私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

34 / 207
連邦から来た男

 

  人脈は必要だ。

  人脈は金脈と同義。

  生きる為に必要で尊い事象であり不可欠な事柄だ。

 

  ミスティはミスティの人脈を築いている。

  私は私の……。

 

 

 

 

  

  リベットシティ。

  この都市でもっとも高級なバー。どの酒場でもそうだが様々な情報が手に入る。良質なものからクズな情報まで何でもござれだ。

  

  ざわざわ。

 

  カロンを率いて私は、クリスティーナはバーのテーブルを1つ陣取ってワインを飲んでいる。

  カロンも酒を飲んでいる。

  ざわめく常連達にしてみればグールが珍しいのだろう。

  確かに。

  確かにメガトンとは異なり多少はお上品な街だ。グールが街にいるという時点で信じられない状況なのだろう。

  何名か席を立ち、代金を支払って早足に去って行った。

  人は変質的に差別主義者だ。自分と異なるものを受け入れられない性質。それが人の本質であり私は別にカロンを毛嫌いして立ち去った者達を否定する気

  はない。私自身グールに対しては『区別』の心を持っているからだ。

  「クリスティーナ様」

  「……ん?」

  ワイングラスを傾けながら私はカロンを見る。

  「邪魔のようですから外でお待ちしましょうか?」

  「邪魔?」

  「クリスティーナ様まで偏見の目で見られています。グールである俺は外で待つべきだと……」

  「心配ない」

  「しかし……」

  「万が一銃撃戦になった時、弾除けのカロンがいないと心許ない」

  「……」

  「下らない心配をせずに酒飲んで、ツマミでも食べていなさい」

  「御意のままに」

  私はあくまで純血主義者。

  グールと人間を区別して考えているものの別に殺しはしない。ツバを吐く事もしない。グールが好きかと聞かれれば嫌いと答えるものの役立つ者に対しては

  正当に評価する。

  そこに嫌悪を含むべきではない。

  それが使う側の人間のすべき事だ。いずれにしても次世代には連れて行けないグールではあるが、使える奴は使う。

  それだけの話だ。

  「クリスティーナ様」

  「何?」

  「その、イグアナの串焼きを追加してもよろしいですか?」

  「ご勝手に」

  「ありがとうございます。……イグアナの串焼きの追加を頼む」

  私はワインを飲みながら店内の様子を探る。

  純粋な客は全部で13名いる。

  そのうち5名はいかがわしい連中だ。多分外から来た連中だ。銃火器を無造作に誇示しつつ酒を飲んでいる。

  後は多分常連客だろう。

  「イグアナの串焼き、お待ちどーさま」

  酌婦が皿に載せた数本の串焼きを持ってくる。グールに対して多少の偏見がある視線、そして私に対しても冷ややかな視線を送ってくる。軽蔑な視線だ。

  意味は分かる。

  要は『そんなにグールのモノがいいの?』という意味合いだろう。

  下品な発想だ。

  ジャラジャラ。

  私はテーブルにキャップをぶちまける。100キャップはあるだろう。

  「チップよ」

  「あら。これはどうも……ちょっ! 痛い、何すんのよっ!」

  ガっ。

  キャップに手を伸ばした酌婦の手を私は掴んだ。

  「この街で有名な整形外科は?」

  「整形外科?」

  「そうよ」

  何故整形外科を探すのか。

  私が整形する?

  まさか。これでも顔には自信があるわ。

  「ピンカートン」

  「ピンカートン?」

  「そこで飲んだくれてる爺さんよ。リベットシティ創設にも関ってるとかいう、自称天才科学者でもあるわ。……これでいい?」

  「ええ。いいわ」

  私は手を離す。

  酌婦はキャップを掻き集めてテーブルから離れた。

  何故整形外科を探すのか。

  答えは簡単だ。

  逃げ込んだアンドロイドの足跡を探す為。アンドロイドとロボットはまったく別物だ。要は神に作られたか人に作られたかの差しかない。この街に連邦からの

  追っ手が入る事は大体は察しているだろう、その脱走アンドロイドもね。

  ならばどうするか。

  顔を変える。それだけだ。

  根本の構成物質が異なるだけでほぼ人間だ。整形すれば顔が変わる。せっかく得た安住の地を捨てる事は少なくともしたくないだろう。だから脱走アンドロイド

  は顔を変える。私はそう踏んでいる。

  脱走アンドロイドを見つけてどうする?

