私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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終末の世界

 

  キャピタルウェイストランド。

  何故かここはそう呼ばれているらしい。

  アメリカと中国の全面核戦争から200年後の世界。そこは放射能と荒廃に包まれた、狂気の世界。

  そこに救いはある?

  そこに救いは……。

 

  そこは終末の世界。

 

 

 

 

 

  スプリングベールの街の廃墟で一夜を過ごし、私は南に。

  PIPBOYの情報では南に集落がある。

  結構大きい。

  おそらく人が住んでいるだろう。

  友好的?

  敵対的?

  そこは当然ながら分からないけど行くしかない。少なくとも人がいれば食べ物も飲み物もある。私に対する接し方はどうでもいいのよ。

  対話には口があればいい。

  もしくは、銃ね。

  私はパパが見つかればそれでいいのよ。その為の犠牲など知ったことか。

  「はぁ」

  荒廃した世界を私は歩きながら、腹を決めていた。

  敵対する奴は全部敵っ!

  妥協もしない。

  阻む者は全部デストロイっ!

  ボルト101から放り出された私にはもうパパしかいない。絶対に会わなきゃ。

  もちろん誰彼構わずに襲うわけじゃあない。

  あくまで襲われた場合の、心構えだ。前述のデストロイ云々はね。

  ザッ。ザッ。ザッ。

  足取りは次第に重くなる。

  大義名分も純然たる目的もあるものの、それでは空腹は凌げない。お昼ご飯にヌカ・コーラ2本飲んだ。炭酸で一時的に飢えを凌いだ

  つもりになるけど、飢えが癒えるわけでも消えるわけでもない。

  お腹空いたなー。

  それに世界が荒廃し過ぎてるのも気が滅入る。

  「……荒涼とした世界、か。予想してたよりはまともだけど……気は滅入りますなー……」

  荒廃。

  荒廃。

  荒廃。

  あるのは残骸と瓦礫、核の影響なのか岩場が多い。足場も異様に固いし。こりゃ植物は育たないわね。この堅い地盤を突き破ってま

  で芽を出す植物などありえない。

  核の影響で巨大な植物群があるのも面倒だけど、ここまで荒涼とした世界観も気が滅入る。

  腐海(ナウシカ)がないのは幸運ではあるけどさ。

  腐海尽きる時、人類滅亡なわけだし(マンガ版ナウシカの最終的な結末)。

  「はぁ」

  ザッ。ザッ。ザッ。

  一歩一歩。私は進む。

  足取りは重いけど体力ある内に進まないと。休憩の連続はあまり良いとは言えないし。

  体力温存は大切?

  それはそうだけど、その場合は食料がないとね。そうじゃなきゃ成り立たない。今の私には手持ちの食料ゼロ。日が経てば経つほど、ど

  んなに体力温存してても次第に体力と生命は奪われていく。

  少なくとも明日には私は死ぬ。

  気力。

  体力。

  これがまともな内に歩けるだけ歩かないと。

  照り付ける太陽が容赦なく水分と体力奪うし。屋根のある場所で休む必要がある。

  早急にね。

  「……」

  ザッ。ザッ。ザッ。

  すぐには死なないけど、リミットは決められている。リミットがオーバーする前に辿り着ければいいけど。

  ここで死んだら笑うだろうな、監督官。

  笑わない?

  さあ、それは知らない。けど、私は笑うわ。いきなり物語終了かよってね。

  「誰もいないんだよなぁ」

  今まで人に会っていない。

  誰にも?

  誰にも。

  白骨死体はいくつか見たけど、あれは『元人間』だ。少なくとも喋りはしない。誰かと喋りたいなー。

  もしかしてこの世界は完全に滅びてる?

  そう思った。

  核で人間全て消し飛んだ、それはそれでありえるなー。

  そしてその場合はまずいだろうよ。

  ……まずいなー。

  「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

  「ん?」

  声が聞えた。

  幻聴?

  ……なわきゃないか。まだそこまで追い詰められていない。

  アイボットかとも思うものの、違う。

  私は手にしたバットを構えながら物陰に、岩陰に隠れる。声は次第に近付いてくる。

  女性の声だ。

  「誰か助けてっ! レイダーに、レイダーに爆弾を括り付けられたのっ!」

  レイダー?

  誰だそいつは?

  しかし分かっている事が1つ。

  声は切迫している、そして爆弾云々は嘘ではない。解除出来るかは分からないけど、解体の知識はある。……実地はないけど。

  岩陰から飛び出そうとすると……。

  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  爆発音が響く。

  思わず私は耳を塞いだ。

  ……。

  「くそ」

  せっかく初めて『外の人間と接触♪』と思ったのに。強制終了かよ。

  確認するまでもないだろうね。あの女性は爆弾で消し飛んだに違いない。

  「こいつは死肉の塊だーっ!」

  「ひゃっははははははははははぁーっ!」

  「暇潰しにはなったねぇ」

  3人の声が新たに聞える。

  流れからして『レイダー』とかいう連中だろう。個人の名前ではなく、組織の名前か。数は3名。男2名、女1名。

  私は移動。

  物陰を這うように、移動。

  そーっと覗き見る。

  距離30メートルの位置に3人がいる。レイダーとかいう連中だ。

  死体……いや、死肉の塊を見下ろしながら談笑している。死体を食べるわけではないのだろうけど、バラバラに吹き飛んだ女性を

  見下ろしながら談笑するのは人としてどうよ?

