私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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メガトンにようこそ

  メガトン。

  ボルト101付近にある巨大な集落。この近辺では最大だ。ただ東のリベットシティには劣るらしい。

  街の周囲は硬質な材質で塀の様に覆っている。

  唯一の出入り口は堅く閉ざされ、無法者達の侵入を拒んでいる。

 

  必ずしも豊かな街ではないものの、内部には簡易ながらも水の浄化装置もあったり、外部との物資の流通も確立していたりと安定性

  のある街ではある。人口も多く秩序は成り立っている。

  パパはここに立ち寄る。

  私の予測は外れてはいないはず。

  私の予測は……。

 

 

 

 

 

  「メガトンでの滞在をお楽しみください」

  「ありがと」

  私は礼を言い、メガトンの門を通り過ぎる。

  「あばよ、ミスティ」

  「ありがと。ウルフギャング」

  これまた礼。

  最初の言葉は人間ではなかった。ロボット。自らを副官ウェルド名乗っていた。誰の副官かは不明。ともかくメガトンの防備だろう。

  タイプはプロテクトロンだ。

  確かロボコ社が開発した戦前の二足歩行ロボ。

  武器は両腕に仕込まれたレーザーガン。

  軍用に正式配備する事が前提だったものの、軽量性を重視した為に装甲が脆く軍用には転用されなかった。結果、民間への販売

  が始まったものの、これが馬鹿受け。

  コンビニ、地下鉄、会社などの対テロ用兵器として使われ、また個人の護衛としても使われたようだ。

  その内の一体がメガトンの番犬なわけだ。

  まあ、そこはいいか。

  ともかく二番目の礼はここまで同道してくれたクレイジー・ウルフギャングに対してだ。

  感謝しないとね。

  ただウルフギャングは仕事に忙しいらしい。到着の時刻を知っていたのか、眼帯した男が出てくる。

  「今日は何がある? 水道屋が廃材が欲しいと言ってたが、あるかい?」

  「よおビリー。見てってくれ、このガラクタの山をっ!」

  商談がお忙しいようで。

  私はメガトンの中に入った。

  「へぇ」

  街は思っていたより巨大だった。

  最初から塀があったのだろうか。街は外に外に伸びるのではなく、上に上に伸びている。高所に高所に発展して行ってる。

  人口は多そうだ。

  「人間しぶといなぁ」

  それが第一感想。

  全面核戦争で人類滅亡した……はずだった。それでも人間はしぶとく生き延びている。

  文明が崩壊しても。

  国家が崩壊しても。

  地球にはまだ人間がこんなにも生き延びている。

  放射能はしつこく地や水に残っているけれども、人間もしぶとくこの世界に根付いているのだ。ボルト101のような快適さはないとは思

  うけどこの街に溢れている人々の顔には『生きている』表情があった。

  別にボルト101の人間が偽善だとは言わない。言わないけど、ここの人達にはハングリーさがある。

  「人間しぶといなぁ」

  再び呟く。

  強い印象だ。

  「うげぇっ!」

  ……前言、撤回……。

  見てはならないものを見てしまった。おそらくは街の広場だろう、そこに1つの物体がある。

  何があるかって?

  えっと、その、あー……核爆弾。

  あっはははははははははははははははははははははは街の広場に核爆弾だって笑えるー……わきゃないだろうがこのボケーっ!

  何なんだこの街はっ!

  広場に核爆弾野晒しこれが世紀末のギャグなのかーっ!

  ……世の中って不思議一杯だなー。

  あの規模が爆発すれば、そうね、ボルト101には影響はないとは思うけど、少なくとも吹き飛ぶ事はないと思うけど、この街はなくなる。

  てかクレーターになる。

  何故に爆弾?

  「ん?」

  1人の黒人の男性がこちらに向かってくる。私を見つめるその眼。

  「えっと」

  振り返る者の、誰もいない。

  私に用があるらしい。

  髭面の黒人。

  パパよりも歳は上の様に見える。だけどあの服装は何?

