私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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幻影を追って

  ワシントンDC。

  アメリカと中国の全面核戦争によりかつてのアメリカの栄光の都市は吹き飛んだ。

  今、そこは瓦礫と残骸でしかない。

 

  その都市で三つの勢力がぶつかり合っている。

 

  ワシントンDCを完全に支配下に置いたスーパーミュータントの軍勢。

  ワシントンDCを制圧し自らの権勢を高めたいタロン社。

  そしてスーパーミュータント一掃を掲げるBOS。

 

  戦場。

  そこは既に戦場。

  そして……。

 

 

 

 

 

  部隊展開しつつ廃墟のDCを進む。

  丁度DC内にある通信塔に交代要員と補給物資が必要とあって私達は途中までBOSの部隊と同行していた。サラ・リオンズの配慮と好意だ。

  わざわざ同行させてくれたわけだから。

  確かに助かってる。

  途中でレイダーの一団とぶつかったしスーパーミュータントの小隊とも接触した。

  BOSがいなければもっと面倒だっただろう。

  同行している人数は10名。

  強力なレーザー兵器を有したBOSが10名もいれば、まず苦戦する事はない。というか大抵の敵は楽勝に片付く。

  助かりますなぁ。

  ……。

  ……それにしてもBOS、意外に活動してるんだなぁ。

  今までお目に掛かった事なかったけど活発に活動している模様。もちろん会った事なかったのは当然かな。活動領域は大体DC廃墟に限定されているから。

  スーパーミュータント打倒の信念の一環ゆえだろう。

  BOSはGNRを前線基地とする一方でDC内に大小合わせて20ほどの駐屯地があるらしい。

  通信塔もその1つ。

  ちなみにその通信塔はGNRの次にDC内での最大拠点で常時50名の隊員が駐屯している模様。その通信塔を通じてスリードッグはキャピタルウェイストランド

  全域にニュースを配信しているそうだ。大勢の隊員を配して死守する理由はそこにある。

  DCは基本的にスーパーミュータントの支配下であり通信塔はそのど真ん中にあるそうだけど塔の構造上50名もいれば陥落はしないらしい。

  さて。

  「もうすぐ通信塔ですので我々はそこでお別れですがアンダーワールドはすぐそこですよ」

  「ありがとう」

  パワーアーマーを纏った隊員の1人が私にそう言う。

  BOSとは関わりがない。

  だけど。

  だけどこの間のGNRでの戦闘の結果、BOSは我々を同胞のように扱ってくれる。GNRのスリードッグも私達に好意を抱いてくれている。物資と弾薬を提供し

  てくれた意味合いも結局はそれなのだろう。ただスリードッグ、ニュースで私の事を言うのはやめてください。

  BOSの別の1人はスリードッグのニュースを聞いている。

  音声が私達にも届く。

 

 

  『やあ。こんにちは。私はエデン大統領……はははっ! 冗談だ。慌てた君、チャンネルは合ってるぜ。ギャラクシーニュースラジオの時間だっ!』

 

  『俺はスリードッグっ! いやっほぉーっ!』

 

  『こちらはギャラクシーニュースラジオだ。DCの廃墟の中から君に真実の声をお届けするよ。さて最初のニュースだ』

 

  『この間ボルトから這い出してきた奴の話はしたよな?』

 

  『そいつは俺のスタジオを包囲していたスーパーミュータントの軍勢を蹴散らした。今後は彼女の事を赤毛の冒険者と呼ぶ事にしよう。実名は明かせな

  いがね。何故だって? 何故なら俺よりも有名になられたら困るからさっ! ははは、なぁんてなっ! ではここで公共放送の時間だ』

 

 

  赤毛の冒険者?

  むっちゃ恥かしいです。

  キャピタルウェイストランドで放送されているのは堅苦しいエンクレイブラジオとやたらと陽気なギャラクシーニュースラジオの2つだけ。

  ……。

  ……すいませんその中間のニュース局はないんでしょうか?

  何にしても突飛過ぎで両極端。

  うーん。

  「一兵卒」

  小声でクリスが囁く。

  「どうしたのクリス?」

  「この連中の手を借りるのは好きではない」

  「それは言わないで」

  「何故だ?」

  「命を助けて貰った相手にそれは言わないで。私は感謝してるし信頼してる。BOSに対してね。……どうしてそんなに毛嫌いするわけ?」

  「嫌いなのに理由はいらない」

  「まあ、そうなんだろうけど」

  ソッポを向くクリス。

  生理的な問題?

