私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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アンダーワールド

 

 

  全面核戦争。

  言葉で聞くとその意味は頭に入ってこない。

  漠然とした印象しか受けない。

  

  だけど。

  だけど核爆弾は無情で残酷な兵器だと私は知った。改めて悟った。

  それは人が行使していい力ではない。

  世界のどこを見ても戦争を行う国家元首は既に存在しないけど、もしもいるなら私はこう言いたい。

 

  「戦争したいなら1人でしろ」と。

 

 

 

 

 

  アンダーワールド。

  それは建物の中にあるグール達の街。

  妙に恐ろしい骸骨の門があり、その両脇にはナウマン象の剥製(置物か?)と恐竜の骨が飾られていた。

  その奥にあるのがアンダーワールド。

  グールの街だ。

 

 

  「へぇ」

  足を踏み入れて私は思う。

  グール。

  グール。

  グール。

  どこを見てもグールばかりだ。

  もちろんそういう街なのは承知しているけどこんなに多いとさすがに圧巻。グリン・フィスは涼しい顔をしているものの、クリスは露骨に顔を歪めた。

  クリスは差別主義者?

  ……。

  ……うーん。

  そうは思わない。

  多分これが正しい……かどうかはまあ疑問だけど、普通の対応なのだろう。

  ゴブにしてもメガトンでは差別の対象だったわけだし。たまたま私の知り合いはゴブに偏見なかったから、偏見を目の当たりにしなかっただけでクリスの感じ方

  は普通なんだろうと私は思った。

  私?

  私は平気。

  それは別に私が出来た人間だから、ではなくボルト101の穴蔵生活者だからだろう。

  やはりどこか感性がずれてるのは仕方ない。

  まあいいけどね。

  何の支障もないわけだし。

  さて。

  「おい見てみろよっ! スムーズスキンが来てるぞっ!」

  グールの1人が私達に気付く。

  アンダーワールドの内部は完全なる建物だった。元々が何の建物かは知らないけど広いらしい。

  何故って?