  古い文献で読んだ『西部劇の保安官』のような格好だ。本人は格好良いと思ってるんだろうけど……微妙。

  私の目の前で止まる。

  やっぱり私に用があるのか。

  「あの、何か?」

  「俺はルーカス・シムズ。街の保安官で、必要な時は市長になる」

  保安官、か。

  きっと保安官=この格好だぜー、なのだろう。

  「私はミスティ。素敵な格好ですね」

  私も礼儀は弁えている。社交辞令もお手の物。

  保安官、相好を崩す。

  ……あっ、その格好誉められると嬉しいんだ。自信のコーディネートらしい。

  ……さすが世紀末だなー。

  「特に理由はないがお前は悪い奴ではなさそうだな。何の心配は要らなさそうだ。メガトンにようこそっ! 用があったら言ってくれ」

  「良い場所ね。人が、たくさん暮らしてる」

  「親しみ易くてマナーがありそうだろ? お前とはうまくやれそうだな。住民と仲良くしている内はいつまでもここに滞在するといい」

  「ありがとうございます」

  「お互いに理解しあえて何よりだ。何か必要な事はあるか?」

  「……それで、その……」

  「ん?」

  「何だって、あそこに爆弾があるの?」

  指差す。

  確かに核爆弾があるのだ。空腹から起こる幻覚ならいいんだけど……てか幻覚だと言ってーっ!

  ガクブルしちゃうわよ、さすがに。

  「ああ。あれか」

  保安官、頷く。

  ……見えてるのかよ。私の幻覚じゃないのかー。

  この街、怖い。

  「何故に爆弾の周りに街があるわけ?」

  「この街は一晩で作られたわけじゃない。何十年も前からここにあって発展を続けてきたんだ。元々はボルト101に入りたい人間が集

  まった小さな集落だ。受け入れを拒絶されてここに留まったのさ。そして今に至る」

  「撤去しようとは?」

  「したさ。だが無理なんだよ」

  「無理?」

  「そのうちに爆弾を神様として崇めるクレイジーな連中が現れて、あの忌々しい巨大な教会が出来たわけさ。確かにあいつらは異常

  ではあるが、危険ではない。……あの爆弾は今まで爆発してない。当然だがな。皆はもう爆発しないと思ってる。俺は違うがな」

  「教会?」

  指差す方向にいくつか建物があるけど、どれが教会かは分からない。

  核爆弾を神様、ね。

  馬鹿かそいつらは。

  猿の惑星に出てくる人間かよ。

  「はぁ」

  溜息。

  人類は生き延びてはいるものの、知性の面では退化しているみたい。核爆弾の脅威を忘れてる。

  調べてみないと分からないけど多分あの爆弾は生きてる。

  対処する必要がある。

  爆発しないにしても無力化の処置は必要だろう。

  私にはそれが出来る。

  ボルト101は閉鎖空間ではあるものの、利点もある。知識の伝達は合理的に行われている。何故なら統制が出来ているからだ。

  統制が出来ていれば教育も成り立つ。

  爆弾の解体は知識の範囲内だ。

  少なくともミスって爆発させる事はないだろう。……ミスって核爆弾から放射能が漏れる可能性はあるかもしれないけどさ。

  まっ、爆発して消し飛ぶよりはマシだ。

  放射能漏れしたらどうするかって?

