料になっている。つまり脳の出番もあるってわけだ。

  総力戦、かな。

  そろそろバルトも出せる手駒が少なくなってきたはずだ。

  トライバルあたりも出てくる?

  うーん。

  可能性はある。

  だからこそ尚更ここで叩けるだけ叩いておきたい。

  弾倉を交換。

  「ミスティ後で報酬くれるんでしょうねー? あたしただ働きやだよ?」

  「嫌なら嫌でもいいけど、何もしないと死ぬわよ」

  「うー」

  「あなたたち言い争いしない。次のが来たわよ」

  銃を構える。

  扉の所にふらふらと一人の男が現れた。

  ジャンプスーツ姿の禿男、そこまでは同じ。ただ両手にそれぞれ斧を持っていた。グリン・フィスが一歩前に出る。

  「グリン・フィス?」

  「銃がメインのアカヴァル大陸、確かに銃の使い手も強力、しかし自分としては……近接戦のエキスパートと戦えるのは、光栄だ。橘藤華よりは劣るが、再戦の為に体を慣らすとしよう」

  「ミスティ、イケメン君何言っちゃってんの? えっと、中二病なん?」

  「なんかスイッチ入っちゃったみたい」

  強いのか、この敵。

  立ち止まったけどふらふらしてる。前後にゆらゆら、左右にふらふら、そして頭を一回転回す。

 

  タッ。

 

  直後、突然一直線に走ってきた。

  早いっ!

  グリン・フィスも同時に走る。柄に手をかけ、鞘からショックソードを引き抜こうとした瞬間、斧男は速度を上げてグリン・フィスに飛び蹴り。まともに当たってよろけるグリン・フィスに

  斧の乱舞。両手の斧を流れるように、そして時間差で巧妙に振るう。グリン・フィスは剣を抜けないでいる。間合いを保とうにも追撃してくるし、抜こうにも近すぎる。

  一定の距離を斧男は演出していた。

  戦闘を支配してるっ!

  「はっはぁーっ!」

  グリン・フィスの性格はじけたっ!

  楽しそうな雄たけびを上げると斧男の喉に手刀を叩き込む。よろめく斧男の首をそのまま掴み、投げ飛ばした。

  どんな握力、どんな腕力だ。

  首ちょんば出来そうなぐらいの力です。グリン・フィスも大概デタラメだよなぁ。

 

  ドゴォォォォォォォォォンっ!

 

  応接間ではない、別の扉を突き破って飛んでいく斧男。

  あの部屋、確か書斎。

  「私の本っ!」

  サラが叫ぶ。

  別にあんたの本ってわけではないけど、気持ちは分かる。グリン・フィスはこちらを見ずにそのまま書斎に走っていった。

  「闇の一党ダークブラザーフッド、与えし者グリン・フィス、参るっ!」

  今日はじけてんな、あいつ。

  酔ってるのか?

