私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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父を探して私は旅をする〜痕跡〜

  旅路は遠回りがあったものの順調に進んでいる。

  迂回は無用?

  そうとは思わない。

 

  迂回する事により得られるものがあるのは確かだからだ。

  私は得た。

  そして今後も得ていくのだろう。

 

  人との繋がりを。

 

 

 

 

 

  GNRの最新放送。

  ライリー・レンジャーの一件の放送。

 

  『やあリスナーの皆。元気かな? 俺はスリードッグっ! いやっほぉーっ! こちらはギャラクシー・ニュースラジオ。ニュースの時間だ』

 

  『DCの廃墟を活動の拠点としているライリー・レンジャーという傭兵団をリスナーの皆は知っているか?』

 

  『レンジャー達に危機があったらしい。……いやいや心配する事はない。既に危機は脱している。メンバーの1人が戦死したようだがある少女の奮戦のお陰

  で壊滅の危機は脱したようだ。ライリー・レンジャーは良い奴らだからこの情報を得て俺は喜んだよ。そして、確信もした』

 

  『この一件、赤毛の冒険者が絡んでるってな。きっと彼女が救ったんだ。おれはそう思うぜ』

 

  『赤毛の冒険者の行為は偉大だ。英雄的だ。スーパーミュータントの軍勢に臆せずに立ち向かうんだ、それも他人の為に。そいつはとてもすごい事だ。まるで

  天使のような行いだ。しかしそう言われれば彼女は微笑しながら言い返すだろう』

 

  『私は天使なんかじゃない、と』

 

  『そうさ。彼女の行為は天使かも知れんが生身の彼女は天使じゃない。つまり、人間だ。俺達と同じ人間なんだ』

 

  『リスナーの諸君、覚えておいて欲しい。彼女は善意の塊で至高の存在かと思うかも知れないが俺達と同じ人間なんだ。俺達もまた彼女と同じように善意が

  出来るんだ。もちろん同じようにスーパーミュータントと戦う事は出来ないかもしれない。しかし善意は特別な者だけの専売特許じゃあない』

 

  『彼女も人間。俺達も人間。同じだ。だから俺達も些細な事でいいから隣人に優しく接しよう。そしたら世界は明るい。至極簡単な理屈だ。そうだろう?』

 

  『今後も独占的に赤毛の冒険者の情報を提供するぜ。俺はスリードッグっ! いやっほぉーっ! さて、ここからは曲を流すとしよう』

 

 

 

 

 

  リベットシティ。

  キャピタルウェイストランドでもっとも文明的レベルが高い都市、らしい。

  水の浄化。

  新鮮な野菜。

  様々な取り組みが行われているようだ。まだ実用的ではないそうだけど世界の再建の要となるであろう都市らしい。

  私達はそこに向っている。

  私達、それは私、グリン・フィス、クリス、カロン。

  そして……。

  「いやぁ。またあんたに会えるとは思ってなかったよ。丁度リベットまで行くところだったんだ。旅は道連れってね」

  「そうね」

  商品満載したバラモンと護衛を引き連れた男性を同行者に加えて私達は向かう。

  同行者、それはクレイジー・ウルフギャング。

  カンタベリー・コモンズとかいう街を拠点にしているキャラバン隊の1人だ。

  たまたま途中で再会し一緒にリベットシティに向っているところ。

  丁度良かった。

  クリスもリベットシティには行った事がないらしく地理がまったく分からないところだった。もちろん私の装着しているPIPBOYはナビの機能があるから迷う事

  はないけど視覚的に道が分かる人が同行している方が旅はし易い。

  それに。

  それにレイダーもキャラバンは狙わない。

  キャラバンが商品を流通させるから街が潤い、旅人も増える。キャラバンを略奪して全滅させたら当面は儲かるかもしれないけど最終的には干上がる事に

  なるのは確実だ。流通が途絶えるわけだからね。レイダーもその程度の頭はある。だから襲わない。

  レイダー除けに役立つ同行者よね。

  「お仲間が増えてよかったな」

  「ありがとう」

  正確にはカロンは仲間ではない(あくまでクリスの従者。あくまで例ではあるがクリスに命じられれば躊躇いなく私を殺すだろう)けどボルト101を出た頃を考

  えると大きな進歩だと思う。素晴しいまでの進展だ。

  まさかここまで大所帯の仲間と行動するとは思ってなかったのは確かだ。

  人と人の輪は広がる。

  それを望む限りは人は繋がって行ける。

  私はそれを外の世界で学んだ。

  今後も仲間が増えるといいなぁと最近よく思う。心強いし、仲間が多いと楽しい。自分の心も満ち足りる。

  人は1人でも生きて行けるかも知れないけど繋がりを知ったら1人では寂しい。

  私はそう思う。

  「実はずっと心配してたんだ。あの後どうしたかなってね」

  「順調よ」

  「そいつはよかったぜ。リベットには何しに?」

  「パパを探しに」

  「見つかるといいな」

  「ありがと」

  「ところで……」

  「ところで?」

  気になる言い方だ。

  クレイジー・ウルフギャングは『ところで』で言葉を区切った。

  何だろ?

