私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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ボルト101〜脱走〜

  ヨハネの黙示録21章6節。

  私はアルファでありオメガである。最初であり最後である。私は渇く者には命の水の泉から価なしに飲ませる。

 

  それが、パパとママの願いだった。

  それが、パパとママの望みだった。

  それが……。

 

  親の願いと望みはやがて子が継ぐ事になる。

  私はいずれ知るだろう。

  ……その言葉の意味を。

 

 

 

 

 

  「……駄目だよパパ。私達、親子なんだから駄目だよ。……でも女の駄目は『おっけぇ♪』って意味もあるからねー……♪」

  ゆっさゆっさ。

  「起きてっ!」

  ゆっさゆっさ。

  「ねえ起きてっ!」

  「……なーによー……」

  私はゆっくりと眼を開く。

  良い夢見てたのに無理矢理起こされたから当然私はご機嫌斜め。視界に入ってくるのは、アマタだ。まあ確認するまでもない。

  声で分かるし。

  ……で?

  「それで? 何よー?」

  頭がズキズキする。

  昨日は飲み過ぎたかなぁ。

  あっ。パパに注射打ってもらわないと。何の持病かは知らないけど、薬は投与しないとね。……自分の持病知らない。笑えるな、それ。

  「うー」

  寝そべりながら大きく伸び。

  よく寝た。

  ……でもまだ寝たりない。

  「寝る」

  「ちょっとっ!」

  無性に眠い。

  お酒の影響もあるだろうけど、室内の照明の影響もある。暗いのだ。誰か来たら自動的に明るくなるはずなのに、壊れてるのかな?

  「寝る」

  「ミスティっ!」

  毛布を顔まで被る。

  「大丈夫。まだ半分頭寝てるから。……きっとパパとのラブラブワールドの続きが見れるはずさ♪」

  「そのお父さんが脱走したのよっ!」

  「……えっ?」

  一瞬理解できなかった。

  一瞬……。

  ……。

  言葉が頭の中を数秒漂い、そこから意味となって変換されていく。パパが脱走した?

  何かの冗談でしょ?

  何かの……。

  そう言いたかった。しかしその言葉すら許さないアマタの厳しい顔。アマタはこんな状況で冗談なんか絶対に言わない。

  親友として知っている。

  ならば真実なのだろう。だけど私は信じない。

  信じたくないっ!

  「どうやってかは知らない。でも、脱走したの」

  「……嘘よ」

  私を捨てて?

  私を?

  私を……。

  「そんなの嘘だっ!」

  「ミスティ」

  「嘘よアマタは嘘付いてるのよっ! パパが私を捨てるわけ……捨てる……捨てられ……ちゃったんだ、私……」

  「ミスティ。聞いて」

  まっすぐと私の瞳を見つめてくるアマタ。

  私は黙って聞く。

  心の中では当然ながら動揺しているものの、私のプライドがこれ以上取り乱す事を許さない。

  「事態は、深刻よ。ジョナスが……殺されたわ」

  「えっ?」

  「父はジョナスが貴女のお父さんの脱走を手引きしたと思ったの。父は部下に尋問を命じたわ。……ジョナスは、殴られて、殴られて、

  殴られて殺されてしまった。ごめんなさい、ミスティ、ごめんなさい」

  「アマタの、所為じゃない」

  そう言うものの、私は震えていた。殺された?

  ジョナスはパパの助手だった。

  優秀な医者だった。

  それ以上にパパが最も信頼していた人物であり、パパの親友だった。私にとっては叔父さんのような感じの人だった。

  ……なんなの?

  これは何かの冗談なの?

  誕生日の延長線上にある、おふざけ?

  なんなのよっ!

  「だけど、どうやって脱走なんか……出来るわけ、ないのに」

  「授業と現実は違うみたいね。どうやってかは知らないけど、多分パソコンから隔壁のセキュリティーを解除したんだと思う。ジョナスは、

  貴女のお父さんを逃がす為にガード達の視線を釘付けにすべく行動してた。だから……」

  「……」

  お互いにそれ以上は言わなかった。

  ジョナスは納得付くでパパに協力したんだと思う。ただ、誤算は監督官がその行為を反逆罪として処断した事だ。

  ボルト101は狂いつつある。そんな気がした。

  「どうしてこんなに暗いの?」

  「システムがダウンしたのよ。一時的にね。緊急の照明以外は死んでるわ。復旧にはまだ掛かるみたい」

  「……好都合だわ」

  暗闇なら逃げやすい。

  パパが逃げたように、同じやり方で私も逃げられないものか?