  少なくとも視界に入るグールは30は越えているからだ。

  相当広くないと収容出来まい。

  大声を上げたグールが近付いてくる。クリスは外での一件の様に銃は抜かなかったけど不愉快そうな顔だ。私はそれを咎めるように見ると彼女は分かったと

  頷いた。差別問題を論じるつもりはない。ただ今はそういう態度が不適切だとクリスに知って欲しかったのだよ、私は。

  一応は分かってくれたみたい。

  よかった。

  差別は無用な敵意と展開を作る。

  それは避けたかった。

  「おーい、スムーズスキンさんよ。どっから来たんだ? ライリー・レンジャー以外の人間を見るのは久し振りだぜ」

  「スムーズスキン?」

  「スムーズスキン、つまりは人間の事だよ。人間の肌は滑らかで……うまそうだからな……」

  「……」

  「落ち着け、冗談だ。びっくりしたかい? あっはははははははっ!」

  「面白い冗談ねー。射殺しちゃうぞ☆」

  「あんたも面白いな。あっはははははははっ!」

  ひとしきりお互いに笑う。

  グリン・フィスは黙ったままだ。展開が面倒にならない限り、戦闘にならない限りは自分の感情を表に出さない男だからだ。

  クリスはグールと視線を逸らしていた。

  まあいいけど。

  グールの男は大仰に両手を広げた。

  「アンダーワールドにようこそ。ここはDCで唯一グールが安心して暮らせる場所だ。俺達はここでひっそりと暮らす忘れられた存在なのさ」

  「忘れられた?」

  「ウィロー……ああ、歩哨の女だが、そいつが言わなかったか? ミュータントどもは俺達には手を出さないし人間もここまではさほどやって来ない。大体は

  途中で死んじまうからな。グールにとっちゃあ悪くない場所さ」

  「なるほど」

  「心配なのはBOSだが……まあ、ここから出なければ問題はないさ」

  「BOS嫌いなの?」

  「クズどもさ」

  吐き捨てるように言った。

  それを聞きクリスがニヤリと笑いながら小声で呟く。

  「……案外グールとも気が合いそうかも」

  「……」

  彼女もBOS嫌い。

  私は無視した。グールの彼は話を続ける。

  「奴らは俺達とスーパーミュータントの違いすら分かっちゃいない。連中は俺達を見るとすぐに撃ってくるんだっ! ……まあ、命中し損なって今まで誰も怪我人

  が出ていないから、良識があってわざと外してるんだろうが……酷い差別主義者どもだ」

  「そう」

  私はグールではないのでそういう側面から見る事は出来ないので曖昧に頷いた。

  もちろん否定する気はない。

  完全な正義の集団ではないと再認識するとしよう。

  本題を切り出す。

  「ライリー・レンジャー来てる?」

  「さてな。俺は知らんよ。たまに来るだけだ」

  「ここって自由に見て回っていいの?」

  「そっちが手出ししないのであれば別に何もしないよ。出入り自由だし取り引きも自由だ。だが余計なトラブルはやめてくれ。面倒はごめんだ」

  「心得るわ」

  「俺達は平穏に暮らしてる。静寂だけは破られたくない」

  「分かってる」

  「そうそう。俺の名はウィンスロップ。ここで機械工をしてる。かつてのここの設備を再稼動させて今まで生きてきたんだが……問題もある」

  「私はミスティよ。それで問題って何?」

  「材料がないんだ。そこら中にある施設から部品を回収してきたんだが底を尽きはじめてる。……そこでだ。あんたはこの近辺まで来れるんだから腕が

  良いんだろ? 何か部品を見つけたら持って来てくれないか? きっと良い取り引きが出来る」

  「覚えとく」

  ウィンスロップは離れて行った。

  取り引きね。

  いつかは応じるかもしれないけど今はライリー・レンジャー探しに全力を注ごう。

  この街はグールの街だから人間は目立つ。

  傭兵達がいればすぐに分かるはずだ。

  とりあえずライリー・レンジャーはここに物資の補給の為に訪れるというのが分かっただけでも幸いと言うべきだろう。

  いつ来るのか。

  それは分からないけど、とりあえずライリー・レンジャーに接触する事はパパの居場所を知る為に必要だ。

  なんとしても接触しないと。

  「グリン・フィス、クリス」

  「何でしょう、主」

  「用件は何だ、一兵卒」

  「手分けしましょう。ライリー・レンジャーがここにいるか探して。それと、もしかしたらこの中にライリー・レンジャーの拠点の場所を知っている者がいるかも

  しれない。だから手分けして探しましょう。その方が効率良いし。二時間後に歩哨の人に紹介されたホテルで合流ね。了解?」

  「御意」