  「ビリーはどうしたんだ?」

  「ビリー?」

  「この間メガトンに商売で行ったんだがあいつがいなかったんだ。何か知らないか?」

  「いなかった」

  意味が分からない。

  多分私達が街を離れた後の出来事なんだろうから直接的に分かるわけがないけど……いなかった、どういう事だろ。

  「悪いけど知らないわ」

  「そうか」

  「街で聞いてみた?」

  「そりゃそうさ。だけど誰も知らないんだよ」

  「ふーん」

  気になる。

  マギーがいるんだからメガトンを離れるとは思えない。だけど、それならどこに行ったんだろ。

  「心配よね」

  「ああ。あいつとは昔馴染みだしな。心配だぜ」

  「私も友達だから心配」

  うーん。

  ビリーどこに行ったんだろ?

 

 

  旅は続く。

  レイダー除けのキャラバンと同行しているからレイダーは襲って来なかったけどスーパーミュータントの小隊と出くわした。タロン社とも接触した。

  戦闘の結果?

  もちろん粉砕したわよ。

  商人であるキャバラン隊とはこのご時世だから充分過ぎるほどの銃火器で武装している。ある意味でそこらの傭兵より火力で勝ってる。街から街を渡り歩い

  ているんだから危険は傭兵の比ではない。当然武装にお金を掛けている。

  だから。

  だから大抵の敵はあっさり殲滅出来るだけの実力を備えている。

  一緒に同行しててよかったぁ。

  私達が楽できるもん。

  それに敵の身包みをそのままキャラバン隊に売ってキャップにする事も出来るし。

  まさに一石二鳥。

  「主。今宵はこの辺りで夜営するべきでは」

  「そうね」

  既に夜。

  グリン・フィスの意見はもっともだ。

  丁度廃墟のビルが近くにあった。天井はなく露天だけど廃墟の中に入れば壁には囲まれる。……まあ、その壁も半ば崩れてるけど。ともかく防衛の面では

  吹きさらしの場所に夜営するよりもマシだろう。万が一の際には壁が弾除けになるし。

  私が頷くとグリン・フィスは廃墟のビルに足音もなく走る。

  斥候のつもりだろう。

  クリスが目でカロンを促す。

  カロンは頷き、グリン・フィスの後に続いた。

  2人の従者は廃墟のビルに向かう。

  「一兵卒」

  「何、クリス?」

  「最近は落ち着く暇もないな」

  「まあ、そうね」

  メガトンを旅立ってから歩く、戦闘、歩く、戦闘の連続だ。

  確かに落ち着く暇はない。

  「一兵卒」

  「何?」

  「寝る前にマッサージしてやろう。お前は戦果を一番挙げているからな。上官として誇りに思う。だからその労いとしてマッサージしてやろう」

  「それはどうも」

  いつ上官になったそれはいつだ。

  軍隊ごっこは相変わらず好きらしい。

  まあいいけど。

  「言って置くが一兵卒、マッサージを受けていて変な気分になったら迷わずそう言え。大人のマッサージに切り替えてやるからな☆」

  「なっ!」

  「……今夜、ボク達は1つになるんだからね……」

  「……すいません。そんな予定はありませんのでご了承ください」

  「ちっ! 洒落の分からん奴だっ!」

  「……」

  洒落ですかね今のは。

  完全に目の色変わってました。

  クリスのキャラ性今だに私はまったく分からんっ!

  何なんだこいつはっ!

  うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああまともな奴を仲間にしたいーっ!

  どいつもこいつも一癖も二癖もある奴ばっかっ!

  ……やれやれだぜー。

  「なんか苦労してるみたいだな」

  「言わないで」

  心配そうなクレイジー・ウルフギャグを黙らせる。

  あまり苦労を再認識して浸りたくない。

  その時、グリン・フィスとカロンが戻って来た。少し表情が硬くなっている。私は察した。ビルに誰かいるようだ。

  「レイダー?」

  「いえ。そうではないようです。ただ自分は組織名に詳しくないので何とも言えません。カロンも知らないそうです」

  「何て組織?」

  「レールロードと名乗ってます」

  「レールロード」

 

 