  アマタは苦い顔をする。

  「そんなに簡単じゃないわ」

  「どういう事?」

  「暗闇に乗じてラッドローチが大量に施設内に入り込んでいる。ここに来るまで私も危なかったわ」

  「ますます好都合じゃないの」

  「どういう事?」

  「ガードはそっちの対処も追われる事になる。やりやすいわ」

  「……ポジティブね」

  「誉め言葉として受け取っておくわ」

  パパは脱走。

  脱走を援助したとしてジョナスは問答無用で殺された。

  私は?

  さてね。だけどこの状況なら、私は何も知らないでは通らない。実際何も知らないけど、お咎めなしではないはず。

  もうここにはいられない。

  逃げなきゃ。

  ……外の世界に。そしてパパを見つけよう。そこが私の居場所な気がする。

  外は危険?

  そうかもしれない。

  しかしここに留まれば、もっと危険だ。少なくともすぐ近くまで危険は迫っているのだから。

  だからここから逃げなきゃ。

  ベッドから降りる。

  「ミスティ」

  「これは……」

  私に銃を押し付けるアマタ。

  「これ、父の銃よ。無断で持って来ちゃったわ。使って。……まあ、使う事がないのが一番だけどね」

  銃を受け取る。ホルスターも。

  10mmピストルだ。12発装填出来る。アマタは銃と銃弾を私に手渡す。銃弾はマガジン2つ分。つまり計24発だ。

  ガチャ。

  マガジンを銃身に滑らせるように1つ装填。安全装置を解除。

  ……確かに使う事がないに越した事はない。

  「どこに行けばいいと思う?」

  「まずは隔壁まで行かないとね」

  「隔壁」

  外の世界とボルト101を隔てている扉だ。唯一の出入り口。

  全面核戦争から一度も開けられた事がない、閉ざされ続けた扉。まずはそこに行くしかないか。外に出るなら、そこしかない。

  「アマタ、ありがとう。じゃあね」

  ホルスターを腰に巻き、銃を収める。さらに室内に飾ってあったバットを手に取る。

  バット?

  だって私はボルト101のリトルリーグで活躍した女よ?

  知らないですって?

  フォールアウト小説546話『熱血リトルリーグ編 ~愛の万年最下位脱却大作戦~』を読む事を推奨します♪

  ほほほー♪

 

 

  「ボルト101の全住人に告ぐ。住居からの外出を禁じる。出没したラッドローチへの対処実行中だ。ボルトセキュリティー隊員の邪魔

  をしないように。住居から出た者には厳罰を与える。以上だ」

  「ふん」

  私は居住区域に流されているアナウンスを聞いて鼻で笑う。

  響いているのは監督官の声だ。

  なかなかタイミング良いわね。……お互いにね。

  ガードの対応が早いのはおそらくパパを追ってたから。つまり脱走騒ぎでテンヤワンヤだった。その際にラッドローチが大量に襲撃

  して来た。まあ、都合良いタイミングね。ガードは手際良い対応と後々言われるだろう。

  私にしても都合良い。

  混乱に乗じて逃げられる。

  「はあっ!」

  ガンっ!

  ガンっ!

  ガンっ!

  群がるラッドローチをバットで叩き潰す。……叩き潰す、ね。うげぇー。ぐちゃぐちゃのラッドローチ気持ち悪い。殴る感触も嫌。

  グチャ、だもん。グチャだよ?