  決まってるじゃないの。

  ダッシュで逃げる。

  「保安官」

  「何だね?」

  「私が解除しようか?」

  「お前が?」

  「うん」

  「出来るのか、解体が?」

  「解体は無理。でも無力化は出来る。無力化の処置が出来れば……そうね、ミサイル数発叩き込まれない限りは爆発しないわ」

  「そいつはいいな。……だがその前によく調べろ。慎重にな。街を吹き飛ばしても俺達は吹き飛ばすな、いいな?」

  「はいはい」

  「報酬は……」

  「いらないから、協力して。父の居場所を。……見なかった?」

  パパの容姿を言う。

  今だこの世界の状況は知らないけど、そんなに人口は多くないはずだ。旅人も少ないに違いない。だとしたら保安官の頭の中にパパ

  の印象が色濃く残っている可能性があるだろう。

  必ずここに立ち寄るはず。

  そう。

  それは絶対。

  パパの目的が何かは知らないけど、ここで旅の準備を整えるはず。

  必ず立ち寄る。

  「知らない?」

  「そういえば見覚えのない奴がここに来たのを覚えているよ。あの眼は何か目的がある男の眼だった」

  「名前はジェームス……」

  「いや悪いな。名前は聞いていな。だが……」

  「だが?」

  「彼はしばらく酒場にいた。モリアティの店だ。……だがモリアティは悪党だ。気をつけろよ」

  「ありがと」

  パパの居場所を知る者が分かった。

  私はモリアティの店に……。

 

 

  ……行く前に。

  核爆弾を調べる。調べる。調べるんだけどー……。

  「見よっ! 主が雲と共に降臨される姿をっ! その姿を見た者は……っ!」

  チルドレン・オブ・アトム教会。

  喋ってるのはクロムウェルとかいうおっさん。

  信者達を集めて語ってます。

  私はそいつら無視して核爆弾の調査。核爆弾の周囲には水が溜まっており、クロムウェルはそれをガブガブ飲んでる。

  ガーガーガー。

  ガイガーカウンターは鳴ってます。放射能帯びた水だ。

  爆弾自身からは放射能漏れはないみたい。

  「んー」

  解体は無理。

  何故?

  知識はあるのよ、経験はないけど。

  でもそれ以上に、解体の道具がきっとないに違いない。無力化する道具を保安官に頼もう。

  核爆弾は不発だった。それだけ。

  まだ死んではいない。

  爆発させるには八桁のアクセスコードが必要。こいつら狂信者達が有り余る暇な時間を使ってアクセスコードをデタラメに打とうという

  発想が生まれる前に無力化させる必要がある。

  信管させ抜いちゃえばコードは無効になる。コードでの起爆は不可能。

  ミサイル数発打ち込めば爆発するけど、それは保安官が止めるだろうよ、さすがにね。

  住民達も止めるはず。

  住民達の腰には必ず銃器がある。

  銃は法律なのだろう、きっと。

  さて。

  「モリアティの店に行くか」

  とりあえず今日どうこう出来るわけじゃないわ、この爆弾。

  保安官に必要な機材を用意してもらわないと。

  ただ放置してても爆発する事はあるまい。コード打ち込まない限りはね。とりあえず今すぐ爆発する危険はない。

  よかった。これでご飯を安心して食べられる。

  お腹と背中がくっつきそうだ。

  「いいから寄越せっ!」

  「駄目っ!」

  ざわざわざわ。

  ざわつく。

  見ると厳つい男が少女に絡んでいる。少女はペットボトルを持っている。透明な液体。多分水だろう。厳つい男は水を奪おうとしている。

  誰かが止めるのか?

  そう思うものの見て見ぬ振り。狂信者達は爆弾崇めてるし。

  厄介事には関わるな。

  そういう事か。

  確かに処世術ではあるけど、私はボルト娘。外の世界の処世術は嗜んでいない。

  「動くな」

  チャッ。

  銃を構える。照準は厳つい男。距離にして十五メートル。外す距離じゃないわ。

  「お引取りを」

  「な、何だお前は?」

  「お引取りを」

  「俺を誰だと思ってるっ! 俺は……っ!」

  「私に逆らうわけ? つまり息を引き取りたいのね? 当方はどちらでも構いませんわ。ボルト101で追い回されて以来、吹っ切れ

  てんのよ。死ぬの? 逃げるの? どっちか選びなさいな」

  「く、くそぅっ!」

  タタタタタタタタタタタタタタッ。

  小さな女の子を突き飛ばして男は走り去っていった。

  礼儀のない街だ。

  「大丈夫?」

  銃を収めて女の子に近付く。

  膝を擦り剥いてはいるものの大した怪我ではない。よかった。

  「大丈夫?」

  「……」

  「ん?」

  「……貴女とは話せないわ。ビリーがいつも言ってるの。お前は知らない人と仲良くなり過ぎるよって。危ないよって」

  「そっか。私はミスティ。よろしくね」

  手を差し出す。

  しかし女の子は手を握らず、名も名乗らずに走り去る。

  「はぁ」

  溜息。

  礼儀のない街だ。

 