  「……ゾンビの街で聞き込みね。やれやれ。ミスティじゃなかったらその馬鹿げたお願いした奴の頭撃ち抜いてるわよ」

  グリン・フィスは一礼し、クリスはブツブツ言いながら散開。

  ふぅん。

  クリスって意外に醒めてる性格なのか。

  初めて知った。

  ……。

  ……ま、まあ、私に対するセクハラ紛いの接し方がマシです、とは言わないけどねー。

  おおぅ。

  ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ。

  その時、妙な音が近づいて来た。

  「あっ。ロボだ」

  宙に浮かぶた緑色にペイントされた小型ロボが浮遊しながらこちらに向かってくる。

  元々は軍用のロボ。

  レーザー兵器と火炎放射器を内蔵している。

  まあ、多分セキリュティーとして放し飼いにしているのだろう。少なくとも暴走して彷徨っているわけではあるまい。

  この街に怪しい者が入り込んだら即座に抹殺する為の保険だと思う。

  「気を付けっ! デッキに民間人っ!」

  ロボは喋る。

  別におかしな事ではない。

  どんなタイプのロボでもコミュニケーション能力がある。もちろんそのタイプによってはただの機械的なプログラムで録音された音声を使い分けているのもい

  れば実際に人工的とはいえ知能を有している奴もいる。

  目の前のロボは考える力があるタイプだ。

  「ロボット、何か用なの?」

  「俺はケルベロスだっ!」

  「ケルベロス? ……ここの番犬なわけ?」

  「失礼な奴だなっ! 俺はアンダーワールドの住人を内外のあらゆる脅威から護っているっ! ……つまりー、番犬だな……」

  「あは」

  何だこいつ。

  楽しい性格だぞー☆

  「アンダーワールドの守護者ってわけね。何か私に用?」

  「ここは平穏な暮らしを望むグール達の街だ。だから決して彼らを差別してはならない。彼らは人間と同じだ。感情があり、傷付き、血を流す。人間と同じように

  愛され敬意を受ける権利があるのだっ! ……と、言うようにプログラムされている……」

  「一言多いわよね、あんた」

  「俺に言わせれば奴らなんて蛆虫だらけの腐ったゾンビだよっ! ちくしょう、プログラムされていなければ始末してやるのにっ!」

  なるほど。

  リミッターが掛けられているらしい。

  そりゃそうか。

  じゃなかったらこんな物騒な兵器を徘徊させるわけがない。

  結構強力だもん、こいつ。

  ボルト101時代に文献で読んだから知ってる。

  「俺は常にこの街にいるようにプログラムされている。この街の静寂を破る者に強力兵器をお見舞いする義務があるのだっ!」

  「それは本心?」

  「アンダーワールド万歳っ! グール万歳っ! ……くそ、こんなプログラムにしやがって……」

  「ところで私ら以外の人間は知らない?」

  「知らん。会話終了」

  ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ。

  そして遠ざかって行く。

  「何なのよ」

  まさか鬱憤を口にしたかっただけ?

  ありえる。

  変なロボットだ。

  私はその様を見送って次の聞き込みの為にアンダーワールドを歩く。

  グール達には変な顔をされるけど別に敵対的というわけではない。どちらかというと『えっ? 人間がどうしてここに?』という驚きが先に立っているようだ。

  まあ仕方ないか。

  ともかく。

  ともかく私はアンダーワールドで物品を扱う店を教えて貰い、そこに向かった。

  銃火器から生活用品まで扱う店だ。

  ただ店名は『洋服店』と強調してあった。

  さて。

  「こんにちは」

  「えっ? 人間?」

  その店のカウンターにいたグールの女性はびっくりしたような顔になった。

  とりあえず普通の対応よね。

  それから咳払いをしてから愛想良く彼女は笑った。

  「いえ、こんにちは。アンダーワールド洋服店にようこそ。あはは、お客さんが来るなんて久し振りだよ。私はチューリップ、あんたは?」

  「ミスティ」

  「初めましてミスティ」

  「こちらこそ」

  差し出される手と握手。

  しげしげと私を見るチューリップ。

  「何?」

  「38年前は露骨に嫌な顔されたんだけどね、腐った手に触れるの。……変わってるね、あんた」

  「モグラ人間ですから」

  私はライリー・レンジャーの事を聞いてみた。

  補給物資を購入するならここには絶対に立ち寄ると踏んでの事だ。

  「最近は来ないねぇ」

  「そうですか」

  とりあえずは入れ違いではないようだ。一応は救いはあると思った。

  何故?