  ……。

  ……連邦なんかに渡すものか。

  私の戦力にする。

  連邦から護るという条件さえ提示すれば交渉は出来るだろう。

  仲間が欲しい。

  仲間が。

  ミスティのような対等の仲間ではなく……厳密に仲間という名の部下が欲しい。

  「カロン」

  「何ですか?」

  イグアナの串焼きを上手そうに頬張るカロン。

  やれやれ。

  それが凄腕用心棒の姿?

  アズクハルほど私に対して憎悪はないようだけど……リラックスしてくれるのはいいけど、多少は緊張して欲しいものだ。

  「あの爺さんの席に移動するわよ」

  「クリスティーナ様」

  「何?」

  「これ、持ってってもいいですか?」

  「好きになさい」

  「御意のままに」

  イグアナの串焼きの皿と酒を持って移動するカロン。

  凄腕用心棒が聞いて呆れる。

  まあいい。

  私達は孤独に1人で酒を飲む老人のテーブルに移動した。同席を求めるでもなく勝手に座る。

  老人、非難の声。

  「何だあんたらはっ!」

  「ここの代金は持つ」

  「……そうかい。奢ってくれるのであれば同席を断る事はないな。それで何か用かい? 何か聞きたい事があるのなら寂しい老人に何でも聞いてくれ」

  「アンドロイドの整形した?」

  「何の事だい嬢ちゃん。そんなものはまったく知らない。その……何だっけ? アンドロイド? 何だそりゃ?」

  「知らないと言うの?」

  「まったく知らん」

  「ボケたのね」

  「な、なんじゃとっ!」

  「ボケにはこれが特効薬だと効いた。受け取っておいて」

  再びキャップ攻撃。200キャップ。

  お金は人の心を容易に和らげる。……もちろん通用しない相手もいるけど。

  ただしピンカートンには効いた模様。

  「こりゃ気前がいいな。貰っておこう」

  キャップを懐に入れる爺さん。

  そして声を潜める。

  「あんたら連邦か?」

  「いいえ」

  「ならば何故気にする?」

  「好奇心」

  「あんたが言うアンドロイドは私の前に1人の人間としてここにやって来た。しかし帰る時は別人だった。私が顔と記憶を取り替えてやった」

  「記憶も?」

  「そうだ」

  「……」

  絶句した。

  整形しただけだと思っていた。

  記憶まで操作したのであればこの老人は尋常な奴ではない。

  天才だ。

 

  「勘定を頼む」

 

  その時、柄の悪い連中がキャップを支払ってバーを後にした。

  カロンは串焼きを頬張りながら5人組を眼で追う。

  何か気になる事があるのだろうか?