 

  「モリアティの店はそこだよ」

  「ありがと」

  完全に無愛想な街、かと思えばそうでもない。

  道を訪ねれば普通に答えは返ってくる。

  ……。

  いやまあ、無愛想以前に普通の事だけどさ。

  さて。

  「あいつか」

  モリアティの店の前。モリアティの店はメガトンでも高所にある。落下防止用の鉄柵から身を乗り出してメガトンを見下ろす白髪交

  じりの男性。この街の裏の支配者を自称するコリン・モリアティ。おそらくこいつが本人だろう。

  私は近付く。

  「ハイ」

  「見てたぜ、こっからな。大分威勢が良さそうだ。新入りだろ?」

  「まあ、新顔よね」

  「コリン・モリアティだ。新顔に会うのは楽しいもんだが、俺に出会うとは不幸な奴だな。まあ、俺にはどうしようもないがね」

  「ミスティよ」

  「よろしく。俺がこのモリアティの酒場のオーナーだ」

  手を差し出すものの、相手は私の右手を払い除けた。

  礼儀のない街だ。

  モリアティはニヤニヤ顔のまま言う。

  「で? お前は……あー、言わなくてもいい。分かるぞ。どっかの寂れた集落から来た田舎娘だな。体で金が稼ぎたい売春婦だろ?

  ここにゃ仕事はいくらでもある。お前は快楽と欲望を満たし、金も手に入れる。俺も手数料が入る。ははは、俺達は良い関係だな」

  「ちょっ……っ!」

  「早速仕事がある。ノヴァ1人じゃ捌き切れないからな。ほら、とっととベッドに行って……」

  「……」

  鋭く睨みつける。

  それと同時に彼の足を思いっきり踏んでやった。痛いでしょ?

  ざまぁみろっ!

  「私はミスティ。旅人。よろしくね♪」

  「結局お前は何だっ! 俺は忙しいんだっ!」

  「父を探しているの。名前はジェームス。……知らない?」

  「まさか……お前か……?」

  「はっ?」

  「あの小さな子が大きくなったな。あのおてんば娘だろ? そこは今も変わらんようだな。ともかく久し振りだな」

  「はっ?」

  「ジェームスの娘なんだろ?」

  「そ、そうだけど……」

  突然の言葉に呆気に取られる。

  私を知ってる?

  つまりこいつもボルト101の脱走者?

  「確かにお前の親父はここを通った。だがもういない。目的の物手に入れ去って行ったよ。お前もそうするんだろ?」

  「あなたも、ボルトの脱走者?」

  「俺が? よしてくれ。柄じゃないよ」

  じゃあどこで会ったんだ?

  「私もパパもボルト101で生まれた……」

  「親父がそう言ったのか? お前がそこで生まれたって? しかも親父も同じだって?」

  「う、うん」

  「愛するが故の嘘だな」

  「嘘?」

  「お前は生まれた後、親父がボルトに連れて行ったのさ。お前がどこで生まれたかは俺も知らんよ。だがこの街にお前を連れてきた

  時はよく覚えてるよ。俺の酒場に寄ったからな」

  「……」

  「お前の親父、お前、それとブラザーフッドオブスティール(今後は省略してBOS)の仲間と3人でここに来た。母親の事に関しては

  残念だったな。お前さんを生んで死んだんだろ? それでお前の親父は夢を捨てた。そう聞いている」

  「……」

  「そんな顔はするなよ。人生は続いていくんだ。確かにお前の親父は嘘つきだし、人生は失望だらけさ。そして今は……お前も大人

  になり親父を探しているわけだ」

  「……」

  足元で何かが崩れていくような感じがした。

  信じていた価値観が崩れていく。

  パパが私に嘘を?