  銃を使えば楽だけど弾が限られてる。だからこそバットを持って来た。弾の節約の為だ。

  通路は至るところラッドローチだらけだ。生きてるのもいたら、死んでるのもいる。ガードも奮戦している者もいれば死んでいる者

  もいる。ほんと、都合良い。私は双方潰し合うのを避けて逃亡中。

  しばらく進むと……。

  「た、助けてくれっ!」

  「……?」

  身構える。

  私の前に転がるように走って現れたのは……。

  「ブッチ?」

  「頼むよ助けてくれっ! お袋がラッドローチと一緒に部屋に閉じ込められちまったんだっ!」

  この間のような虚勢はどこにもない。

  ブッチの母親は酒乱。

  酒癖が悪く、人付き合いも悪い。息子であるブッチに対しても過酷に当たるものの、ブッチもその事に対して不満を露にするものの、

  ブッチは母親思いなのだ。そこは私も知っている。

  それに奇しくも、ブッチも片親。母親しかいない。それに親が大切だと思う心は私にも分かる。

  今は非常事態。

  今までの経緯や喧嘩を持ち出すべきではないだろう。

  私は頷く。

  「分かった。行きましょう」

  「た、助かったぜっ! お、俺、本当にどうしたらいいか分からなかったんだっ! ……恩に切るぜ」

  2人で走る。

  途中ガードに遭遇したものの、ラッドローチと手一杯でこちらには気付かない。

  まあいい事だ。

  私達はブッチの部屋に到達。

  「ここで待ってるぜ、頑張れっ!」

  「はっ?」

  「お、俺はラッドローチ苦手なんだよ」

  「……」

  トンネルスネークはギャングじゃなかったのかよ。

  私は曖昧に笑い、室内に飛び込む。

  「ブッチー。痛いー」

  ガク。

  思わず私はこけそうになる。

  ブッチの母親、ラッドローチ三匹に噛まれながらもお酒を飲んでいる。お酒で感性が麻痺してるの?

  ま、まあいいや。

  バットを身構え……。

  「やあっ!」

  ガンっ!

  ガンっ!

  ガンっ!

  バットで叩きのめす。

  メキャ。

  「うげ」

  最後の一匹を叩きのめした……と思った瞬間、バットが折れた。

  ラッドローチもただの的ではない。

  同胞が殺されたのを憤り、私に標的する。こちらに羽根を広げて飛び掛ってくる。この状況は怖いぞ羽根広げるなーっ!

  腰の銃を引き抜き……。

  バァンっ!

  耳をつんざく様な銃声。

  次の瞬間、ラッドローチは体液と肉片を撒き散らして粉々になった。

  ……あう……。

  「うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

  私ってば家庭内害虫の体液と肉片塗れーっ!

  トラウマだっ!

  一生のトラウマだーっ!

  ……ベトベトして気持ち悪いしー……。

  しくしく。

  私、なんか乙女として汚された感じ。

  「やったぜっ!」

  そんな私の気持ちとは裏腹にブッチは歓喜の声を上げながら飛び込んでくる。

  ……よかったですね。私は最悪ですけど。

  「お袋が助かったっ! お前は本当に最高の親友だぜっ!」

  いつ親友になったそれはいつ?

  ブッチはジャケットを脱ぐ。

  何のつもりだ?

  それはトンネルスネークのトレードマークのようなものだ。

  「な、なあ、大したモンじゃないけど俺のジャケットやるぜ」

  「えっ?」

  「その、着替えろよ」

  お言葉に甘えて上着だけ変更しよう。……ブッチがいなくなったらね。

  考えてみればブッチは知らないのかな?

  私のパパの事。

  そして私の事。これから脱走するかもしれないという事。

  「お前マジ最高だよ。お陰でもう何の問題もねぇっ! サンキューっ!」

  「いいよ、別に」

  「……元気でやれよ」

  「えっ?」

  「じゃあな」

  ブッチ、部屋から出て行く。私は扉を閉じ、服を着替える。ブッチはどうやら知っているらしい。にも拘らず、私を応援してくれた。

  結局、喧嘩ばかりしてたけどブッチとは同い年の友人なんだと初めて気が付いた。

 

 

  ブッチを助け、私は再び通路を進む。

  途中ガードの1人を叩きのめした。向こうは銃を持たず警棒のみの装備、つまり上級ガードではなかったものの私は撃ち殺した。

  何故?