  完全に退室するまで彼はその動作を続けていた。

  ピンカートンは酔っているのか、もしくはキャップを貰っているからか上機嫌で話を続ける。実にやり易い状況だと思う。

  このまま喋ってもらおう。

  全てを。

  「以前にそんな事をやった人間はいなかった。そういう方面になると連邦の技術も大した事はないからね」

  「ふぅん」

  「整形手術をする度胸と技術があるのはウェイストランドでは私ぐらいのものだ。アンドロイドの肉体は私達とそう変わらない。高慢でお利口なDrリーにもこん

  な芸当は出来ないだろうな。あの女には人生を台無しにされたが、まあいい。アンドロイドの名はハークネス」

  「ハークネス?」

  聞いた覚えがある。

  確か……。

  「リベットシティのセキュリティを統括する男さ。実はアンドロイドだ。本人は気付いていないがね。……いや忘れた気でいる」

  「忘れた、ではなく忘れた気?」

  「そうさ」

  「元の記憶を消していないのね」

  「なかなか鋭いな。そう、前の記憶は完全には消去していない。心の奥底に残ってる。アンドロイドに心という表現はおかしいがね。リコールコードを使えば隠し

  サブルーチンが作動して前の人格が蘇る。ハークネスは喜ばんだろうがな。ただ、今の自分に違和感を感じているのは確かだろう。あとは好きにしろ」

  「どうして連邦のアンドロイドの手助けを?」

  「何故だと思う? 連邦の技術がどの程度のものか見てみたかったのさ。話には聞いていたが信じられないものが入っていた。ジマーが彼を取り戻すべく部隊

  を連れてやって来たのも理解出来る。ハークネスは連邦の最先端技術が使われているのさ。つまりは機密保持の為の奪還だな」

  「レールロードについては?」

  「レールロードだって? あいつらはただの偽善者の集まりさ。いずれは殺されるだろうよ」

  そうだと思う。

  危機管理もまったくなく面倒に自分から好んで飛び込む集団レールロード。

  いずれ全滅するのがオチだ。

  もしくは自滅する。

  どっちにしても長生きは出来ないタイプだとは思う。

  どうでもいいけどさ。

  「それで? 貴方ほどの技術者がここで飲んだくれて何をしてるわけ?」

  「ふん。Drリーや他の科学者の衣装を来た猿どもを観察しているのさ。……俺は元々電気技師でコンピューターのエキスパートさ。それに外科手術も出来る。

  マジでもっとも才能溢れる科学者なのさ。元々は俺がリベットシティを作り上げたんだ」

  「作り上げた?」

  酌婦もそう言っていた。

  ただ世間的には誇大妄想だと思っているようだ。

  だけど。

  だけどこれだけの技術があるのだ。

  あながちデタラメではないだろう。多少のホラがあるにしてもね。

  天才なのは確かだ。

  「すべてが整った後、Drリーとその取り巻きに追い出されたんだ。あの馬鹿女がっ! 何が浄化プロジェクトだ。なんて馬鹿どもだ。水さえも浄化できんとは」

  その後。

  その後、ピンカートンは鬱憤を口にしまくった。

  聞く気もない。

  興味すらない。言うに任せて私達はバーを後にした。

  もちろん約束通り奢った。

  さて。

  「カロン。市場に行くわよ」

  「御意のままに」

 

 

  市場。

  リベットシティの中でも一番広く、一番賑わっている場所らしい。

  確かに人は多い。

  橋でハークネスは『昼間はここにいる』とか言っていた。

  「クリスティーナ様」

  「何?」

  「差し出がましいのですが……ハークネスに会ってどうなさるおつもりですか?」

  「さあ」

  「さあ、とは?」

  「まだ決めていない」

  「はっ? ……い、いえしかし既にかなりのキャップを使用しているではありませんか」

  「キャップは手段。私にしてみれば溜め込むものではない」

  「なるほど」

  「……」

  さて、どうしたものか。

  ハークネスのアンドロイドの記憶を呼び覚ますかどうかはまだ決めていない。覚醒させたところで私の手駒になるわけではない。仲間にするならそれなりの

  方法が必要だ。まだその方法を考えていない。

  どちらにするか。

  ハークネスの記憶を覚醒させてアンドロイドと思い知らせるか。

  それともこのまま放置するか。

  ……。

  ……しかし連邦の部隊が既にリベットシティに入っているらしい。ハークネスを見つけるまで詮索を続けるだろう。厄介なのはハークネスが連邦に追われて

  いる、という記憶すら既にないという事だ。ピンカートンが喋ったら、連邦がピンカートンと接触したらそれでお終いだ。

  ああも簡単に買収されたぐらいの老人だから連邦にご馳走されたら全て話すだろう。

  結局。

  結局ハークネスは連れて行かれるだろう。

  ならば。

  「カロン」

  「何でしょうか?」

  「連邦が動くとどうなると思う?」

  「ハークネスは必然的に危機に晒されます。クリスティーナ様、何もせずともこのままでは危険が迫るでしょう。ならば記憶を呼び起こすのも仕方ないかと」

  「ふむ」

 

  ざわざわ。

 

  その時、市場の群集がどよめいた。

  意味は分かる。

  「来たわ」

  実に都合がいい。

  同じ顔の集団を引き連れた老人が市場のど真ん中の通りを我が物顔で歩く。あれがDrジマーだろう。そして同じ顔の連中はアンドロイド部隊。

  ふぅん。

  実在したのか。

  初めて見た。数は20体。戦闘能力は未知数だけど同じ顔がああもいると気味が悪い。

  他のバリエーションの顔は作らなかったのだろうか。

  「カロン」

  「はい」

  「高みの見物」

  「御意のままに」

 

  市場の真ん中にはハークネスがいる。セキュリティの兵士は市場の人々の避難で手一杯。

  ハークネスの前で止まる連邦の部隊。

  「何か御用ですか?」

  「何か御用ですか。なるほど。シスター君の言っていた通り記憶が完全に消されているようだな。奴隷商人というのも使い方によっては役立つものだな」

  奴隷商人のシスター?