  パパが……?

  しかし何となくそれが事実だと理解し始めている自分がいた。

  だからか。

  だから監督官は私を嫌っていたんだ。外から来た、純潔たる人類ではない、放射能に汚染された遺伝子を持っている私を嫌って

  いた。それでか。監督官の憎悪の理由が分かった気がした。

  それでも私は否定する。

  弱々しくではあるけれども。

  「ボルト101で生まれたとパパは……」

  「そうか。分かったぞ。あそこで洗脳が行われていると聞いた事がある。5年前脱走した昔の仲間のケリィから……いやまあ、名前は

  いいか。奴は言ってたよ。監督官は偉大だ、我々はボルトで生まれて死んでいく……とかいう戯言をな」

  「……」

  「お前と俺は知らん仲じゃない。オシメも代えてやったしな。親父の場所が知りたいんだろ?」

  「うん」

  オ、オシメ?

  こいつに?

  なんか汚された感じがするのは私の気のせいでしょうか?

  セクハラだーっ!

  「親父はここにいたが今はもういない。しかし俺は行き先を知っている。だがこいつは大切な情報だ。情報社会において、情報は大切

  な宝物。資金源。売り物だ。タダじゃ駄目だ」

  「何が欲しいの?」

  「お前は頭が良いな。そうだな……」

  手持ちは少ない。

  お金で片が付かない場合は、こいつの為に働く必要がある。も、もちろん、売春という意味ではない。

  私の初体験はパパのモノさ♪

  「シルバーって女に金を貸した。その女は返済せずに持ち逃げした。スプリングベールにいるあの女から取り立てろ」

  「スプリングベール」

  あの街か。

  でも人家なんかあったっけ?

  まあいい。

  パパの居場所の手掛かりが見つかっただけでも、ラッキーだ。

  でもその前に……。

  「おい、どこに行く気だ? シルバーのいるスプリングベールはそっちじゃないぞ」

  「先にご飯食べさせてよ。お腹ペコペコ」

  モリアティの店に入った。

 

 

  店に入ると罵声が聞えた。

  ガン。

  ラジオを叩きつける異質な男性。確か文献で読んだ事がある。放射能の影響で皮膚が剥がれ落ちた、グールと呼ばれる存在だ。

  そのグールを窘める女性。

  「くそっ! ボロラジオめっ! ……人生うまく行かない事ばかりだな」

  「ゴブ言ったでしょ。ラジオじゃないのよ、ポンコツは。エンクレイブのは聞けるんだからギャラクシー・ニュース・ラジオのアンテナの方

  がどうかしちゃったのよ。向こうの電波が悪いのよ、きっとね」

  「頼むから動いてくれよー」

  「諦めなさい」

  女性は綺麗なお姉さんだ。

  赤毛が素敵。

  とりあえず私はカウンター席に座った。キャップがこの世界の通貨だとは分かったけど、どの程度の金額で食事が食べれるのか不明。

  でもまあ、問題ないか。

  メニューには金額も記載されている。

  私の所持金はキャップ200枚。

  ……小金持ち?

  んー、それすらも判断出来ないけど、まあ、食事は出来るだけの持ち合わせはある。

  グールに声を掛ける。

  「ハイ」

  「何かいるかい? 酒か? 水か? 食い物か? あんたの気に入るものが何かありゃあいいな」

  「待って。今、メニュー見て決めるから」

  「……ちょっと待てよ」

  「まさか注文は即問なわけ?」

  「そ、そうじゃなくて……」

  「……?」

  「お前は殴ったり怒鳴りつけたりしないのか?」

  「はっ? ……まさか属性M?」

  「違うっ!」

  「そりゃよかった」

  この人、何が言いたいんだろ?