  だって『最近は来ない』と言った。

  つまり補給物資を最後に購入してからしばらく来てないという意味であり、もしかしたら近い内に来るかもしれないという展望に繋がるわけですよ。

  楽観的に考えよう。

  楽観的に。

  チューリップに礼を言って立ち去ろうとするものの彼女は私と世間話がしたいらしい。

  妙に人懐っこい人だ。

  聞けば外の人間と、つまり顔見知り以外と話すのは久し振りだそうだ。アンダーワールドは閉鎖社会だから住人はすべて顔見知り。随分と久し振りに来た外

  からの来訪者と、新しく来た顔ぶれと話すのは気分転換であり楽しみなのだろう。

  話に付き合う事にした。

  あれこれと話す。

  大抵はどちらも疑問系の質問ばかりだった。

  さて。

  「チューリップ、ところでここって何?」

  「この建物かい?」

  「うん」

  「歴史博物館の一部だったのさ。昔ここにあった展示物は死語の世界を表現したものらしいよ。地獄とかそんな類さ。グールが暮らすにはぴったりな世界だろ」

  「そんな事は……」

  「あんた良い子だねぇ。気に入ったよ」

  「ありがと」

  「戦争の後、最初からここにいたのは数人だけだった。ここは核爆弾で燃えたり壊れたりしなかった数少ない場所だったのさ。確かホテルのオーナーのキャロル

  も最初からここにいた1人だよ」

  「キャロルってゴブの知り合いよね?」

  「驚いたゴブを知ってるのかい? どこにいるの?」

  「メガトン」

  「それがどこかは知らないけど、キャロルに教えてやっておくれよ。喜ぶから」

  「うん」

  「それでどこまで話して……ああ……そうそう。それで何年もの間にここの噂がどんどん広まったのさ。昔はグールの集落があっちこっちにあったけど今はほ

  とんどないよ。凶暴化する者とここに辿り着く者に分かれたんだ。理性のあるグールは大体ここに集まったのさ。たまにゴブみたいのもいるけどね」

  「ふぅん」

  「ここは安全さ、グールにとってね。スーパーミュータントも手を出してこない。多分、人間を連中に変化させる方法がグールには効かないんだね」

  「えっ?」

  チューリップは何気ない口調ですごい事を言った。

  人間を連中に変化させる方法?

  「スーパーミュータントって人間を改造した姿なの?」

  「そう聞いているよ。詳しい理屈は知らないけど」

  「……」

  だとすると話が変わってくる。

  連中を作ったのは誰だ?

  今もその生産ラインが稼動しているかは分からないけど技術として確立されているのだろう。そうでなければスーパーミュータントは減らなければおかしい。

  あれだけ始末してまだ存在しているのだから『増えている』のだ。

  そして『誰か』が増やしてる。

  それは何者?

  チューリップは確信を込めた口調で話を続けた。

  「結局、誰の邪魔もせず、こうしてひっそりと暮らしているのがグールにとって一番良いんだろうね」

  「そっか」

  シミジミと彼女は語る。

  彼女は悪くない。

  ……。

  ……いいえ。厳密に言うならこの世界の人間は等しく何も悪くない。

  悪いのは勝手に戦争起こして勝手に吹き飛んだこの国の指導部だ。そしてその犠牲者としてグール達は全てを背負い込んでしまった。

  核戦争なんて行った奴の顔が見たい。

  見たらどうするかって?

  決まってる。

  そいつらを放射能の中に放り込んでやるわ。

  「チューリップ、そろそろ行くわ」

  「また、いつでもおいで。1人じゃ、寂しいからね」

  「うん、分かったわ」

 

 

  チューリップからキャロルの店を聞いてやって来た。

  とりあえずこの街に今、ライリー・レンジャーがいない事は分かったけどとりあえず聞き込みだけはしておきたかったしここが皆との合流場所だ。

  今のところライリー・レンジャーの本部がある場所を知る者は誰もいなかった。

  ガチャ。

  キャロルの店に入る。

  ホテルであると同時に食事を楽しめる場所、らしい。

  アンダーワールドにはナインズ・サークルという酒場があるらしいけど……店の品の良さと食事の良質さではここの方が上らしい。

  さて。

  「初めまして。一泊出来る?」

  「えっ? あっ、な、何?」

  戸惑いはもう慣れました。

  まだ合流時間ではないのでクリス達は来ていない。

  「ああ、あんたが風変わりな人間だね」

  「風変わり」

  苦笑する。

  噂は瞬く間に広がったらしい。

  まあいいけど。

  「ごめんよ、失礼だったわね。キャロルの店へようこそ。私がキャロルよ」

  「ミスティよ」

  「よろしくね。ここは大した店じゃないけど、でも私のお店よ。何か必要な時は遠慮なく言ってね。料理はグレタが作るわ。部屋に泊まりたい時には私に言って。そ

  うそうウィローの紹介があるのよね。タダで良いわ。泊まってって。情報早いでしょ、皆退屈してるから噂は広まるの早いのよ」

  「……早過ぎでしょ。いくらなんでも」

  「あはははは」

  キャロルは笑った。

  何歳ぐらいだろ?