  修道女上がりなのだろうか。

  まあいい。

  「今は何と名乗っているのかな?」

  「意味が分からんな。俺はリベットシティのセキュリティ主任ハークネスだ。……連邦の科学者殿。ここでの倣岸はほどほどにしておいて貰いたい。ここは連邦

  ではないのですから恥を掻く前に控えるのが人として正しい道です」

  「ふん。ほざきおるわ」

  Drジマーは手を挙げる。

  バッ。

  それと同時にアンドロイド部隊が動いた。

  ハークネスを囲む。

  同じ顔の連中が一斉に動くのだから市民は大慌て。セキュリティ兵は市民の避難を優先している。

  ……。

  ……このままではまずいか。

  ハークネスの記憶を呼び起こすのはとりあえずやめておこう。

  その程度の配慮と思慮が私にもある。

  自分が今は人間だと思っているのならそれはそれでいいだろう。もちろん人は老いるけどアンドロイドは老いない。いつかは気付くだろう。しかしそこは私の

  関知するところではない。

  「カロン」

  「はい」

  「助ける」

  「御意のままに」

  私は32口径ピストルの弾丸を数発をハークネスの腕を掴もうとしていたアンドロイドの頭部に叩き込む。

  アンドロイドはそのまま引っくり返った。

  アンドロイドも人間と同じだ。

  頭部に全ての知識が収められている。そして全ての源。そこが破壊されれば機能は停止する。

  死亡?

  いいえ。

  機能停止。

  少なくとも殺人罪には問われない。

  そして相手がアンドロイドと明確である以上、ハークネスも私の罪は問わないだろう。ハークネスに現在進行形で暴力を振るおうとしているのだ。

  問題あるまい。

  私とカロンは銃を構えて連邦の部隊の背後を衝く。

  これ以上の攻撃はしない。

  銃を構えて静止。

  「何だお前はっ!」

  「クリスティーナ。彼に加勢する」

  「これは連邦の問題だ。キャピタルウェイストランドの原住民は黙っていろっ!」

  「そんなにアンドロイド技術が大切? ……他に例がない最先端の技術。それを失うのが怖い。自分達ではすぐに同じ技術を再生出来ないから」

  「貴様どこまで知っているっ!」

  「さあ?」

  「……貴様、ただの原住民ではないな? 何者だ?」

  「赤毛の冒険者の仲間」

  「……」

  Drジマーは私の顔を凝視している。

  何かを読み取ろうとしている。

  甘い。

  心を消す術は熟知している。表情から読み取ろうとしても無駄。

  ハークネスは何の事か意味が分からないという顔をしている。それはそうだろう、記憶が戻っていないのだから。

  「手を引け、クリスティーナ」

  「何故?」

  「連邦の問題だからだ」

  「いいえ。当人の問題」

  「当人? はっ! あいつはアンドロイドだぞっ! 人格なんぞただの副産物、ただの幻想だっ!」

  「そこにたくさん人形がいるでしょう。満足でしょう」

  アンドロイド部隊を指差す。

  知識はあるが専門家ではないのでどう異なるのかは私には分からない。

  Drジマーは熱っぽく語る。

  「私が探しているアンドロイドは逃亡したアンドロイドを狩る為の存在だった。進歩したAIが自分自身を定義しだしたんだ。そう、大量にアンドロイドは逃げ

  た。しかしここに逃げ込んだ奴は他のとは出来が異なる。特別なんだ。私が創造した中で最も新しく統合的なヒューマノイドなのだ」

  「……」

  「私が率いてきた護衛用アーミテージどもは旧式でしかない。簡単に複製できる。しかし奴はもう一度作るのに数年掛かる」

  「ちょっと待て。何の話をしているんだ?」

  ハークネスが疑問の声を上げる。

  Drジマーは薄く笑った。

  「お前はアンドロイドなんだよ。つまり、連邦である私の所有物だ」

  「何を血迷い事をっ!」

  「ではお前の過去を正確に言ってみるがいい。全て分かるさ」

  「私の過去……私は……」

  「さあ、誰だ?」

  「私は、私は、私は誰だ?」

  「教えてやろう」

  Drジマーはハークネスの耳元で何かを呟く。

  まさかリコールコードっ!

  「カロンっ!」

  「御意のままに」

  私は発砲。

  カロンはコンバットショットガンを撃つ。私の銃では威力不足で数発叩き込む必要があるがカロンのショットガンなら一発でアンドロイドを屠れる。

  頭部をふっ飛ばせば連中は機能停止する。

  アンドロイド部隊は私達に迫ってくる。後退しながら私達は銃を乱射。相手は相手でレーザーピストルを撃ってくる。

  敵対する理由?