  少なくとも向こうは殺す気だった。

  警棒だって力一杯殴れば普通に死ぬ。殺されるのを分かっていながらも、相手が飛び道具持っていないという理由だけで遠慮する

  必要はどこにもない。

  途中で再びラッドローチにも襲われたから弾の残量が少ない。

  マガジン1つ。銃には1発だけ。

  「ふぅ」

  周囲を見渡し、私は通路に座る。小休憩ではない。

  銃身から弾装を取り出す。その弾装に残されている1発を取り出しポケットに入れる。空の銃身に最後のマガジンを装填。

  残り13発。

  「動くな」

  「……っ!」

  「止まれ」

  短い命令の言葉。

  背後からだ。

  「……オフィサー・ゴメス」

  声で分かる。

  昨日まで私の上官だった人だ。

  「立て。……頼むから妙な真似はするな。銃は、持ったままでいいから立て」

  疲れた口調。

  私は言う通りにする。銃は持ったままだ。

  「こっちを見ろ」

  言われたままに行動。

  疲れてる。

  オフィサー・ゴメスの顔は確かに疲れてる。

  どうしてだろ?

  「お前を見つけたのが俺でよかったよ。他の奴らじゃその場で射殺だろうな」

  「……」

  「何を企んでいるのかは知らないし、知ろうとも思わない。早くここを去れ。何も見なかった事にしておいてやる」

  「……どうして?」

  ガードは監督官に絶対的な忠誠を誓っている。

  なのに何故?

  「こんな別れとは、本当に残念だよ。ジョナスへの仕打ちも信じられない。……オフィサー・マックはどうかしてる。本当は俺も監督官

  に逆らうべきじゃないのは分かってる。命令に従うべきだと。お前を、ここで射殺するべきだと」

  「……」

  「だがお前は良い子だ。お前には何の罪もない。……いいか、必ずお父さんを見つけ出して、外で一緒に生きるんだ」

  「……うん」

  「行け。他の誰かに見つかるとまずい。……いいか、絶対に生き延びろ。絶対にだっ!」

  「分かった。さよなら」

  私は走る。

  そのまま振り向かなかった。

 

 

  別の区画に侵入すると、そこでは1組の男女が言い争いをしていた。

  名前は、知らない。

  知らないけど私と確か同じ教室の出身。つまりは同年代だ。あまり交流がなかったから顔は知ってても名前は知らない。

  2人は言い争いをしていた。

  ボルト101の危機を告げる監督官のアナウンスがうるさい。室内の照明が付いたり消えたりするのも煩わしい。

  2人は私に気付いていないようだ。

  「戻った方が良さそうよ。ねえ、戻りましょうよ」

  「分からないのかチャンスは一度きりなんだぞっ! あの医者のようにここを出るんだっ! 自分の人生だ、監督官なんかに一生

  を束縛なんかされる筋合いはないだろっ!」

  「だけど……」

  「そこで何をしているっ!」

  銃を持った2人のガードが気付いた。向ってくる。私に、ではなく例の2人に。

  銃を持つ。

  それはつまり、監督官に気に入られている上級ガードだ。

  ガードの目が血走っているのが分かる。

  殺す気だ。

  完全に殺気立ってる。

  「監督官の外出禁止令を無視した。よって、処刑する」

  「やめなさいっ!」

  完全にガードは暴走してるっ!

  私は叫びながら飛び出した。銃には安全装置は既に掛けていない。今すぐ撃てる。……そして、今すぐにでも撃つっ!

  バァンっ!

  バァンっ!

  バァンっ!

  3発発砲。

  1発目はガードの脳天に叩き壊れる。1人即死。

  2発目はもう1人のガードの左腕……くそ、心臓狙ったつもりなのに。3発目はさらに目標から逸れて、お腹だ。

  ドサ。ドサ。

  死体になったガードも、なっていないガードもその場に倒れる。

  「ひぃっ!」

  「ま、待ってっ!」

  男女、逃亡。

  お礼もなしに、ね。まあいいけど。

  コツ。コツ。コツ。

  私は静かな足取りで、靴音を立てながら死に損なったガードに近付き……。

  「ま、待て、俺は監督官の命令に従っただけ……」

  「……」

  バァンっ!

  「私は私の良心に従っただけ。……おあいこよね?」

  これで4発消費した。

  だけど問題ない。ガードの遺体から弾丸を30発回収。現在の残りが9発。1人1発の単純計算なら39人殺せる。

  ……私物騒?