  殺すのとは訳が違う。

  さすがに私も連中の感性は理解出来ない。

  ……いやまあ、理解出来なくていいんだろうけどさ。

  「ふむ」

  バットを岩壁に立て掛ける。

  バットでは無理だ。

  相手の武装は銃器。女は中国製ピストル、男達は私と同じ10mmピストル。三丁の銃相手に、バットはありえないだろう。

  銃弾が惜しいと言ってる場合ではない。

  私は銃を手に取る。

  連中は敵?

  さあ、それは知らない。

  しかし愉悦の為だけに人を殺す相手であるのであれば。

  殺したって問題はないでしょ?

  物資を手に入れるには最適の相手だ。連中の服装は……正直『北斗の拳の雑魚キャラかよっ!』と叫びたくなるような代物だ。タイヤ

  の廃材なども利用しているみたい。あれはまあ、いらない。

  だけど銃器は必要だ。

  弾もね。

  連中もカテゴリー的には人間だから……いやまあ、人間じゃないにしても生き物だから、食料や水は保持しているに違いない。

  保持していなかったらこんな『爆弾ゲーム』はしないはず。

  飢えと渇きが満たされてこその遊び。

  連中から色々と巻き上げてやる。

  くすくす♪

  「行くぞ行くぞ行くぞー」

  すーはー。

  すーはー。

  すーはー。

  深呼吸して息を整える。タイミングを計る。せーの、今だっ!

  バッ。

  私は物陰から飛び出した。

  相手はまだ私に気付いていない。距離は30メートル。

  ボルト101から持ち出したこの銃は手入れが行き届いている。調整も完璧。この距離なら、この精度なら誤差はさほどなく当たるはず。

  10mmピストルを構える。

  照準を女の頭に……。

  「……っ!」

  どくん。

  どくん。

  どくん。

  まただ。心臓が鼓動を脈打つ音が聞える。

  全てがスローになり、止まる。レイダー達は丁度私に気付き振り向いた瞬間、止まる。……いや、停止する。

  どくん。

  どくん。

  どくん。

  監督官は私を『メタヒューマン』と呼んだけど……この能力は、何?

  毎週打たれてた薬は抑制剤?

  今、私は薬から解放されている。能力は解禁されている。この能力の副作用は分からないけど……だけど今はっ!

  今はっ!

  ばぁん。

  ばぁん。

  ばぁん。

  3発の銃弾が勢いよく銃口から飛んでいく。今の私には銃弾の軌道すら見える。……す、すげぇ……。

  銃弾は吸い込まれるようにレイダーに飛んでいく。

  そして……。

  『……っ!』

  時が動く。

  レイダー3人は弾ける様に後ろに吹き飛んだ。しかしまだだ。

  男2人は弾が額にめり込んだけど、女は頭部にかすったに過ぎない。銃弾がかすったから脳震盪を起こして倒れているに過ぎない。

  タタタタタタタタタッ。

  私は走る。

  「く、くそぅ」

  女はよろめく。状況判断は出来ないようだけど、体は辛うじて動いている。

  少なくとも指は動くようだ。

  ばぁん。

  ばぁん。

  ばぁん。

  中国製ピストルを乱射。しかし視力は混濁しているようだ。私には当たらない。

  そして……。

  ばぁん。

  「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

  女は永遠に沈黙した。

  私が黙らせた。

  立っているのは私だけ。確認するまでもなくレイダー達は死んでいる。私は銃を収めた。

  銃弾は消費したけど補給は出来る。

  こいつらの持ち物は私のモノ。

  俗に言う、あれよね。『お前のモノは俺のモノ、俺のモノは俺のモノ』。私が崇拝する旧時代の神ジャイアン様のお言葉だ。

  彼は神よね。うっとり♪

  「ふむ」

  転がるレイダー達に近付き、私は微笑した。

  「死肉の塊よね、あんたら」

 

 

  「ちぇっ。ろくなモノないわねー」

  銃は三丁。

  数はあるけど、10mmピストルの内の一丁は精度悪過ぎ。撃てば暴発する可能性もある。これは……使えないな。もう一丁の10mm

  ピストルもあまり使い物にはならない。ちゃんと整備しなさいよね、まったく。

  まあ、予備には使えるか。

  もしくは売ろう。

  暴発の可能性のある銃は……分解して、材料にしよう。銃の整備には使えるわ。

  中国製ピストルは……同じく使い物ならない。

  こいつも売るかな。

  そうだ。そもそも弾ってどこで手にいれるんだろ?

  まあいいや。

  「うっめぇー」

  ムシャムシャ。

  スナック菓子を貪る。こいつらが所持していたのは食料……ではなくスナック菓子。ガムもある。

  お腹は膨れないけど胃は食べ物を求めてた。

  よしとしよう。

  それに銃器の他に弾も手に入った。10mm弾が約50発。弾が手に入ればその分、銃は気軽に使える。銃は偉大な力なり♪

  後はキャップ30枚。

  何するんだろ、これ?