  グールは年齢が不明。キャロルはチューリップ以上に妙に人懐っこいけど、グールの中では古株らしい。

  一説では放射能の影響で生殖能力がなくなるみたいだけど年齢で死ぬ事はなくなるらしい。

  100年以上生きるのはザラだ。

  「新しい子が街にいるってとても良い事だわ。特に若くて可愛い子は大歓迎よ。ここが気に入ってもらえるといいわ」

  「気に入ったわ」

  「そう。よかった」

  その時、おそらくは厨房だろう、奥から声が響いた。

  「お母さん、料理の仕込みは?」

  「任せるわ。グレタ」

  「分かった」

  キャロルは子持ちらしい。

  ただグールには生殖能力がない。放射能を浴びる前の子供か、それとも養女?

  気にはなるけど失礼な事は言いたくない。

  それよりも。

  それよりもゴブの事を伝えないと。

  「あの……」

  「ああ、あの子の事かい? あの子はグレタ。もう60年の付き合い。家族だよ。……だけど人間で言う家族とは、そう、少し違うね。人間とは色々な面で違う

  のさ。前は息子のゴブもいた。ゴブがいなくなってから随分と変わった。グレタはいつも私とゴブにヤキモチを焼いていたもんさ」

  「実はゴブから伝言があるの」

  「えっ?」

  「元気にやってるって伝えて欲しいと」

  人の繋がりは不思議。

  伝言を頼まれた時は本当にここまで来るとは思ってなかった。しかし今、確実に私はここにいる。

  世の中どうなるか分からない。

  キャロルは取り乱す。

  それはゴブを心底心配しているからこそ出来る取り乱し方だった。

  愛されてるなぁ。ゴブ。

  「ゴブを知ってるのかい? どこで見たんだい? 元気だったかい?」

  「彼は今メガトンという街の酒場の共同経営者の1人。もう1人の経営者のノヴァ姉さんと仲良く切り盛りしてるわ」

  「酒場の経営者か。出世したんだねぇ」

  涙を流さんばかりのキャロル。

  気持ちは分かる。

  ……。

  ……まあ、前オーナーのモリアティが謎の変死をしたからオーナーになったという情報は必要ないか。

  特にキャロルには意味のない情報だし。

  それに。

  それに変死にゴブ関係ないし。

  ただここでそれを言うと妙に誤解する可能性もあるので私は口にしなかった。

  慎みのある女、それが私です☆

  てへ☆

  「ゴブは元気です。私の友達」

  「なんだぁ、そうだったのかい。元気なのかい。そりゃ良かった。メガトンとかいう街に戻ったらゴブに伝えておくれ。お母さんが心配してたと伝えておくれ。ゴブを

  愛し、幸せを願っているとね。でもここに尋ねてくる必要はないと伝えておくれよ。そんなの危険過ぎるからね、絶対だよ」

  「分かってます」

  確かに危険だと思う。

  ここに至るまでに私は毎日一度は銃を構えた。

  障害が多過ぎる。

  「今日は泊まっておいきよ。お代は要らないからさ。食事もしていきなさい。ゴブの友達ならおもてなししなきゃね」

  「ありがとう」

  私はキャロルに礼を言う。

  厨房からグールの女性が出てきて私を奥のテーブルに、食堂に連れて行ってくれる。

  まだ他の面々は来てないけどお腹は空いた。

  先に軽く何か食べるとしよう。

  席に着く。

  「ねぇ、あんた」

  「……?」

  席に着くとグレタはトゲトゲしい口調で口を開いた。

  何故に?

  「母さんは誰にでも人懐っこいだけだからね。変な勘違いしてあんたまで懐かないでよ、分かった?」

  「ああ、なるほど。了解」

  私は頷いた。

  多分これが『ヤキモチ☆』なんだろう。

  可愛いもんだけどさ。

  ……。

  ……ただまあ、グレタ嬢はキャロルと知り合って60年だから単純に考えて私よりも遥かに年上だ。

  一応は敬意というものが必要だろうし喧嘩する必要もない。

  私は頷き話題を転じる。

  「お腹空きました」

  「何か食べる?」

  「えっと、何があるの?」

  「そうだねぇ。……食材さえ聞かなければ人間でも何とか食べれるものばかりだよ」

  「……」

  「何か食べたいんなら早く注文してよ。シチューの具がもう動かなくちゃったわ。さっきまで活きが良かったのに。踊り食いで良いなら生で持ってくるけど?」

  「……すいませんそれもヤキモチの範疇のイジメですか?」

  イジメだ。

  イジメ以外の何モノでもない。

  うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ具材は何なんだーっ!