  まあいい。

  2階に登る。断続的にラッドローチが現れるものの、必ずしも攻撃的ではない。

  死骸があればそちらを食べる。

  人を襲うのは周辺に食べるモノがない時と、襲われた時のみだ。

  今はガードの死体がある。

  もしくは始末されたラッドローチの死体がね。こちらから手出ししない限りは襲ってこない。……多分。

  ただ無駄な弾使わずに済むのは確かだ。

  途中誰かが叫んでいるのが聞えた。

  見ると住居にある窓から男性が私に向って叫んでいる。

  「全部お前ら親子の所為だぞっ! 勝手に入って来たかと思えば、勝手に出て行きやがってっ!」

  「ふん」

  誹謗中傷、聞いている暇なんかありません。

  私は構わず進む。

  「ガードっ! ここに医者の娘がいるぞっ! ガードっ!」

  待てど暮らせどガードは来ない。

  ……もちろん待つ気はないけどね。ラッドローチの襲撃は思いの他大規模に渡っているらしい。私には好都合だ。

  そのまま、この場を後にした。

  道程は既に半分だ。

  前に聞いた噂話だと監督官の執務室に外への出入り口に通じる通り道がある、らしい。

  なるほど。

  それはありえるだろう。

  ボルト101の機密性に満ちた区画は原子炉区画と監督官の執務室のみ。まさか原子炉区画に外との出入り口があるとは考えら

  れない。外部からテロられたら一発でお終いだからだ。

  監督官の執務室なら?

  少なくとも原子炉区画よりはありえるわね。

  そう思い足を進める。

  静かに。

  静かに。

  静かに。

  派手に暴れる時は暴れるけど、戦わずに済むのであれば隠密も必要不可欠だろう。

  「……」

  息を潜める。

  ここを越えればもうすぐだ。……執務室には多分監督官いるだろうけど、それならそれでいい。大将拘束すれば部下も手出し

  出来まい。ガード達は監督官を信奉している。まさかボスを人質にしてたらは発砲はしないはず。

  ……とまあ、考えていると、その監督官の声が聞えた。

  何故に?

  執務室はまだ遠い。声が聞えるはずがない。どんなに大声でもだ。

  執務室にいないのか。

  その答えはすぐに分かった。取り調べの部屋から声が聞える。

  取り調べの部屋。それはつまり監督官に対する反抗的な者を矯正し、監房に叩き込む場所。何故監督官がここにいる?

  そして……。

  「何も知らないって言ってるでしょっ!」

  アマタの声だ。

  「大人になれアマタ。オフィサー・マックは愉しんで尋問するだろうが私は違う。あの娘の行き先を言うんだ。後は我々で処理する」

  「処理って何よっ! 何でいつも父さんはミスティを毛嫌いするのっ! あの子が何したのっ!」

  「汚れだよ」

  「汚れ?」

  「あの娘は汚れきってる。もしも奴が男なら、私はとっくに殺しているよ。純粋なお前の為に」

  「私の友達なのよっ! どうして彼女に構うのっ! 行かせてあげてよっ!」

  ただの親子喧嘩では済まない。

  廊下に面している窓から私は中に見る。3人いる。アマタと、監督官と、もう1人は……誰だ?

  オフィサー・マックとか言ってた……。

  ……。

  「あいつが?」

  オフィサー・ゴメスは、ジョナスを殺したのはオフィサー・マックだと言っていた。

  奴か。

  「血祭りに上げてやる」

  私の頬に冷たい笑みが浮かぶ。

  罪には罰を。

  仇には死を。

  血祭り候補のオフィサー・マックは淡々と言う。

  「監督官。規律は規律です。……アマタ嬢、左手をテーブルに付きなさい」

  「な、何で?」

  「警棒で指を叩き潰します。……お嫌ならあの女の居場所を言うのです。それがここでの規律。ですよね監督官?」

  「そうだ」

  な、なにー?

  鬼畜かこの親父。

  「お、お願い、父さん、やめさせてっ!」

  「もう一度言うぞアマタ。あの娘はどこに行った?」

  「それは、それは……い、言えない」

  「失望したよアマタ。……オフィサー・マック、やってくれ」

  「と、父さんっ!」

  盗み聞きはここまでだっ!

  扉を開けて私は飛び込む。銃を構えながら、飛び込む。オフィサー・マックは警棒を振り上げている。アマタの指を叩き潰すつもり

  なのだろう。そんな事は私がさせないっ!