  そうかもしれない。

  誰にだって『生理的に無理ーっ!』というのはあるものだ。だけどクリスは少し異なる気がする。

  それが何かは分からないけどさ。

  突っ込んで聞いてみよう。

  「あえて理由をつけるなら?」

  「自分達を英雄と思っているところだな。そこが気に食わない」

  「ふーん」

  「一兵卒。考えを改めろ。BOSは信じるに値しない。……何なら今夜ベッドの上で躾けてあげるんだからね……」

  「……」

  何なの?

  何なのこいつはーっ!

  侮れない奴です。

  バッ。

  その時グリン・フィスが瞬時に動いてクリスを右手で取り押さえて左手に持つナイフを首元に突きつける。

  「主、不敬罪で始末しますか?」

  「やめろーっ!」

  「御意」

  「……はぁ」

  私の仲間達、正直疲れます。

  極度に疲労感。

  ボルト101にいたら絶対に味わう事のない疲労感だろう。

  「それにしても」

  行軍しながらBOSの1人が口を開く。

  もっとも。

  もっとも全員ヘルメット着用しているので顔の判別は出来ない。声の質で男性か女性かが分かるだけだ。

  口を開いたのは女性だった。

  名前すら知らんけど。

  さて。

  「それにしてもそこのスナイパーライフル担いでいる人は妙なコネがあるみたいね。もしかしてアウトキャスト? パラディン・ハヅキはそう言ってたわよ」

  「……」

  クリス、無言で無視する。

  妙なコネ。

  その意味は私にも分かった。

  私がお腹射抜かれて意識飛んでいる間にミサイルが飛来してスーパーミュータントは吹き飛び、全軍撤退した。聞けばクリスが無線で指示したらしい。

  私は知らない。そんな組織はね。

  一瞬レギュレーターかとも思ったけどクリスが無線で攻撃要請出来るとは考えにくい。

  ……。

  ……まあ、私はクリスの前進は知らない。

  元々レギュレーターだった可能性もある。ルーカス・シムズもレギュレーターらしいし保安官助手の彼女もその可能性は高い。

  まあいいけど。

  どっちにしても私達は助かった。

  その事に関して文句を言うつもりはない。

  それにしても……。

  「アウトキャストって何?」

  誰に言うでもなく聞く。

  答えたのはBOSのメンバーだった。クリスは無言のままだ。

  うーん。

  よほどBOSが嫌いらしい。

  「キャピタルウェイストランドの我々BOSから追放された連中。エルダー・リオンズは地元の住民を救う様に提唱したけど、当初の目的である文明の遺産の

  回収をするべきだと主張したのがOC。連中は旧時代の文明を回収しつつ西部の本部に撤退しようとしているわ」

  「ふーん」

  「撤退したら大変ね。本部を裏切っているのは実際にはこちらなんだから。……抗争に発展するかも」

  「自ら求めてやった面倒でしかない」

  クリスが断定するように言った。

  BOS、不快そうに黙った。

  このまま行けば喧嘩になったかもしれないが丁度ここで別れる事になった。

  分かれ道。

  BOSはここから通信塔に、私達はアンダーワールドに行く事になる。

  私はお礼を言って分かれた。

  アンダーワールドに向かう理由はただ1つ。

  パパと接触があったライリー・レンジャーがよく物資の補給の為に訪れると聞いたからだ。ライリー・レンジャーの本部が分からない以上、アンダーワールド聞き

  込むしかない。パパ探しには遠回りな気がするけど正当ではある。

  廃墟の街を歩く。

  全面核戦争の際に大量に核が投下されたのかクレーターだらけだ。

  この世界が再建されないのは今だ人間同士が争っているのも理由の1つであり政府が既にないのも理由の1つ。しかし最大の理由はスーパーミュータントの

  闊歩だった。次に世界に満ちる新人類なのかは知らないけどあの巨人達は混乱に拍車を掛けてる。

  ただ不思議な事にBOSと一緒の時に一度小隊と接触しただけでスーパーミュータントには出くわさなかった。

  まあ楽でいいけど。

  「主。あれを」

  「おっ」

  石造りの巨大な建物が見えた。

  原形を留めている建物。

  そして。

  そしてそれと同時に数名の人影が視界に入った。それらは全員、銃で武装していた。数は6名。

  「グールっ!」

  クリスは嫌悪の声と同時に32口径のピストルを構える。

  私は手で制した。

  何故?