  おおぅ。

 

 

  結局。

  結局ライリー・レンジャーの情報はまるでなかった。

  しばらく街には来ていない。

  それが一般的な回答だった。ライリー・レンジャーの拠点を知る者も誰もいない。とりあえず今日は私達はアンダーワールドに泊まる事にした。

  クリスは相変わらずブツブツ言っていたけど黙殺した。

  さすがにグールに対する嫌悪感で暴れまわる性格ではないのを知っているからこその対処だ。

  そして夜は更けて行く。

 

 

  「ん」

  私は寝付けずに体を起こした。

  グリン・フィスは寝息1つ立てずに目を瞑っていた。

  クリス?

  クリスは……。

 

  「……うふふ。ミスティ、隠しちゃ駄目よ。さあ、自分の手でして見せるのよ、うふふ、うふふー……」

 

  すいません夢の中で私は汚されていませんか?

  セクハラです。

  クリスの凄みを知った今日この頃です。

  おおぅ。

  ともかく。

  ともかく私は寝付けないので起き上がりホテルの外に出ようとした。

  「どうしたの?」

  「あっ」

  キャロルだ。

  キャロルはカウンターに座っていた。

  「寝ないんですか?」

  「ミスティは?」

  「寝付けなくて」

  「私もよ。ゴブの居場所が分かって嬉しくてね。眠れなくて」

  彼女は手招きして隣に座らないかと誘った。

  私は素直に座る。

  「ふふふ」

  「……?」

  「皆言ってるけど本当にミスティは変わってるわね。普通は……そうね、お仲間の女性みたいな態度よ? 酷い奴になれれば撃ってくる」

  「それって私が変わり者って意味?」

  「さてどうでしょうねぇ」

  「酷いなぁ」

  「あはははははっ」

  笑った後、キャロルは不意に沈黙した。

  ゴブの事を想っているだけではないのは確かだ。

  瞳には暗い色が宿っていた。

  過去の事かな?