  どくん。

  「……っ!」

  どくん。

  な、何?

  どくん。

  私の中で何かが脈打つ。

  どくん。

  声にならない。いや、正確には声が出ない。周囲がスローになっていくのが分かる。皆、止まっている。

  どくん。

  ……何なの……?

  どくん。

  体が熱い。

  どくん。

  体が熱い、体が……体が……動く?

  銃を構える。まだ回りの動きは止まっている。今までこんな事はなかった。これが、これが……薬が切れた影響……?

  よく分からない。

  よく分からないが、私は銃口をオフィサー・マックに。

  そして。

  バァンっ!

  バァンっ!

  バァンっ!

  バァンっ!

  4連発。

  瞬間、時が動く。オフィサー・マックの左目に、喉に、左胸に……ついでに股間に、それぞれ銃弾がめり込む。時が動いた瞬間に彼

  は激しく吹き飛び壁に叩きつけられた。壁に叩きつけられる前に奴は死んでた。

  監督官は驚愕する。

  「……なんだ今の反応速度は……」

  「えっ?」

  「……馬鹿な……そうか貴様メタヒューマンだな? ……やはり遺伝的に放射能に汚れていたのか……」

  「チェックメイトよ」

  タタタタタタタッ。

  アマタは走って室外に飛び出す。

  「お話しましょう、監督官」

  「諦めて捕まりに来たのかな? 既に君はかなりの罪を犯している。君は自分から事態を悪化させている」

  「今度またアマタに酷い事をしようとしたら必ず殺してやる」

  「私にとっての最優先はボルト101の運営だ。父親としての感情よりも大切な事だ。感情に溺れて判断を誤る事はないっ!」

  チャッ。

  銃口を向ける。

  監督官は慌てる事をしなかった。

  「もう一度言う。アマタを傷つけるな」

  「いいだろう。お前の意思も尊重してやる。お前が何をしようとも、アマタを傷つけないと約束する」

  「そう」

  銃口は向けたまま。

  さて、どうしたものか?

  状況はどうであれボルト101は監督官がいてこそ成り立っている。殺すのは容易いが、それはここの存続すら危ぶまれる。

  私もそこまでやるつもりはない。

  「それよりも自分の父親の過ちに君自身が気付くべきではないのかね?」

  「パパの?」

  「武器を渡しなさい。この危険な状況を終わらせるんだ。父親のように、我々を裏切る必要はない」

  「……」

  平和的解決?

  私は銃を手で弄くる。それからポケットに右手を入れる。さて、どうしたものか。

  しばらく考えてから……。

  「分かったわ」

  「実に結構」

  監督官に銃を渡した。

  監督官は静かに微笑した。

  「これで面倒は終わる」

  「それが最善な解決策だと願うわ」

  「部屋に戻るといい。その後で、しばらくは尋問させてもらう。……いいね?」

  「分かったわ」

  じっと監督官の瞳を見つめて、私は背を向けた。

  チャッ。

  銃を構える音。

  「撃つ気?」

  平然と答える。

  「安全装置は……」

  「外したよ。その程度、分からないとでも?」

  「ごめんもっと貴方を下に見てた。でも撃たない方がいいわよ?」

  「何故だ? 命乞いするからか? 悪いがそれは出来んよ。お前が父親の脱走と関係あるかは知らんが、見せしめは必要だからな」

  「じゃあ撃てば。でもやめた方がいいと思う」

  「何故だ?」

  「銃口にもう1発、弾を放り込んであるから。撃てば暴発するわよ」

  そう。

  さっき弾装から取り出した弾を1発放り込んだ。ついでに噛んだガムで蓋をして固定してある。そんな描写はなかった?

  空気読んで、流してください(涙目)。

  「行かせてよ。そしたら誰も傷付かない。おっけぇ?」

  「正義の味方気取りか? この世界は狂気に満ちている。全てはボルトの安全の為の犠牲だ。ジョナスも、お前も、その父親も、アマタもっ! ここの

  平穏を乱すのであれば私が処断する。……しかし約束は約束だ、アマタには手は出さん」

  「私は出すけどね」

  ガンっ!