  相手が構えていないからだ。

  確かに警戒はしているようだけど少なくとも銃火器は構えていない。

  どうやらクリスはグールが嫌いらしい。

  毛嫌いしている感がある。

  まあ、グールにも良い奴もいれば悪い奴もいる。無条件に信頼して蜂の巣にされる可能性があるわけだけど、ああも露骨に嫌悪を表すのは得策ではない。

  交渉に影響するから。

  私はグリン・フィスも目で制する。彼の場合は自身の判断では行動しない。敵と判断できる相手ならともかく不明であるので私に判断を仰いだ。

  斬りますか、と。

  それを目で制する。

  「おやおや。珍しい。あんたら観光かい?」

  「観光?」

  「観光だろ? そうなんだろ?」

  「はっ?」

  声を掛けてきたのは女性のグールだった。

  クリスの行動を責めるでもなく咎めるでもない。心が広い、というよりは多分慣れているからだろう。

  親しげに彼女が声を掛けて来ると他のグールの歩哨は散った。歩哨の任務に専念する為なのだろう、多分。

  「ここってアンダーワールド?」

  建物を指差す。

  「そうだよ、観光客さん」

  「いや。観光客じゃないんですけど……」

  「何言ってるのさ。あんたは今、この国の首都にいるんだよ。記念碑を見て回ったり散策してるんだろ?」

  「まあ、そう言われればそうなんですけど……」

  「ほぉら。観光してるんじゃないか。あんたは立派な観光客だよ」

  「……あはは」

  面白い理屈だ。

  だけど悪い人ではなさそうだ。彼女もそう思ったらしく親しげに笑う。

  「入ってもいい?」

  「あんたはあの傭兵どもじゃないようだねぇ」

  「あの傭兵?」

  ライリー・レンジャーだろうか?

  だけどすぐに過ちに気付いた。

  彼女の顔には嫌悪が浮かんでいるからだ。

  少なくともライリー・レンジャーは悪い連中ではないのを私は聞いているから彼女が嫌悪するのは別の傭兵の事だろう。

  ……。

  ……もちろん実はライリー・レンジャーがグール嫌いで横暴な振る舞いをしている、という事もないとは言えないけど。

  まだ会った事ないから何とも言えない。

  「あの正気とは思えないタロン社の傭兵どもだよ。どうやらあんたらはその仲間じゃないようだ」

  「タロン社ってこの近辺で活動してるの?」

  「すぐそこの議事堂でスーパーミュータントと戦争をしてるよ」

  「ふぅん」

  なるほど。

  それでスーパーミュータントと接触しなかったのか。

  戦争に総動員しているのだろう。

  助かった。

  「まあ、あたしらは傍観してるだけだがね。タロン社はスーパーミュータントに手一杯でグールを相手にしてる暇はないし、スーパーミュータントはあたしらグール

  を親戚か何かかと思っているのかは知らないけどまったく手を出さないからね。レイダーも奴隷商人もここまでは来ない。観光客と接するのも久し振りさ」

  「ふぅん。でもBOSはそこら徘徊してるでしょ?」

  「あいつらか」

  「敵対してる?」

  「いいや。ただ連中はあたしらを見ると撃って来るんだよ。……まあ、わざと外してはくれるけどね。タロン社のように横暴で狂っちゃあいないようだけど差別

  主義者ではあるようだよ。グールを対等とは見ていないのさ。まあ、いいけどね」

  「中に入っていい?」

  「グールの街にかい?」

  「うん」

  「……」

  「……何?」

  「あんた面白い人間だね」

  「そう?」

  「普通は腐ったゾンビの街に入りたがる奴はいないよ。……ああ、このあたりで地図作りしてる傭兵は物資の購入の為にたまに来るけど観光客で街に入り

  たがってるのはあんたが初めてだよ。入っていいよ、観光客は大切にしないとね。宿泊ももしかしてするつもりかい?」

  「そのつもり」

  「ならホテルのオーナーのキャロルにあたしに紹介されたっていいな。タダで泊めてくれるよ」

  「ありがとう」

 

 

  グールの街であるアンダーワールドに到着。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

  その頃。

  BOSが管理しているDC廃墟の通信塔。

  そこの隊員達の会話。

 

  「最近妙な無線が飛び交ってるな」

  「妙な無線?」

  「デジタル暗号化された高度な無線通信さ。俺達の無線機じゃあ受信は出来ても音声変換はされない。ノイズとして流れるだけさ」

  「ああ。あれか。最近多いよな。スーパーミュータントじゃないか?」

  「確かに連中も独自の無線機を使うが質が異なる気が……」

  「まあいいじゃないか、別に」

  「そうなんだけどな。気になるんだよ。GNRのスーパーミュータントを蹴散らしたとかいう謎のミサイル攻撃の際にもデジタル暗号化された無線が飛び交ってた」

  「仕事しようぜ仕事」

  「俺達以外のハイテク集団がキャピタルウェイストランドにいるのかな」

  「……そりゃいるだろ」

  「おい。何か知ってるのか?」

  「俺達の同胞のアウトキャストだよ。多分連中が俺達の無線機より良いのを見つけたんだろ。それだけの事さ。それだけ」

  「そうかなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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