  もしかしたら今の時代、このキャップが高値で売れるのかもしれない。

  大事にしよう。

  その時……。

  「誰っ!」

  バッ。

  振り向き様に私は銃を構える。ボルトから持ち出した銃と、今手に入れた使い物になる方の銃を同時に構える。

  一丁は男。

  一丁は女。

  首が二つある奇妙な生き物を従えている。その生き物の背にはたくさんの荷物。

  確かこの生き物のフォルムは……牛だ。前に辞典で調べた。

  でも首二つはなかったよなぁ。

  放射能の産物?

  2人は騒がない。どちらも背にはアサルトライフルがあるものの、構えてすらいない。

  男は両手を広げて朗々と語り出す。

  「クレイジー・ウルフギャングのガラクタ行商店にようこそっ!」

  「ガラクタ?」

  「瓦礫の山、クズの店、ゴミのキャラバンですっ!」

  「あっははははははっ!」

  何て歯切れの良い男なんだろ。

  気持ちの良い啖呵だ。

  外の世界は完全なる地獄ではないらしい。ボルト101と同じだ。良い奴もいれば悪い奴もいる。そして楽しい男もいる。

  私は銃を収めた。

  こいつらは行商人か。

  世の中不思議が一杯だ。

  「ウルフギャング家の中で一番クレイジーな俺様がどんなガラクタを提供しましょうか?」

  「モノの買取は?」

  「してるよ。どれ売るんだ? そいつらの身包みも売るか?」

  「そいつら?」

  レイダーの死体を指す。

  「鉄の掟で下着は剥がないがね。レイダーの服はそれなりに需要があるんだ。高く買い取るよ」

  「じゃあ、よろしく」

  お願いするとウルフギャングと女性は身包みを剥いでいく。

  なかなか良いお仕事ですなぁ。

  「銃器の買取は?」

  「してる」

  「じゃあ、これもお願い」

  スプリングベールで拾ったガラクタなナイフとバットも売る。今のところ弾が潤沢にあるから問題ない。使えるナイフは所持してるし。

  ジャラジャラ。

  代金を両手で受け取る……なんじゃこりゃ?

  「これキャップよね?」

  「そうだよ」

  「ドルは?」

  「ドル? ははは。あれは今じゃガラクタだよ。今じゃそれが通貨なんだ」

  「へー」

  世の中意味不明。

  コーラのキャップがお金かぁ。いやまあ、いいんですけどね。

  ウルフギャングから丁度良いサイズの皮の袋を買い取る。財布に使おう。キャップを全部入れる。

  それにしても良い情報源だ。

  この人から色々と聞こう。

  「レイダーって何?」

  「無法者の総称さ」

  「無法者」

  まあ、善人ではないわね。

  「だけど俺達は狙わないよ。君がどこに行くつもりかは知らないが、メガトンまでなら一緒に行こう。俺達といれば安全さ」

  「メガトン」

  「南の集落だよ。この辺では一番大きい。リベットシティには劣るだろうけどね」

  「へー」

  南、か。

  多分PIPBOYが示す場所だろう。それにしてもこいつらといれば安全、か。

  何故に?

  「どうして安全なの?」

  「レイダーは旅人を襲って生き延びてる。だけど行商人は別だ。俺達を襲えば街は潤わなくなる、旅をしようとする奴は干上がる、

  旅人はいなくなる。だからさ。俺達行商人は安全なんだ。……人間以外にはこのルールは適用されないがね」

  「だよね。それで、あなたは何のお仕事を?」

  「ウェイストランドの中でガラクタでも高級なやつを見つけるのさ。瓦礫やゴミの中にも宝物があってそれを欲しがる連中は多いのさ。

  廃棄部品なんかは予備のパーツとしても使えるしな。頭の使い方1つで、ガラクタはガラクタじゃなくなる」

  「なるほどなぁ」

  「カンタベリー・コモンズは俺のシマだ。俺達キャラバンの拠点……じゃないが、まあ、同じようなものか。ロエさんは俺みたいな腕利き

  の回収屋にはいつも仕事をくれる」

  「カンタベリー・コモンズ」

  「東の街さ。俺はガラクタ専門、ラッキー・ハリスは銃器専門、クロウは防具……まあ、服専門、Dr.ホフは医療品と食料品、飲料水

  を扱ってる。街から街へと転々としてるよ、俺達は。見掛けたら声を掛けてくれよ。仲良くしようぜ」

  「こちらこそよろしく」

  ギュッ。

  堅く握手。

  外の世界で初めて会った友好的な人物だ。

  なかなか良い奴みたいだし。

  「ウルフギャング、終わったわ」

  レイダーの服を剥ぎ取った女性が報告。その場に残るのは下着姿の死体。……さすがは乱世、こんな光景は当たり前かぁ。

  「よぉし。じゃあ行くか、えっと……」

  「ミスティ」

  「よろしくなミスティ」

  「こちらこそ」

  いざメガトンへっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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