  瞳にはどこか怯えるものが混じっていた。あっ、綺麗な瞳だなぁ。

  「怖くないのか?」

  「怖い?」

  「俺はグールだぞ?」

  「そうね」

  「怖いとは……」

  「眼が綺麗ね、あなた。とても綺麗」

  素直に言う。

  呆気に取られるグールは、私の顔を穴が開くほど見つめてから大笑いした。大爆笑だ。

  「あっはははははははっ!」

  「な、何よ?」

  「この街の連中からはいつも酷い扱いを受けているんだ。姿が醜いって理由でな」

  「そうなの?」

  「久し振りにまともな人間を見たよ」

  愉快そうに笑う。

  今の世の中、そういうものなの?

  よく分からん。

  だけどグールにはそこが気に入ったらしい。

  名乗ってない事に気付く。

  「ミスティよ」

  「ゴブだ。よ、よろしくな」

  握手。

  ようやく握手出来た。礼儀正しい付き合い方には握手が必要よね。

  ゴブは声を潜める。

  「……そうだ。こんな事したら本当はモリアティに殴られるんだが……今日の分はお前に奢るぜ。だからその、また来てくれよ?」

  「いいの?」

  「いいさ」

  「じゃあ、このバラモンステーキって奴をちょうだい。あとはジュース。……ところでバラモンって何?」

  メニュには見た事ない名前ばかり書かれている。

  少し怖いかも。

  だけどまあお腹が空いているから気にならない……事もないけどーっ!

  とりあえずお腹を満たそう。

  ああ、そういえば……。

  「ギャラクシー・ニュース・ラジオって?」

  「人気のあるラジオ局さ。いつも聞いてるんだ。スリードックっていうDJが面白くてな。そいつは、正義の戦いをしてるのさ」

  「へー」

  エデン大統領とは違う人もいるんだ。

  「なぁに? ラジオの話?」

  さっきの赤毛の美人が話に割り込んでくる。

  私のウインク。

  ……うわぁ。きっと私誘惑されてるんだ。今夜、色々と教えてもらおうかなぁ……。

  げっへっへっ♪(壊)

  「あたしはノヴァ。よろしくね、ハニー」

  「ハ、ハニー?」

  「今夜はお姉さんが可愛がってあげましょうか、ハニー?」

  「よ、よろしくお願いします」

  「……そこは流れで断ってよ」

  「で、でも、興味あるし」

  「……」

  気まずい空気が流れる。

  誘われてんじゃなかったのっ!

  ……外の世界って複雑なんだなぁー……。

  気を取り直してラジオの話題に戻す。

  「あの、ラジオって……」

  「エンクレイブの方は誰が運営しているのか知らないけど、再放送みたいね。ギャラクシー・ニュース・ラジオはスリードックって男が

  ワシントンDCのどこかでやってるみたいだわ。でも最近電波が悪いのよ」

  「へー」

  やっぱりエデン大統領は過去の人なんだ。

  エンクレイブも実在しない。

  アイボットは過去の放送を誰かの意志で伝達しているのか、既にエンクレイブが存在しないのに徘徊しているのかは不明。

  ジュージュージュー。

  ゴブは何かの肉を焼いている。んんー。香ばしい匂い。

  ぐー。

  お腹が鳴る。

  どれだけ自分が空腹なのかを思い知らされる。

  その時……。

  「誰か手を貸してくれないかっ!」

  保安官の声だ。

  爆弾の事だろうか?

  「おお、そこにいたのか。君も力を貸してくれると嬉しい」

  「私?」

  「父親を探すにしてもその装備では自殺行為だ。私に力を貸してくれるなら装備は融通しよう。どうだ? 仕事はスプリングベール小

  学校に最近移り住んできたレイダーの集団の排除。今、有志を募っている。ビリー・クリールは手伝ってくれるらしい。君はどうだ?」

  「少し待って」

  「何故?」

  「お腹空いたらモノを食べる。それ常識。食べ終わるまで待って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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