  過去の……。

  「どうしてここに?」

  「……長い話だ。それに聞いても退屈なだけだよ」

  聞いてはいけないと思ったけど私は好奇心を口にしてしまった。

  軽率だったと思った。

  例え聞かれてもキャロルは言わないだろうとは思ったけど彼女は静かに口を開いた。今さら別にいいとは言えない。私は軽率を恥じつつ静かに聞いた。

  キャロルの過去の話を。

  「私は2051年に生まれたんだ。戦前生まれのグールってわけさ」

  「戦前」

  今は2277年だ。

  つまり彼女は200歳を越えている。

  グールには時間の概念が影響しないと聞いてはいたけど本当なんだ。

  驚いた。

  キャロルは続けた。

  「核爆弾が落ちた時、父と一緒にシェルターにいたのさ。DCはウェストコーストが消滅した後で、避難勧告を受けるぐらいの余裕はあったんだ。私はまだ

  小さかった。我が家にはボルトに入るお金がなくてシェルターに並んでいたのを覚えてる。父に早く入れとせっつかれてさ」

  「そうなんだ」

  ボルトテック社が開発した隔離施設ボルト。

  核爆弾をも避けれると言う宣伝文句であり実際に嘘ではなかったけどそれすらもお金が関ってくる。

  戦争を食いモノにしたと同じだ。

  戦争を……。

  「父が立ち止まり、他の家族の手助けをしようとした時、私は父の方を見上げたんだ。すると……何かが光った。想像も出来ないほどに眩しい光だった」

  「核爆弾が爆発した際の光?」

  「そうだよ。私は何時間か経ってから気がついて、すぐに父のいた場所に走った。でも父はいなくて代わりにとても妙な代物があった」

  「それは何?」

  「父の影が壁に焼きついていたんだ。とてもハッキリしていてまるですぐ側に父が立っているかのようだった。熱がコンクリートに影を焼きつけたのさ」

  「……あっ」

  「街はその後、何週間も、何ヶ月も燃え続けた。私はこの博物館の地下に隠れた。ここは私がいたシェルターから一番近い建物だった」

  「……」

  その言葉でシェルターが核で吹き飛んだ事を悟った。

  もしくは気を失っている間に先に入り込んでいた連中が扉を閉ざしたのかは分からない。

  戦争は人の理性を容易に奪う。

  良心を。

  「私はずっと地下で怖くて震えてた。でも聞こえてくる音で地上の様子は分かった。人々は獣のように叫び、邪悪な心を剥き出しにして奪い合い、殺し

  合ってた。悪夢だった。……あの頃の事はあまり思い出したくない」

  「ごめんなさい」

  私は謝った。

  聞くべきではなかったのだ。

  だけどキャロルは笑って首を振った。聞いて欲しいのだと目で語っていた。

  「私達は放射能に侵された。少しずつ浸食するように影響を受けていった」

  「……」

  「地上での騒ぎの後、私達は何とかここで生きていこうと思った。でもしばらくしてから奇妙な事が起こり始めたんだ」

  「奇妙な事?」

  「皮膚がカサカサになって剥がれ始めたのさ」

  「……えっ……?」

  「他の連中も皆そうなった。そして数ヶ月か一年後には、遅かれ早かれ、皆こんな姿になってた」

  「……」

  「イカレタ者もいれば受け入れる者もいた。いずれにしても他のグールもここに集まりだして大きな街になった。ここは静かだったし人間の干渉もなかった。そ

  してゴブやグレタと出会い、私の人生は変わったのさ。……退屈な話だったろ?」

  「そうは思わない」

  「そう?」

  「ええ」

  「そう。まあ、200年も同じ話をしてればどんな話も退屈に思えてくるものさ」

  「200年か。長い年月ね」

  「この街の外でグールが生きるには辛過ぎる。でもここにいれば化け物扱いされる事もない。多分グールだけじゃなく人間達にして見てもこの方が一番いいん

  じゃないかねぇ」

  「……」

  キャロルは私の顔を覗きこんだ。

  何も言わずに。

  ただ。

  ただ沈黙したまま私の顔を覗きこむ。それから不意に微笑を浮かべてこう言った。

  「ミスティ、あんた人間にしては悪くないわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  その頃。

  アンダーワールドの外。

  歩哨に立っているグールの兵士達は夜の闇の中に影が動いたので一斉に銃を構えた。

  ワンっ!

  闇の中から犬の鳴き声。

  歩哨達は顔を見合わせた。

  この世界に犬は別に珍しくないがDCに野良犬は珍しい。まず生き延びられないからだ。犬の鳴き声と同時に野太い男の声が闇の中から響いた。

  「撃つな撃つな。俺はケリィっていうケチなスカベンジャーだ。この犬はドッグミート」

  「スカベンジャーか」

  グールの1人がそう呟いた。

  珍しい職業ではない。特にこの近辺には廃墟が多い。そこにあるお宝や戦利品を拾って売り払う連中だ。

  「何の用だ? 取り引きか?」

  「いや。あんたらは奴隷商人じゃないだろうからこの女性は売り物にならんだろうよ」

  「女性?」

  月明かりが照らす。

  スカベンジャーの姿が月に照らされた。

  無精ヒゲを生やしただらしのない風貌、そして少し出た腹。ただ全身は銃器で武装されていた。両腰には10mmサブマシンガンが二挺。両足にも銃帯があり

  銃が無造作に差してある。背にはハンティングライフル、さらに弾丸、グレネードの数々。

  「戦争でもするつもりか、スカベンジャー」

  「この近辺じゃこの程度の武装は普段着だぜ? 俺はアウトキャスト専属のスカベンジャーさ。……まあいい。ともかくこいつを何とかしてくれよ」

  女性がいる。

  ケリィがここまで背負ってきた女性だ。

  金髪の女性。

  グールの1人が叫んだ。

  「彼女はライリー・レンジャーのライリーじゃないか。この街のお得意さんだぞ。どうしたんだ?」

  「知らんよ。トンネルで拾ったんだ」

  「待ってろ医者を呼んでくる」

  「ああ、頼むよ」

 

  

  アウトキャスト専属スカベンジャー、ケリィ登場。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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