  背後から警棒で監督官を殴打した者がいる。アマタだ。

  がくりと崩れ落ちる監督官。

  死んではいない。

  気絶しているだけだ。

  「ミスティ」

  目で合図する。視線は、監房。

  「分かった」

  ズルズル。

  アマタと一緒に監督官を監房に押し込める。その際に銃も取り戻す。弾丸もね。

  「ありがとう助けてくれて。……父は、多分正気じゃないんだと思う。貴女が来てくれなかったら、私はどうなってたか……」

  「私も助かったわ。おあいこよね?」

  「ここから逃げた方がいいわ。ボルトの扉で、外とここを遮断している隔壁で会いましょう。別々に動いた方がガードを混乱させる事

  が出来る。もしも私がいつまで経っても来なければ……元気でね、ミスティ」

  「分かった」

 

 

  監督官の執務室。

  「……」

  カチャカチャカチャ。

  私は一心不乱にキーボードを叩き、コードを打ち込む。ハッキングは得意だ。

  ボルト101は完全なる世界?

  ……冗談でしょ?

  こんなに緩いセキュリティで私を止められるとでも?

  ピピピ。

  コード入力終了。

 

  『隔壁の開閉。オン』

 

  パソコンは命令実行。

  パソコンは人に比べて素直。コード知らない限りは融通利かないけど、人よりも説得は簡単だ。

  後は簡単だった。

  私は隔壁を開いた際に床の下から現れた下層へと続く階段を下りる。

  そして到着。

  隔壁は開いていた。歯車のような形をした隔壁。ここを越えれば、外だ。パパが通り過ぎた場所。私は行かなきゃ。

  タタタタタタタッ。

  誰かが走ってくる。アマタだ。

  驚きに満ちた声だった。

  「……やったわ……本当に開いたのね……」

  「アマタのお陰よ」

  「私の? ……いいえ。全部貴女の力よ。私は、作られた天才」

  「……?」

  「懸命に努力してきたけど、どんな試験でも主席だったのは監督官の娘だから。私はそれをずっと知ってた。そして本当の天才である

  貴女に対して劣等感を持ってたわ」

  「アマタ、それは……」

  「いいのよ。友情は不滅だもんね。だって私達は本当の親友なんですから」

  「そうよ。ずっと、親友」

  抱き合う。

  どんな関係でもいつかは終わる。親友の関係も?

  ……いいえ。

  終わらない。ただ、ここで別れるだけ。いつかまた再会を信じている。再会を。

  「アマタは、行かないんだよね」

  その件には触れてなかった。

  だけど私には内心では分かってる。アマタはここを離れないだろうって。

  「行きたいけど、ここが私の場所。父を説得出来るのは、私だけだから」

  「だよね」

  「……ねぇ。もしも貴女のお父さんに会えたなら、私が謝ってたって伝えておいて。もちろん謝って済む事じゃないけど……」

  「お互いに苦労するね、父親の事でさ」

  「……ふふふ。本当ね。ミスティ、またね」

  「うん。いつかどこかで、また会いましょう」

  そして別れた……はずだった。

  背を向けて開いた隔壁を越えた瞬間、憎々しげな声が響いた。

  「いい厄介払いだよ」

  「……っ!」

  銃を構えて、声の主の眉間に照準を合わせる。監督官だ。部下が監房に収容されていた彼を見つけて解放したのだろう。

  ガード3人が私に銃口を向けている。

  距離にして6メートル離れている。

  私はここで射殺される?