  かもねー。

  「イケメン君元気一杯だねー☆」

  何かときめいてる奴いるし。

  訳分からん。

  グリン・フィスと斧男がフェードアウト、私たちは取り残される。デズモンドはまだ戻ってきてない。

  「お客さんよ」

  サラは呟く。

  再び斧男たちがご来店。ただしこいつらは量産型……という表現は正しくはないけど、少なくとも、さっきの奴みたいな特別仕様ではない。タフはあるけどさっきの奴みたく

  アグレッシブではない。おそらくさっきの斧男は何らかの処置が施されてる、能力増強されてる、じゃなきゃグリン・フィスといい勝負はしないだろ。

  何人目かの雑魚を倒すと新しいお客さんが来た。

  コートを着たスキンヘッドの男。何かを背負っている。

  ここでスパミュの亜種かー。

  突然雑魚たちは私を攻撃対象から外したかのごとく、サラとシーだけを目掛けて突っ込み始めてた。まあ、到達する前に死ぬけど。大男は私だけ見てる。

  「熱い視線だねー。彼氏?」

  「……はぁ」

  厄介だ。

  ザ・ブレインが遠隔操作してるかは知らんけど敵対パラメータを弄ったようだ。どうあっても私とスパミュの亜種を戦わせたいらしい。

  スパミュの亜種は背中に手を伸ばす。

  手にしたのは……。

  「ちょっ! ライトマシンガンじゃんミスティやばいって逃げなーっ!」

  言われるまでもない。

  軽機関砲を相手に戦うつもりはない。

  私は階段をダッシュで逃げる。視界に入る限りはスローだけど大量に吐き出される弾丸全てを避けるのは骨だ。途中転びそうになるけど何とか二階に駆け上がった。

  五体……よし、五体満足だ。

  撃ち始めが遅かったから何とか逃げれた。そして狙いが甘かったから、助かった。

  慣れてないのかな?

  そういえば最初の遭遇時は武器持ってなかったな。武器は市民銀行にあったはずなのにあいつは持ってなかった。前は使えなかった?

  うーん。

  まあいいや。

  下でサラが何か叫んでる。一瞬遅れて脳がそれを理解した、何故遅れたか、それはその事実を認めたくなかったからだ。

  階段を何かが駆け上ってくる。

  やべぇあいつ私追ってきやがったっ!

  ガン無視したらしい、シーとサラを。向こうは向こうで複数の雑魚ロボトミーと戯れてるけど単品とはいえ難易度はこっちの方が上だ。

  私は廊下を走る。

  階段を上りきった時、一瞬足音が止まる、周囲を見渡して私を探している間。数秒後、叫びながら銃を乱射。

  視界に入った扉に体当たりして私は中に逃れる。

  廊下を弾丸が通り過ぎた。

 

  バタン。

 

  扉を閉め、それから目につく調度品、本棚等を引っくり返して扉が開かないようにする。

  これでよし。

  直後に激しい銃撃音。扉を貫通して銃弾が乱入してくる。

  私はその場に伏せる。

  「おいおいおい何の騒ぎだ退院のお祝いパーティーはまだ早いぞっ!」

  ポールソンの部屋かよっ!

  巻き込んでしまった。

  銃声が止む。

  扉はぼろぼろだ。バキィィィィィィっと手が生えてくる。あいつグーで扉に穴開けやがった。アサルトライフルを構える、しかしグーはそのまま向こうに消えた。

  何だ?

  何してるんだ?

  今度は硝煙臭い銃火器が開いた穴から出てきた。

  おいおいおいっ!

  「ポールソン、ベッドから転げ落ちてっ!」

  「きついリハビリだな、おいっ!」

  激しい銃弾が部屋を襲う。

  ただ相手は視界に頼って攻撃してきてない、あくまで圧倒的な火力で部屋を攻撃してるだけ。それでも数撃ちゃ当たる。当たる前に何とかしなきゃ。アサルトライフルで反撃、扉を

  貫通して弾丸が飛んでいく。向こうは扉に密接して撃ってるんだ、こちらは確実に当てられる。問題は奴もタフということ、そしてコートが防弾仕様ということだ。

  カチ。

  トリガー引いても弾丸が出なくなる。

  弾切れか。

  反撃がなくなったからか軽機関砲が引っ込んだ。

  ぬーっと顔が穴から出てくる。

  私は素早く壁に立て掛けてあってポールソンのショットガンを手に取り、そいつの頭に照準を向ける。

  カチ。

  カチ。

  カチ。

  えっと……。

  「すまんミスティ、危ないから弾丸は抜いてあるんだ」

  「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああこんな時にーっ!」

  スパミュは吠える。

  そして再び顔は引っ込み、銃を穴から出す。

  こいつの攻撃パターンがよく分からない。凄いだろ僕ってば銃が扱えるようになったんだー、的な自慢なのか?

  扉吹っ飛ばして入ってくりゃいいのに。

  思考パターンが幼稚なのか?