  レールロード。

  その組織名は誰も知らなかった。クレイジー・ウルフギャグもだ。あまり知られていないマイナーな組織らしい。

  とりあえず私達は廃墟のビルに入った。

  こういうビルは当然ながら誰の所有物ではないし正当な居住の権利があるわけではないけど最初からいる連中に配慮をするというのは鉄則だ。私達は一晩

  ここに滞在させて欲しいと申請したところ、連中は、レールロードは快く快諾した。

  もちろん好意からだけではなさそうだ。

  要は私達がキャラバン同伴だからだと思う。レールロードは酒宴中。キャラバンが食料やアルコール類を販売していると踏んでの同席許可だ。

  あいにくクレイジー・ウルフギャグが扱っているのはジャンク品が主ではあったものの、このご時世に食料品は確実に売れる商品なのでわずかばかりとはい

  え売り物として携帯していた。食料やお酒は確実に売れる鉄板商品なのだろう。

  さて。

  「私はヴィクトリア・ワッツ」

  中年女性が私に声を掛ける。

  興味はない。

  同席しているとはいえ、既に私達は腰を下ろしてゆったりとしているとはいえ酒宴に参加しているつもりはないので声を掛けられても迷惑だった。

  特に話す事もないし。

  とはいえそれを露骨に口に出さない程度の礼儀は弁えている。

  私も名乗る。

  「ミスティよ」

  仲良くするつもりはないけどさ。

  どうせ朝になったらバイバイするだけなんだから。

  ……。

  ……それにしても妙な集団よね。

  防犯意識の欠片すりゃありゃしない。別に見ず知らずの私達を同席する事に許可したからではなく、こいつらの武装だ。男女合わせて15名いるけど武装に関

  しては貧弱すぎる。銃を帯びているのは3人だけだ。当のヴィクトリアはナイフしか帯びていない。

  私らがレイダーなら簡単に皆殺ししてる。

  まあ、略奪出来る品物もそんなになさそうだけど。

  「主。ご静養ください」

  「ありがと」

  グリン・フィスはただ1人壁に背を預けて立っている。

  ここにいる連中が『銃を乱射せずに略奪するレイダー』の類ではないかと疑っているようだ。

  それはそれでありえるとは思う。

  油断させて私達を皆殺し。そして持ち物を全て奪う。まあ、それはそれでありえるだろう。だから私も気は許していない。そしてそれは皆同じだろう。

  「世の中最悪よ」

  「はっ?」

  ヴィクトリアは愚痴る。

  完全に酒に酔ってるようだ。私に愚痴られても困るんですけどねー。

  「何が世の中最悪なの?」

  酔っ払い女に聞き返す。

  そうしないとこの会話が終わらないと思ってからだ。

  「全部よ。全部」

  「全部ね」

  既に絡まれてる気はする。

  「私らはアンドロイドの保護団体レールロードよ」

  「アンドロイド?」

  ロボットではなくアンドロイドか。もちろんロボットとは異なるのは私にも理解出来る。アンドロイドは完全に人に近い存在。

  呼吸をし、酒を飲み、ヌードルを食べ、間食までする。

  完全に人に近い存在。

  そして外観も人だ。

  皮膚も限りなく人間。一度人に紛れるともはや判別はつかない。

  ……。

  ……まあ、今さらそんな技術があるとは思えないけど。

  ただの酔っ払いの愚痴かな。

  ヴィクトリアは続ける。

  「私らが一生懸命に逃げたアンドロイドの情報を隠蔽しているのに連邦の連中は躍起になってる。この間は撃って来た。何人も仲間は死んだ。……最悪よ」

  「連邦?」

  どこだそりゃ。

  酔っ払いの愚痴なのか真実なのか見分けがつかない。

  もちろん関わる必要はないんだけど。

  「連邦から来たDrジマーが捜索の指揮を取ってる。……ちくしょう。せっかくリベットシティに彼を匿ったというのに」

  「そのアンドロイドは何者だ?」

  沈黙を保っていたクリスが身を乗り出した。

  熱心そう。

  ふぅん。

  興味あるんだ。

  色々な側面が見れてなんか楽しいかも。

  「アンドロイドの精度は?」

  「人間よ、完全にね。外見や行動だけじゃなく自分自身でも人間だと信じ込んでいるの。……例え本当は機械でも、人間じゃないにしても彼は理性的に考えら

  れるし感情だってある。だからね。私達人間と同じ精神があると我々レールロードは認識してる。アンドロイド保護が我々の目的なのよ」

  「完全に人間」

  「そうよ。あの人は人間なんだし、自由に生きる機会を与えられるべきよ。少しでも良識があるなら連邦から助けてあげて」

  そこまで言うとヴィクトリアはその場に崩れた。

  倒れ込む。

  酔い潰れたのだろう。

  ……。

  ……何て迷惑な奴だ。

  いきなり強制イベント勃発ですか?

  私はクリスに聞く。

  「連邦って?」

  「北部にある残骸と瓦礫の地帯。国家とかそういうのじゃあないわ。……ただ戦前の技術が隔離された状況で生きてる。アンドロイドはいまや連中のみが

  有する技術。ただ人工皮膚や人工知能に興味を抱かないのであればプロテクトロンで充分よ」

  「ふぅん」

  「是非とも欲しいわね」

  「……?」

  カロンもそうだけどクリスは手駒が欲しいのだろうか?

  アンドロイドを傘下にするつもり?

  私の視線に気付いたのかクリスは微笑した。

  「是非とも欲しいわ、ミスティの体☆」

  「なっ!」

  「上官命令である。ミスティ二等兵は直ちに寝床で私を待て。夜間攻撃訓練を実行するっ!」

  「すいませんそれエロですよね?」

  おおぅ。

 

 

  父を探して私は旅をする。

  痕跡を追って。

  痕跡を追えば新たな出会いが待っている。そして私は繋がりを広げていく。

  その果てにあるモノはなんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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