  ……。

  ……いいえ。それはない。

  なんだか知らないけど私の動体視力は妙に強化されている。理由は分からないけど、多分パパが毎週投与してくれる薬が切れてい

  るからだろう。つまり、私は何かの病気なのだ。

  だけど、それはいい。

  とりあえずその病気のお陰でここまで生きてやって来れた。

  パパを探すのにも役立つ能力ではある。

  それに……。

  「ここで撃ち合いますか?」

  「生意気な口を」

  照準は監督官の眉間を向けたまま、私は静かに問う。

  もしかしたら私は蜂の巣かもしれない。

  だけど。

  「ここで撃ち合いますか?」

  だけど、私が死ぬにしても、死ぬ瞬間に引き金は一度だけ引ける。監督官を見連れにする事は容易い。

  「やめてっ!」

  気が付くと、アマタはガードの1人に束縛されていた。

  父である監督官を気遣っている。

  私は、場合によっては……命を懸けた戦いであるのであれば人殺しも厭わない。その感覚が正しいのか分からない。しかし自分

  の命を守る為なら相手を殺す。

  「ミスティやめてっ! 父さんもやめてっ!」

  それでも。

  それでも、アマタの目の前で、アマタの実の父親を殺す。それは、私には出来なかった。

  「……」

  じり。じり。じり。

  照準を合わせたまま、私は後退する。私が動くたびにガードの銃口も連動して動く。

  連中、外まで追ってくる根性はあるまい。

  このままボルト101から出る。

  それが一番平和的だと思った。

  そう。監督官が言った『いい厄介払い』だろう。……お互いにね。

  「アマタには何もしないで。これは、私の独断なんだから」

  「私とて鬼ではない。お前さえいなくなればそれでいい。お前が男なら、あの時とっくに殺していたよ」

  「……?」

  「お前が男ならアマタを汚していた可能性があるからな。……だが、それでもボルト101の純粋たる血筋を汚す可能性は否めな

  かった。いかにしてお前を始末するか、それだけをずっと考えていた。いい厄介払いだ」

  「汚す?」

  「言葉通りだ」

  「し、知ってたのっ! アマタが私の性の玩具状態だって事っ! 散々汚し抜いた事をっ! さすが父親、お見通しだったのねっ!」

  「なななななななななななななななななななななななにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

  「バイ♪」

  パァンっ!

  威嚇に銃を発砲、そのまま私は後ろを見ずに走った。

  次の瞬間、ガード達が発砲してくるものの、開いているとはいえ隔壁を越えてまでは追撃して来ない。

  下手に深追いした場合、面倒だからだ。意味?

  簡単よ。

  深追いしたら、きっと監督官は隔壁を閉鎖すると思っているのだろう。追撃した自分達を無視してね。ありえるかもしれないね。

  ともかく。

  「ミスティ逃げてぇっ!」

  銃撃は続く。

  激しい発砲音に紛れて親友の悲痛な叫びが木霊する。

  そして親友の声、発砲音に紛れてもう1つの声が響く。監督官の声だ。

  「どこまでも追討の手は緩めないからなっ! お前を見せしめとして、必ず殺してやるっ! その首、住人の前に晒してやるっ!」

  「そりゃ楽しみ」

  私の呟きは当然聞えない。

  もう完全に連中の視界から消えているから。それでも、監督官の声は響いてくる。

  「どこまでもだっ! どこまでも、追討は続くぞっ!」

  そして……。

 

 

  外の世界。

  「……っ! 眩しいっ!」

  強烈な光が視界を襲う。

  それはボルト101にあった照明の様に優しくもなければ穏やかでもなかった。強烈な光。太陽光だ。

  眼を差す光。

  「……っ!」

  私はその場にしゃがむ。

  眼は開けない。

  数分、そのままの姿で蹲る。

  ゆっくりと瞳を開き、まずは岩陰を見て眼を慣らす。

  ゆっくり。

  ゆっくり。

  眼を慣らしていく。

  まだ眩しいものの、それでも半眼……は言い過ぎか。半眼の半分、開く事が出来るようになる。

  「……あっ……」

  視界に飛び込むモノ。

  それは瓦礫。

  ここはキャピタルウェイストランド。かつての文明の残骸と瓦礫の世界。

  それでも。

  それでも、空は高い。

  果てしなく高い。

  「……綺麗……」

  青空は果てしなく高く、哀しいほどに青く美しい。この残骸と文明の世界を青空が覆う。

  ボルト101での出来事。

  アマタとの別れ。

  色々な事があり、決して晴れやかではない旅の始まりではないものの、私は心のどこかで外に世界に出れた事に対して喜びを

  感じていた。叫び出したいほどの高揚感と自由への喜びが全身を駆け巡っていた。

  「初めまして、世界っ!」

 

 

 

  ……文明の残骸と瓦礫の世界にようこそ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  注意。

  断るまでもないですが、フォールアウト小説546話『熱血リトルリーグ編 ~愛の万年最下位脱却大作戦~』は存在しません。

  ……ほんと。断るまでないですけど。

 

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