  かもね。

  ただ、一番最初に会った時に比べて格段に進化してる。バージョンアップというべきか。このまま進化されたら勝てなくなる。じゃあ、退場願うしかないか。

  「ポールソン、ベッド盾にするわよ、横向きに立ててっ! はい、せーのっ!」

  「荒い看護婦だぜ、まったくっ!」

  「ポールソンはここで隠れてて。あいつの狙いは私だから」

  「隠れててって……このベッドの陰でか? 隠れんぼにもなりゃしないぞ」

  「これは盾よ」

  グレネードランチャーを扉に叩き込む。

  爆発。

  扉は吹き飛び、その向こうにいた奴もいなくなる。爆風はベッドの陰に隠れてやり過ごす。手にしていたショットガンをポールソンに手渡す。

  「万が一の為に弾丸装填しといたほうがいいわ」

  「助けが必要か?」

  「何とか乗り切る。ポールソンはここにいて」

  「気をつけろよ、ミスティ」

  「ええ」

  亜種は立ち上がろうとしている。

  コートの一部がズタズタだけど下の体には損傷が見えない。再生しているのか。厄介だな。

  爆発で壁に穴が開いて隣の部屋と繋がった。亜種は動き出す、付き合ってられるか。私は隣の部屋に飛び込む。そしてその先の扉を開き、さらに奥へと進む。このままスルーする。

  走りながらアサルトライフルの弾倉交換。

  廊下を走る音が聞こえるからポールソンは対象ではないらしい。

  確証?

  そりゃ最初からあった。

  あいつは私目当てだもん、完全に。じゃなきゃ最初に銃撃した時点でシーとサラは死んでる。

 

  ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンっ!

 

  びっくりしたーっ!

  廊下をダッシュしていたのだろう亜種は壁を突き破って私の前に現れた。軽機関砲を振り回す。しかし私は止まらない、奴が横に振った軽機関砲をスライディングしてかわし、通り過ぎ、

  奴の背後に回り込む。アサルトライフルを掃射。奴は体を前に揺らすけど、それだけ。ゆっくりと振り返って軽機関砲を……。

  

  ダダダダダダダダダダダダダッ。

 

  一斉掃射。

  天井からの銃撃音。タレットだ。機銃型のタレットだ。それが亜種の体に降り注ぐ。能力発動させようかと思ったけどタレットに助けられた、たぶんデズモンドがセキュリティシステムを復旧

  させたのだろう。一度亜種は膝をついたけど軽機関砲でタレットに反撃、タレットは爆散した。再び私に向き直るけど私は既に攻撃態勢に入ってる。

  タフだ。

  防弾コートは既にないのにこいつタレットに耐えてている。

  隣の部屋から私はグレネード付きアサルトライフルを構えてる。そろそろ決めるっ!

  「バイ♪」

  グレネード弾を叩き込む。

  爆発。

  撃った瞬間に私は扉を閉じたから爆風は届かない。扉を開ける。亜種はまだ動いてる、両手を床についているけど、生きてる。軽機関砲は爆発でひしゃげていた。

  アサルトライフルを背に戻し44マグナムを引き抜く。

  「いっけぇーっ!」

  12連発。

  全てを頭部に叩き込む。

  さすがにこれで死んだ……。

  「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!」

  「……っ!」

  叫びながら立ち上がり、天を仰ぐ。

  そして両手を横に広げるとジャキーンと両の爪が鋭く伸びた。デスクローのように鋭そうな爪。

  おいおいヤバいってスーパータイラントかよお前はっ!

  ホルスターに銃を戻してアサルトライフルを手に取り、グレネード弾を装填。たぶん殺せない、というか確実にこれでは殺せない、ならばっ!

  こっちに突っ込もうとした瞬間に相手の足元にグレネードを叩き込む。

  瞬間、亜種は姿を消した。

  爆発で床に穴。

  奴は階下に落ちたってわけだ。

  下は……何かの備品庫だ、機械類とかあるな、狭い部屋だ。所狭しとパソコンの残骸や鉄屑がある部屋。亜種は体が半分埋まってしまっている。備品庫というよりはゴミ捨て場みたい。

  残りのグレネード弾は二個。

  私はそれを階下に落とす。

  亜種の胸元に転がる。それをアサルトライフルで正確に射抜く。

  そして……。

 

 

 