  特にない。

  ……。

  ……ふふふ。もしかしたらミスティに影響されているのかもしれない。

  おかしなものだ。

  「カロン、援護っ! 何とかしてっ!」

  「御意のままに」

  踏み止まりコンバットショットガンを連射するカロン。私は銃を撃ちながら市場の一画に走る。銃砲店だ。

  店主に銃を突きつける。

  「非常の際よ、強力な銃を貸してっ!」

  「おいおい、物騒な奴だな。……まあいいさ。そこにあるのがこの店で最強の武器だぜ。使いなっ!」

  「……」

  絶句する。

  指差されたのはヌカ・ランチャー。

  さすがにこれはまずいだろ。

  船に穴が開く。

  「ほ、他の武器は何かないの?」

  「ミニガンはどうだ?」

  「ミニガン」

  まあいいか。

  弾丸装填。私はミニガンを構えて戦場に戻る。

  「クリスティーナ様、全滅させました」

  「はっ?」

  「クリスティー様が命令されました。何とかしろと。何とかしました」

  カロン、単身でアーミテージ部隊を殲滅。

  私の出番なし?

  「ご、ご苦労様。さすがね。今後も頼りにしてるわ」

  「御意のままに」

  2000キャップは安かったわね。

  用心棒というより戦士。

  さて。

  「Drジマー」

  チャッ。

  ミニガンではなく32口径ピストルの銃口を連邦の博士に向ける。

  奴の側にはハークネスが蹲っていた。

  記憶が戻ったのだろうか?

  ともかく。

  「お前を殺す」

  「ま、待てっ!」

  「ここは連邦が介入すべき土地ではない。……出過ぎたわね、田舎者の世間知らずめ。お前らに世界の命運は相応しくない。退場してもらう」

  「待つんだっ!」

  「世界の定めは私が決める。連邦の好きにさせる気はない」

  バァン。

  躊躇う事なく私は引き金を引いた。

  Drジマー、死亡。

 

 

  「……なんてこった。全部思い出した……」

  蹲ったままハークネスは呟く。

  周囲はざわめいていた。

  それはそうだろう。

  Drジマーの言う事が正しいかどうかはともかくとしてかなりショッキングな内容だった。ハークネスは人ではない。リベットシティの住人が信じる信じないは

  別として今後ハークネスは仕事がやりづらいのは確かだろう。

  そして。

  そしてDrジマーの言葉は紛れもない事実。

  奴はいない。

  死んだ。

  それでも一度知ってしまった真実は消える事はない。

  決して?

  決してだ。

  「……ジマーの事、連邦の事、機関の事も思い出した……」

  「……」

  周囲の人々も聞いている。

  だけどハークネスは語り続ける。まるで誰も眼中に入らないかのように。

  私は黙って聞く。

  カロンに目配せする。カロンは心得ていてコンバットショットガンを手にしたまま周囲をウロウロする。

  野次馬根性程度の連中にはうってつけの虫除けだ。

  グール+銃火器=近付きたくない。

  良い方程式。

  「連邦から逃げたのは何故?」

  「俺は逃亡アンドロイドを追い詰める度に連中から自主決定や自由の意思というのを吹き込まれた。最初は理解出来なかった。連中を逃亡に駆り立てたのは

  ただのシステムのエラーだと思ってた。しかし気付いたんだ。逃亡しようとしているアンドロイドは正しいのだと。我々は連邦の奴隷に過ぎないと」

  「どうしてここに?」

  「特に意味はない。俺は自分の顔と記憶を帰ることの出来る人間を探していた」

  「ピンカートンね」

  「そうだ。レールロードに紹介された」

  「そう」

  「……だが既に水の泡だな。今さらピンカートンに同じ事をしてもらおうとは思っていないさ」

  「何故?」

  「同じ事の繰り返しだからだ」

  「……」

  連邦は次の追っ手を繰り出してくる可能性が高い。

  ハークネスがどれだけ最先端かは知らないけど諦めるとは思えない。Drジマーがどういう階級かは知らないけど旧式とはいえアンドロイドのアーミテージの

  部隊を率いていたのだからかなり高い階級だろう。そいつが今回戦死した。部隊は全滅。

  ふぅむ。

  どう転んでも追っ手は来る。

  そして記憶を消せば遅れを取る、同じ事の繰り返しとはそういう意味合いだろう。

  「これからどうするつもり?」

  「誰だって自由な人生を生きるべきだ。私はそうした。新しい人生を選んで過去を捨てたんだ。……だが連中のお陰で思い出してしまった」

  「……」

  「私は今後、人間である事を選ぶ。これは私の選択だ」

  「だけど今後も同じ事の繰り返しよ」

  「……それを言われると痛いな。それに、もうこの街にも居辛いしな」

  「私と来ない?」

  「君と?」

  「世界を変えよう、私と一緒に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。