  カルバート邸。正面。

  ザ・ブレインとバルトが2人で立っていた。バルトはいつも通りの市長の服、腰にはスコープ付きの44マグナム。

  全ての戦力を投入したものの内部はいまだ戦闘中。

  バルトは苛立つ。

  「スーパー・エゴは何してるんだ、まだ片はつかないのか? ザ・ブレインっ!」

  「ハッ! 聞こえてるよー。通信してるんだけど、あいつが言うには被験体01が討ち取られたらしいぜー。最強のロボトミーだったのにチョーよぇーっ!」

  「あいつが負けただとっ!」

  「ハッ! スーパーミュータント・コマンダーもリミッター外したけど活動停止中らしいぜー。でスーパー・エゴは地下基地から撤退するってよー。ロボトミーの遠隔操作やめるってさー」

  「な、何だとっ!」

  遠隔操作をやめる、つまり屋敷に突入したロボトミーは活動を停止するということだ。スーパーミュータント・コマンダーは自律して動いているもののこのままでは孤立無援になる。

  舌打ちして、顔を歪ませた。

  憤怒でだ。

  「あの脳ミソ野郎っ!」

  「ハッ! あっちもあんたを罵ってるぜ、計画立てられん生肉野郎だってよー。まー、あいつの方があんたより理性的だし、感情で動くあんたとは性が合わんだろー。やべー、俺もお前嫌いー」

  「ザ・ブレインっ! スーパーミュータント・コマンダーに撤収のシグナルを送れっ!」

  「ハッ! アイアイサー」

  「地下基地を放棄する。俺たちはこのまま灯台まで退くぞ。COSを居候させてる甲斐があるかは知らんが、もしかしたらあいつらも戦いに引き摺りこめるかも……」

 

  銃声。

 

  屋敷の窓にはスナイパーライフルを構えたデズモンドがいた。

  バルトはゆっくりと倒れる。

  続け様に銃声。

  ザ・ブレインに対しての銃撃。しかしザ・ブレインにはオートでフォース・フィールドを展開するという特殊装備が備わっているため損害は与えられない。

  弾丸が草むらに落ちる。

  「ハッ! じゃあ俺は先に行きますねー。バルトー、生きてたらまた会おうなー」

  ザ・ブレイン、撤退。

 

 

 

 

 

  敵は全滅した。

  何だか知らないけど突撃してきた軍団は突然死んだらしい。と言っても大半はその前に返り討ち状態だったみたいだけど。

  教授の手下の生き残りがどれだけいるかは分からないけど今回の一戦でかなり減ったはず。

  前回みたくケンタウロスをけし掛けてこなかったのはもう在庫がないからかな?

  だとしたら連中、そろそろ詰みなのかも。

  問題はバルトの死体がなかったこと、狙撃したデズモンド曰く生きているはずないっ!なんだけどバルトの死体はなかった。何かの隠し種があるようだ。何かは知らないけど。

  それともう一つ。

  スーパーミュータント・コマンダーの死体もなくなってた。

  あのデタラメなタフさを見せられたから思うのは、恐らく最初から死んでなくて、生きてたんだろうな。厄介な敵だと思う。

  さてさて。

  今度はこっちから攻撃しなきゃね。

  攻守交代。

  カルバート邸の中庭にある温室の地下にかなりの規模の地下施設がある。屋敷にある端末から調べた結果、それが判明した。

  バルトはそこから出張していたようだ。

  灯台下暗しってやつですね。

  やられっ放しは楽しくないし盛り上がらない。そろそろやり返してもどこからも文句はないだろう。連中は段々と追い詰められてきてる。ソドムの街はゴーストタウンになったし、その

  地下にあったソドムボルトも沈黙した、そして今回温室に隠していた兵隊も蹴散らした、そろそろ詰みなんじゃないかな。

  さあ反撃開始の時間だっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




補足説明。
ロボトミー。従来の意味の外科手術ではなく、フォールアウトの世界では脳を全部摘出し、代わりにテスラコイル埋め込んで自律行動させている人型エネミーを指します。

次回、大いなる影(=゚ω゚)ノ
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